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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
02 はじまりの旅・Ⅱ番目の世界
61/146

02-30 本戦・02

チーム4番は結構粘ったが、やっぱり開かない扉は扉じゃないという事であっという間に残り2チーム。先ほど名を聞いたディウブが逆に鷹司に名を聞き返す前に本戦の進行が開始したので、司会に言われる前にディウブはチームの方へ戻っていった。


お互いの代表はチーム6番がステンカ、チーム10番がスターニャのはずなのに、睨み合ってるのはディウブと鷹司だった。しかし、獲物でも見つけたような視線を飛ばしているものの笑顔のディウブと、キュッと口を引き結んで仮面の下で眼を細めている鷹司は、外から見るとそれほど激しい火花が散っているようには見えていない。


「さぁ~て、本戦も残ってるのはたった2チーム。此処で審査方法をちょっと変えて、お互いの扉を同時に攻略開始してもらいます」


司会の声にあわせて、扉をセットする壁が1つ追加で運ばれてきた。元から設置されていた部屋の壁にはチーム6番の扉を、新しく用意された壁にスターニャのチーム10番の扉を設置して、スタートの合図で同時に扉を開け始めて、突破までのタイムを競うという方法に変えたらしい。


「さぁ、扉設置のその前にまずは作品を見てみよう!布、オープン!」


2チームの扉にかけられていた布がスタッフの手により同時に外される。どちらも片開きドアのようだが、その似ているようでいてまったく違うデザインに会場からも驚きと感嘆の声が上がった。

用意された鉄板の扉に取っ手と彫刻を施し、塗装によって黒い輝きを放つ。シンプルでいて艶やかなチーム10番。それとは違ってチーム6番の扉は刑務所などで囚人を入れる場所の扉のような鉄格子状のものを作っていた。そして格子の隙間に大粒の宝石をちりばめられていて、色鮮やかに装飾している。扉にドアノブは無く、唯一鉄板のプレートが残っている部分に穴が1つ。


お互いにお互いの扉を睨むように見つめるが、直ぐにスタッフが壁に取り付け始めた。意識して扉の裏を見せないように角度調節しているのだろう。ステージ上からは2枚の扉の両方とも正面しか見えず、スターニャやステンカ達もお互いに相手の扉の裏を見ることは出来なかった。


「はい、壁に扉の設置完了です。両チームは扉が開く事を一度確認してから、扉を閉めて開始準備を始めてください」


先程と同じことを繰り返させないためだろう。扉だという証明と最終戦前のパフォーマンスとして両チームとも枠にはまった扉を大勢の観客の前で開いて見せた。チーム6番の扉は手前に引いて開けている。ちなみに我ら10番の扉は彫刻を施した正面からだと押して開けるタイプだ。


「…草加、鍵、よろしく」

「え?あ、はい」


身体と顔の向きは自分達の扉に向けておきながら、視線だけでチーム6番の扉を観察していた鷹司がそう言うと、草加は素直に頷いて扉を閉めるときに内側に入り裏に回った。そしてドアの鍵をかけた後で、壁を回って表に出てくる。

お互いにメンバーが再びドアの前に集まるのを待ってから司会が再び声を張り上げた。


「泣いても笑ってもこれが最後!今年の勝者は一体どっちだ?さぁ、お互いに場所を交換して、相手が作成した扉の前に移動してください!」


司会の指示に従って両チームが場所を入れ替えるべく歩き出した。ステージ中央で相手チームとすれ違う。


「…やっぱり君、外から来たね?」


ステージ中央ですれ違いざまにディウブに囁かれた言葉に、鷹司はフンと鼻で笑ってやった。


「お前もな」


掛けられた声に振り向くどころか視線を向ける事もしない。

鷹司は見ていた。彼らがこの格子状の扉を開けるのに「鍵」を使っていたのを。ドアノブが無い扉は、穴に差し込んだ鍵を捻る事でドアノブの変わりに空錠を開ける仕組みなのだろう。そしてそれが扉のロックの役目も果たしていて、鍵が無ければ開けられない。故に閉じれば自然に鍵が掛かる。アナログなオートロックだ。あの仕組みを知っている人物がいて、尚且つあの地位に居てこの世界に普及しないわけがない。民間人に回らなくても、貴族の屋敷や宿くらいにはあっても良いはずだ。


