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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
02 はじまりの旅・Ⅱ番目の世界
57/146

02-26 一次予選

「レディース&ジュントルメン!!さあ、今年もやって来ました戦いの時!今回の参加者は、な、な、なんと!100組越えだぁ~!」


賑やかな司会の声を聞きながら、周りを見渡す草加。

歴史のあるコンテストとか言うから、もっとちゃんとした…というか、なんと言うか、それなりにしっかりしたイベントだと思っていたのだが、まるで日曜日の運動会…どころか、どっかのライブ会場みたいだ。

会場はあの外門の近くの町外れだった。

エントリー100組以上。もちろんソロ参加もいるが、大体がそれぞれグループを組んでいるので、300人近い人数になっている。

当然ながらこの人数では街中で集まる事が出来ないのだろう。今も参加者と見物人でぎゅうぎゅう状態だ。

この前来た時には無かった、ちょっと高い物見やぐらのようなものが立っている。恐らく警備の人かVIP専用なんだろう。


「凄い人だ。あの、スターニャさん、毎年こんな感じなんですか?」


会場まで来る間に自己紹介をすませた草加がスターニャに問いかければ、人の波にスターニャも圧倒されていた。


「い、いいえ。去年は30組ほどだったはずです」

「倍以上って…王様効果でしょうか?」

「それはあると思います。金一封ですからね。それに、上位になれば王都でお抱え技師になれるなんて噂も出ていたみたい。私達も頑張らないと」

「あぁ~。なるほど。だから今年は参加人数が多いんだ」

「駄目でも参加賞でお菓子がもらえるし、遊びで参加する子供も多かったはずですよ。…それよりも、これではお父さんが何処にいるのかわからないわ」


去年の人を想像していたらしい父親が先に場所をとっておくとか行って先行したそうだが、人が凄すぎて何処にいるのか見当がつかない。そうこうしている間に時間が迫ってきていたようで中央のステージに立っていた司会が何かを言うために手を再び口元に近づける。後から聞いた話だが、アレは音声拡張の魔法なんだそうだ。舞鶴だったら確か声が通る力のはずだから代役が出来そう。ノリも彼に似ている気がするし。でも声量が大きくなるわけじゃないんだっけ?試してみないと分からないな、とかひそかに考えたりもした。ちなみに普段から基本おとなしい鷹司は、人ごみ嫌いが手伝って会場についてから一言も喋っていない。


「さぁ~て、イベントの始まりだよ!皆準備は良いか!?」

「おぉ~!!!」

「いぇ~い!」

「待ってたぜ!!」


司会の呼びかけに応える参加者達。そのテンションと歓声に地が震えるようだ。


「まずは簡単に挨拶だ!今年は我らが領主サーロヴィッチ様だけでなく、王様もご観覧されてるよ。初!観覧!頑張っていいところ見せて、スカウト狙っちゃおうね!ちなみに、ルール違反は即退場。いんちきやズルもパパット見つけちゃうから、気をつけてよね!?」


春の祭りにあわせた衣装と仮面をつけた、年齢は20代くらいの男性の司会が手を振れば、黄色い声が飛び交う。だいぶラフな司会を聞いて、草加は高位の貴族の人は不快になったりしないんだろうか?王様の挨拶とかはしないのだろうか?と些細な事に心配するが、自分の知った事ではないなと直ぐに考えを切り替える。そんなことをしている間にステージの上になにやら大きなオブジェクトが置かれた。白い布で覆われていて、それが何かは分からない。


「良いかい?今年は参加者が多いから一次審査を行うよ。ルールは超簡単!このオブジェクトと同じものを作って、このステージの上に上がってきてもらいます!先着じゃなくて、合格をもらえた10組だけが決勝戦に出られるよ。パーツは此方で用意したので道具は何も必要ありません。組み立てる材料はこのステージ裏に置いてある物から選んでね。皆に見えるように見本は超得大サイズだけど、同じサイズにする必要は無いよ!指定した材料も大きくないしね」


