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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
03 朱眼の魔王・碧眼のサソリ
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03-07 食物連鎖

“ズズンッ…ズズンッ…”


眠り始めてどれくらい経過しただろうか。

あたりは依然として薄暗く、松明や月の輝きがなければ足元を見ることすら容易ではない。

しかし次第に夜の星明りが輝きを失い空が白ばみ始めて、朝が近づいている事が気温の上昇で感じられる。

そんな中で唐突に始まった地響きに、天笠が跳ね起きた。


「な、何!?」

「地震?」


同じタイミングで眼が覚めたのだろう、月野も不安げな声を出す。ここは2つ張ったテントの1つで、天笠と月野の女性チームが使用していた。そんな会話をしながらも、定期的に地面が揺れる。とりあえず仲間と合流しようとテントの出口に四つんばいの状態で這って行き手を伸ばすと、外から声がかけられた。


「天笠、月野、起きてるか?」

「雨龍さん?…2人とも起きてるわ。それよりも、これ何?地震?」

「ガスパールさんの話だと、大地が目覚める前兆らしいです。これを合図に水が溜まる場所に行くそうなので、直ぐ移動になるそうですよ」

「え、草加君ほんまに?わ、分かった、直ぐ支度するわ」


男性チームはガスパールと同じテントを使っていた事もあり、既に支度が完了しているようだ。たたんだテントをラクダにつみなおしている気配を感じた。

短期間外泊で、野宿ということもあり寝巻きなど持ってきていない。そのため支度といっても短時間ですみ、脱いでいた上着を羽織ってテントの外に顔を出した。


「え…なにこれ…」

「うわぁ…」


外に先に出た天笠が目の前に広がる光景に思わず声を零した。後から顔を出した月野も目前に広がる昨晩とは違った風景に思わず息を呑んだ。


昨晩まるで結界のように漂っていた霧は姿を消し、それが覆っていた場所に天を貫く岩山が聳え立っていた。ほぼ垂直に真上に伸びる岩の天辺は雲に隠れて伺えない。そして緑色のコケのような植物壁のが半分、日中影になるだろう部分にびっしりと生えていた。


「これが水を汲む場所、岩山『トバルス』のふもとだ」


声に振り向くと、いつの間にかガスパールが側に来ていて呆然と立ちつくした天笠と月野にそう教えてくれた。雨龍と草加は、2人が出てきたテントを手早く解体して荷造りをし始めてくれている。チラチラとこちらを見る様子から、自分立ちも聞きたいけれど、堂々と聞けないと思っているんだろう。

知らない事を知ってるフリって、案外とっても大変な事だった。


「私、初めて見ました。これがあの、トバルスなんですね」


ぽかんとしている月野はいまだ岩山を見上げていたが、天笠が瞬時に考えを纏めて、初めての水汲みで何も知らないと思われている自分がガスパールに質問を投げかけ、情報を引き出そうと考えた。


「あぁ。準備は良いか?早く行かないと、全部植物に飲まれちまうぜ?」

「え?植物?」

「…そういや、水汲みが初めてなら見るのも初めてなんだったな。なんて説明すれば良いのか…まぁ、見てみりゃ分かるか。だが危険だからあまり水辺に近づくんじゃねぇぞ」

「あ、あの…」

「悪いが質問は後でお父さんにでも聞いてくれ。急がないと本当に水を入手しそこねる」


簡易テントは直ぐに収納が終わり、再び雨龍たちを見れば荷造りが終わっていた。

全部任せてしまったことに小さな罪悪感も覚えたが、情報収集を優先させた結果だ。仕方ないと割り切る事にする。

そして今度は歩くつもりが内容で、ラクダに乗ったガスパールがこちらを振り向いた。


「おい、手伝ってくれる…のはリヒト先生?タクミ先生?」

「あ、僕です!」

「リヒト先生か。水辺の近くまではラクダで走るから、乗ってくれ」

「わ、分かりました…」


ガスパールに呼ばれて踏み出した草加が、ガスパールに手伝ってもらって彼の後ろにまたがった。その様子を見て天笠が声をひそめて雨龍を呼ぶ。


「ちょっと!」

「どうした?」

「ラクダに乗るの?」

「そうみたいだ。此処から先、徒歩だと危ないらしい」

「そうなんだ…じゃなくて、こっち誰が操縦するんですか?ラクダが2頭で、草加君はガスパールさんと乗るんでしょ?」

「俺が乗馬ならした事があるんだ。操縦の仕方は昨晩ガスパールさんにも聞いてみたんだが…」

「え、そないな質問して平気やったん?」

「あはは。馬とは何だ?と聞かれてしまったよ。多分砂漠に向かないから、ここら辺にで飼おうとする人もいないんだろう。とりあえず俺が天笠と月野を乗せたラクダの手綱を引けば良いのでは?とその時ガスパールさんに言われたんだ…けど」