恐らく奴等も外から来た人間だろう。自分達と同じ境遇なのかは分からないが、少なくともこの世界の人では無い可能性が大きい。


場所を交換したチームが再び顔を向け合った。ディウブではないもう一人の取り巻きは扉の彫刻に興味を持ったのか早くも扉に触れて指でなぞっているが、メンバーがお互いの扉の前に整ったのを見て司会が開始を宣言した。


「両チームとも用意が整いましたね。同時スタートして早く扉を突破した方が勝ちになるよ!此処で注意、突破は表の1面からのみ。裏に移動したらその時点で負けになるので立ち位置には注意してね!!特にチーム6番は簡易壁だけだから気をつけて。じゃぁいくよ!?城門比べ、決勝戦開始~!」

「針金か何か…細くて丈夫なヤツない?」

「直ぐ探してくる!」

「私も行きます」

「頼む。で。カリャッカはペンチ持ってきて」

「分かった!」


「カブラ、鍵開け宜しく!ステンカ様は邪魔だから待機ね~」

「了解~」

「え、待機?俺すること無いの?」


開始の合図と同時に動き出した両チーム。カリャッカには工具を取ってきてもらい、鍵の代わりに出来そうな針金を草加とスターニャに探してきてもらうよう頼んだ。ディウブたちも扉に近づいて迷うことなく鍵穴に手を伸ばす。そして何処で手に入れたのか、カブラと呼ばれた黒褐色の髪に赤茶の瞳を持つもう一人の取り巻きがピッキングツールと思われる数種類の鉄の棒を取り出した。鷹司がチラリと一瞥すると、同じようにこっちを盗み見…いや、堂々と此方を向いて見ていたディウブと眼があってしまったので直ぐにそらす。


「鷹司、俺は何をすればいい?」

「あぁ…そうな。扉、揺すってみ?割と力入れて」


格子の隙間から手を入れて、鍵穴と思われるプレートの裏面を触っていた鷹司は、手を抜きながら思いつきの提案を口にした。指示を仰いだ雨龍は、え?って顔をしたが鷹司に言われるままに力を入れて揺すってみる。割と隙間が大きいのかガチャガチャと音が鳴るが、壊れる前に止めておこうと思ったのだろう。直ぐに手を止めた。それを見て鷹司はため息を一つ。


「…このまま押し開けられたら楽なんだが」

「それは壊せって言ってるのか?」

「全壊はNGだが、部分的破壊だばOKなんだべ?」

「まぁ、確かにそこらへんは言及されてないけどなぁ…」


そんな軽口を言い合っているうちに草加とスターニャが数種類の針金を持って帰ってきた。扉と鍵穴に触れて形を確認していた鷹司は、針金を受け取るとその中で大きさの合うものを選んで、先をペンチで器用に折り曲げて穴に入れる。入れて抜いて曲げて入れて、を繰り返し始めた。皆はその作業をじっと見ている。手馴れた様子に惚れ惚れだ。

そして、ピッキング中の鷹司を堂々と観察しながら、チーム6番のディウブはカブラにそっと顔を寄せて小声で問いかけた。


「…どう?カブラ」

「良いよ。良い鍵だ。俺達みたいなアマじゃない、プロの作品って感じ」

「そっか。やっぱ欲しいな、あいつ。カマかけてみたら予想通り外の奴だったし、作業見てても何だか慣れてるもん。道具とか自作しちゃってるし」

「奴の事聞いてからその調子だけどさ、代わりに誰を降ろすわけ?今はまだ必要無いと思うけど、このコンテストに向こうが勝てたら勧誘してみれば?」

「何?対抗意識燃やしてんの?」

「違うけどさ。…ってか無理。開かない。これ使えない」

「鍵開けにはコレって言ってたじゃん。諦めるの早くない?」

「素人に専用の道具持たせたって技術がなけりゃ意味がないんだよ」


使っていた道具だけは立派なものの、この鍵の仕組みも詳しく分からないのに適当に鍵穴にさすだけじゃやっぱり開かない。それなのにかなりの余裕を見せているステンカ以外のチーム6番。

