03-14 朱い嵐
飛び起きたビッキーが駆け込んできたが、これは痛みを伴うタイプのマッサージなのだと鷹司が説明したらおとなしくなった。
それと「お父さんをいじめるな!」とけなげな事に鷹司をポカポカと殴ってきたビッキーに「心配ならばお父さんを連れて、一緒に帰ってくれ。きっと彼も痛いのは嫌だろう。自分は追いかけないから」と言ったのがどうやらアルトゥーロのプライドを傷つけたらしい。
眼を瞑ったままニヤリと笑ったのが追い討ちをかけたようだ。見せようと意図して笑ったわけではなかったのだが、その笑みを見られてすぐさま最後まで受けると意地を張られてしまった。
「い、痛い!イタイイタイ痛い!!…。ねえちょっと店員よ、ワザと痛くしてないかい?」
「してる」
「何だと!?本当にしてるのか!?」
「ツメば立ててらわげだばね。痣が残る程わったどもね。お前の身体がイカレてっからだ。異常がある部分ば刺激すっと、痛みを感じる」
「何だって?…店員よ、君の言葉は聞き取り難いぞ?」
「そうかい」
アルトゥーロがマッサージを受けている間、暇なビッキーは九鬼と守屋が相手をして遊んであげていた。幼女にテンションが上がった守屋に九鬼が定期的にストップをかけている。部室に入る事が出来ないため、この前来た時にあげたジュースとクッキーを持ってくることが出来ない。そこは「まだ早すぎて用意が出来なかったんだ」という嘘で乗り切っている。
猫柳と舞鶴は、店の前に立っていた。マッサージ屋に来た人に先客が居る事をつげ、それでも良いなら案内をしようと思っていたが、アルトゥーロ来店の報を聞くとほぼすべての人が「時間を置いて、また来るよ!」といって去っていく。人気者なのか、嫌われ者なのか分からないが、彼の来店でこの店の知名度がまた上がるのではとちょっとだけ期待している。
エルビーはビッキーと一緒に悲鳴を聞いて駆け込んできた後、アルトゥーロのマットの隣に立ってマッサージの様子を見ていた。…というより、彼の背面に立って朱眼を見ないようにして、鷹司を見ていた。
ちょっかいを出そうとするアルトゥーロ、彼の手が伸びてくると100%の確立でその手を叩き落しているのだ。自分の身体に触れる前に何故伸ばされた手に気づけるのか。眼を瞑って何故そこまで動けるのか?という不思議そうな顔をしていたが、当然眼を瞑っていた鷹司には分からない。
鷹司は目の前の問題に全神経を集中させていた。まだ足ツボを押し始めて10分程度しか経っていないが、痛みから逃れようとする反射の動きで腕や足が結構なスピードで自分に迫っても、悪戯をしようとちょっかいを出そうとこっそり手を伸ばしても、アルトゥーロの身体に触れているおかげで余裕で反応が出来る。
そんな妨害を跳ね除けながらも一応仕事はシッカリしていた。良い筋肉をしていたが、それでも領主という地位が彼の肉体、臓器の方にもかなり疲れを溜めさせているというのが分かった。
今まで見てきた同年代の男性の中でも、此処まで精神的に疲れているのだろうと感じた身体の人は居なかったと思う。しかし筋肉とか臓器とか、そういった知識がこの世界には無いだろうと容易に想像が出来て、軽々しく忠告も出来ず胸の内で呟くにとどまる。
「ふぅーむ。異常があると痛いのか…なるほどなぁ。確かに最初よりは慣れてきた気もするが…。うおぉ!!でも痛い!!ちょっと待ってそこ痛い!」
「喋んな。さしね(うるさい)」
「…さしね?…いや、というか俺の対応酷くないか?なんで評判良いのか不思議でならん」
「あぁ。俺が施術してねぇからだべ」
「…どういうことだ?」
此処で鷹司は自分が受付担当で、今まで施術にかかわった事が無いと正直に告げた。
「貴様!嘘ついたのか!?」
「嘘?何の?」
「何って、お前マッサージ屋の店員では…いや、店員だな。腕が良い…とも言ってないな。いや、でもマッサージは気持ち良いという評判だったぞ!?」
「最初、痛いぞっつった」
