レポート47
「まだなの~」
「お兄ちゃんの乙女スイッチが切れない……」
「最終ボスはこいつがギリギリ耐性があるカブトムシあたりになってくれないかな」
ユウがつぶやく。
俺もそれがいいと思うな。
夕二にカブトムシもって追い掛け回されて3年ぐらいで成虫の雄という限定条件には耐性がついたから。
「そんなことをいっているうちにつきましたよ」
「レール殿は後方から支援を頼むでござる」
「お任せください」
そういってボスフロアへと突入する。
突入してすぐ入り口のような道は弦で塞がれる。
そしてボスが出現する。
でてきたのは2体。
一匹は羽音を立てながら低空飛行する人と同じ程度の昆虫で、もう一匹は角が日本ある昆虫。
「クワガタと蜂……蜂は絶対むりぃ!」
「おい、さすがに空中戦の可能性は想定してなかったぞ。シエンさん」
「ユウ殿。それは拙者も同じ考えにござる」
「お兄ちゃんは多分ギリクワガタかなぁ……」
俺は無言で頷く。
正直近づきたくないけど、2体いるんじゃ仕方ないしどちらか選べと言われたらクワガタのがまだ大丈夫だ。
「では拙者とユミ殿、アイ殿でクワガタをユウ殿、レール殿、ラン殿でハチをお願いするにござる。拙者のスキルは空中戦技能はめっぽう弱いのでござる」
「よっしゃ……って、あっ」
ユウが何かに気づいたように言葉を漏らす。
そしてユウの目線の先を見ると蜂がこちらに突っ込んでくる。
そうだよね、敵だもん待っててくれるはずないよね。
「では散開!」
俺達は分かれてそれぞれの敵と戦う。
「ユミ殿は無理しない程度で大丈夫でござるが、多少攻撃していただけると」
「ス、スタンとか転んだ時ならいけます」
「それじゃあ早速、『スタン・クエイク』!!」
地が揺れてクワガタがスタンする。
この技は一定範囲の敵に効果があるが蜂のほうは飛んでるためきってないみたいだ。
「『|居合(居合)・鬼神』!」
「『ブレイク・スタンプ』!」
シエンさんの背後に一瞬鬼が見えた気がした。
そして居合い斬りをかます。
俺は動きが止まったクワガタを石突で上から叩きつけた。
だがボスだけあってHPゲージは多くは減らない。
HPゲージ3つほどだが甲殻というのか、とにかく硬い。
「……やっぱり、むりぃ! 感触は石殴ってる感じだから平気だけどぉ」
「ぬぅ、ただ打撃のほうが通りは良さそうでござるな。アイ殿主体で次はやってみるでござる」
「私そこまで育ててないですけど」
とりあえずやってみる。
一応俺も足をヒット・アンド・アウェイで攻撃はしていくが普段と比べるとかなり少ない回数だ。
そして数分それを続けて転ばせた所でアイちゃんの打撃で何度も攻撃する。
それを数回やってやっとHPが二つめのゲージの半分まで減った。
だがそれまでにこちらも攻撃を何度も受けてHPは半分まで減っていた。
「ユウさぁぁぁぁん!」
「くっ!」
横の方から叫び声が聞こえるとユウが倒れていた。
バッドステータスの麻痺で動けないみたいだ。
つまりあの蜂は毒針もった蜂ってことか。
蜂は未だに空中を飛んでいてランとレールさんが魔法で攻撃しつつ近づいたらユウが対処していたんだろう。
だがそちらを気にし過ぎることも出来なかった。
なぜならクワガタがHP半分切って動きが早くなったからだ。
「シエンさん、ユミさんが精神的に攻撃を受ける度にガリガリ減っています」
「逃げ場がないでからして。ユミ殿をどうにかアイ殿はたもたせてそうろう!」
「もはやロールプレイがおかしいです!」
「しかたなかろう。かなりピンチにござるぅ!」
うん、正直かなり集中力切れかけてる。
クワガタに攻撃される度に虫に攻撃されたという事実が俺を襲う。
ゲームだからといって侮っていた。
なんでここまで虫をリアルに再現してでかくしたんだよ、運営!
