表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
02 はじまりの旅・Ⅱ番目の世界
62/146

02-31 表彰式

同時に開いた扉。

両チームとも扉を越えて1歩を踏み出そうとする。

が…


“ガツン!”

「何!?」


5センチ程の隙間を空けてディウブ達が押しあけた扉が止まった。目線の高さには鎖が見える。内鍵はたび重なる衝撃に無残にも引きちぎられてしまったが、チーム6番の侵入をドアチェーンが阻んだ。

もう一度力づくで開けようと一度扉を閉めるが、既に扉を開けて用意されていた部屋に入っているチーム10番に気付いて動きを止める。そして扉から手を放してディウブとカブラは視線を交わして薄らと笑った。


「そこまで~!熱い戦いを征したのは、チーム10番、チーム・スターニャだ!!遠目からは地味だったけどね!」


決勝戦終了の司会の声に会場を震わせる大歓声が響いた。一言多いが気にしない。それよりも今だ実感がわかないらしいスターニャとカリャッカが呆けている。

そんな2人を見ながら、目線を合わせるために解錠の為にしゃがみ込んでいた鷹司はホッと息を吐き出してが立ちあがり、膝の砂を軽く払った。


「やりましたね、ナガレ先輩!」

「すごいです!ナガレさん!…ありがとうございます。これで、これできっと…」


まるでマラソンでゴールテープを切るかのように扉の内側に駆け込んだ草加とが戻ってくると、それにつられるようにスターニャも此方へ歩み寄り、嬉しそうに笑った。兄の為に優勝を目指していた彼女の瞳は嬉しさで涙ぐんでいる。それにたいして鷹司は言葉を返さなかったが、ゆっくり一度頷いて返すだけで満足した様子を伝えられたようだ。


「先に扉を開けたチーム10番が今年の優勝チームだ!…さて、続いて表彰に移ります。来賓が登場されますので、一旦結界魔法を解除します。…まずは皆さん一度落ち着いて!」

「来賓?」

「王様か!?」

「お、お姿を拝見出来るのか!?」


そう言えば優勝賞品は王様からって言っていた気がする。きっと本人から手渡されるのかもしれない。そのための登場らしいが、地鳴りのような歓声を司会が何とかしずめようとした発言のせいで再びガヤガヤと煩くなってしまった。それもなんとか落ち着いてきた頃、唐突にラッパの音が響いた。こりゃべたな王様の登場だな、と雰囲気で感じる。


「皆様お待ちかね、王様の御成り!」


司会の響く声に合わせて、きらびやかな赤いマントをはおった金の仮面の男性がステージに姿を現した。御供として女性が1人ついて来ている。服装から見て、専属メイドだろう。ゆっくりステージ上を歩きながら湧き上がる王様コールに軽く手を振って返していた。

暫く自然に落ち着くのを待って、再び司会が口を開く。


「続きまして、サーロヴィっチ家、イーヴァ様」


王様の時と同じように、ラッパの音が鳴り響き、白い扇で顔の下半分を隠している女性がステージに上がってきた。此方はメイドを2人引き連れている。

話だけでしか聞いた事が無いサーロヴィッチ家の奥様の登場に、鷹司は視線が仮面で隠れるのを良い事にじっくりと観察した。

腰ほどまでの長い黒髪、シンプルな髪飾りが1つ付いているだけで、他に目立ったアクセサリーは無い。すらっとした体躯に黄緑色の若葉イメージのドレスもシンプルで、言われないと貴族と分からないかもしれない。でも憂いを帯びて伏せられた瞳、ナチュラルな薄化粧は確かに美人で何となく童顔気味。25の子供がいるとは思えない女性だった。

彼女に比べると、金髪で盛っている後ろのメイドの1人の方が悪女っぽい。メリハリのある魅力的な身体に官能的な色っぽさは質素なメイド服で隠せるものではない。

いや、それよりも。こんな人があの悪行をねぇ…なんて考えを中断させるかのように、再び司会が喋り出す。


「では優勝しましたチーム10番代表スターニャ殿、此方へ」

「は、はい!」


いきなり名前を呼ばれたスターニャがガチガチに緊張している様子を見て、カリャッカも付き添って背中を押してやりながら指定された位置に移動した。そして2人の前に四角いトレイを持た2人の女性が立つ。その上に何かが置かれ、布が掛かっていて中が隠されていた。