「…うむ。言った。言われた。聞いた。…くそっ!言いくるめられた!!」
拳をマットに打ち付けて本当に悔しそうな声を出した。
さっきはアルトゥーロに言われたが、今度は鷹司がコイツ素直だなと感じていた。権力者ならもっと駄々をこねるというか、無理にでも我を通そうとすると思ったのだが、自分の思い通りにならないのが楽しい、そんな印象を受けたのだ。
そんな時、外から声が聞こえてきた。
「うわぁ、お帰り!早かったね!もっと飲んできても良かったのに」
「ただいま。え、早い?うーん、遅くなったら悪いと思ったのだが…。舞鶴は客引きか?皆はどうした」
「あ、えっと、そのことでちょっと良い?天笠も、ちょっと入るの待って!」
「何よ猫先輩。何か問題でも起きたの?」
「遠慮せず入るが良い。此処はお前達の店なのだろう?…エルビー、新しい顔の者をつれて来い」
「分かりました」
アルトゥーロに触れて彼の視界を把握していた鷹司が顔はマットのほうに向けたまま眼を開けて視線を外に向けながら聞いていた声を、アルトゥーロも聞いていた。聞こえてしまう音量だったので仕方ないといえば仕方ないが、エルビーにつれて来いと命じた事にサッと眼を閉じた後でムッとした顔をしてしまったようだ。アルトゥーロの手が鷹司の腕を掴もうと伸びてきたので、今までどおり手を引いて逃げた。完全に彼から手を放すが、片膝を地面につけって足ツボを押していた体勢のままで立ち上がるのはやめた。低い体勢でいたほうが、彼の視線から逃げやすいと考えたのだ。
「不思議だ。何故分かるのだ?」
「…何故つれて来させる?」
「経営者の顔が見たい」
「…」
返事をかえさない鷹司を見ていた彼の視線が、近づいてきた足音に移ったのを感じてそちらに顔を向け、薄っすらと眼を明けた。エルビーは慣れた様子で視線を落とし戻ってくるが、雨龍と天笠は既に直視している様子。その後ろでは慌てている舞鶴と猫柳が見えて、鷹司はため息を一つ吐き出した。
「はじめまして、もっと側へ。…俺はトロアリーヤの領主、アルトゥーロだ。お前の名前は?」
「…雨龍タクミ」
「雨龍タクミ。君が…あぁ。朱色の眼をしている。紅い瞳を正面から見るのは初めてだよ。…で、君は?」
「天笠ホクトよ…」
「…2人ともあまり聞かない名だな。何処から来た?」
質問に正確にフルネームで答えた。
ヤバイ。何処かで何かをしなくては。舞鶴は扉の近くに居た守屋と九鬼に「ビッキーにばれないようにセンに追加報告!」とジェスチャーし、天笠は勝手に動いてしまう自分の身体に驚いて口元に手を当てて抑えていた。
「失礼ですが、何故、そうお尋ねに?」
鷹司も九鬼の時の様に何か投げようかと辺りを見渡すが、続いた雨龍の声に思わず雨龍を見上げて驚いた顔をしてしまった。魔王に質問をかえした。回答ではない返事をした。朱眼を正面から見返しているのに。同じ朱色の瞳だから、抵抗が出来るのかもしれない。そう考えて様子を見ようと、鷹司は起こそうとした行動をとりあえず見送る。
「ほぅ…。なんと今日は良い日だろうか。なぁエルビー。顔を背けず堂々と憎まれ口を叩く一般人に、同じ朱色の同胞とは眼を合わせて会話が出来る。人と眼をあわせて会話するなど、久方ぶりだ。…いや、もしかしたら生まれて初めてかもしれん」
「そうですね。それでアルトゥーロ様、お迎えはいかがするのですか?」
「あぁ、欲しいな。この人材が欲しい。雨龍タクミ、俺の屋敷に来い」
「…え?あの、話がまったく分からないのですが」
「ついでにマッサージ屋の店員よ、お前も屋敷に来るが良い」
「はぁ?」
雨龍を誘ったアルトゥーロは、ぽかんとしていた鷹司の腕に手を伸ばして素早く掴んだ。初めて自分の手が鷹司を掴めた事に、してやったり!という雰囲気がビシバシと飛んでくる。
思わず睨みそうになったが眼を開けたら終わりだ。鷹司は意図的にプイッと顔を背けて怒った態度を示した。雨龍は困惑した表情を浮かべていて、天笠は喋るものかと口を一生懸命おさえている。
