レポート30
「お兄ちゃん髪伸びたね」
朝、蘭に唐突に言われた言葉だった。
たしかにしばらくきりにいってなかったな。
校則も色はともかく長さはかなり緩いから気にならなかった。
そんで蘭はなんで俺の髪をおもむろにいじり始めるんだよ。
「あ、縛れそう……結えるっていいかたのほうが正しいのかな?」
「そこまでじゃないだろ、肩つかないくらいなんだから」
「首隠れてる時点で男にしては長いよ、お兄ちゃん」
そういうものなのか。
「ユミちゃんと同じくらいの髪になってるし」
「え!? ゲーム内の俺こんななの!?」
「女の子っぽいからね、リアルよりも」
なんか複雑だな。
だけど中性的なのは遺伝だから仕方ないだろ。
母親は年不相応の若い見た目で父は中性的だし。
そしてゲーム内ではさらに女性よりにキャラエディットされちゃったし。
「そおいえば今日はアイちゃんの店いくの?」
「ん? 武器取りに行くけど……ってかうちでまでアイちゃんのことその呼び方じゃなくて良くないか」
「お兄ちゃんどうせ名前忘れてて伝わる気がしないんだもん」
なんでバレたんだろう。
俺はリンクオンしてからアイちゃんの店へと直行した。
フレンド欄を確認したらログインはしてるみたいだったからまあいいかなって思った。
「アイちゃんいる~?」
俺は入り口から店の中を覗き込む。
店の明かりはついてるからいると思うんだけど。
ちなみに明かりといってもランタンとかに火がついてるってことだな。
ログイン時間が夜だからゲーム内も夜のプレイが多いんだよな、俺って。
「はーい、だれ~?」
「ユミですよ~」
なんか春を伝えてるみたいだな俺。
ほら、昔のすごろくゲームで季節変わるときに春ですよーってテキストあったじゃん。
「あ! ユミさん! えっと奥まで入ってきて大丈夫だからきてもらえると」
「了解ー」
俺は言われたのでカウンターにおじゃまして奥の部屋へと行く。
そこには炉とか色々おいてあって作業場だったようだ。
「いらっしゃいいませ、えっと武器さっき出来たばかりだけどちゃんとできてるわ」
「本当にありがとうね」
アイちゃんはインベントリを開いて槍を取り出して俺に渡してくれる。
「おお、片刃?」
「片刃だよ、といっても結構尖ってから突き刺すのには問題無いけど」
「かっこいいし、重さもいい感じだな」
「前使ってた槍と同じぐらいにしてるからね」
少しスペースのあるところを借りて振ってみる。
中々いい感じだ。
これならイベントでも戦えそうだ。
いやイベントがそもそも戦闘なのかよく知らないけど。
「いい感じ、いい感じ」
「よかったよ。まあユミさんがいなかったら材料取りにいけなかったし合作かな?」
「あ、そうだ。お礼お礼」
昨日の夜にログインした時に作ったものを渡す。
「あ、あのこれって?」
「ワンピースだよ? この前の鳥が結構いい素材落としてくれてそれと布を【裁縫】でやって作ってみたアバターなんだけど。似合うと思って。特殊効果とかはなくてごめんね」
「あ、あの、でもこれって……その私なんかでいいの?」
「え? すごい似合うと思って作ったんだけどな……まあ俺の前とかじゃなくてもいいけどたまにきてみてくれたら嬉しいなって感じで受け取ってくれると」
「は、はい! ありがとうございます……大事にするね」
中々の反応でよかった。
本当は着てる所も見てみたいけど、この前のこともあるしちょっと自重しておこう。
それにこれをきっかけにファッションとかに興味持ってくれるといいな。
いやリアルではあるのかもしれないけどさ。
槍を受け取ってその日はアイちゃんの店をあとにした。
「それじゃ、またね」
「はい! 槍とかの修復のときはまた連絡ちょうだいね」
「おう」
俺は店を去っていく。
「私に似合うかな……ランちゃんに確認してもらって……でも」
良くは聞こえなかったけど去り際になんか言ってたな。
うーん、やっぱり着てくれたら嬉しいな。




