02-38 ジューンが残したもの
翌日。
鷹司、獅戸、猫柳、守屋、三木谷、雨龍の6人は再び屋敷を訪れた。城門較べで起きた事件のせいで店がしまるところもあり、何処か街中はひっそりとしていた。犯人が逃げた挙句つかまっていないせいだろう。それでも店を開いている所は開いていたし、客が入っているところは入っていたが、以前と較べるとその静けさが際立った。
屋敷に到着して門番に取り次ぎを頼むとエフレムが迎えに出てきて、彼について屋敷の中を歩き、1階にある一室に案内されると中ではシルとラプシンが待っていた。
「おはよう、ナガレ殿」
「おはよ。スパルタク達は?」
「こら!シル様は王様だと…」
「良いのじゃ、ラプシン。ナガレ殿は流浪の民のようだし、こういった仕来りに捕らわれる事もあるまい。ワシは久しぶりにタメ口をきくやつに出会って、ちょっと楽しく思っておるよ」
「ですがシル様…」
「ラプシン、こうなったら駄目だよ。シル様が楽しんでるなら良いじゃないか」
何だか何度もやり取りしたような事を繰り返した後で、シルがこちらに向き直り一度小さく咳払いをした。
「スパルタク殿は夜中に一度目を覚まされたようじゃ。その後再び眠り、今は朝食をとっている。イーヴァ殿とステンカ殿も一緒のようじゃ」
「久しぶりに家族揃っての食事らしいので、私達は席を外しました」
「カリャッカ一家もね。ジューンの居る部屋の隣で今朝食中だよ」
「まだ喰ってんの?遅ぐね?」
「良いではないか。今日くらいは大目に見てやるがよい」
鷹司たちも朝食を終えてから来たため、昼食には早すぎるが朝食にはちょっと遅いといった微妙なブランチタイムだ。しかし、此処は彼らのことを考えて頷く事で了承した。
「…へば、揃うまで暇だの」
「じゃあ急いでくる事無かったね。時間を聞き忘れたからって焦ったけど、心配なかったみたい」
「そうね。もうちょっと遅くて良いならあのデザートもっと食べてくればよかったわ」
「アンナ食べすぎよ。朝から良くあんな沢山食べられるわね」
「ミッキーが小食なのよ。それに私3日分…ん?正確には2日分と1食…2食?…食べ損ねたんだから。エネルギー補充しなくっちゃ。それに船長!何時の間に料理の腕上げたの?美味しいのが悪いの!」
朝早すぎたら迷惑だし、昼になったら遅いかもしれない。時間を聞き忘れた一同は何時に屋敷に向かうか揉めに揉めたのだが、来てみればそんなに急ぐ事もなかったとホッと息を吐き出す。
「ではナガレ殿。皆の用意が整うまでワシと話をしよう」
「…あぁ。そうだったのぉ」
屋敷探検したいな、なんて言っていた守屋が雨龍に「人の家なのだから自重しろ」と怒られているのを見ていた鷹司だったが、シルに声をかけられてそうだったと思い出す。
シルの話は主に鷹司の技術に関しての事だった。扉を支えたパンタグラフジャッキもそうだが、目の前で見ていた城門較べの鍵開けにも興味をもったようだった。
「あの小さい穴は何なのじゃ?」
「あ?アレは鍵だ」
「鍵…しかしそれは呪の…」
「そっちだばねぇ。扉が開かねぇようにする仕組みで、同じ名前の道具があんだ」
「同じ名前の道具…それがあの扉についていた物か。ナガレ殿の作品はステンカの連れが壊してしまって原型を止めておらんのだが、同じものが作れるかの?」
「作れるが…」
その後も鍵の必要性について、一般家庭につっかえ棒ではなくこういった鍵を普及させた方が良いとか、自分が使える力に関してもっと疑問を持つべきだとか、いつの間にか話し合いがヒートアップした。もともと敬語を使っていなかった鷹司だが、すでに目上の人と話しているという感覚はゼロだ。
「疑問とは…何故じゃ?」
「お前、井戸牢で光だしたべ?」
「うむ」
「あれ、何を使って光ったん?」
「それは魔力を練り上げて…」
