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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
02 はじまりの旅・Ⅱ番目の世界
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02-34 発見

あの日もシルの突発的な思いつきで、王都を抜け出して遠乗りをしていた。ブラートと王都は馬などの足があれば意外と近い。そしてその日、その時には2つの町のほぼ中間点にある森に向かっていたそうだ。


「事件が何故起きたのか、誰が事件にかかわったのか、詳しくは分かりません。彼も詳しく話そうとはしませんでした。ですが、私達が爆発音に気づいてそちらに向かった時、ボロボロの馬車が走っていくのを見かけました。あいにく乗っていた人物は分かりませんでしたが。…そして何があったか確認しようとした時に、瀕死の状態のジューンを見つけたのです」


彼は死にかけてはいたが、死んではいなかった。手当てしようと近づいたシルたちに「自分を死んだ事にしてくれ、家族のためにもどうか自分の事を調べないでくれ」と繰り返し、その後回復までに1ヶ月を要した。

回復した後もジューンはかたくなに自分の事を語ろうとはしなかったが、ブラートに起きている違和感についてはシルたちに話し、助言と助力を求めたそうだ。


「町からの報告では特に異常は見受けられなかったので、彼が本当のことを言っているのかは最初のうちは怪しんだ。しかし、何度か彼とブラートを訪れたり、偵察を入れてみると…どうだ。ステンカのお付きの名が分からぬとか些細な事から、スパルタクが姿を現さないとか大事に至りそうな事まで、おかしな点がゴロゴロしておる。実はこの時点でジューンが何者かは大体見当がついておった。大きな事件として噂になっておったのでな。じゃが、わしらは気づかぬ振りをして彼に力を貸す事にした」


禁術に関しても、ジューンが調べたいというので資料を漁ったり専門家に話を聞いたりして情報を集めていたそうだ。そこに聖女の涙の記述も載っていた。彼は本当に何が起きるか分かっていたように必要な情報を集めさせていたようにも思える。

知恵がまわり態度も良い彼は、たまに王の話し相手として世間話などもしていた。一般人の目線はずっと王宮に居る王族をも楽しませ、自然と人を惹きつけた。


「片足を失っていたジューンは、暇さえあれば書庫で本を読み漁っていたわ。閲覧できる範囲の物をジャンルの区別無く手当たり次第に眼を通していたみたいだった。動けないから本を読むしかないんだと思って義足をつけさせたら…動物が好きだったのかしらね。あっという間に一人で乗馬出来るようになって出かけるようになったの。でも、あまり歩く練習はしなかったみたいで良く転んでいた事を覚えているわ…それなのに1人で王都を出てしまって…」


割り当てた部屋で見つけた手紙。最初に助けてくれと言っていながら、何故事に立ち向かう時に一緒に来てくれと言わなかったのか。


「…ジューンが自分の素性を語ったのは僅か1週間ほど前のことじゃ。しかも置手紙でな。それには自身の名前と家族の事、そして「ブラートで大きな事件が起きようとしているから、止めに行く」という事だけ書かれていた。たった数行の短い手紙じゃ」


何故。

力を貸してくれと頼んだのに、どうして一人で出かけてしまったのか。


その後急いでブラートへやってきたが、彼の消息は分かっていない。



馬車が屋敷に着くまでの短い時間で聞いたジューンの話。その間、質問どころか相槌さえ打たずに話しに耳を傾けていた。


「王様、屋敷に到着しました」

「分かった」


屋敷について馬車を降りると、中からイーヴァの声が聞こえてくる。安静にしていろといったのに、何をしているんだか。


「母様、父様の部屋には居ません!」

「あぁ、ステンカ…なんて事なの。ドコ?スパルタク様、何処に居るの!?」

「イーヴァ様、安静になさってくださいと…」

「何を言っているの!探して。あの人と鍵を探して!」

「これ、何をさせておるのだ」


錯乱状態再び。彼女の運搬要員として一緒に来たらしい雨龍と、男性だけでは不安だったらしく、三木谷も屋敷の中に見える。必死に階段を駆け上がるイーヴァ、その行動を止めようと屋敷に入ろうとして、シルは違和感を覚えた。


