02-20 闇の足音
散歩に出てから大分時間がたって、太陽がそろそろ沈むんじゃなかろうか?っていう時間の今、大通りのテラス席で衰えない活気と行き交う人々を観察しながら春茶なるものを飲んでいた。
「へぇ。お前も城門較べサ出場すんの?」
「はい。でもメンバーが減っちゃったから辞退するつもり。今年は景品豪華だから優勝狙ってたけど、今思えば自分で手に入れられる物だし」
「メンバー?…って景品って何?もう発表されてんの?」
「あれ?知らないの?発表は謝肉祭開催に合わせるから、町の掲示板に景品は金一封って公表されてるはずだよ。でも…此処だけの話、本当に準備される物は金塊なんだ。それも王様がデザインした純金のトロフィーらしい」
「純金…」
「えっと…金額にして1億円とか2億円とかその辺?」
「お、億…」
1億円って普通に考えて超大金なんだけど、この世界だとそこまでってほどじゃないみたい。もしかしたら、物価が安いおかげでお金を溜めるのは簡単なのかもしれないな。…でもそれって世界のシステムとしてどうなの?需要と供給のバランスって言うか、貿易の利益の問題とか…って鷹司が気にする必要はないのだが。
それと今更だけど、この国の通貨は「円」で通じる。
多分船長の通訳機能のおかげなんだろうけれど、形やデザインは異国の物で、もちろん表記も「¥」では無いのだが、それが普通に円って呼ばれるとすっごい違和感がある。…たぶん、理解できるように単位が円になっただけで、この力がなかったら本来なら別の呼び名なんだろうなぁ。割と気になる。
だが、それよりも、だ。
「お前…何でんな事知ってんの?」
「まったくもう。馬鹿にしないでいただきたいね。俺はこれでも貴族なんですよ?受け入れる側にも準備が必要だし、そういった情報はいち早く上の人間には入って来るんだ」
「あぁ。なるほど」
つい意図的に…いや、うっかり忘れがちだが、こいつは良い所のボンボンだったな。
謝罪を口にしながら軽く手を振って、立ち上がろうとテーブルに手をつく。
「さてと。そろそろ帰…」
「待って!兄様、もうちょっと待って!」
「何度目の待ってだ?もう夕飯の時間になるぞ」
「えぇ~でも…あ!やっぱ俺の家行こう!そうすれば、食事も寝床も、心配ないし!」
「いや、だからな…」
もう。一体どうしてこうなった?
確かに、鷹司はステンカでちょっと悪戯して遊ぼうと思った。平気で人を傷つけるし、やって良いことと悪いことの区別が素で分かっていないアホだったから。しかし、思っていたよりピュアな奴で、ちょっと戸惑ったけれど。それに彼が問題視している呪である首輪は、仮面をつけさせて犬耳カチューシャを外した時に運よくチョーカーの結び目が緩んでいることに気づいた。素材の性質なんだろう。どれだけ堅く結んでも、隙間が出来てしまうようだ。なので、バシバシ彼を叩いてる時にさりげなくタイミングを見計らって爪を引っ掛けてみたら外すことに成功したので、今は毛皮の内ポケットに戻っている。
首にゴムをはめてるのってちょっと心配だったからな。久しぶりにマジになって外しに掛かってしまった。血の巡りが悪くなってるのに気づかなかったりすると危ないし、首だと呼吸器官にも影響あったら問題だし。
その後は適当に相手して、放り出せばよかったんだ。
むしろそうするつもりだった。それなのに。
事あるごとに「オオジ様」と呼よぶのをやめてくれとお願いしたら「兄様」になった。多分「アニキ!」的な感じなんだと思う。それはまぁ、許そう。例えステンカのほうが年上であっても、こっちも散々痛い目にあわせちゃったし、我慢する。本当の名前を聞かれても困るし。
その後俺が帰ろうとすると、そのたびに「まだ呪が解かれていない」といって引き止める。もう呪は解かれているって言っても、動くと発生する静電気のせいで「まだ許しを得ていない!」となにやら勝手に設定増やして、やっぱり足止めする。
し・か・も。
思っていた以上にこの世界のウールとビニールの組み合わせは静電気発生率が良い。素材の組み合わせのおかげだと思うが、触れようとするとほぼ100%バチッとくる。それなのに道には人が溢れていて、お祭りのおかげで人口密度も高い。こんな中ステンカ一人を放り出したら、人間電気ショックマシーンって言うか、周りに相当な被害が及ぶだろう。それを防ぐために頻繁にひっぱたいたりお仕置きの代わりの放電をしたり、杖を持たせて電気の逃げ道を用意していたわけだが、強い電力の放電のせいで右手に小さい傷が出来て出血したよ。吃驚だよ。
…これで俺のミッションに合羽の回収も加わってしまった。そろそろ電気ショックでステンカ自身がやられないか不安。
他にも腕にしがみついて引きとめたときはさすがにベンチで言った言葉を使って、俺に迷惑かけてるぞ?客観的に見て、今のお前はどうなの?って言ってみたら「兄様は神様なので良いんですよ」とか言われた。
…え?
