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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
03 朱眼の魔王・碧眼のサソリ
78/146

03-06 砂漠の水に集まるもの

ゆらゆらと。


夜の砂漠をラクダに乗って進んでいく。

といっても、ラクダに乗っているのは月野と天笠の2人だけで、雨竜と草加はラクダの手綱を引いてガスパールと談笑しながら歩いていた。


「さっむーい!!」

「けど、風が無くてよかったわ」

「そうだね、サヨ。これで風が強くてそれこそ砂嵐なんて発生してたら、水汲みどころじゃなかったかも」

「いつもこないな感じなんやろか?…それにあたりまえやけど、虫の声もせんなんて…すこし、怖いな」

「そうね。でも月が思ったより明るいわ。雲が無くて助かったわね」


ぞろぞろと続く水汲み行列。彼らの足音と喋り声以外はたまに吹き抜ける風の音しか耳に入ってこなかった。


部員メンバーが借りたラクダは2頭。

草加がひくラクダに月野が、雨龍がひくラクダに天笠が乗っていて、水のタンクも括りつけられている。ガスパールが水の入れ物を彼が借りたラクダに乗せたのに、騎乗せずひきながら歩くのを見て、ラクダの使用目的は乗り物としてではなく、荷物運び用として用いられているのだと判断した。


「へぇ。じゃあ、トロアリーヤに来る前はもっと北のほうに居たのかい?」

「そうだと思う。いかんせん地理に疎くて、人の流れに乗ってきたから自分が居た場所がどの辺なのか良く分からないんだ」

「はい、砂漠の中をひたすら彷徨って、トロアリーヤを見つけたときは本当に助かりました」

「流れ着いた奴等は大体そんなもんだ。それにしても、よくたどり着けたな。砂漠の町以外にも町はあるって流れてくる人や言うけれど、それが何処にあるのか正確な位置が分かるやつは居ない。そういやぁ、なんでもと居た場所から出てきちまったんだい?」

「えっと…戻るために?」

「草加!」

「戻る?何処に戻るつもり…あ。そうか、お前たちもサソリに…」

「??」


偽りではあるけれど、世間話をしていた男性陣。しかし、あまり嘘をつくのが得意ではない草加が思わず口を滑らせると、雨龍の小さくも鋭い声が飛ぶが、何かを察したのか質問を返しかけたガスパールがフッと口を噤んだ。

そして軽く手を振ってから、再び口を開く。


「まぁ、人それぞれ事情があるわな。それよりもタクミ先生、あんたの奥さんは何処で捉まえたんだい?」

「…は?」

「だってこんな子沢山珍しいぞ?もちろん先生の稼ぎもそうだが…子供がみんな大人になれるほど、整った易しい環境じゃねぇんだ。この砂漠って場所はよ」


急に話題を変えたガスパール。こちらも突っ込んで欲しくなかった話ではあったが、彼が言いかけた言葉が気になる。しかし変に蒸し返してごまかせた現状を壊すのは得策では無いと考えたので、聞き流す事に。そして彼が呼び名に先生をつけていることを指摘しようとしたのだが、続いた質問に思わず素でポカンとしてしまった。


「子供…あの、僕雨龍さ…いえ、タクミさんの子供じゃ…」

「ぬぁ!実子じゃないって事か!…すまねぇ、気がきかなくて。俺ってヤツは…」

「いや、その…」


家族って事にしておいた方が良いのだろうか?チラリと視線を交わす雨龍と草加。しかし2人だけでは判断を付けかねて、話を聞いているのかきいていないのか分からないラクダの上の女性陣にも視線を向けるが、聞いてなかったようだ。


その後も男性陣は世間話を、女性陣はたまに男性にチャチャを入れながらも始めての砂漠の夜を楽しんでいた。


「さて、そろそろ野営しても大丈夫なエリアだ。テントを広げる場所を探そう」


どれくらい歩いただろうか。

談笑をしながらの移動だったので、あっという間についてしまった気もする。

到着を知らせるガスパールの声に雨龍と草加は揃って歩を緩めた。


「此処から先は視界が悪いな」

「これは…霧ですか?」


まるで何か結界でもあるかのように、少し先の空間に数メートル先を眼にすることも出来ないくらい濃い霧が出ていた。自分たちが居るこちら側はクリアな世界なのに、変な感じだ。


