レポート45
「ぬぅ、やはり夜の森は暗いでござるな」
「あ、忘れてました~、あはは~『ファイヤ』」
ランの魔法で光源ができる。
火だけど。
「ユミさん、大丈夫ですか……」
「レールさん、俺のことは気にしないでさい」
「声が震えてますが」
俺は隊列の後方にいた。
一番前にユウとシエンさん、中列にランとアイちゃん、後方に俺とレールさんだ。
ユウに殿位置に配置させられたんだけど。
この前後ろからも敵が出てきたっていったのに。
「特に何も出てこねえな、これじゃ歯ごたえごわっ」
「ユウ殿いかがした!?」
「なんだこれ……蜘蛛の巣?」
ユウが蜘蛛の巣にひっかかったみたいだ。
ただ夜の蜘蛛の巣って基本的にその主が……
「ん? お兄ちゃん後ろのほうで何か聞こえなかった?」
「マジで?」
ものすごい警戒体勢でいた俺の後ろに何かが落ちてきた音がする。
俺は情景反射にちかい形で落ちてきたものに石突きで突いた。
手応えはあるがこれ以上奥に突き抜けさせることもできないし、その何かが吹き飛んだ感触も音もない。
俺は恐る恐る後ろを向くと。
「え、えぇと。どちらさ……」
地を這うような感じの体に足が1,2……8本あるな。
それでいてつい最近この森で見覚えのある。
――あ、蜘蛛か。
「ひぃっ!!」
そのまま強引に石突で吹き飛ばして距離を取る……というか逃げ隠れる。
「えっ、ユミさん!? あ、あの……」
「やっぱりだめかぁ……アイちゃん、そのままお兄ちゃんよろしくね」
「え? う、うん」
「『アイス・ハンマー』!」
「『ファイア・エンチャント』! はぁっ!」
名前を聞いた感じだとアイスハンマーは氷のハンマーでファイア・エンチャントは武器に火属性をつける魔法だと思う。
ただ俺はその光景を見ることはできないのだ。
あの蜘蛛もう見たくないから。
というかとっさに人の裏に隠れたけど誰の裏だろう未だにわかっていないんだけど。
ていうか絶対俺今、涙でてるから。
「あ、あの。ユミさん。ランちゃん達が倒したから、もう大丈夫だから。もう少し離れてもらえると」
「え、えっ!? あ、ご、ごめん」
うん、アイちゃんだった。
後輩にめっちゃダメな所見せた。
くそっ、一回で耐性突いてたと思ったのにいざあの至近距離だとやっぱり無理だよ。
全国の虫嫌い男子諸君も同じ気持ちを持てると思うよ。
「よし、俺の目的は達成できたので隊列を元の予定に戻そう」
「そうだね~」
「おい、そこのオレンジ髪と妹。あとで覚えてろぉ」
「「涙目で言われても威厳がない」」
ちくしょう。
「先輩可愛い……」
「アイちゃん落ち着いて、お兄ちゃんの前でそれはまずい」
「ユウてめえ!」
「落ち着けって、はっはっは」
「聞いてないみたいでござるな」
「アイさんが何やら満足気な表情に……」
この状態から落ち着くまで5分ぐらいかかった。
「レールさんすいませんでした。突然逃げて」
「いえいえ、苦手なものは誰しもありますよ」
「俺と」
「私は」
「「ユミ(お兄ちゃん)の可愛いところが見たかっただけだ!」」
「良い物みれました」
「アイちゃんは一体何を言っているの……」
「まあ進むでござる」
森の行進を再開した。
この後、中ボスフロアまでに蜘蛛に3回ほど遭遇したが。
やはり慣れることはなかった。