「優勝しましたチーム10番に王様からの贈り物です」


その司会の言葉に、王様自身がトレイをもっている女性の側に行き、布を外した。黄金で出来た楯型のトロフィーは、いたるところに大小さまざまな宝石がちりばめられていてかなり綺麗だ。目の前にしているカリャッカとスターニャも、眼を白黒させて驚いている様子。


「送られるのは黄金のたてです。王様デザインの特注品らしいですよ。大切にしてくださいね」


簡単な説明だなと思いつつ、少しだけ離れた場所でそれを見ていた草加も、その金の輝きに思わず息を漏らした。


「うわぁ、キラッキラですね」

「そうだな、草加」

「ホント凄いなぁ」

「何言ってんだ2人ども。優勝トロフィー担いで写真撮ったごどあんだろ?」

「確かにありますけど、アレはなんていうか…メッキ?みたいな」

「担ぐと重さで分かるからな。でも歴史ある大会だとトロフィーの返還をするごとに優勝チームの名前のペナントが増えるから、トロフィーや優勝旗自体が軽くても歴史の重みを感じるよ」

「ペナント?雨龍さん、それって何?」

「トロフィーの横についてる赤と白のリボンの事だよ。第●回優勝●●とか書いてあるだろ?」

「あぁ!あれか!」


ヒソヒソと盛り上がる運動部2人。それを横目で見ながら、鷹司は一人疑問を感じて僅かに首をかしげながら腕を組んだ。目ざとくそれに気づいた草加が話を振る。


「…ナガレ先輩、どうかしました?」

「いや…ちっちゃの、と」

「ちっちゃ…小さい?って何が?」

「アレだ。あの楯」

「え、いや、あのサイズは別に特別小さいと思いませんけど?剣道でもこれっくらいの…」

「んでねぇ。あの大きさだど、1億もしねぇ。…まぁ、地球で鑑定した場合は、だが」


手で空中に大きさを描いた草加に、自分が感じていた疑問を話してみた。片手では包み込めないくらいの大きさはあるが意外と薄く、スタッフと思われる女性が軽々と持っていることから、それほど重さは無い様子。純金なのかも知れないが、宝石をちりばめて水増ししているようにも見える。それでもキラッキラで恐らく高額、そして十分インパクトのある楯であるのだが。しかし大会前に聞いたステンカの話を信じるならば明らかに小さい気がする。


「おめでとうございます。この楯は謝肉祭期間中は運営本部に飾らせてもらいますので、近くで見たい人は運営本部まで来てくださいね。では続きましてイーヴァ様。前へお願いします」


進行を進める司会の声にハッとして、とりあえず相談を中断。顔をステージ中央のスターニャ達に戻すと、イーヴァが静かにスターニャの前に歩み出ていた。後姿で良く分からないが、兄の仇…とか思っていないことを祈る。スターニャの前まで来たイーヴァは2つ目のトレイに掛かっていた布を静かに取り去って、扇をたたみ自分でトレイを持った。そこにあったのは下に行くにつれて透明からグラデーションで赤みを帯びる綺麗なワイングラスだった。


「あっちは何だろう。水晶?クリスタルとか?」

「ありえるな。だが案外ガラスかもしれんぞ?ガラス細工も物によっては高額商品だ」


再びヒソヒソと会話を始めた雨龍と草加。その間も一人楯について考えていた鷹司は、唐突に肩を後ろから叩かれて振り返る。


「やぁ」

「…何?」

「正式に勧誘しようと思って」

「何の話か知らんが、諦めろ」


叩いたのはディウブだった。カブラも一緒だが、ステンカは居ない。表彰の途中なのに何してるんだ?と疑問に思うが、簡単にあしらって追い返そうと、詳細を聞く前に返事を短く不機嫌そうに返した。しかし彼らは気にした様子を見せない。