選手交代でカブラの変わりにディウブが扉の前に立ちドアノブを握ると、半歩下がったカブラがさりげなく死角を作り、ディウブの手元を隠した。そのまま気を集中させると、ドアノブを握った手から異臭と煙が立ち上った。


「大丈夫か?何をしてるんだ?」

「平気だよステンカ様。鍵開け(物理的に)してるだけだからさ、危ないからもう少し下がって」


臭いに気付いて骨面の上から手を鼻の部分に当てているステンカにカブラがサラッと説明した次の瞬間


“カチャン”


ドアノブが取れた。取っ手が取れた。

魔法が使えないはずなのに、かなりの高温を金属に当てていたようで、一部溶けかかり切断面が赤く熱を持っていた。しかしディウブはそれにまったく気にした様子は無く、もぎ取ったドアノブをポイッと捨てて赤く熱を持っているドアノブの穴の中に指を入れる。


“カチッ”


指を入れて少し探り、小さく鳴った錠の音にディウブとカブラはニヤリと笑った。そしてラッチボルトも引き抜いてからドアノブが取れて穴になった場所に手を掛けて押し開こうと力を入れた。


“ガンッ”


「あれ、開かない?」

「何!?」


開けたはずの鍵、しかし扉は開かない。

此処までやって「実は鍵穴を狙うと思ってたから鍵は掛かっていなかった」とかいう作戦だったのか?最初に開くか試すべきだっただろうか。と、カブラが冷や汗を流すが、穴に手を入れたディウブは鍵が開いている事を指だけで確認できていた。そして何度も何度も扉を力任せに押し開けようとして、フッと感じた違和感に眉を寄せる。


「…これ、別の鍵が掛かってるんだ」

「何故分かる?」

「扉の開き具合がだんだん大きくなってる気がする。…要するに勘だよ!ステンカ様!ぶち破るから手伝って!」

「お、おぉ。分かった」


手持ち無沙汰にしていたステンカを呼んで、扉を押し開けようとし始めた。ステンカは参加したからには優勝を目指す気のようで、何処となく疑問を感じている様子だが扉を破るために加勢に入る。

等間隔に鳴り響く鉄の扉に体当たりする音に、チーム10番も気分的に急かされはじめた。


“ガン!…ガン!…ガン!”


「ナガレさん、向こうのチーム…」

「壊されちゃいますよ!?ナガレ先輩」

「分かってる」

「強引ですね。良く耐えてると思います。でもどれくらいで壊されてしまいますかね?」

「さて…そったらさ長ぐもたねど思う。内鍵は溶接したばって、適した素材がながったんでの、接合が甘いんだ」

「…だがカリャッカさん、アレは破壊行動じゃないのか?運営から注意が飛ばないんだが」

「あの行為は全壊判定にならないんでしょう。それに多分壊れないと判断できないのかと」

「それにしてもこの臭い…ドアノブ焼き切ってるみたいですよ?魔法禁止って言ってたじゃないか」

「だけど結界魔法でキャンセルされないってことは、魔法じゃないんじゃないかしら?道具を使うなら問題ないって言ってたし…」


最初は耐えていた内鍵も、繰り返される衝撃にだんだんと歪んできたようだ。遠目ではまだ分からない具合だが、だんだんと隙間が広がってきている。解錠作業を見ているだけしか出来ない皆はチーム6番の行動に焦り始めるが、鷹司だけはゴーイングマイウェイのマイペースだった。左手で鍵穴に差し込んだ針金を支えながら、右手で別の平べったい針金を手にとってそれも穴に差し込む。そしてそれをドアノブ代わりに捻った。


「よし開くぞ。扉を引け!」

「もう一回!体当たり行くよ!」


そして同時に最後のひと押し。

両方の扉の鍵が解かれ、開かれた。

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