「ん?…門番がおらんぞ?」

「はい。今朝はいたのですが…」


シルの疑問に近くに居たメイドが対応する。


「何処へ行った?」

「それが、分からないのです。門番だけではありません、庭師も、室内付きのメイドも人数が足りません」

「何?」

「お部屋に居たはずのスパルタク様まで姿が見えません。お世話係として付いた者も1人も…居なくなってしまいました」

「そんな大勢が、いっきに…?」

「突然居なくなったようなのです。何かが…あったとしか…」


側で話を聞いていた鷹司はチラリと守屋を見た。彼も此方を見ている。ディウブたちの船に乗っていたメンバーが、この世界を離れるために仲間を戻した可能性がある。考えている事は同じだろう。しかし姿を消した者すべてが彼らの仲間だとしたら結構な数になる様子。彼らの船の定員はいったい何名なんだろうか。

だがそんな事を今言っても仕方がないし、船の事を話して良いかは独断で決められない。そのため鷹司は別の気になったワードに疑問を向けた。


「なぁ、鍵って?」

「鍵は…そうだ。そうだわ!あなたならアレを開けられるかもしれない!」


鷹司の言葉に反応したのはオロオロしていたイーヴァだ。彼女は鷹司が城門比べで優勝したチームの1人であると思い出し、2階から手摺に身を乗り出すようにして鷹司を呼んだ。慌てて側に居たメイドがイーヴァの身体を支えて落ちるのを止めるが、あまりの必死さに思わず引きそうになってしまった。


「え?」

「説明は…とにかくこっちに来てちょうだい!開けて欲しい扉があるの!」


はてなマークを飛ばしている鷹司だが、言われるがままに階段を上がり始めた。後からシルと、彼と会話していたメイドも付いて来る。イーヴァが何を開けて欲しいのか、察しが付いた守屋が移動しながら口を開いた。一応他の人に聞かれたくないようで、声を落としているので此方もそれにならった。


「前に、アンナがイーヴァ様の部屋で金庫を見つけたって言ってた」

「何?…俺知らんぞ?」

「うん。先輩怪我して寝込んでた時だったから、変に伝えると無茶するって思って言わなかったんだ。多分、それを開けて欲しいのかも」

「…へぇ」

「でも今思えば、あの時伝えなかったのは正解だったね。金庫と一緒にイーヴァ様の事アンナから聞いてさ、厚化粧のおばさんって情報仕入れちゃったんッスよね」


話に混ざれなかったのは不服だが、変に情報を入れなかったのは助かった点だ。怒るに怒れずに浅く息を吐き出した。先に上に居た守屋と三木谷と合流し、呼ばれるままにイーヴァの部屋に入った。そして指差されたものは話してもらったとおり、ダイヤル式の金庫だった。


「何じゃ?これは?」

「良く分かりませんがあの者達が勝手に置いていったのです。私の眼の前でスパルタク様に錠をかけて、その鍵をこの箱に入れました」

「錠!あの噂はまことであったか」


彼らの話を聞きながら、金庫に触れて側に膝を付く鷹司。


「その位置、作業しにくくないか?」

「…んだな。此処だど狭い。広いどごサ出すか」

「よし、俺に任せろ」

「あ、待て。動かすど音が鳴る」

「音?」

「あぁ、防犯アラームだ。止めるボタンが中にある。まずは道具そろえてからだの。解錠するまでうるさいから」


クローゼットの中に置かれている金庫は、クローゼットのドアや仕切りなどが側にあってちょっと狭い。それを見て雨龍が声を掛けると、ダイヤルを適当に回しつつ構造把握していた鷹司が返事を返した。何を言われているのかシルやイーヴァは分からない様子だったが、とりあえずうるさくなるという事は理解できた様子。必要な道具を揃えさせるために欲しい道具を口にすれば、メイドが数名走って出て行った。