…え??
神様って何?そんな設定いつ出来た?…あ。神の鉄槌とか言ったからいけないの?
そこから妄想飛ばして鷹司本人が神様になった感じ?
おとなしい良い子になったのは褒めよう。
まさかこうも変身できるとは思っていなかった。あの性格のままこの年齢まで育っちゃったら、頭も堅物で扱いづらい奴だろうなって勝手に思ってたから。
でも…鷹司(兄様)限定でより面倒になった。これなら追われてる段階の方がまだマシだったかも。
「いい加減帰んねぇ?家の人も心配すっぞ?んだばのぐても、今日はずっど一人だばねぇか」
「んだ?」
「取り巻き。どうした?2人ほど連れてたべ?」
「あぁ、あの2人?…なんでか分からないんだけど、謝肉祭直前で急に旅に出るって言ってどっか行っちゃって」
「はぁ?何それ?」
「別に良いんだけどね。3年ほど前から屋敷に来た友達設定の使用人だったし」
「…」
「はっ!今は理解してますよ。友達は設定されるべきものじゃないって事…だよね?」
「…あぁ、それで城門較べ辞退すんのか」
鷹司の無言の時間を怒りの前触れと勘違いしたステンカが慌てて取り繕うが、そんなの鷹司は聞いていなかった。
3年前からの使用人で友達設定。
期間的に見て、スターニャの兄の事件の時には既に友達だったわけだが…。それが何故突然居なくなった?
なーんか…怪しいけれど、自分達には関係ない…かな。
「それにしても、何でこしたら素直の子に友達が出来ながったんだべ?」
「ん?…話の流れが良く分からないんだけども?」
「もっと小さい頃は売店のおばちゃんとがど仲良ぐしてたんでねぇの?」
「なんで?」
「なんでって…なん…え?…」
「買い物する時に話なんてしたこと無かったし」
「…え、さすがに挨拶くらい…しねぇの?」
「買い物時は殆ど命令で使用人に行かせてたし、屋敷の外に出始めたのが20歳越えてから此処数年だからなぁ」
「なんと!?へば、今までは何してたん?」
「屋敷で…ゴロゴロ…あ、いえ。勉強とか、しないといけないことも多かったし、母様が外は危険だから行かなくて良いって」
「…はぁ…」
「…ご、ごめんなさい?」
「今は挨拶も出来るし、謝罪も出来らるな。…偉いぞ」
「はい」
大人のくせに!鷹司に褒められるのが何故か嬉しいらしい。嬉しそうに弧を描く口元を見て、千切れんばかりに振られている犬の尻尾が幻覚で見えるようだ。
「今思い返すと、あの二人は俺が外に出るようになったきっかけでもあるんだな。…どこ行っちゃったんだろう?行き先くらい教えてくれても良かったのに」
「きっかけ?」
「うん。父様が一人は危険だから、護衛もかねて友達を引き連れていけって言ってさ」
「へぇ…そいつらの名前、聞いても?」
「名前?2人の?えっと…えぇっと…。…あれ?」
「どうした?何年間も友達やってたんだろ?」
「そうなんだけど…」
特に知りたいわけじゃなく、話の流れで聞いてみた名前だったのだが…忘れちゃったのだろうか?あんまり名前呼んでやらなかったのかもしれない。
そういえば鷹司も、あだ名で呼び続けた友達の本名を突然聞かれて、思い出せなかった経験がある。…そんな感じだろうか?腕を組んで考えこむステンカから視線を外して通りを見れば、一層暗くなった道にぶら下げられた提灯のようなものに火が入れられていく。最初は風が強いので火事にならないか心配したが、どうやら魔法で固定されているらしい。強い風が吹いても、中の炎は揺れることすら無く、暖かい光を放っていた。
はぁ。そろそろ、マジで帰らないと。