「雨龍タクミよ。お前妻はいるか?」
「え?今は…居ないけれど…」
「子は?」
「居るけど、ここには居ない」
「好きな女は?」
「今は特に。…って、これ何の質問だ?」
「屋敷に来たら美女を何人でもつけてやる」
「え!?というか行くって言ってないだろう?」
「良いではないか。で、雨龍タクミ、お前の名前は耳に馴染みがない。連れの女のもだ。一体何処から来た?」
「それは東のほうの島国で…」
此処で鷹司は眉を寄せた。雨龍はアルトゥーロに質問をすることが出来た。明確な返事も回避している。しかし、嘘をついていない。回答を拒否していない。抵抗できるが、完璧ではないのかもしれない。確かな事は何も分からないが、もしそうならばこのまま質問攻めにされるのはまずいかもしれないと、危機感を募らせた。
「島国とは?聞いたこと無いな。というかこの場所だけでなく、そんな町もこの砂漠に存在していたのか。どおりで流れ着く人間が減らないはずだ」
「いや、その…」
「で、いつ屋敷に来てくれる?」
「…屋敷って…この店もあるし」
見上げていた鷹司の目の前で、雨龍は何処か痛むのか、表情をゆがめた。やはりはっきりとした拒絶が出来ないのだろうか。魔王の力に抵抗しているが、限界が近いのかもしれない。
「屋敷から通えば良いではないか。さすがに全員は入れられないが、この店員はお前の付き人として許可しよう」
そういって、アルトゥーロは掴んでいた鷹司の腕を軽く掲げて見せた。
「付き人!?鷹司は友達だぞ!?」
「それがどうした?エルビーだって、俺の友達、親友だぞ?」
「だが…付き人なんて必要ない」
「朱眼は崇められ、畏怖される神的存在だ。この場所ではな。当然世話人として誰かがつくのは当たり前だ」
「…っ」
「というか店員よ、お前は鷹司という名だったのか。やっと聞けたな」
「呼ぶな魔王」
「フフッどうした?ご機嫌ななめだな」
危険を感じてぴりぴりし始めた空気。それを感じているのかいないのか、アルトゥーロはとても楽しそうだった。
「仕方ない。お前の仲間に話を通して引き抜くとしよう。棲家は何処だ?」
「そ、それは…」
「店を出してるくらいだ。家を構えているんだろ?嬉しい事ではあるが、お前からでは聞きだせそうに無いからな。…では娘、家は何処だ」
「!?…い、家…は…ここの…」
眼を合わせていない鷹司と、視線を合わせていてもある程度抵抗できる雨龍に聞いても応えは得られないと判断したアルトゥーロは天笠に質問の矛先を向けた。魔王の力に捕らわれて抵抗出来ない天笠は、必死に口をおさえながらも場所を口にし始めてしまう。慌てた部室メンバーは一気に冷や汗を流したが、ここでも一番近くに居て力に囚われていなかった鷹司が瞬時に動いた。魔王につかまれていた手を強引に振り払い立ち上がると、拳を握る。そして、
「Shut up!!」
と、叫びながらやや強引に天笠を突き飛ばし、そして雨龍のみぞおちに右フックをぶち込んだ。
「ごふぅ!!」
「キャッ!」
転んだ事で彼の視線から解放されて、倒れた天笠はそのままうつ伏せで呼吸を整えている様子。雨龍は結構マジに攻撃を入れたので、リアルな痛みにうずくまって耐えているようだ。
「…店員、何をするんだ」
何を言ったのかは分からなかったようだが、何を目的として鷹司が動いたのか、アルトゥーロは正確に理解していた。今までと違い若干怒気をはらんだ声を背中を向けている鷹司に投げて、マットから降りて立ち上がる。背後に立つその気配を感じながら振り返ることなく鷹司も声を出した。
「家は無ぇ」
「何言ってるんだ。この店の評判は聞いている。稼ぎがあるのも知っている。それを隠すつもりか?」
「家は無い。昨晩もこの場所で休んだ」
「ここ?…外で寝たと?シラを切りとおせると思っているのか」
ふざけている様子ではない。彼は静かに怒り始めたようだ。視線が言葉の通り突き刺さるように、背中に痛みが走る気がする。
