03-05 出発の前の
「あ、やっと来た。いったい何処で道草くってたのよ!?」
「あれ?アンナ?」
やっと集合場所までやってきた3人。そこにいたのは約束した男性と、何故か獅戸、三木谷、天笠、猫柳の4人が居た。状況が飲み込めずに微妙な顔をしていると、スッと猫柳が側によってヒソヒソと耳打ちをする。
「実は、あの後すぐに船長が『水汲みに一晩かけるということは、何処かしらで夜を明かすというわけだよな。この寒い砂漠の地で、外泊道具など持たなくて大丈夫だったのだろうか?』って言うもんだから、僕たちが急いでそこらへんに居る人にさりげな~く必需品を聞いてみたんだよ」
常識である情報を、怪しまれないように聞きだすのは骨が折れた。しかしその結果、防寒着はもちろんのこと、夜の冷たい風を防ぐためのテントなども必需品ということらしかった。旅支度はしたのだが、特に何も考えずに水を入れるタンクと防寒着と食料くらいしか用意しなかった雨龍たちのために急いでテントを持ってきてくれたのだ。
「あと、水汲み場まではラクダをレンタルするらしくて、それを借りるための品物も用意しておいたわ。今日の稼ぎからサボテンの花、これで3頭は無理でも、2頭は借りられるはずよ」
「そうなのか?!天笠。危なかった、ありがとう。これが無かったら移動も出来ないでこの寒空のした野宿をする羽目になる所だった」
「僕も着替え程度で十分かと。ちょっとした遠出ってイメージだったんで…」
「うちも。砂漠の夜に出歩くんは初めてやから、何やが必要かわかってなかったわ。情報収集を甘く見たらあかんな」
素直にお礼を謝罪を述べてもってきてくれたテントを受け取ったところで、同行してくれる男性がこちらに話しかけてきた。
「いやぁ、今日はほんと助かるよ。ありがとね、手伝ってもらっちゃって」
「いいんですよ、困った時はお互い様といいますか、僕たちも汲みに行かなきゃいけないわけだったし」
此処は草加が対応する。
力自慢は雨龍だが、瞳の色がばれるといろいろ面倒。既に知られているかもしれないけれど、騒ぎ立てられないうちはしらばっくれる事にして、防犯もかねて月野と一緒にマッサージ屋の水汲みチームとして参加。男性の手伝いは草加が行い、手伝いをしながら得た水汲みのデータをこっそり雨龍たちに流すという手はずだ。
「あ、そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね。僕の名前はリヒトです。今回は宜しくお願いします」
「おぉ、そうだったな。何だか何度も店に通ってるから名乗ってないって気がしなかったわ。俺の名前はガスパール。闘技場出場常連だぜ!賭けをするなら俺に入れろよ?」
ニカッと笑ってガスパールが自分を売り込んだ。
賭けをする予定は無いが、機会があったらそのように、と曖昧に濁す。
「じゃぁ、そろそろ出発するぞ。ラクダはこっちで良いヤツ借りといたから」
「え!?でもタダじゃないんですよね?」
「まぁな。だが俺が迷惑かけたわけだしな。…実は、ラクダ貸しの店のヤツとは闘技場の同チームでな、かなり値切ったから気にすんな。さぁ、ラクダはこっちだ!ついてきな」
そう言って軽快に笑ったガスパールが歩き出す。それを雨龍たちも追いかけようと歩き出した。
「じゃあ行ってくるから。荷物ありがとな、船長にもお礼を言っておいてくれ」
「部室までの帰り道、気をつけてね。何だか暗くなると何処も同じように見えちゃってさ、僕たち道間違えちゃったんだよ」
「大丈夫よリヒト。そのためのミッキーなんだから」
「…え?」
「部室の前でキョウタロウとケイシを待たせてあるの。無駄に騒いでおいてって頼んだから、迷ったらミッキーにそれをたどってもらう予定よ」
「何だかとっても複雑な気分だけど…頑張るわ」
胸を張って威張る獅戸を見て、三木谷が苦笑いを浮かべた。口では嫌々っぽい事を言っているが、親友である獅戸に頼られるのは嬉しい様子。猫柳も空気を読んで無駄な事は喋らずに笑った。