「だば、あの状況で魔法が使えなかったら。どうやって灯りをどった?」
「魔法が使えなかったら…じゃと?」
そんな事考えた事も無いといった様子だった。生まれたときから魔法が身近にあったために、もし無くなったら、とは考えないのかもしれない。その後、枯れたツタや棒を使って、摩擦で火をおこすとか、死体があったから状況によっては死蝋も使えたかもしれないとか、科学的な話を織り交ぜて話をすれば、いつの間にかラプシンやエフレム、それに部室メンバーも結構真剣に聞き入っていた。
“コンコン”
いつの間にか鷹司が語れば誰かが質問して、それに答えればまた質問が返ってきてというエンドレス状態になってしまっていたのを、ノックの音が遮った。フッと顔を上げたラプシンが対応するべくドアを開ける。
やってきたのはメイドだったようで、直ぐに会話を終えて室内に顔を戻した。
「スパルタク様たちの用意が整ったそうです」
「そうか。では、行くとしよう。…カリャッカ殿たちはどうじゃ?」
「先に言伝を伝えたそうですので、恐らく先に向かっているかと」
案内をするメイドを先頭に、階段を上がって向かった先はスパルタクの部屋だった。ラプシンの言葉通り、カリャッカ一家も既にそこに居る。ジューンが渡したという瓶も側に置いてあった。
ノックの後に入ってきたシルを、スパルタクは申し訳無さそうな顔で出迎えた。立ち上がった夫にならうようにイーヴァも座っていた椅子から立ち上がり、それをステンカが支えている。細やかなところに気が付く気のきいた息子に変貌していた。
「シル様…」
「スパルタク殿。…元気を取り戻されたようで、何よりじゃ。それよりも奥方様の術解除が上手くいかなかった。…申し訳ない」
「そんな。尽力してくださっただけで私は…。自分は何も、出来ませんでしたし」
助かって嬉しい。しかし、呪をかけられてしまったことを悔しいと感じているような、泣きそうな顔。その隣でやっと立っているような顔色のイーヴァが1歩前に出て、頭を下げた。
「シル様。このたびは私が不甲斐無いばかりに、多くの方に迷惑をかけました。どう償えば良いのか…」
「仕方ない事…とは言わん。若い命を失ってしまった。しかし、罰を与えるべきはそなたでは無かろう」
「それではいけません。…私が、辛いのです。もっとしっかりしていれば、立場をのっとられてしまう事も、此処まで事が大きくなる前に何とかする事も出来たはずなのです。…せめて、あなた達が罵ってくれればよろしいのに」
イーヴァはそういってカリャッカを見た。しかしカリャッカは首を横に振る。
「最初は…何も分かっていない頃は私も娘もあなた方一家を恨んでいました。息子と同じめにあわせてやると、腹の内で怒りをためていた。…ですが、息子が真実を教えてくれた。過ちを犯す前で良かったと、思っています」
ジューンの事があったのに、カリャッカ一家はサーロヴィッチ一家に恨み言1つ言わなかったようだ。ジューンがイーヴァの事を心配し、感じた違和感と疑問をジノヴィに話していたかららしい。誰が事を企てて、本当の被害者が誰なのか、明確に分かっていたようだ。
お互いにやりきれない部分はある様子。イーヴァたちサーロヴィッチは罰を求め、カリャッカたちはジューンの死をただ悲しんでいた。そんな空気の中、シルが視線をラプシンに向ければ、紙を取り出してカリャッカと鷹司に1枚ずつ配った。
渡されたので部室メンバーを代表して手にした鷹司が視線を落とすが、そこには同じような形式の文が複数列書かれている。受け取りはしたものの、字が読めないためになんて書いてあるかは分からない。とりあえず何かを聞く前に様子を伺おうと、紙を見ていた視線を上げてシルを見た。
「こ…これは…」
サッと眼を通したジノヴィがカリャッカの手から紙を奪うように手に取り眼を見開いた。横から見ていたスターニャも驚きを隠せず口元に手を当てている。何が起きたのかわからず、鷹司は比較的近くにいたエフレムの脇を小突いた。