最初に眼を瞑って対峙したときのように、一度上を向いて深呼吸してから意を決して、鷹司は振り向いた。
そして正面からアルトゥーロを睨みつける。それを見てアルトゥーロが薄っすらと笑った。
「…観念したか。この際お前でも構わぬ。店員よ、家は何処だ」
「家は無い。この場所に俺の家は無い」
「…何?…そんな、嘘ではないのか?」
朱眼の前で同じ回答を口にした鷹司に、アルトゥーロは僅かに眉を寄せた。
「俺達は流れてこの場所サ来た。此処で生きるため、持っていた財産を使ってこの場所を得た。…噂ば聞くようになったのはここ数日。そうだな?」
「…あ、あぁ」
「残った仲間は12人。懸命に日々の糧ば稼いできた。この場所に来てまだ数日。だのに家など持てるはずがねぇ」
この時点で流れてくる人間が意外と多いとは知らない鷹司ではあったが、今までの会話で他にも町がある可能性があることが分かったために流れてきたという表現をした。
鷹司は今賭けに出ていた。彼の命令には逆らえない。彼の質問には回答を提示するしかない。拒絶が出来ない。嘘もつけない。ならば、真実を答えてあげれば良い。言葉を選んで、嘘偽り無い真実を提示しよう。それが出来れば、彼の対応策が考えられるかもしれない。
部室は自分の家では無い。流れてきたのも数日前。ポロッとぶちまけないように気を張り、かなりギリギリな挑戦だった。朱色の強制力が脳にしみこむように、見えない力が広がっていくのを感じる。しかしそれに懸命に耐えて、真っ直ぐにアルトゥーロを睨み続けた。
戸惑った様子のアルトゥーロの視線が鷹司から外れて下に落ちた。身体の自由は奪われているが、フッと自分で口を開いてみる。
「魔王。お前、何しに来た」
「何って…噂のマッサージ屋を試しに来たんだ」
「それで?俺らの生活ぶち壊す気か」
「そんなつもりはない!」
「だが、そうしようとしてる」
しだいに熱が入って口調が荒くなってくるアルトゥーロとは対照的に鷹司の声は冷めていた。完全に怒気が引っ込んでしまったアルトゥーロは何処か寂しそうな顔をして考え込み始めるが、同情するつもりなどない鷹司がさらに言葉を重ねる。
「帰れ。何でも自分の思い通りサ行ぐど思ったら大間違いだ」
「そんなつもりでは…」
「戻りましょう、アルトゥーロ様。彼の言うとおり、このままここに居座るのは営業の妨げになりそうです」
声を挟んだエルビーの方へアルトゥーロはキッと睨むような視線を向けるが、彼はいつも通り顔を伏せたままだった。自分がここに居る間に客が入ってこなかったことから、これ以上居るのは確かに問題になりそうだと判断した様子。分かったと小さく呟いて外へ歩いて行ってしまった。
「あ、お父様待ってよ!…どうしようエルビー、お父様、今までにないくらい落ち込んでるわ」
「さすがビッキー様。落ち込んでいるのが分かるのですね」
「うん。だって、ショボショボしてるもの」
「…ショボ…そ、そうですか。では慰めてあげてもらえますか?きっと愛する娘であるビッキー様になら、素直に涙を見せるかもしれません」
「そうね!分かったわ、責任重大ね」
そう言って後を追いかけ走り出すが、チラリと振り返った時にエルビーがついてこないのに気付いて足をとめた。
「エルビー?来ないの?」
「俺が居ると素直になれないと思うので、少し後ろをついて行きます。…アルトゥーロ様を宜しくお願いしますよ、レディ・ビッキー」
「まっかせて!」
大人扱いが嬉しかったようだ。今度は振り返る事無く走り出し、アルトゥーロに突撃して行った。この場所に居た部室メンバー全員がアルトゥーロとビッキーの背中を茫然と見送っていたが、その場に残ったエルビーは立ったままの鷹司に近づいた。
「大丈夫ですか?」
「…頭痛い」
「彼の怒気に抵抗したからですよ」
