表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
03 朱眼の魔王・碧眼のサソリ
87/146

03-15 仲間とは

「…なして来てんの…」

「アルトゥーロ様に命を受けまして」

「だからって…お前達が問題起こしたの今日の話だぞ」

「はい。存じております。その場に居たので」


朱眼の魔王がマッサージ屋に来店した同日の昼過ぎ。日没まではまだ時間があるけれど、そろそろ夜の風が混ざり始めた頃。鼻血は止まったが頭痛でダウンしている鷹司は店の隅に布を敷いて、荷物で壁を作った簡易休憩スペースで横になっていた。鷹司の変わりに受付には舞鶴と三木谷がカウンターに立ち、客に提供する軽食も一括で外に出して、部室を開く回数は極力少なくしている。

そんな時。客足もまばらになってきて、そろそろ片付け始めようかというタイミングでマッサージ屋にエルビーがたった1人でやってきたのだ。


「…で。何で俺んトコさ来んの」

「ほかの方は仕事が忙しそうだったので」

「俺は体調が悪いんだが」

「知っています。その場に居たので」

「…んだの」


エルビーを見た舞鶴は驚いた後慌ててアルトゥーロを探したが、彼が「1人だ」と言うといぶかしみながらも信じた。そしてこの店の代表者は誰かという問いに最年長の雨龍の名を出したのだが、彼は今接客中。手があくのを待つと言い、その間に店の隅で横になっていた鷹司のほうへやってきたのだ。今は寝ている鷹司の側に正座のような格好で座っている。鷹司もエルビーの事を客だとは思っていないという態度を上体を起こさない事でアピールしているようだ。


「頭痛のほうは治まってきましたか?」

「まあまあ。で、用事は何?俺が聞ぐんだば駄目なん?」

「構いませんよ。あなたもこの場所の主力の1人だとお見受けしたので。ですがリーダーを中心に皆にも聞いていただきたいかと」

「主力…って」

「このチームは家族ではない。そうでしたよね」

「…む」

「隠したり心配する必要はありませんよ。先刻アルトゥーロ様の問いで雨龍タクミ様の妻も子供もこの場にはいないと発言した。それに全体的に年齢層が低めだし、鷹司様もはっきり「仲間」と言っておられたでしょう」

「あぁ、そうだったか」


話す相手は雨龍でなくても構わないとは言ってはいるが、喋りだす気配は無い。やっぱり雨龍を、そして客が居なくなるのを待っているんだろうな、と思いながら鷹司は深く息を吐き出した。まだ太陽の光はあるが、客足もまばらになってきたし今日は早めに店を閉めても良いかもしれないなぁ。そんなことを考えていたら雨龍がスッと顔を出した。


「こんにちは。俺に用事があるようで?」

「はい。お待ちしておりました、雨龍タクミ様」

「雨…いや、タクミで良いよ。長いだろう?」

「…え?雨龍タクミという名前なのですよね」

「そうだけど、雨龍は苗字だからさ。いきなり下で抵抗あるなら雨龍でも良いけど、さすがに様は要らないよ」

「失礼ですが、苗字とは何ですか?」

「…」


バッと雨龍と鷹司は眼を合わせた。そういえば、此処の人で苗字まで名乗った人に出会っていない。あまり広く人と付き合っていないけれど。アルトゥーロにも苗字らしきものは無かったかもしれない。これはまずいことを言った気がする。朱眼の魔王もいないし、嘘八百で乗り切らなくては。

2人してどうしようという気を放っていたのかもしれない。解決策が出る前に、エルビーが再び口を開いた。


「…いえ。聞かなかったことにします」

「は、え?」


意外だったエルビーの発言に雨龍が視線を向けると、癖なのだろう。紅い瞳から逃げるように彼はスッと視線を落として、軽く頭を下げる体勢をとった。


「本日、再び店に来たのは今朝の事で謝罪をするため。そしてお詫びの証を受け取ってもらうためです。新たな問題ごとを起こす気はありませんし、これ以上マイナスイメージを持たれたくはありません。ですが、呼び名を縮める事を勧めるならば、それらしい理由を考えておくとよいでしょう。特にアルトゥーロ様を欺くのは大変ですからね」