その声の後でステージの後ろに作られていた小山に、覆い被せていた黒いシートを取り払った。ただの背景かと思われていたが、なにやら鉄の廃材の山のように見える。

恐らくアレが素材の山なんだろう。と、早くも駆け出した参加者をバリケードの変わりに立っていた警備員が止めた。それを見て司会の人からも注意が飛ぶ。


「あぁ!まだスタートしていないよ。見本も見てないのに気が早いって。フライングは駄目ですよ。…さて、続いて注意事項です!この中の素材なら何を使ってもOK。でも見て分かるとおり、色んな所から出た廃材が混ざってます。中には鋭利なものもあるかもしれないから、小さいお子様は要注意。それと、このオブジェクトを作るにあたって、道具は必要ありません!さっきも言ったけど、組み合わせるだけで出来ちゃう設計です。でも正規パーツにも限りはあるし、この中の素材を使うなら加工しても問題ないよ。必要パーツを見つけられなかったときは自作してみてね。加工はこの素材置き場では無く、向こうにある線を越えた場所で行ってね。拾いながら組み立てるのはNGです。今回は参加人数が多いので、素材置き場に溜まられると邪魔です。戻らないで加工している人を見つけたら一発で退場扱いなので、注意してね」


一旦説明を止めるととある人物をステージ上に招いた。春色の布を身にまとっていて顔にはお面をつけている。その人を側に呼ぶと、司会は再び声を張り上げた。


「第一次の審査員はこの人だよ!このオブジェを作った人で、王都から来た技術者さん。コンテスト中は組みあがった人以外はステージ上に上がっちゃ駄目なので、オブジェクトで見たい角度とかあったらこの人に言って動かしてもらいましょう。人が多いから渋滞しても後ろから力任せに押しちゃ駄目だよ。技術者さんの詳しい説明は後回しにして。皆!用意は良いかな!!??」


司会者の問いかけには再び地響きのような声が返ってきた。それを受けてニッと口の端をあげて笑った司会者がオブジェクトに掛かっている布に手を掛けた。


「じゃあいくよ!!制限時間は1時間!城門較べ、開始!!」


声と同時に布をめくると、下のオブジェが姿を現した。円が2つ重なったようなものの中に円盤が刺さっているような形で、パーツ自体はさほど多くは無さそうだ。それを見た参加者はいっせいに素材の山に向かって走っていく。


「何だか、意外とシンプルですね」

「そうね。アレなら後ろ側を確認しなくても大丈夫そうだし、正規パーツが手に入らなくても、作れるかもしれないわ。とりあえず行きましょう」


そう言いながら2人も人の流れに乗るように素材置き場に向かおうと歩き出す。が、後ろに居た鷹司ステージ上を凝視して動かなかった。数メートル離れて振り返り、気づいた草加が足を止めて声を掛ける。


「先輩?どうしました?」

「ナガレさん、早く行かないとパーツが…」

「…あれ、ただのオブジェだばねぇかも」

「え?どういう…」

「スターニャ、スケッチブック」

「あ、はい」


草加の質問を途中で遮り、スターニャが城門較べのために持っていたスケッチブックを差し出すと受け取る。そして適当に新しいページを開くと、同じく受け取ったペンを持って素材の山ではなくステージに近づいていった。

ギリギリまで近づいて行ってオブジェを見上げる。オブジェの隣に立っていた技術者の人も、人が素材置き場に移動する中足を止めてオブジェを見ている鷹司へ黙って視線を向けていた。


「ナガレさん、この形は大体覚えたので材料を集めに行ったほうが…」

「スターニャ。何故、朝が来るのか知ってるか?」

「え?朝が来る…何故でしょう?夜が来れば朝が来るというのは当たり前だったので、深く考えた事は…」

「だば、この星の色は?」

「星?え、この星?空の星は赤かったり黄色かったり…ですがこの星?」


突然の鷹司の質問に混乱しながらも返事を返すスターニャ。返事を受けてからペンを持った手を顎に添えて考え込む鷹司。そしてそれを側で聞いていた草加は首をかしげながら問いかけた。


