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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
02 はじまりの旅・Ⅱ番目の世界
56/146

02-25 ドミノマスク

謝肉祭4日目。

天気は…若干曇が多いがおおむね晴れ。

空気は冷たいが爽やかで、心地良い。


「本当に行くのか?」

「…何度問われても同じだ」


鷹司と一緒に部室の外に出た雨龍に散々問われた質問を再び投げかけられた。何度問われようとも答えは同じ。それに続いて草加も外に出てくると、心配そうな顔で鷹司を見た。何か言いたそうではあるが、結局何も口にする事は無い。


天笠と守屋が帰ってこなかったので、九鬼と月野は再び仕事先で情報収集をする事になった。今度は消えた2人の情報では無く、怪しい人物や姿を見せないスパルタクについて調べる予定だ。そしてちゃんと帰宅した舞鶴と三木谷は、今日は相方にバトンタッチで雨龍と草加が鷹司と共に城門較べ会場に行く事になった。


時刻はお昼を回っていて、コンテストがそろそろ始まる頃合い。


「いってらっしゃい。気をつけて」

「あぁ」

「行ってくる」

「行ってきます」


船長の言葉に短く返事を返した鷹司は大きく深呼吸をしてから通りを歩き出した。雨龍と草加もそれを追いかけるように歩きだす。目的地はコンテスト会場、その入り口のアーチの所でスターニャと落ち合う約束になっていた。


格好は昨日守屋が出現させたという黒ローブ姿、この季節にこの単色は目立つと理解しているが、あえてこれを選んだ。フードを被って陰にしていて、仮面はつけていない。

雨龍と草加は一応春色コーデだが、彼らも顔は隠していなかった。



**********



そわそわ

待ち合わせ場所で辺りをキョロキョロしながら相手を待つスターニャ。

昨日守屋に城門比べに参加するつもりらしいといわれたので参加を辞退しなかったが、もし来なかったらどうしようと不安になりかけて、自分の頬を軽く叩く。


「…いいえ、最初はナガレさんは居なかったんだから。お父さんと一緒に優勝を目指すのよ。…駄目でもともと。頑張らないと…」


そんな彼女に近づいた人影が声をかけた。


「こんな所に居たのか」


ハッとして、期待のこもった顔をあげて声の主を見る。そこに居たのは毛皮のコートのようなものに骨のお面を被った人だった。何故か知らないが、今年は祭りの途中から子供を中心にこのデザインが人気を呼んでいる。なんちゃって毛皮の子供の格好を見た大人も、それを真似したらしく骨面は屋台のお面屋にもラインナップされていた。というか待ち望んだ人の声ではなかった。これは自信を持って断言できる。では…いったい誰?


「どちら様ですか?」

「俺だよ」

「え?分かりません、人違いじゃないんですか?」

「おい、散々言葉を交わしたのに気づかないのか?」

「…やめてください、警備員を呼びますよ」


そういって大声を出すために息を吸い込むフリをしたスターニャを見て、目の前の人は慌ててお面を外した。


「…あら、ステンカさま」

「一発で気づいてくれよ。傷付くなぁ」

「それで、何か御用ですか?」


思い直せば聞いた声だったな。きっと仮面のせいでこもっていて気づかなかったんだ。そう自分に言い聞かせて用件を聞く。相手は嫌いな奴だけど貴族だ。邪険にしたら父に影響がでる。


「スターニャ、確かあの野郎とチーム組んだって言ってたよな?」

「あのヤロウとはどなたの事です?」

「アイツだよ。えっと…ほら、門で大怪我した…」

「あぁ。あの人に何か?貶しに来たならお引取りください。これからコンテストなんです、お戯れに付き合っては…」

「違う!そうじゃない!」


いつもどおり茶化しに来たのかと思っていたスターニャだが、ステンカの真剣な声色に驚いて言葉を飲み込んだ。辺りを気にしているようで、何度も周りをチラ見するステンカ。その様子に気づいて適当にあしらおうと思っていたスターニャも聞く体勢に入った。