「…そ、そうだな」

「雨龍、とりあえずそこば座れ」


エルビーの言葉に頷きながら同意を示せば、横になっている鷹司がモソモソと動いて雨龍のためにスペースをあけた。大丈夫か?と心配そうな言葉をかけながらも荷物の裏に雨龍も腰を下ろし、エルビー、鷹司、雨龍の3人が顔を合わせる。そしてエルビーは再び2人に深く頭を下げた。


「まずはもう一度、謝罪させていただきます。今日は本当に申し訳ありませんでした」

「頭を上げてくれエルビーさん。直接被害が出たわけでもないし、申し訳ないと思ってくれているだけでこちらとしても十分ですし」

「エルビーと呼び捨ててください。あなたは朱眼の持ち主、上に立つべき人です」


申し訳無さそうな顔で、本心からの謝罪を口にしているエルビー。しかし言われている雨龍はエルビーの低姿勢に戸惑った顔をした。彼は顔を上げないのでどんな事を考えているのか分かりづらいし、ワタワタしている雨竜の態度にも気づいていないだろう。一番低い位置で見上げているような格好の鷹司にはその2人の様子が凄く良く分かり、呆れのため息を1つ吐いて口を開いた。


「で?エルビー。謝罪ば受け取った。後はワビの品?それ置いて帰ってほしいのだが」

「ちょっと鷹司もう少し言い方ってものが…」

「なして?謝罪は受け取った。だが許すどは言ってねぇ。だいいち奴のせいでこっちは頭痛で1日無駄にしたんだぞ」

「鷹司様の仰るとおりですが…やはり、すぐには許してはもらえませんか」

「当たり前だ」


突き放すような鷹司には視線を向けるエルビー。やはり視線を落とすのは朱色の瞳が原因らしい。まぁ、アレだけ強い力を持つ者の側にいるのだ、気持ちは分からなくも無いが、視線を鷹司に向けるエルビーに対して、雨龍は少しだけ傷付いたような苦笑いを一瞬見せた。

直ぐに通常の顔に戻るが見上げている鷹司には見られている。それを自覚したらしく、雨龍はへらっともう一度笑った。鷹司はもう一度息を吐き出してからガバッと体を起こして一度ノビをしてから頭部に手を当てた。


「付き合いきれねぇ。こっちはまだ頭が痛でんだ。時間掛かんだば出直せ」

「すいません、そうでしたね。直ぐ済みますが…今お客様は居らっしゃらないようですね。ならば皆さんにも聞いてもらいましょう」

「は?お前…」


散々伸ばしたのは終わるタイミングを見計らっていたのだろう。こちらが何か言う前にエルビーは立ち上がり、荷物をひょいっと動かして皆が見えるようにしてしまった。こちらの話が気になっていたらしい部室メンバーは皆こちらに視線を向けていたし、エルビーの言うとおり既に客は1人も居ない。それを確認するようにエルビーはゆっくり視線を動かした。右から左へゆっくり動いた視線が背後で慌てて立ち上がった雨龍のほうへ向けられ、再び頭を下げられた後で彼は再び口を開いた。


「ではお話します。本日、ご迷惑をおかけしたお詫びの品としてこちらから贈り物を用意しました」

「贈り物?…って何も持ってないみたいだけど、後日郵送的な?」

「郵送?」

「あ。…えっと、後で持って来る的な?」


腰に剣を下げているが、持ち物らしい持ち物はそれしか見受けられない。舞鶴がそう質問をすると、エルビーは舞鶴のほうへ視線を向けて疑問を投げかけた。慌てて弁解をする様子に深く突っ込む事はせず、彼は控えめに笑った。


「いいえ。大きすぎて運べないので、持ってきていません」

「大きすぎる?…え、何それ。銅像的な?」

「シッ!変なこと喋るな!キョウタロウ」


思わず口にしてしまった守屋の呟きに側に居た草加が突っ込むが、こちらは小さい声過ぎて聞き取れなかったようだ。何だ?という視線は向けられたがそれだけだった。誤魔化すように側に居た舞鶴が再び口を開く。