「痛!…何かな?」
「何?読めん」
「え?…あぁ!そうか。ごめん、失念してた」
一瞬眉を寄せていぶかしんだが、鷹司が流浪の民だという事を思い出したようで手を叩いた。もう訂正するのも面倒だし、字が読めなくても変に思われないのは意外に便利な流浪の民設定だ。
そのやり取りを見ていたシルが鷹司が持っていた紙をスッと取り、読み終えて驚愕の色を濃くしているカリャッカたちとサーロヴィッチ一家を見た。
「見て分かるとおり、これはジューンが残した手記の一部じゃ。文字自体はラプシンが写したもので、原文ではない。手帳には極秘に該当する術式も残されていたので、そのまま見せる事が出来んのじゃ。申し訳ないが、了承してほしい」
そう前置きをしてから、シルは読めない鷹司…と部室メンバー…のために文字を読み上げた。
**********
『○月×日 足を失う事故…事件の後、数ヶ月が経過した。事は思っていたより深刻だったようだ。やはり俺が狙われたのは、奥様に違和感を覚えた事を勘付かれたせいだろう。側に居なければお守りできず、このままでは息子様が犯人にされてしまうかもしれない。…でも、俺も正直なやつだな。奉公先のご子息よりも自分の弟の方が心配だ。2人が同時に危険な場面に出くわしたら、迷わず弟を助けるだろう。この罪はこの身一つで償えるだろうか』
『○月×日 多分俺の素性は知られてしまっただろう。どうやらあの事が町で噂になっているらしい。助けてもらって匿ってもらっている人々に迷惑が掛からないようにしないと。でも、問題解決には武力と権力、両方の力が必要になるかもしれない。何処まで情報を伝え、助力を請うべきなのだろうか』
『○月×日 さまざまな術を調べ始めた。主に主様の症状について。奥様の方は確証を得られるまでは伏せるつもりだ。それにしても膨大な書籍に感動した。何時から集めておられるのだろうか』
『○月×日 義足をもらった。…もらってしまった。きっと高価なものなのだろう。何も持っていない俺に返せるものは何も無い。お礼にもならないが、たまにお話を聞く程度なら俺にも出来そうだ』
『○月×日 馬は速いな。飼育に金と場所が必要なため俺がいたところでは貴重だ。見たことはあるが乗った事は無かった。足をなくしてから走る事は出来なくなっていたせいだろう。風を感じるのがとても心地良い』
『○月×日 アレから丁度1年…事故後初めて弟に会った。良かった。記憶がどうとか重症で瀕死だとか噂を沢山聞いていたけど元気にしていた。追い出された仕事仲間に匿われていたようだ。これからスパイ活動をしようとしていたと告げたら、自分が行くと言い出したので迷った末に任せることに。仕方ないが義足だと目立つし、行動スピードが鈍いからいざと言うとき動けない。安全を願いながら、そろえた資料を名前と共に預けた。これから弟にマナーや作法、それに言葉遣いをみっちり仕込んでやろう。…いけないな。久しぶりの再会で楽しくなってしまった。俺の変わりに危地に行かせるんだ、気を引き締めないと』
『○月×日 事が急速に動こうとしている。急がなければ。残された時間はもうあまり無い。自分の全てをリリーに託そう』
**********
「ジューンはこのブラートに来た時によく『ノフィー』という偽名を使っていました。男性にも、女性にも使える中性的な名前なので色々便利だといって。そしてその名前でこの屋敷に入るための手続きをしたのですね。先に気づいていれば、ジノヴィ様のことも直ぐ気づけたかもしれないのに…」
ラプシンの補足にジノヴィが何処か悔しそうな顔をした。彼らとはジューンが生きていただろう時に出会えていたのだ。あの時に正体を明かしていれば、お互いに協力が出来たかもしれなかった。