「何か気づいた事があるんですか?」

「草加、アレに見覚えは?」

「え、ある…ような無いような」

「俺の中の情報で言う。アレはジャイロスコープに形が似てる」

「ジャイロスコープ?…それって地球ゴマってやつ?」


疑問を肯定するように頷いた鷹司は大きさを目測で測ろうとしているのか、適当な位置まで離れてから借りたスケッチブックにペンを走らせていた。自分が立っている場所からの距離と、見上げた角度から三角比を利用しておおよその大きさを調べたようだ。

ジャイロスコープとはコマの一つで、娯楽というより教材として紹介される事もある科学玩具。自転や公転を分かりやすく説明できて動きを学べる品だ。物の角度や角速度を計算する計測器をさす場合もある。

この星の住人であるスターニャには宇宙空間という概念が無い様子。誰かが宇宙に行ってこの星を見たという事も無いようだし、馬が主流の移動手段なら計測器でもないだろう。ならば教材として生まれた可能性は低い。適当に作った玩具の可能性はあるが。


「ただの偶然の可能性もあるが…あの中央の支柱の穴が…気になる」

「穴…紐を通す穴って事か」

「…まぁ、デザインで適当に開けたどいう線もありえるが」

「決定打には欠けますね…」

「あの、何の話ですか?」

「おっさん、その中のやつ、回せる?」


話について行けないスターニャが声を掛けると、動かしていた手を止めてスケッチブックをスターニャに差し出した。素直に受け取るスターニャに顔を向けず、今度は身をかがめたりして見え難い部分を観察を始めて、横に立っている研究員に声を掛けた。暇していたのか直ぐに反応して、中の円盤を回転させるのを見届ければもう言いという意味をこめて軽く手を振る。


「作成したオブジェは回転させて審査するつもりか?」

「回転させて?」

「あぁ」

「僕達が知ってるモノと、お題が一緒だったらって話だけどね。…あれ?僕達が知ってる…僕達は知ってるけど、この世界の人…」


補足した草加がフッと違和感を覚えて口ごもる。それを聞いて鷹司も顔を草加に向けて、小さく頷いた。


「上部は一ネジ、下部は皿ネジ。保護枠は垂直に交わり、中央部は枠が固定されていても可動可能。間違いない、アレは地球ゴマだべ」

「…誰が作ったんだろう?」

「遊びの過程で作られた可能性はある」

「でも数日町で行動したけど、コマなんて玩具見かけなかったよ?」

「なら、答えは一つ」

「持ち込まれた?でも一体何処から…まさか…」


自然と顔を近づけてヒソヒソ声になってしまう2人。話について行けないスターニャは、それでも黙って聞きながら、手渡されたスケッチブックの目測で書かれた大きさの数字を見ていた。


「星が星ば捕食した。その星の人間に、この世界は安全だど調査されていた」

「多くの別世界の人間がこの世界に最初に下りたかも知れないって事か。じゃああの技術者って人は僕たちと同じ別世界の人?」

「可能性はある。が、絶対そうだとは言えん」

「だね。…訪問者の中に同じ地球人か文化の発達した世界からの人が居たら、玩具を置いていった可能性もあるね」

「この仮説が正しければ、変な発展してる文化もなんどのぐ(何となく)説明がつぐ。魔法で出来っから使うってのはあんだべが、使える文化の人間が、使い方だげ伝えで消えたんで、不安点に定着したんだべ」


色んな所で感じていた違和感も、この仮説が正しければしっくり来るものばかりだった。さっき声をかけてから此方に顔を向けているような気がする技術者は全力で無視して、足をパーツ置き場に向ける。


「色々思うトコはあるが、まずは課題ば完成させよう」

「…うん。そうだね」


会話に参加したいが入れないで居たスターニャに声を掛けて、オブジェの前を移動して素材置き場に向かう。もうパーツを集めたチームで加工指定エリアに移動している組もいて、思ったほど混雑はしていなかった。

草加とスターニャが拾うパーツを鷹司が確認するという作業を繰り返している彼らの様子を、ステージ上の技術者がずっと観察していた事を最初のうちは気付いていたが、パーツ集めに意識を取られて途中ですっかり忘れてしまった。

気分でペンネームを変えてみました。

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