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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
03 朱眼の魔王・碧眼のサソリ
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03-24 帰路記録『砂漠02』

いたたたた。

今まで何度も死んで来たけど、生きたまま片目をえぐられたのは初めてかもしれない。

この世界では眼帯奴隷のシンか。

出身地は山の上、今現在は砂漠の町に滞在している。それにしても日中は暑いのに夜は寒い。さすがは砂漠だ。


大きな家(アルトゥーロの屋敷)に来て数週間…いや、数日かな?恐らく処遇を巡って話し合いがなされたようで、決まる間ずっと暗い所に居たから良く分からない。でもこの場所で生きる事を許されて、キズもまぁまぁ痛く無くなってきたので、戦闘要員として集められている奴隷と一緒に身体を動かしていた。決められた敷地から出なければ、ある程度の自由は認められているようだ。それに奴隷は皆蛇の印の刻印を入れられ、何となくおそろい気分で無駄に仲間意識が芽生える。


この屋敷の主はかなり権力を持っている人だという事は少ない時間で分かった。皆彼に会うと怯えた気配を発するのだ。そんな彼の目標が山の攻略らしい。

山から流れる水。砂漠の生活では命と同じくらい大切なもの。それを恒久的に得るために、なんとか山の頂上を目指しているのだ。

…何となく雰囲気でそうなんだろうなって思ってるだけだけど。


確かに水が無ければ生きていけない。でもそれと並行してもっと食料を効率良く集めるとか、安全地帯を増やすとか、やるべき事はあるんじゃないだろうか?と考えてしまうのはもっと発展した世界を知っているからだろうか。


『白い獣よ、そろそろ運動はやめて配置に戻れ』

「…」


うわっと、見られてた。何となく気配は感じていたけど、まさかこの人だったとは。


『不服そうな顔をするな。まだ怪我が完治したわけではないのだぞ?お前は俺の所有物、財産だ。勝手に壊れたら困る』


また何か言いだした。彼の言葉は…何だか別の世界で聞いたどっかの国の言葉に似ている。

今更かもしれないが、実は、山の上にも集落がある。人が落ちてくる時点で勘のいい人は察するかもしれないが、街中で同じ集落の人間を見てないし、砂漠で暮らす人にもそんな様子は感じられなかったので気付いてない可能性もある。

山の集落はこの砂漠の町より閉鎖的で、高度があるためかなり寒い。だが何故か文化はこちらの方が発展していた。文字もあるし、通貨もある。…まぁ、小規模集落なので逆にお金は必要無い気もするが。

彼らは雲海の下にこれほどまでに拾い大地が広がっている事を知らない。自分たち以外の人類が居る事も知らない。限られた土地で生きるため、生存できる最大人口が決まっていて、簡単には結婚できないし子供も作れない生活をしてきた。人口が増えたら意図的に削る、その方法が山から突き落とすというものだったのだが、シン青年は切り捨てられた訳ではなく、このままではいけないという問題点を解決するために自ら山を降りた。あの女性と一緒に。


同じ人類を見つけたのは良かったのだが、ここで問題が浮上した。山の上の村とこの砂漠の町とでは喋ってる言葉が異なるのだ。地球でラテン語から派生したフランス語・イタリア語・スペイン語みたいに、別の言葉だけど似てたり同じ単語があるという訳ではなく、日本語と英語みたいに、文法も単語もまったく別物。聞いてみたら何となくわかる…なんて事はなく、もう宇宙人に変な音楽を聞かされているくらい、馴染みが無いと理解できない。

近い場所に住む人間なのに、世界が違うという事なんだろう。前世…と言って良いのか分からないが、別の世界の記憶を駆使して単語を聞き取り、女性と共に学び始めた矢先だった。

あの掃除作業に引っかかってしまったのは。


「(えっと、怪我、財産、困る。無理するなって言いたいのかな?とりあえず返事しておかないと)…(コクリ)」


分かる単語を拾い集めて大体こんなことを言われていると当たりをつけて頷いた。




『白い獣よ。なぜお前は俺にはむかう事が出来る?俺はお前のご主人様だぞ』


何度も言われてる気がする「白い獣」って俺のことかな?


『話せないのか。喉は潰れていないだろ?…何かコツでもあるのなら、エルビーにも教えてやろうと思ったのだがなぁ』


あ。あとエルビーもよく聞くな。そういえば、よく見る男性が一緒の時にその単語が増える気がする。ってことは、これも名詞?あの人の名前かな。


『言えないわけじゃないんだろ?ほら俺を呼んでみろよ。ご主人様だぞ?ご主人様』


ん?なんか同じ単語を連呼しだした。自分を指してるってことは…『ご主人様』ってワードがこの人の名前か?