文面にはもしもの時のためだろう。人名や地名など何か特定できるものは何一つとしてなかった。しかし、分かる人にはわかる内容のため、疑う人は此処には居ない。
「リリーとは誰だ?それに時間が…無い…とは…」
シルの声を聞きながら、何度も文を読み返していたカリャッカが呟くと、シルがラプシンに目配せし、それに頷いたラプシンが頷いてから1つのカバンを差し出した。
「カリャッカ様。こちらはジューンが持っていたと思われる荷物です。宿屋に置いたままになっていたものを、私達が回収しました」
「ジューンの!?」
「ジューン兄様の…」
ハッとした顔で受け取るジノヴィ。そのカバンを背負って、ジューンはジノヴィに会いに来た事が会ったのかもしれない。何かを思い出している様子のジノヴィを見ながら、ラプシンが口を開いた。
「申し訳ありませんが、持ち主を確定するために中を見ました。お許しを」
「いいんです。…ありがとうございます。帰ってきた…返してくれただけでも、とても嬉しいです」
「許していただき感謝します。…それで、その中に薬が入っているのを見つけました」
「…クスリ?」
「はい。見つけた薬は数種類ありましたが、どれも肺患いの病を治す強力なものでした」
「肺…患い…」
その言葉にサッと屈んでカバンを床に置くと慌てて中を開けるジノヴィ。小さいカバンではなかったが、中身はさほど入っていなかったようで直ぐに目当ての物を見つけたようだ。錠剤が入っている小さな瓶を2つ取り出し、カリャッカに見せた。それを受け取り確認する。
「これは…妻と同じ…」
「奥様…ですか?」
「はい。私の妻も身体が弱く肺を病んで何年も前に。ジューンも母に似て体が丈夫とはいえませんでしたが…まさか、ジューンも肺を病んでいたなんて。…同じ病で…家族を失ったというのか…」
受け取った瓶をギュッと握ってぎゅっと目を瞑った。気を緩めると涙が出そうになるからだ。そんな父の背中をそっと擦るスターニャは、もう既に溜まった涙が溢れている。そんな様子を見ながら、シルが首を横に振った。
「いいや。違う。確かにジューンは肺を患っていたようじゃ。…このクスリの強さだと病状はかなり進行していたのだろう。早期発見できていれば…申し訳ないことをした。それに気づかなかったワシらにも非がある。…しかし、ジューンが命を落とした直接的な原因は、病ではない」
「え?…それは一体何なのですか!?」
シルの言葉に驚いたのはカリャッカたちだけではない。サーロヴィッチの面々も、どういうことだ?という顔をしてシルを見ていた。サーロヴィッチの面々が口を開かないのは口を挟む資格がないと、負い目を感じているからだろうか。シルは集まったその視線に応えるように1冊の本を皆に見せた。古い革表紙の本はベルトで止められていて、魔道書であることが見て取れる。
「それは?」
「…これは、禁書じゃ。王宮にあったものを、ジューンが勝手に持ち出したようでの」
「そんな!ジューンがそんな事するはず…」
「落ち着くのじゃ、カリャッカ殿。返せないことは分かっていたようじゃが、訳あって持ち出したのだと理解しておる。それにこの本の中に謎を解く鍵があったのじゃ。…ラプシン」
「はいシル様。此処からは私が調べた結果を説明させていただきます」
そう言ってラプシンは語り始めた。この禁書が、本単体では何もなす事は出来ないものであること。それなのに何故禁書扱いなのかと言うと、人命を材料にする魔法が集められていたからだった。
「その中に『ダーク・リリー』という禁術の記述があります」
「ダーク・リリー…リリー?」
「そうです。術者の魔力を使って花を咲かせる、植物系の魔法です」
「それなら既に花を咲かせる一般魔法があるのでは?…何故禁書に載るのでしょうか?」