「…大丈夫なん?雨龍さんの邪魔に、ならへんかな?」


話をしながらも荷を纏め終えて月野と天笠がラクダに乗るのを手伝う雨龍。そしてかけられた月野の心配そうな声にはフッと笑った。


「心配するな、最悪水は持ち帰れなくても大丈夫なんだ。なら何があってもお前たちを守る。手綱は絶対に放さないよ。それともこの場所に残るか?」


天笠と月野は顔を見合わせてから首を振った。


「面倒かけてごめんなさい、でもお願いします。雨龍さん」




ラクダに乗った水汲みメンバーは、この場所に来た時のように集団で岩山トバルスに近づいていった。徒歩なのは昨晩教えてもらった奴隷集団で、付き添いで来ていた人やラクダが無い人たちは野営した場所に残って帰りを待つらしい。


昨日触れて調べてみた植物は黒く硬いものが多かったが、岩山に近づくにつれて緑色が強くなり、見た目も植物のような葉があるものが増えていく。


「ここらは広葉樹やな」

「そうみたいだね。…あれだけ日差しが強いと、あっという間に干からびちゃいそうだけど」

「けど、霧かかってたやん?あれんおかげで葉っぱが守られるんやない?」

「…かな?今は霧晴れちゃってるけど…」

「あ。…せやね…」


落ちないようにラクダにしがみついているだけの天笠と月野はあたりの様子を見ながら会話をしていた。すると、駆け足だったラクダたちの速度が緩み、完全に立ち止まる。そっと進行方向を見ると、岩肌まで後数十メートルほどというトバルスの近くまで来ていた。辺りはだいぶ明るくなり、ジンワリと汗ばむほどに気温も上昇している。

そして目の前にはひび割れた大地。くぼんだそれは多分池。そしてそれをぐるりと取り囲むように群生する、緑。現代日本の知識がある部室メンバーは、そこが干上がっている水底だと見ただけで理解出来た。植物はこの砂漠では珍しく柔らかそうな花のつぼみが天を仰ぎ、日の出を待つように明るい方を向いている。そして大きく成長した葉を天に伸ばし、朝を待ちわびているようだった。


「降りてくるぞ。もう少し離れろ!」

「花が…咲くわ」


月野の呟きと、全体に向かって飛ばされた警戒の声が被った。次の瞬間、干上がった池のような窪みに水が溜まり始め、それと同時に花が開き始める。


「良いか、俺がラクダを操縦するから、リヒト先生はラクダの上からこれを落として水をくみ上げてくれ。2度目のチャンスは無い。頼むぞ」

「分かりました」

「それとタクミ先生、嬢ちゃん達はもっと離れた場所で待機させときな。此処はあっという間に戦場になるぜ」

「そ、そうか。了解だ」


光を反射する白い花。それが咲いていくその光景に思わず見とれていたが、ガスパールが草加の方をちらりと見て飛ばした指令に現実に引き戻された。気がつけば水汲みとして来ていた人々の中に幻想的な風景に見とれている者はいない。彼の指示に従って、雨龍は水辺を見る事は出来るけど十分離れた場所まで2人が乗っているラクダを後退させた。


「良いか?天笠。手綱を左にひくと、ラクダの頭が左に向くから…」

「う、うん。分かったわ。何かあったら頑張って操縦してみる。でも多分無理だから、早く戻ってきてね」


簡単に操縦の仕方を天笠に教えて、雨龍は草加達の傍に戻っていった。

鋭い視線にピリピリと肌で感じる警戒心、まさに戦場に駆り出されているようだった。


そんな事をしている間にも目前の池には水がどんどん溜まっていく。しかし踏み出す人はまだ居ない。気がつけば、大分離れた茂みの向こうにも生物の気配がした。動物等も集まっているのかもしれない。しかし、目の前の水に飛びつくモノは居なかった。