「何かあったのですか?」

「…変なんだ」

「え?」

「母上も、シルって奴も、揃ってアイツを探している。それに…王都から騎士が進軍して来るらしいんだ」

「何故?何か事件でも?」

「…それは…誰にも言うなよ。先日、王都からの馬車が襲撃された。襲撃を仕掛けたのは流浪の民って事になっているらしい」

「そ、それが?」

「第一容疑者の候補にアイツが上がっているみたいなんだよ」

「何ですって!?」


どこかの馬車が襲撃されたのは知っていた。目撃者も多かったので口止めされる前に情報が流れたのだ。それが王都からの馬車だとは知らなかったのだが。しかし、襲撃したのが鷹司だと思われているとは一体何故だ?確かに鷹司は流浪の民だろう。しかし、馬車を狙う理由が無い。無いはずなのに。

その話を聞いて信じられないといった様子のスターニャは思わず数歩あとずさった。


「間違ってる!きっと勘違いしてるわ…」

「落ち着けスターニャ。まだ確定していない話で…」

「探さなくっちゃ!今度こそ、助けなくっちゃ!」

「だから落ち着けって!」


フラフラと歩き出そうとしたスターニャの腕を掴んでステンカが止める。それを振りほどこうとスターニャが暴れ始めたところで第三者の声が掛かった。


「何してんの?」


その声にハッとして顔を向ければ、黒コートの鷹司だった。雨龍と草加もいるが、スターニャとは面識が無いせいか視界に入っていない様子。思わず手が緩んだステンカから、するりと逃げたスターニャが駆け寄る。


「ナガレさん!無事だったんですね。怪我は?」

「平気」

「お前…良く出てこれたな」

「え、何で?」


いろんな人に探されている事は知っていたが、何にも知らない風を装ってステンカに質問を返した。すると、先ほどと同じ説明を繰り返す。それを聞いた雨龍が小さく反応した。


「警備の本部に行って話しを聞いてくる。草加は鷹司と一緒に居てやってくれ」

「え、でも大丈夫ですか?バイトだとあまり詳しく話してくれないんじゃ」

「様子を何となく探る事くらい出来るさ」

「…あれ?病欠設定だばながったの?」

「お前に付き添って会場まで行く予定だったんだぞ?病気を理由に休んだら大勢の眼があるコンテスト会場になんか来られないじゃないか」

「あぁ。そうか」


そう言って人ごみの中に走っていく雨龍を見送り、スターニャに顔を戻した。


「へば、行ぐか」

「大丈夫なんですか?ナガレさん。お願いしておいてなんですが、危険なら…」

「良い。気にすんな。あ、コイツも側に居て平気?」

「あ、僕はリヒトって言います。飛び入りですけど、ご一緒させてもらえます?」

「それは大丈夫ですけど…」


なおも心配そうなスターニャ。しかしそれを気にせず小さく頷いて歩き出せば、スターニャももう何も言ってこなかった。しかし鷹司達の後をついてきたステンカが速度を上げて鷹司に近づく。


「おい、まさか出場する気か?」

「あぁ。別に迷惑はかけてねぇだろ?気にすんな」

「だが…待て!待ってくれ!」


待ってくれ?彼の口から出た頼むような言葉に思わず足を止めた。驚いたのはスターニャも一緒で、あの傲慢な奴がどうしたんだ?といった視線を向けている。草加だけは普通のステンカを噂でしか知らなかったので、とりあえず立ち止まった2人に合わせて足を止めた。


「…いやな予感がする…というか、何か起きる気がするんだ」

「何故?」

「警備の数が多いし、軍も王都から来てるし、出場する予定だった仲間も帰ってきて…」

「それがどうした?」

「…誰も気にしていないんだ。父上が姿を現さないことを」


早く終わらないかなぁ?どうやって逃げようか、そんなことを考えていた鷹司だが、後に続いた言葉には僅かに眼を細めた。飛ばされてきた部室組みは普通に出てこない事を疑問に思っていたが、町の人があまり騒がないので気にしていなかったのだ。カリャッカたちも「会えない」とは言っていたが、具体的に何かしているとか聞かなかったので、何らかの手を打っていると勝手に思っていた。