「魔力をエネルギーに植物が生長する。此処までなら一般的なものと同じです。ですが、リリーは種を落とすのです」
「…種?」
「はい。術者の魔力を吸いって大きくなり、術者の命を吸って種を作ります。そして全て吸い尽くしたとき、種が花から離れ採取する事が可能となります」
「命を…吸うですって!?じゃあ、ジューン兄様は自分で花を命に吸わせたというの!?自分で捨てたの!?何で!?」
「スターニャ、落ち着くんだ」
思わず声を荒げたスターニャをジノヴィがなだめる。もう涙は堪えられそうに無く、ジノヴィの腕をガシッと抱きかかえて声を殺してなき始めてしまった。しかし此処で話をやめるわけにはいかない。ラプシンは一度深呼吸をしてから再び口を開いた。
「ダーク・リリーは花を付けさせるまでに消費する魔力が尋常ではありません。なので1人で咲かせるのは困難です。ですが、ジューンは生まれ持った膨大な魔力で花を咲かせる事が出来た。そうして命を種にして、スパルタク様に託したのです」
「え…」
突然話を振られて思わず声を出したスパルタクだったが、その言葉を脳内で反芻させてからゆっくり視線を側に置いた瓶に移した。透明な液体の中に金の粒が入っている瓶。呪がかけられている間の記憶は曖昧だが、誰かがずっと側に居てくれたことだけは何となく覚えていた。その彼が「大切な人を救う大切な薬だ」と言ったその言葉も覚えている。謎のピースがつながって問題が解けていく。それでも説明を求めてスパルタクは再び視線をラプシンに戻した。
「命を種に?…イーヴァに…妻に?」
「花は命と共に、生きた時間を吸い上げるのです。ダーク・リリーは術者が生きた時間を種にし、そしてその種を飲んだものに術者が生きた時間を与える術。植物系でありながら、時を操る禁術なのです。カリャッカ様、ジューンは…ステンカ様の1つ下、24歳で間違いないですか?」
「は、はい」
「…では、これをイーヴァ様が飲めば、イーヴァ様の命が24年延びる事になります。もちろん、病気にかかったり事故にあったりすればその限りではなく、きっちり24年の時を生きられるという訳ではありません。…ですが、ジューンは自分の命が長くない事を知っていた。だから自分の命をリリーに託し、奥様に残したのです」
起こる事全てを知っていたかのようなジューンの行動。
その詳細をきいてスパルタクは瓶を両手で包み感謝するように顔の前に掲げてからイーヴァに手渡した。イーヴァも両手で受け取って胸に抱く。
「い…良いのでしょうか…。私のような罪深いものが…生き延びてしまって…」
涙が頬を伝っていく。後数日の命と思っていたが、ジューンが未来を残してくれた。それでも素直に受け取るのはどうかと考えてしまえば、ジノヴィが視線を床に落として口を開いた。
「もらってください。兄の命を。ジューンもそれを望んだはずだ。…自分を罪深いと理解してるなら、同じ過ちを繰り返すことは無いでしょう。…それにしても、何でこんなにぴったり未来を予想できるのか…我が兄ながら、良く分からない人だ。でも…俺の目標だった。いや今でも、ジューンが俺の目標だ」
ジノヴィの言葉にイーヴァは何度も感謝の言葉を繰り返した。ステンカも頭を下げて感謝を伝える。
「謝肉祭が終わったら、ジューンの葬儀を執り行いたい。わしらにも手伝わせてくれんか?カリャッカ」
シルの、王様の言葉に一度ゆっくりと深く頭を下げたカリャッカ。
彼の顔も涙でぐちゃぐちゃだが、その顔には笑みが戻っていた。
息子の死は悲しいが彼が残した物は大きい。彼の刻は止まる事無く、別の人の中で生き続けるのだ。
そう考える事が出来たようだ。
「ドナーみたいだ…」
ポツリと呟いた雨龍。目の前で繰り広げられた光景には、驚きよりも何処か悲痛な色を濃くしていた。しかしその言葉は小さく、聞き取れたものは居なかった。