『首を傾げてるなよ。ご主人様だ。ほら、繰り返してみろ?ご・主・人・様』


この時は知らなかったのだが、部室という船に引っ張られる乗組員の中で、唯一八月一日だけは言語能力が反映されなかった。まぁ、この時点で部室がつながっていないというのも理由の一つだが、体の持ち主の記憶を得られるという時点でそういう問題をクリアしているとされたからだ。

だから自分が口にした単語が、どういった意味を持つのかは後で知ることになる。


「…ご…主人?」


初めて言葉を出してみたら、かなり喜ばれた。この時は名前を言われたと勘違いしたので、こちらも名前を名乗っておいた。



**********



屋敷の生活にもだいぶ慣れて、キズの具合も良くなったけど、ご主人がまだ名前だと思っていた頃。


暇な時間を退屈しているのも勿体ないので、庭で棒切れを振ってトレーニングをしていた時だった。ちなみに棒等の植物系の素材が珍しいのに地面にコロコロ落ちているのは庭に植物を植えているこの家自体が珍しいから。


「…あ」


ご主人に拾われたその後は自分の死期が訪れるまで、養ってくれる人の下で生きていようかと思っていた。特にしたい事も無かったし、行きたい場所も無かったが、部室が繋がる可能性があるので死ぬ事に決心がつかなかったから。だが、何度か世界を移動しているときに気づいたことがある。感覚で「この世界に部室が繋がる、または繋がらない」とフッとわかる時があるのだ。

それはまるで夢を見ていて「あぁ、自分は今夢を見ている」と唐突に自覚するのと同じ感覚。そして今回、かなり懐かしい気配を感じて歓喜に動かしていた腕を止めた。細くも強い糸が繋がるような、確かな感覚。振り上げた腕と一緒に視線を落として目をつむる。


つながる。…やっとつながる世界に出会えた。ブラートの町(02章の町)でこの感覚を感じていながら、彼らと、そして部室の主と接触することが出来なかった。そのあとはずっと、かすりすらしないハズレ続き。もしかして、遭遇できる確率はかなり低い倍率なんじゃないかと諦めも感じ始めていたが、この時は諦めないでよかったと神に感謝した。

…この世界に神がいるのかわからないけれど。ちなみに自分は都合のいい時だけ神様を信じる都合のいい奴だ。


「シン!…シン!やっと見つけた!」


そんなとき、ふと自分を呼ぶ声がした。しかも言葉が普通にわかる。それにこの声色…と声のした方へ顔をむけて、驚いた。


「シェイラ!?」


庭に生えている植物の影に隠れて白い髪の女性が自分を呼んでいた。彼女は記憶にある。しかも八月一日が下りた後の記憶にある。

…そう、この世界に下りた時に抱いて守っていた女性だ。ちなみに姉だった。

逃げられたんだ。あれから自分では探しに行けないし、ぶっちゃけ探すのも諦めていたのに彼女は自分を探してくれていたようだ。声に呼ばれてからあたりを見渡す。この庭には自分のほかにも奴隷がいるが、彼女の存在には気づいていないようだ。さりげなく休憩を装って近づいて、植物に背を向ける形で地面に腰をおろした。


「よかった、生きてたんだシェイラ」

「それはこっちのセリフ!もう!探したのよシン!…でも、奴隷になっていたのね。しかもそれ…眼帯ってことは隻眼になってしまったのね。ここはこの砂漠の町トロアリーヤの領主、アルトゥーロの屋敷。暮らしに不便はないかしら?」

「うん、大丈夫。…って、この屋敷って領主様の家なの?知らない間に結構砂漠の町のこと詳しくなようだね。俺は言葉を覚えるので精一杯なのに」

「えぇ。もともと何度か下りたことがあったもの」


そう。彼女は山の上の生活をどうにかしようと、下山を試みたパイオニア。そして岩山の内部に安全ルートを見つけ、ひそかに砂漠の町に下りたことがあった。

閉鎖的で排他的な山の民には告げる事が出来ず、ひっそりと行動していた事実を知ったのは初めて彼女が下山してから数年後で、その時にはある程度の言葉がわかるほどに彼女は成長していたのだ。


「そうか。…せっかく権力者のそばにいるのに、言葉もイマイチ分からない俺では力になれない」

「大丈夫よ、この屋敷であの人のそばにいてさえくれれば。いずれ時間をかけて…」

「いや…あまり時間が無いんだ」

「…どういうこと?」


部室が繋がったら彼女とシン本人の願いより、部室の皆を優先させる。そうじゃなくても1つの世界で活動できる時間制限があるのだ。いざとなったら彼女の力になることはできない。


「もしかしたらもう一度、姿をくらますかもしれない。そして別の人間のそばに行く」

「なぜ!?この人よりも地位が上の人間は居ないのよ。決定権がある人のそばにいたほうが何かと都合がいいのに」


そうだ。山と麓をつなげて活動範囲を広げたい彼女の気持ちもわかる。だが、最大の障害が言語の違いだ。シェイラだって日常会話はできるけれど専門用語なんてものが飛び出したら理解できるとは思えない。

こんな状態では仲を取り持つのさえ一苦労だろう。

それに優先順位は自分の仲間が一番上なのだ。これは何と言われようと変更できない。


「今はまだ確かなことは言えない。もしかしたら俺は何も成せないかもしれない。…この屋敷にいる間は出来る限りで力になる。でも…ごめん。俺の事はあてにしないでくれ」


頼られていると、いざ抜けた時にかなりの負担になってしまう。それならば最初から抜いて考えてもらった方が良い。消極的な言葉に背後で息をのむ気配がした。しばらく無言が続いたが、


「また来るわ」


怒っているのか、呆れているのか。抑揚のない声でそういうとわずかな風を残して立ち去る。

完全に気配が消えてから俺は振り返った。

彼女もまた戦士。

軽々と山を上り下りできる体力と、難解な他国の言語を自力でわがものとし、隠密行動もかなり冴えている。


これなら誰にも気づかれることなく再び外へ出ていったことだろう。

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