「コホン。で?大きすぎるって、それは何?」

「家です」

「い、家?」

「はい。先程、家は無いと仰られていたので。…もしや既に拠点を獲得されていましたか?」

「う、え…いいや」


なんと答えるべきだろう?と迷ったらしい舞鶴が視線を泳がせたのが分かった。エルビーの後ろに居た雨龍が気づいたのだから、彼も当然舞鶴の態度に気づいただろう。しかし彼は何も言わない。このまま微妙な沈黙が続くのもまずいと、雨龍が口をひらいた。


「俺たちの為に全員が住める家を用意してくれた、ということか」

「はい、そうです雨龍様。なので、確認もかねて見に来ていただきたいのです」

「…見に行く?」


自分の背後に居た雨龍の声に、再び振り返る形で身を反転させたエルビーは先程と同じく視線を落としたまま対応した。


「はい。出来れば、今日」

「これからか?」

「はい。俺が案内するよう、申しつけられています」

「いや、しかし…」

「何か予定がありますか?」

「…予定…は別に…。だがしかし…」

「町の中、野外で寝るという行為はとても危険です。トバルス周辺の獣よりも人間のほうが恐ろしい。特にあなたがたのチームには女性が居る。彼女達を守るためにも、建物を入手するというのは悪い話ではないと思います」

「そ、そうかもしれないが…明日ではまずいのか?」

「俺は構いませんが、何故今すぐではいけないのでしょう?聞き込みをして仕事が終わりそうな時間帯を選びました。ですが遅すぎるのも悪いと考え日が沈まぬうちに足を運びました。そして予定があるわけでもないと先程おっしゃられた。ほかに何か不安要素が?」

「い、いや…」


視線は落としているエルビーの質問は雨龍たち部室メンバーの逃げ道を確実に塞いでいった。船長にも相談したかったが、今この時点で扉を開く事は出来ない。どうしたものかと悩み焦っていると、エルビーは座っている鷹司を見てから再び首を回して振りかえり部室メンバーを確認した。


「…それと、足りませんよね」

「え?」

「11人しかいらっしゃいません」

「!」

「…1人、足りない。お出かけですか?」


本格的に焦った。私用で外出してるとか、おつかい頼んでるとか、言い訳することは簡単なのに他のメンバーと同時に別の発言をしてしまったら一発で嘘がばれる。誰か何か言うだろうかとお互いの顔を見合ってしまう譲り合いの精神はさすが日本人。しかしこういうところではそういう態度のほうが嘘を吐いていると悟られる。


「雨龍」

「な、何だ?鷹司」


悪い流れを断ち切ろうと、鷹司が口を開いた。部室メンバーを観察するように見ていたエルビーも、再び視線を鷹司に移す。他のメンバーの視線も感じながらも、発言は雨龍に向けて。しかし視線はエルビーに向けたままだった。


「行って来い」

「行く…家を見に行くのか?」

「くれると言うんだ、もらっとこう。タダなんだべ?」

「はい。お代は必要ありません」

「なら、代表して雨龍。お前が行ってき」

「しかし…」

「では、ご案内します」


鷹司の言葉に微笑を浮かべたエルビーは、軽く鷹司に向かって頭を下げた。そして外に向かって歩き始めるのを確認しその背中を睨みながら再び口を開いた。


「草加、猫柳。…あと舞鶴」

「え?何?」

「何でしょうナガレ先輩」

「何?タカやん」

「雨龍と同行してくれ」

「「「え!!?」」」


驚いて3人同時に声を上げた。エルビーは出入り口付近で立ち止まって出てくるのを待っているが、そんな事を気にしている場合では無い。声を掛けられた3人は鷹司にシュバッと近づき、側に居た雨龍も驚いた顔をしていた。