「じゃあ、金庫は鷹司先輩に任せて、私達は屋敷の中を探しましょうか」

「そうだね。居ても何も出来ないしね」


さっきのステージを見ていても分かったが、鍵開けに大人数でとりかかっても意味が無い。というか、作業できるのが鷹司しかいないのだ。他の人は居るだけ無意味だ。そう思って居なくなった奴を探しに行こうと提案し、シルとラプシン、スターニャとカリャッカ、三木谷と守屋が部屋を出た。イーヴァはステンカと部屋の外には出たがやっぱり中が気になる様子。しかし体力もあまり残って無いようで顔色も悪かったため、周りのメイドが休ませる事にしたようだ。近くに別の部屋に移動したときに、イーヴァの部屋から警告音が響きだした。


「作業、始まったみたいね」

「みたいだね。とりあえず、スパルタクさん探さないと」

「でも私、その人がどんな人なのか知らないのよ」

「あぁ、そう言われれば俺もだよ。写真でもあれば…」

「この世界で写真って見ないもんね、ないのかもしれないわ。…肖像画でもあれば…」


簡単に話し合ってそれぞれの担当エリアを決めて、三木谷と守屋は階段を下りて1階を探し始める。しかし、誰を探せばいいのかは分かるが探すべき人物のその特徴が分からない。肖像画でも最初に探そうと考えながら辺りをキョロキョロと見渡す守屋の1歩後ろを三木谷は耳をすませながら付いていった。


「…あら?」

「なに?何か見つけた?」

「何か聞こえた気がして…」

「え?助けを呼ぶ声とか?叫び声とか?」

「ちょっとキョウタロウ黙っていてくれる?」

「うっ、ごめんミッキー…」


アラーム音の騒音の中で一体何を聞いたのか。黙って三木谷を見ていた守屋は、後ろから先程シルと話していたメイドが来たのに気づいた。此処から声をかけても良いのだが、三木谷の邪魔をするのも忍びない。そのためちょっと此方からメイドのほうに近づいた。


「あら。此方は既に探されていましたか」

「あ、はい。すいません」

「いえ、別に謝らなくても。それにしても、凄い音ですね。これがアラームとやらなのでしょうか」

「そうッスね。でも直ぐ止まると思うよ。ナガレ先輩が片付けてるんだもん。…それより丁度良かった。聞きたい事があるんッスけど」

「何かしら?」

「スパルタク様探すのは良いんだけど、どんな容姿かって知らないんッスよね。写真…いや、肖像画とか見られたら良いなぁと思って」

「そうでしたか。それならスパルタク様のお部屋にご家族の絵が飾られていますよ。一度ご覧に…」

「あぁ!!!」


2人の会話を妨げるように三木谷が声を上げた。何だ?と思って視線を向けた2人を三木谷も驚愕の表情で振りかえる。


「聞こえた!」

「何が?叫び声?」

「違うわ!外から…あ」


慌てて守屋の腕を引っつかみ歩き出そうとするが、別の情報を聞き取ったのかピタリと足を止める。引っ張られた守屋はいきなり止まった三木谷にぶつかりかけて慌てた。


「何?何なの?」

「人を呼んでるわ。…名前は…ノフィー?」

「ノフィーって、アンナが言ってた優しい先輩っしょ?」

「え?アンナちゃん?」

「そうね…あれ、確かノフィーさんって帰り際に…」


三木谷が屋敷に侵入した時に声だけ聞いていたノフィーさん。顔は残念ながら見なかったが、声の感じが目の前のメイドと似ている。その事に気づいた三木谷が「まさか」という顔でメイドのほうを見れば、一度頷いて声を返した。


「…あの。私が何か?」

「ノフィーさんだ!!一緒に来てください!」

「え?あ、あの…どちらに?」

「外から声が聞こえるの。前に来た時は気づかなかった。聞こえなかった!」


有無を言わさず、守屋を掴んでいる手とは反対の手でノフィーの腕を掴むと、走り出した。三木谷にだけ聞こえている声を目指しているようで、外に出ても目的地がはっきりしているようだ。迷うことなく足を進める。


「ミッキー落ち着いて!一体誰の声が聞こえたのさ!?」

「アンナよ!」


三木谷の返答に、思わず返答を忘れた守屋。やっぱり屋敷に居たというのか?そんな彼に新たに聞こえたらしい声を伝えるため、再び口を開いた。


「あと猫柳先輩も!」



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