どうしよう。合羽を引っぺがして全力疾走でもする?…いや、これは最終手段だ。違和感は無いが病み上がり、無理はしたくない。どうしたものか…と悩んでいると、ちらほら憲兵のような人が見えることに気づいた。警備ご苦労様と心の中で労うが、遠くでかすかに聞こえた会話に思わず固まる。
「申し訳ない、サーロヴィッチ家のご子息、ステンカ様を見かけなかったか?」
「え?あの悪餓鬼かい?」
「しぃ!あの方は…ああでも、権力者の息子だ。何処に耳があるか分からないぞ」
「そうだったな。ま、聞かれたところでどうもしないが」
探されてるじゃん!
今思えば、護衛も兼ねてた付き人だった友達2人が暇をもらってどっか行ったっていうのに、それでも一人で外をふらつくとか…アホが!そっと隣のステンカに視線を向ける。彼も声が聞こえていたのか、声のしたほうをがん見していた。
「悪…餓鬼…」
「堪えろよ?」
「分かってる。…俺がしてきたことを思えば…でも悪餓鬼…餓鬼か…」
「これから変わるさ」
「…本当に?」
「あぁ。お前が変わろうと、努力すれば」
なにやら思うところがあるのか、小さいため息を吐いてステンカは視線を落とした。そんな彼を苦笑いで見ていた鷹司たちのテーブルにも憲兵が近づいてくる。
「すまない、ちょっと聞きたいのだが」
「ん?」
「サーロヴィッチ家のご子息、ステンカ様を見かけなかったか?」
「…。…探して回るなんて珍しい。何かあったん?」
下を見ているステンカをチラリと見てから質問を投げて返した。ここに居るって言っても良いのか迷ったし…ってそうだ。鷹司が名を名乗るなって言ったんだった。こいつなりに言いつけを守っているのかもしれない。名乗り出るつもりが無いのならば鷹司がこの場を凌いでやるしかない。
「それが…われわれにも良く分からないのだが、奥方様が探しているのだ」
「へぇ~」
「いつもは大体騒ぎの中心に居られると言うのに、今日に限って一体何処に…」
「誰も一緒に行かながったん?」
「どうやら一人だったようなのだ。無事で居てくれると良いのだが…。もし見かけたら、近くの憲兵に声を掛けて送ってもらうように伝言を伝えてくれ」
「了解」
「では、邪魔したな」
…って凌いでどうする!付き出せばよかったのに。あぁ、失敗した。
憲兵は別の場所にも探しに行くらしく、去っていく姿を見送ってから、身体ごとステンカに向き直った。
「心配してるぞ。お前の母親が」
「…そうですね」
「帰んなよ。家に」
「そう…ですね」
「なぁ、何が嫌なん?」
「…。また、明日も会える?」
「ん?」
「ほら!やっぱり天界に帰るんでしょ?そしたらもう会えないんでしょ!?」
「…は?」
天界とか笑える。いや、帰りたくなかった理由がそれ?別れたら最後みたいな?…そこまで気に入られていたのか?ちょっと以外というか吃驚というか…なんというか。
だが、鷹司にも自分の都合というものがある。何時までも付き合っては居られない。
例え可愛い女の子に「帰らないで」と頼まれたとしても、自分を見失う事のない我が道を行く鷹司は首を縦には振らないだろう。
「まったく。良い大人が何言ってんだよ」
「だって…俺一人じゃ…」
何を言っているんだグチグチと。男だろ?シャキッとしろ!という意味をこめて背中をバシンと叩いたら、痛いと言いながらも嬉しそうに笑った。
…嬉しいの?痛いのが嬉しいの?変な世界に目覚めさせちゃった?…まぁ良いか。
「…見つかった?」
「こっちに大きな騒ぎは無かったよ」
「やっぱり見つからなかった?私の方もなのよ」