「あ、ホクトちゃん。あそこ」

「ん?何?何を見つけた?」

「草が生えてるみたいや。緑色が見えるわ」

「…あ、ホントだ」


濃霧の中に緑を見つけた月野が、ラクダから下りて少し近づいた。まるで壁でもあるんじゃないかと、濃霧と野境目に手を伸ばすが、当然指先に触れるものなどない。


「…なぁ、何か音せぇへん?」

「音?…あ、確かに。何かしら?遠くで水が流れてるような音…に聞こえるわね」

「ナナちゃんがおれば、分かったかな?」

「どうかしら?…音は聞こえても、何の音かは…分からないんじゃないかしら」

「…そっか」


辺りを警戒しながらも、緑に近づいてそっと手を伸ばした。サボテンのような、高さのある植物だ。とげは無い代わりに針葉樹のような葉っぱが先端に集中していた。緑色はしているが、乾燥から身を守るためなのだろう。かなりゴツゴツしていて硬い。


「これ、岩みたいやわ」

「ホントかっちかちね!」

「けど…内部にぎょうさん水溜めこんどるみたいや」

「え!?…これもって帰れば水不足解消できるかしら?」

「どうやろか?…」


直ぐ側の緑の前で植物観察を始めた月野と天笠。

そんな2人が恐る恐る足を踏み出し緑に近づく所から、ガスパールが荷を降ろす作業を中断してジッと見ていた。


「彼女たちは水汲み初めてなのかい?」

「え?…あ、あぁ。そうなんだ」

「だったらお父さん、側に居てやんな。初めての水汲みでトラウマが出来ちゃこの先生きていけないぜ?」

「…トラウマ?」


いつの間にか、雨龍の呼び方が先生からお父さんになっていた。しかし、それに突っ込む前に草加が軽く首をかしげて問いかけると、ガスパールは少し驚いたような顔をしてから直ぐに眼を伏せる。


「確か…リヒトって言ったか。あんたもまだ経験が無いのか?」

「…」

「今まで何処で生活してきたんだか。水が直ぐ手に入る暮らしをしていたのか?だとしたらかなり恵まれた生活を捨てたんだな…。此処での水汲みは命がけだ。…見てみろ、あっちの集団を」


簡単に肯定してはいけない気がして、黙っている草加。その様子に特に気にした様子は見せ無かったが、その態度で肯定と判断したようだ。きっと雨竜もそうなんだろうと勘付かれただろう。チラリと雨龍を見てから、ガスパールは遠くの大所帯を指差した。彼がしめす先の団体は、徒歩の人間が過半数を占めている集団で、遠くからでも分かるほどかなり装備がぼろかった。寒い砂漠の夜だというのに、防寒着を着ている人がいないのだ。


「彼らは…」

「アレは囮要員の奴隷集団だ」

「奴隷!?」


出発前のいざこざを思い出して、草加が反応する。まだこの事を伝えそびれていた雨龍は、奴隷と囮という単語にムッと顔をしかめただけだった。


「そう怖い顔するなよ。命がけと言っても、頻繁に危なくなるわけじゃないだろ?…ただ、運が悪いとあの団体だけじゃなく、俺たちも含めて全滅する事もあるって話だ」

「…それって、今此処に来ている水汲みの…全員って事?」

「そうだ。水がある場所に集まるのは人間だけじゃない。生きるために必要だから、大型の肉食獣だってやってくるのさ。だが、それでも俺たちは水汲みをやめることは出来ない。誰が死のうが、この場所に通わなければならないんだ。…こっから先、詳しくはお父さんに聞いてくれ、リヒト先生」


ガスパールの言葉に驚きを隠せず、草加と雨龍は辺りを見渡した。この水汲み集団で一番目立つのが、先程紹介された奴隷集団だ。ボロを着ている人意外は、かなり武装している様子だった。それ以外は、皆各家庭からやってきた一般人という風に見受けられる。数百という人間がテントを張って野宿の準備をしている。運が悪いと彼らの命も危険、とは一体どういう事なのだろうか。

しかし、早々に説明を切り上げてしまったガスパールは荷を降ろしてテントを張る準備を再会してしまった。それを見て、忘れかけていたついてきた理由を思い出した草加が手伝い、雨竜と草加、それにガスパールの3人でテントを3つ張りおえた。


大分冷え込む気温なのに、何故かこの辺は騒ぎ立てるほど寒さを感じない。

そのことに少し疑問を抱きながらも、明日の朝早いというガスパールの言葉をきいて、早めの就寝をすることに決めた。

あ。

予約投稿設定しわすれた。

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