「『カウンター斬り』!」
シエンさんが攻撃を受けながらスキルを使って攻撃する。
この後約10分さきほどの同じような行動をして残りHPゲージは1本で赤くなるまではいった。
そしてクワガタが最終段階といえるような動きになったと同時に横に蜂が落ちてきて、一瞬俺は固まった。
「蜂は倒した! そっちに合流するぜ!」
6人全員で合流してクワガタと退治する。
だがここで一番大きな動きの変化が起きた。
羽を広げて飛び空中からの攻撃モーションが増えたのだ。
「飛んでる時には手が出せねぇ!」
「来るでござる!」
空中からクワガタが突撃してくる。
「ぬぅっ!?」
「きゃぁっ!」
「シエンさん!」
「アイちゃん!」
そしてシエンさんとアイちゃんが角に挟まれてそのまま空中へと飛んだ。
だがその直後上からシエンさんと角の間にある小さな角の破片が落ちてきた。
「危なかったでござる。しかし、角で挟まれることでの継続ダメージがある。このままでは」
「アイちゃんのほうも助けられなかったんですか!?」
ランが少し慌て気味に聞く。
「拙者は小さなところに引っかかったような感じだったから斬れたでござるが、アイ殿は完全に挟まれてるでござる。だが拙者が角を負ったらHPゲージはあともう少しといったところでござった」
「つまりあと一撃か……ユミ」
「え? なに? 俺にきってこいとか無理だよ」
「んなこと言うわけないだろ! 俺をあそこまで飛ばせ!」
お前をあそこまでって俺は風魔法とか持ってるわけじゃないのに何言ってるんだ。
「昔リアルでやっただろう。テコの原理だよ」
「微妙に間違っているが何をいいたいかは分かった」
「さすがだぜ、親友」
親指を立ててグッドポーズをするユウ。
とりあえずやるだけやってやるか。
俺は槍を両手で構えて刃の腹を上にして面積を広くする。
そしてそこにユウが足をのせた時、肩を軸にして思いっきりシーソーのようにして飛ばす。
正直角度とかの調整は全く出来てないが、運に任せよう。
「少しあれでは前にいき過ぎかもしれません」
「初めてやったんだから、そんなドンピシャで当たるわけないですよ」
「お兄ちゃん、アイちゃんのHPがかかってるんだよ!」
「レール殿、あのクワガタの尻を魔法で攻撃はできぬか?」
「やってみます、速度と飛距離を考えると……『ウィンド・アロー』!」
風の矢が飛んでいく。
そして遠目で良くは見えないが多分クワガタの尻をかすめた。
その瞬間クワガタが加速した。
だがその加速がクワガタの命取りになった。
前に出すぎていたと思われていたユウの到着点と一致したのだ。
「トドメだァァァァ!」
あいつの声が俺達のところまで響いてきた。
そして次の瞬間クワガタとユウとアイちゃんが落ちてくる。
「お兄ちゃんゴー!」
「ユミ殿、ゴー!」
「ユミさん、行ってください!」
「え?」
「「「はやく!!」」」
「は、はいぃ!」
俺は三人に押し出されて前に出ていく。
何をしろと……と思ったけどやることは一つだな。
俺はアイちゃんを受け止めた。
横抱きになっていまい、いわいるお姫様抱っこの形になった。
筋力ステータスある程度伸ばしておいてよかったと思った瞬間だった。
「大丈夫?」
「あ、あの……はい。大丈夫です」
「へぶっ!」
そして横にユウが顔面から落ちた。
「ユウ殿、大丈夫でござるか……」
「うん、大丈夫だ。それよりアイちゃんは……グッジョブ」
何がだ。
「そ、そろそろおろしてもらえると嬉しいな……」
「あ、ご、ごめん……」
俺はゆっくりとおろす。
まずいな、彼女なんていた試しもない俺がこんなことになるとは。
あんなこと誰にもやったことないぞ。
やばい、意識したら恥ずかしくなってきた。
「なんというか初心な二人ですね」
「レールさんもそう思います? お兄ちゃんがここまでピュアなことは知りませんでしたけど」
俺ってそんなにピュアかな。
「さて、ボス攻略もできたし。帰ろうぜ」
「そうでござるな」
「アイちゃんもそこで顔真っ赤にしてるとおいてくよ~」
「ま、まってランちゃんー!」
「ユミさんお疲れ様でした」
「こちらこそ、久しぶりに一緒にプレイできてよかったです」
こうして俺にとって地獄の森の攻略及びレシピのための狩りが終了した。