そして手を振ってから離れて歩き出す水汲みチームに、何故か天笠もついてきた。
「…あれ?天笠先輩どうしました?」
それにいち早く気付いた草加が問いかけると、小走りで月野の傍によった
「ホクトちゃん?どないしたん?」
「私、考えたのよ。今回の水汲みチームの選抜…選抜?…とりあえず、人選について」
「…はい?」
「雨龍さんが選ばれるのは分かるわ。水って重いもの。力がある人が必要よね」
「うむ、そうだ…よな」
天笠が雨龍を指さしながら考えを述べたので、思わず雨龍が頷いた。
「サヨも分かるわ。珍しい植物が見れるらしいし、サヨの力で色々調べてもらったら後々なにかに役立つかも知れないしね」
「せやね。うちも、役に立てたらえぇなって思ってるわ」
指が雨龍から月野に移動したので、月野も天笠の言葉に頷きながら返事を返した。
「草加君が行くって言うのも、言いだしっぺっていうか、発案者っていうか…だから、悪くは無いと思う。力仕事なら、男手が多い方が良いものね」
「そうですよね。…じゃぁ、なにが不満なんですか?」
別に3人に不満は無いようだ。いったい何が納得いかないのか?と首をかしげると、それを見た天笠が、腰に手を当ててむねをはった。
「何でそこで終わっちゃうのかしら?」
「え?」
「女の子がサヨ1人じゃないの!何でもう一人くらい…ってならないの?」
「だって、水汲みは大体2人くらいだって…」
「それは男性基準でしょ!というか、この世界基準に従う必要は無いのよ。ってわけで、私も同行させてもらうからね」
「…え??」
「それに、男の中に女の子一人だと危険でしょ?って話よ。それじゃ無くてもサヨは可愛いんだから、変な虫がついたらどうするの??」
「そこらへんは俺も注意しようと思っていたぞ?」
まるで過保護なお母さんのような天笠に思わず雨龍が声を出すと、天笠が軽く肩をすくめて見せた。
「雨龍さんは信頼してるわ。頼りになるし、お父さんだし」
「お父さんって…。まぁ、間違っちゃいないが」
「でも、やっぱ異性だと困る事があるかもしれないでしょ?それこそトイレとか」
「…確かに!」
ピンポイントで例を挙げられて、雨龍と草加がポンと手を打った。森などの障害物がある場所であるなら、木の陰で…とかも可能だが、障害物のない砂の上だとなにをどうすれば良いのかも良く分からない。しかも、このメンツで行くとしたら女性は1人だ。心細いったら無いだろう。
「ホ、ホクトちゃん、うちそこまで考えてへんかった。…ありがとぉ」
アニメやゲームでは無い実際の砂漠。物語では割愛されている色々な問題が、旅には付いて回る。それをしっかりと考えて同行を決めた天笠が、サバイバルで生き残れる可能性がありそうだった。
「おーい。何してんだ?なんか問題でもあったか?」
「いいえ、直ぐ行きます!」
思わず立ち話になってしまった部室メンバーがついて来ていない事に気付いたガスパールが、振り返って声を張り上げた。それに雨龍が大声で返事を返すと、軽く手をあげて「すぐ行く」という旨をアピールする。
「じゃあ、天笠も水汲みに同行って事だな?」
「えぇ、勿論よ。準備はしてきたわ」
そう言って背負っていたリュックを見せた。なんとも頼もしく感じて思わず雨龍も安堵の息を吐き出し自然と笑みがこぼれた。どうやら後輩2人を守らなければ、と知らない間に気負っていたようだ。生徒会長である天笠は雨龍からすれば同じ後輩なのだが、リーダーシップの強い彼女のおかげで肩の力が抜けて、少し落ち着いてきた気がする。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「帰ってきたら、土産話聞かせてよね!楽しみにしてるわ」
「次は僕も行ってみたいから、しっかりやり方おぼえて来てくださいよ」
見送り組に手を振って、4人は小走りでガスパールの後を追った。
ぐふぅ…週末遊びあるってしまったら、書く時間が少なくなっちゃった。
ので、ちょっと短め。
今後、投稿曜日を1日ずらそうか検討中。
今は月&木だけど、火&金に。