「何なの?この空気。何かを待ってるのかしら?」

「かもしれんけど…どうなんやろ。なんか怖いわ」

「うん。私も恐い…」


天笠が周りの空気に耐えかねてポソリと月野に声をかけた。緊張の場の空気が崩れるのを恐れて、小さな声だ。それに月野も返事を返しながら、目の前に垂れている植物の葉にそっと触れた。


ピリッと走る衝撃。

これは植物から情報を読み取る時に働く力。

そして得た情報が月野の脳を駆け巡る。白い花には僅かに毒性があった。しかしそれで命を落とす心配は無い。


しかし読みとった情報から警告が走った。

“ここの植物は危険だ”と。


ハッとして視線を池に向ければ、水は先ほどまで立ち止まっていた場所の近くにまで水かさを増やしていた。


と、そこに我慢しきれなかったらしいトカゲのような動物が姿を現した。前足を水に入れて、水に頭を入れ、喉をうるおしている。しかしそのトカゲの上に影が落ちる。


「花が…赤い…」


月野は思わず声を出してしまった。先ほどまで白かった花弁が瞬時に真っ赤に変色し、枝から芯が抜けたかのようにふにゃりと歪み、バサリとトカゲの上に落ちてきたのだ。その下敷きになったトカゲは慌てて振り落とそうと頭を振るが、粘着性があるのか顔にまとわりついて離れない。そして直ぐに動かなくなった。

それが合図だったかのように花が赤く変色し、次々に池に落ちていく。


「いまだ!急げ!」


このタイミングを待っていたらしく、水汲みに来た人が一斉にラクダを走らせた。立ち止まって水を汲むのではなく、池の浅瀬を突っ走りながら、その間に池に落としたタンクに水を汲み、括りつけた紐で引き上げるという器用な事をしていた。草加や雨龍も他の人にならってタンクを水の中に落とし、汲みあげている。

池の中に入ったのはラクダに乗った人達だけだった。走りきった人から順に、再び野営をしていた方向に走り去っていく。

ガスパールたちも戻ってきて、雨龍がすれ違いざまに天笠が差し出していた手綱をつかんだ。それに引っ張られて2人が乗っているラクダも走り出す。


いったい何故こんなに騒がしい水汲みだったのだろう?あの植物には、調べたところ確かに毒性があった。しかし、弱いマヒ毒で命にかかわるものではない。あれくらいなら物の数分で動けるようにもなるだろう。屋根をつけるとかすれば、もっと安全に水が汲めるのではないだろうか?と、どこか疑問を感じた水汲みだった。そんな事を考えながら月野が池を振り返った時、徒歩だった奴隷集団の1人が水の中へ転んだのを見た。


長い距離を歩いて此処までついてきたにもかかわらず、水の中には走り込まなかった。水を入手するためではなく、何か別の事の為に用意された頭数だったのだろう。誰かに突き飛ばされたのか、よろけて転んだのかは分からない。しかし、その人は水の中に倒れこんでしまった。


しまったという顔をしたのがはっきり見えた。

片目を隠す眼帯をしていたが、黒い髪に、青い瞳の青年だった。年齢は10代後半か、20代でも前半と思われるほど若く見えた。

池の底はぬかるんでいて立ちあがっても再びよろけ、水に倒れた。それでも直ぐに上体を起こし、助けを求めるように延ばされた手、向けられた視線が、ラクダの上の月野と真っ直ぐぶつかった。慌てた表情は直ぐに恐怖を浮かべ、次の瞬間には諦めとなる。


“バッシャーン!!”


すさまじい水音と共に、何かがその奴隷を跳ね上げた。

それはまるでトラバサミのようで、日本でも見た事のある植物だった。

緑色の縁に、まがまがしい赤の口内。ハエトリソウにとてもよく似た、その()()()()は、人間をいともたやすく飲みこみ、口を閉じて、再び水中に沈んで行ってしまった。


「…っ!!」


助けなきゃ!とか、戻らなきゃ!とか、声を出すどころか思っている暇も無かった。

事はあっという間に終わってしまい、音に気付いた天笠が池を振り返った頃には、立ち上った水しぶきが差し込んだ朝日と熱に瞬時に蒸発し、再び辺りを霧が漂い始めて池を覆い隠していた。


何だか最近テンポ悪い気がするなぁ。

無駄な事書き過ぎてるかも知れない…。


読みにくかったらスイマセン。

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