「え?な、ナガレ、何で俺達も?」

「タクミンと一緒に行きたく無いってわけじゃないんだよ?でも…行った先にアルトゥーロさんが居たら対応できないよ」

「俺も1人で行くつもりだったぞ。あの朱眼、確かに俺ならある程度対抗できた。仲間をこれ以上危険なめには…」


その言葉ももっともだという風に一度頷くが、鷹司はチラリとエルビーを見てから、膝を折って鷹司の側に身を屈めた雨龍を真っ直ぐ見た。


「動けるんなら俺が行ぐ。今度はぶん殴ってもアレば潰す。だが…今はなぁ…」

「ナガレ先輩、まさか具合悪いんですか?頭痛はもう治ったって言ってましたよね?」

「…平気。…寝てるときは、平気」


聞いてたメンバー全員が「嘘だな」と思った。鷹司は自分の感情や思いを表現するのが得意ではない。自分の力で出来ない事は最初から受けずキッパリはっきり断るが、アクシデントで何かあっても誰かに頼るという事をしない。そういうところは自分の不調を笑顔で隠す八月一日ホヅミアコンととても似ていた。

そして彼は隠すのが上手なため、不調である事も、アクシデントが起きた事にも、誰も気付くことが出来ないまま、無理を通してでも予定通りに全てを完遂させるのだ。全て知るのは、全てが終わった後。


「分かった。行くよ。俺も男だからね。タクミンの事は俺に任せてタカやんはゆっくり休んでて」

「ナガレに頼られるなんて、初めてかもだな。…何だかちょっと嬉しいかも」

「頼られている…のかな?でも僕も頑張ります。足の動きを見て、相手の動きを予想する事が出来るって…前にキョウタロウから借りた何かの漫画で読みました」


今までも守られていた気がしていた。自分達は仲間だ。それは理解していたけれど、存在感があって発言力や行動力があり、引っ張ってくれる人に甘えている部分も多かったかもしれない。それを自覚しなかった訳ではなかったが「出来る人がやれば良い」という思いも少なからずあった。

でもそれでは駄目なんだ。そう思っても出来ることは限られているけれど。

そんな思いを抱いた3人とは裏腹に、こちらは一番年上ということで何でもかんでも背負いこむ雨龍は困った様子を見せた。


「いや、待て皆。ここはやっぱり俺が1人で行くべきだと…」

「単独行動禁止。で、何かあったらどうすんの」

「鷹司…何かって、そんなエルビーさんは謝罪を込めてるんだろ?だったら…」


優しい雨龍は早くもエルビーを許している。今朝の冷たい態度は仲間のために突き放しただけなのだろう。腕っ節は強いのに喧嘩は嫌い。きっと今朝帰って欲しいと突っぱねた時も少なからず傷付いていたはずだ。心からの謝罪と感じたエルビーの言葉は嘘ではないと鷹司も思っているが、皆が彼を心から信じるのは危険だとも思っていた。

雨龍の言葉を遮り素早く腕を伸ばした鷹司は、ガッと胸倉を掴んでグイッと引き寄せる。


「うわっ!鷹司!?」

「ナガレ!」

「ナガレ先輩!?」

「ちょっとタカやん、どうしたの!」


不機嫌そうな顔…はいつもだが、まるで殴ろうとするかのような突然の行動に驚いて皆が声を掛けた。しかしほぼ無視して鷹司は真っ直ぐに雨龍の紅い瞳を睨んだ。その鋭い視線に睨まれていないメンバーにも冷や汗が流れる。


「いざどいう時戦力になるメンバーだ」

「…え」

「エルビーの謝罪は本心だど、俺も思う」

「ではなぜ…」

「奴が言った。「トバルス周辺の獣よりも人間のほうが恐ろしい」…そう、人間は恐ろしい。いや、人間が恐ろしい」

「人間が、恐ろしい?…町の人に気をつけろと?」

「…。…もしもの時は、攻撃ば躊躇うな。相手を害したって、帰ってき」


エルビーも警戒対象だが、あえて明言しなかった。今までも2人ほどでフラフラ出歩いたりしていたが、今回ばかりは話が違う。何かあるかもしれないし、何も無いかもしれない。しかし不安要素がある以上、警戒態勢で臨んでも構わないだろう。その鷹司の言葉を聞いていた4人と、他メンバーも神妙な面持ちでごくりと唾を飲み込んだ。

その様子に、鷹司は自分一人だけでかなり高い危機感を感じていたのだろうか?と少し不安になるが、平和ボケしていたのはこいつらだよな。警戒態勢は正しいハズ、と自身に言い聞かせて勝手に自己完結。それと同時に何故自分に攻撃系の力がつかなかったのかと悔しい思いも感じた。いくら戦える力があるメンバーをそろえたとはいえ、戦闘経験は皆無だし、戦う意思が無ければ意味がない。やはりこのメンツだけでは不安がつのった。