声を掛けられたと同時に鷹司はカクンとその場に膝をついた。魔王の力から解放されてすぐ、鼻血が出てきたのに気付いて鼻に手を当てていたが、頑張って立っていなくてはと何となく思っていた。が、頭痛を自覚したと同時に緊張が切れたのだ。うずくまった鷹司の傍に膝をついたエルビーは、そっと背中をさすってやりながら持っていた私物の布を手渡してくれた。それでもポタポタと地面に落ちる血に気付いた雨龍が慌てて近づいた。
「鷹司!…大丈夫か!?」
「多分平気。雨龍は?…痛くねぇの?」
「頭はそれほど。だがみぞおちは効いたぞ」
「そうか…」
「皆さん、すいませんでした」
他の部室メンバーも心配そうに集まってきた。そんな皆に向かって、エルビーは視線を落したままそう謝罪した。アルトゥーロに逆らえないという事を身をもって体験したメンバーは同情の視線を向けるが、雨龍と鷹司は厳しい眼を向けていた。
「今日1日は鈍い頭痛が取れないかもしれませんが、心配はありません。俺も経験がありますから」
「貴方も、アルトゥーロ様に怒られた事があるんですか?」
「ありますよ。それはもう、何度も」
「貴重な情報に感謝する。ですがあなたもお引き取りを」
「…はい」
トゲのある雨龍の言葉にチラリと視線をあげたエルビーだったが、朱眼から直ぐに眼をそらして再び下に落とした。そしてスッと立ち上がると、身をひるがえす。
「アルトゥーロ様は言葉の選択を誤った。俺がお迎えの話を出してしまったのにも原因はありますが、何も仲間を引き裂こうとした訳ではないのです」
「…で?」
「また来ます。きっと彼も、来たいと思っているはずです」
「2度と来んなっつっとけ!」
「フフッ、了解しました」
淡々としたやりとりではあったが、小さく笑ってからエルビーもマッサージ屋を出て行った。嵐のような彼らが去って、暫く呆然としていたがスッと鷹司が立ち上がる。そしてフラフラと敷地の端の方に歩いて行った。
「おい、大丈夫か?何だか顔色も悪いぞ」
「血、とまんねぇ。けど店開けるべ?…端に行っとく」
「部屋で休むべきじゃないかしら?」
「家は無ぇって言った手前、体調崩して部室に引っ込んだらマズいべ。目立つ場所で休んでた方が良いど思う」
「偵察来るかも?彼らまた来るって言ってたし…。面倒な事になったねタカやん。とりあえず嵐は去ったってセンに報告しとく」
そうしてバタバタと慌ただしくもやっと部室メンバーの1日がスタートした。
「素直に後悔の涙を流せました?」
「…エルビー。彼らは怒っていたか?」
「それなりに」
「そうか。まぁ、そうだろうな」
トボトボと歩いていたアルトゥーロに直ぐ追いついたエルビーは、今だけは従者の立場を忘れて友達を気遣うように声をかけた。ビッキーはアルトゥーロの腕の中に収まり、再びウトウトしている。早い。ちゃんと話を聞けたのだろうか?
「今回ふと思ったのですが、アルトゥーロ様、貴方は眼の力に頼り過ぎていませんか?」
「何?」
「屋敷に連れて来て、事後報告で良いと思ったのでしょう?」
「…うむ」
「それでは当然誤解を生みますよ。あそこまで抵抗できると思わなかったし、促してしまった俺も悪いと思いますが、彼らに事情を伝えないと」
「朱眼を持つ者は、狙われる、と?」
ここで微妙な沈黙が流れた。しかしすぐに気を取り直したアルトゥーロが再び口を開く。
「後で謝罪をしにいこう。彼らとは普通に友達づきあいがしてみたい」
「非を認めて誠心誠意謝れば、きっと彼らも許してくれますよ」
「そしたらお前以外で初の友達だな」
「嬉しいですか?」
「まぁ…それなりに」
やる時はやる領主だが、育った環境のせいか時々とても子供のようだ。彼の後ろを歩きながら、エルビーは穏やかに笑った。
「そうだ!謝罪も込めて彼らに送りたいものがある。手配してくれ。…いや、俺が見て選ぶ方が良いか」
「え?今からですか?」
早くも立ち直った主が突然笑顔で振り返る。そして朱眼の前では当然彼の言葉を拒否など出来るはずもなく、贈り物選びに付き合わされる事になった。