「俺達のチーム、ほぼ戦闘向けで揃っちゃってさぁ。技術者欲しかったんだよ」

「…何言ってんの?」

「君もだろ?無理やり星に食われそうになって、船で世界を…いや、世界?宇宙?次元?分からないが…分かるだろ?別世界を旅してるんだ」

「だば、なおさら無理だ。お前達とは目的地が違う」

「目的地?何言ってるのさ。まさか本気で帰還を目指してるわけじゃないでしょ?」

「…は?」


内容が内容なだけに、思わず此方も音量を抑えて話し合うが、言われた言葉の返答に思わず声音が上がってしまう。それに気づいて草加と雨龍が此方を向き、そこで初めてディウブとカブラに気づいたようだ。雨龍が鷹司に「どうした?」と視線だけで尋ねると「変な事言っててうんざりしてる」といった様子で首を振る。それを見て雨龍がディウブとカブラへ視線を移した。


「何か用事が?悪いが話は式が終わってからにしてくれないか?」


丁寧な口調でありながら、怒気を含んだ雨龍の言葉。それを真正面から受け止めながらディウブが笑みを返した。


「悪いね。それじゃぁ遅いんだ」

「遅い?何がだ?」


スタッフの数名が此方の険悪ムードに気づいたようで、場を収めようと近づいてきた。それを見てディウブも2歩ほど離れて両手を挙げ、なんでもないアピールをしてみせる。離れた彼らからもっと距離をあけるために、鷹司はわざわざ位置を少し移動した。


“カラン…カラン…”


そこで初めてこの小さな音に気づいた。音源を捜して視線を巡らせて、雨龍たちは驚く。


「何?泣いてるの?」

「いや、それよりも涙が…固体になってるようだが?」


グラスを持ったイーヴァがその上で涙を流すと白い珠がグラスに落ちていった。ガン見するのは失礼と分かりつつも、凝視してしまう。


「あれも魔法か?あんな事が出来んだば、借金知らずだの。良いなぁ」

「こんなファンタジーな光景眼の前にしてるのに、ナガレ先輩は相変わらず現実的ですね。でも…失礼だけど化粧が崩れる心配は必要ないのかな?お面みたいな厚化粧で…あ、アレ仮装の代わりとか?」

「ん?厚化粧?」

「いや、それよりもあの大きな体躯でよくグラスを割らずに持ってるなぁと…」

「…大きな体躯?」


あれ?

見ている人物が違うのだろうか。草加と雨龍は意見が合っているような感じだが、鷹司が先ほど観察した女性の特徴とマッチしない。もしかして別の人を見ていたか?とも思うが、今グラスを持って涙を流している人って言ったら一人しかいない。鷹司の反応に「どうした?」という視線を向けてくる2人は置いておいて、不思議に思ってイーヴァを見ると偶然彼女も此方に視線を向けていた。何となく悲痛な表情に見えて、助けを求められているように感じるのは気のせいだろうか。


「…イーヴァって…あ、いや、イーヴァ様ってあのグラス持ってる人だべ?」

「そうだと思うぞ。俺も初めて見たが、さっき司会もそう紹介してたしな」

「ふーん…」

「ナガレ先輩、何か気付いた事でもありました?」

「いや別に。ただ、美女は泣き顔もあでやかだの、と」


2人に問われて視線を彼らに戻してから、別に失礼な事を言う訳でもないしなぁ、と普通の声音量でイーヴァを慰めるような返事を返した。普段ならこんな事絶対口にしないのに、仲間が堂々と失礼な事を言っちゃうものだから何となく自分が彼女を苛めているような罪悪感を覚えたのだ。何故だか。

しかし、その瞬間…


“パリン!!”


辺りに何かが割れる音が響いた。


「タカやん!後ろ!」


それとほぼ同時に聞こえた仲間の警告。しかしその声が示すものが何なのか、確認しようとする間も回避する間もなく、鷹司は乱暴な強い力によって後ろから何者かに押し倒された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