「…やっぱ俺も…」


鷹司はそういって立ち上がろうとしたが、舞鶴がガバッと肩に手を置いてそれを止めた。


「俺たちが行く。大丈夫。信じて。ね?」


真っ直ぐの視線を暫く見つめ返していたが、今回は自分も体調が悪いし任せようと判断した。鷹司はあげかけた腰を再び下ろすと、スッと手を伸ばして舞鶴の肩をポンとたたいた。


「…あぁ。分かった。頼んだぞ」

「うん。よし!頑張るぞ!」

「チアキ先輩、何だか子供みたいですよ」

「子供だよ~。だってまだ22歳だもの!」

「…雨龍さん、いざ問う時の為に話し合いを…」

「そうだな、猫柳。だがそういう事態にならない事を願いたいものだ。…すまない、エルビーさん。待たせたな」

「何で無視するかなぁ?ちょっと、待ってよ!」

「いえ。仲がよろしいようで、羨ましいです。ではご案内いたします」


エルビーに連れられて歩いて行く彼らを見送ったが、何故だろう。不安しか感じない。再び寝転がってダウンしてしまった鷹司に、三木谷が近づいた。


「大丈夫ですか?鷹司先輩」

「あぁ」

「あの、質問しても良いですか?」

「ん?」

「何で舞鶴先輩、チームに入れたんですか?先輩は戦闘系じゃ、ないですよね?」

「あ!確かにそうだったわ。喋る専門って言ってたもんね!?」

「…あぁ、それは…」


三木谷の指摘でハッとした天笠が声を上げた。それを聞きながらよいしょと再び身体をおこし、今度は部室に避難しようと壁に手をついて立ちあがる。残った男手である九鬼と守屋が手を貸して、やっと立ち上がり天笠へ視線を向けた。


「偶数の方が、良いかと」

「偶数…ですか」

「ああ見えて、舞鶴は意外と筋力がある。九鬼や守屋ば同行さるよか、使えると思ったんだ」

「あぁ、確かにインドア派だもんね、俺達」

「脳内でだったら、俊敏に動けるよ」


鷹司の正直な発言には言われた九鬼と守屋も頷いた。そのままヨタヨタと部室へ避難を手助けし、他のメンバーはマッサージ屋の片づけを開始したなかで、月野は小さくなっていく雨龍達の背中をまだジッと見つめていた。


「…大丈夫やろか」


奴隷商に2度も遭遇して危ない目にあいかけた。心配はあるけれど、今回はエルビーという案内人も居る。そうまずい事にはならないだろうとは思うがどうもモヤモヤした気が晴れない。それに自分は奴隷の事を言わなくちゃいけないのに、時間があくほど言い出しにくくなってしまう。ここは皆を集めて言うより先に、此処に居るメンバーに報告してしまうのも手かもしれない。なんて考えていたら、部室に入る時に散々隠れて悩んでいた曲がり角からあの奴隷青年が顔を出した。


「あ!…まだおった。いや、おるんは当たり前や。はよなんとかしてあげな…」


お昼は差し入れしてあげたが結局今まで放置してしまった。その事を申し訳なく思うが、眼帯奴隷という特殊な立場の彼の無事な姿を見てホッと安堵の息がこぼれた。彼は月野に軽く手を振ってから、通りの向こう側、雨龍達が歩いて行く方向を指さした。


「なんやろ?」


そして自分を指さし、もう一度手を振ってから彼らを追うように歩きだしてしまった。


「まさか…ついて行ってくれるん…かな?」


雨龍達のチームには奴隷の青年と出会ったときに一緒に居た草加が居る。もしかしたら彼の為について行くと言いたかったのかもしれない。彼の行動に暫く呆然としてしまったが、しだいに自分の情けなさが浮き彫りになっていく気がした。いつまでも他人任せでは駄目。ギュッと拳を握り、バッと振り返って仲間の方を向いた。


「み、皆!ちょっと聞いてほしい事があるんやけど!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