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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
01 廃校舎・覚醒の章
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01-01 ゲーム開始のアナウンス

「…ん…」


いつの間に眠ったのだろう。目覚め寸前の緩やかな覚醒の時。

目を閉じたまま横を向いていた体勢から寝返り、仰向けになる。

と、遠心力に任せるまま放り出した片手が、何か硬いものにぶつかった。


「いて…」


飛び上がるほど痛いわけではなかったが、何事かとゆっくり目を開ける。と、飛び込んできた天井の様子にいっきに眠気が吹っ飛んで


「あれ!?…此処、何処だ?」


ここで、九鬼クキケイシは己がまったく覚えの無い場所に寝転がっていた事に気づいた。所々剥がれた木製の天井、大体備わっている灯りは、蛍光灯ではなく時代を感じる豆電球だった。そして勢いよく上体を起こす。


「これ下駄箱?…ってことは、学校?の玄関?」


片手が当たった硬いものは、よく学校で見ていた下駄箱のそれだった。しかし、素材は木製。座っている状態にもかかわらず、視線の高さまでしかない事を考えると、低学年用のものだろう。校内から外を見る形で向いている顔は当然窓から見える外の様子も捉える。

時刻は夕暮れ間近だろうか。朱色に染まった空と、ヒグラシの鳴き声が聞こえてくる。

木製の扉についている窓には何故か鉄格子がはめられてガラスはヒビが入って欠けている箇所もある。

しかし、そんな異常な様子よりも、何故か内側にある大きく頑丈そうで、異様な雰囲気をかもし出す南京錠に視線が行った。




何故、内側に?




疑問に思いながら立ち上がり、南京錠に近づこうと1歩を踏み出したとき


“カシャン”


短い音を鳴らして何かが床に落ちた。


「な、何だ?」


突然の事でビクビクしながら視線を落とせば、種から双葉ふたばが伸びているデザインのちょっと可愛いマルッとしたキーホルダーが付いた、現代のコインロッカーで使うようなありふれた鍵が落ちている。


「…コレ?どっから落ちた?ってか、木造の学校、豆電球って来てんのに、コレだけ時代が違うっぽくね?」


一人が心細くなってきた。じわじわと沸く恐怖に耐えるように独り言が増えていく。とりあえず鍵を拾い上げてポケットに入れようとして、ハッと。


「あ!荷物が無い!…って、まてまて、何でこんな所に居るのか思い出さないと…」


とりあえず落ち着け自分!と言い聞かせた時だった。




“ガーッ…ザザ…”




突然校内放送らしきものが始まり、いろんなところのスピーカーからノイズが混じった機械の音声が流れた。



“サア ゲームノ

ハジマリダ


オノレヲ マモリ

ナカマヲ マモリ

コノバヲ マモリ

タタカイナガラ


ウエヲ メザセ


タイムリミットハ

マンゲツ ノ ヨル”



機械の音声で、しかも所々酷いノイズで聞き取りにくい箇所もあったかが、何とかその文を把握する。しかし意味が分からずイライラし一人という心細さに恐怖心が一気に煽られ


「な、何なんだよ…確かさっきまで、リヒトとキョウタロウも一緒に居たよな…?」


そう言いながら、気になっていた玄関の南京錠に近づいて手を伸ばす。やはり見た目どおり頑丈な鍵は簡単に外れないだろう。ガチャガチャと音をさせて引っ張ってみるが、びくともしない。仕方なく諦めて手を鍵から離した時、視界の端に何者かが影を落としたような気がした。


「…っ?」


直感で、顔を上げてはいけない気がした。変な汗がブワッと噴出し、足がその場に縫い付けられたように動かない。

しかし、恐る恐るゆっくりと顔をあげてソレを見た。


そこにあったのは欠けたガラスから覗く1つの眼。


お互いの視線が合った。

スモークガラスではないのに、輪郭の部分はモヤモヤしていてしっかり見えない。驚きと恐怖で息が詰まる。

何とか半歩足を引いたとたん、扉を開こうとその何かが強く扉を叩き始めた。


-ガタガタ!ガチャガチャ!!-


扉を守る頑丈な南京錠。そしてその音が九鬼の硬直を解いた。逃げ出そうと後ろへ駆け出したが、すぐに何かに勢いよくぶつかる。


「いってぇ!」


さっき通ったはずなのに。

その時には何も無かったはずなのに。

いったい何が自分の行く手を阻むのか。

パニックになった頭では考えを纏める事など出来るはずもなく、パッと見上げて再び絶句。


九鬼の道を妨げたのは、まるでドラキュラが眠る時に使うような黒い棺だった。しかも横に寝かせてあるのではなく、立っている。


「な…な、何なんだよ…」


膝が震える。尻餅をついたら、二度と立ち上がれない気がして気力だけで立っていた。しかし、


-ギギ…-


重そうな音と共に僅かに開いた棺。


「うわぁーーっ!!!」


もう我慢の限界だった。

腹の底からの絶叫。そして九鬼は棺が開ききる前に横をすり抜けて駆け出した。無我夢中で、でたらめに。


どんな道を選んだか、どれくらい走ったか分からない。

ただただ、この悪夢から目覚める事を祈っていた。

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