「…何処サ行った?お前の父親」

「わ、分からない…」

「分からないってどういうことなの?」

「いつも側に居た気がした。でも…もう長いこと会っていない気がする」

「何それ…じゃあ、一体今何処に?」

「それが分からないんだ!」


重要な事のため、声の音量は下げているが、スターニャとステンカが言い争っているのを横目に、草加が鷹司に1歩近づいた。


「どうもキナ臭いですね」

「だの」

「これが小説やゲームとかなら、マインド操作系の魔法とかが疑わしいですが」

「この世界サも魔法があら。誰かが掛けてんでねぇの?」

「可能性はあるかも。でもその偉い人の不在を町の人全員が不信に思っていないんでしょ?広範囲だと…ゲームなら高レベルとか、時間制限ありとか、規制がありそうですけど」

「それはゲームの話だべ?此処はリアルの世界だ。案外簡単に人の心は操作できるのかもしれんぞ?」


此方はこちらでボソボソと言葉を交わし、とりあえずスパルタクは心配だが世界の移動のためのエネルギー確保も大切と言う事で城門比べには参加する方向で固まった。草加は渋っていたが、いやなら帰っても言いといわれてさすがに折れた。


「もう行くぞ。遅れる」


スターニャにそう声を掛けると、言い合いを中断して此方を向いた。


「あ、そうだったわ。ではステンカ様、私はこれで」

「…出場するのか?考えは変わらないのか」

「あぁ」


そう言って歩きだそうとした鷹司の前に、俊敏な事にステンカが回り込んだ。妨害する気なのかと思って眉を寄せるが、何度言っても考えの変わらない鷹司にこれ以上制止を掛けるのは止めたようだ。そのかわりにコートの内ポケットから仮面を取り出して、鷹司に差し出した。


「これは?」

「仮面だ」

「見れば分かる」

「気休めにしかならないと思うが、つけていけ。大切なものだからな、壊すなよ!絶対壊すなよ?」

「なして?…なんで俺に?」


彼が差し出したのは鷹司が骨面をつけて散々いじめた時にお詫びとしておいて行った顔の上半分を隠すお面だった。押し付けるようにして出してきたので、思わず受け取ってしまったが、何の意図があるのか不明だ。


「お前はスターニャのチームだと知られているケド、顔を知っている人は思いのほか少ない…と思う。城門比べはこの祭りの目玉だ。上位に入れば有名になるが、今は顔が知られると…まずいと思って…」


彼の心配りに吃驚だ。スターニャも、そんな考えが出来るようになったステンカが信じられないようで口元を手で隠して驚いている。草加は普通だ。


「…俺に?え?」

「そんな疑うような顔をするな!…お前は、前にスターニャに乱暴するのを防いでくれた。悪い奴だとは思わない。…その…少しだけど感謝…して無くも無いから…」


無言。

彼から感謝の言葉が出た。

その驚きゆえに、思考が一瞬止まった。しかし、直ぐに小さく息を吐き出せば、彼の心配りを受け取る事にして目の前で仮面をつけてやった。


「どうも」

「ふん!い、良いって事よ!」


照れているのか口調がどこぞのおやじさんっぽい。そのまま鷹司たちを追い越して会場に行こうとした背中を今度は鷹司が呼び止めた。


「おい、ステンカ」

「何だ?」

「お前の取り巻き…ご学友?…名前何?」

「は?あいつら?…あいつらは…あれ?聞いたはずなのに…」


足を止めて真剣に考えはじめたステンカ。僅かな時間待っていたが、コンテスト開始の時間も迫っているので軽く手を振った。


「やっぱ良い」

「あん!?なんだよもう…」


ムッとした声を出したが、表情は骨面のしたで分からない。思い出そうとブツブツ言いながら去っていく背中を見ながら鷹司たちも歩き出す。

これは記憶操作系もありうるな、と草加と視線を交わして頷きあった。

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