「今日に限っておとなしくされてるなんてな」
「何かあったのかしら?」
再び誰かを探している声が聞こえてきた。誰かって言うか、多分コイツだけど。おいステンカ、お前いい加減帰れよ。探してるのに見つけられないと可哀想じゃん?探してる奴にコイツ突き出してやろうか?と思って声が聞こえてきた方を見た。
何だか見た事…は無いんだけど、知ってるような男女…な気がする。
「探し始めてどれくらいだ?」
「そうね…昼過ぎからだから…3時間くらい経ってるんじゃないかしら」
「もうそんなに?…何だかここ最近は人探ししてばっかりだな」
「そうね。…ちょっと休む?」
「そうするか。気分転換も兼ねて…何か飲もう。喉がカラカラだ」
歩いてきた二人はこの店で飲み物を買うために店の中に入っていった。
この乾燥した空気の中ずっと人探しで声張り上げてたのだろうか?お勤めご苦労様。
「…ステンカ、それ脱げ」
「それ?…え、このコート?くれるんじゃないの」
「すんなり脱げたら、持って帰って良い」
どうやって脱がそう?って考えたけど、今更正規な手段を使う必要も無い。脱ぐ時に電気が発生したらコートが怒っている証拠、それを着続けたらいつかコートに取り殺される…とか適当にでっち上げた。春色の布をとってから合羽を脱ぐと、想像通りバチバチと静電気が発生。幸いにも周囲が賑やかだったため特に見咎められる事は無かったようだ。
「い、痛い痛い!何だこのコート、本当に生きてるのか?」
「だから言ったろ?」
慌てて立ち上がったステンカは、服の汚れを払うようにパタパタと身体を叩いた。静電気の痛みに驚いたようだ。それを見て鷹司も立ち上がれば、合羽を適当に丸めて小さくしてから入っていた袋に押し込むと、貸していた春色の布を腕にかけて持ち、ステンカに近づいていって手を伸ばす。
「…な、何か?」
鷹司の動きに気づいてピタリと動きを止めた彼の、首に掛かっている犬耳カチューシャをとり、頭につけ直してやってから、肩をぽんと叩いてそのまま右手を置いた。
「兄…オオジ様?どうしたの?」
「契約は果たされ、呪は解けた。…がんばれよ。これから先」
「え?」
何となく不安そうな声を出したステンカに仮面の奥で笑ってやった後、左手を顔に伸ばして最初に渡してつけさせた上半分のお面をサッと外した。驚いているが無抵抗のステンカの肩に力を入れて、クルっと反転させたところで先程店に入った男女が出てくる。
「もう少し見て回っていなかったら、その報告だけでもしにいったん戻…あ!」
「いきなり何…あ、ステンカ様!?」
「どちらにいらしたんですか。探してたんですよ?」
「え、え?…お前達は…」
「私、シル様の付き人として来ました、ラプシンと申します。昨日一度、お会いしましたね。そのときは名を名乗れず申し訳ありませんでした。そしてこっちは…」
「エフレムです。やっと見つけた怪我は…無さそうですね」
「あ、あぁ。探してたって…何かあったの?」
「詳しくは屋敷で。さぁ、戻りましょう。イーヴァ様がお待ちですよ」
「待ってくれ、帰るなら彼も…」
そういって振り返ったステンカ。しかしそこには誰も居ない。
「…あれ?」
慌ててあたりを見渡すが、夜の闇が降りてきた道と行き交う人々の中に彼を見つけることは出来なかった。探す当ても無いままに走り出そうと1歩を踏み出すが、フッと先ほどまで座っていた席のテーブルの上に仮面が置いてあるのに気づく。鷹司が与えた上半分の仮面だ。
「誰かと一緒だったんですか?」
問いには答えないままでそっと仮面を手に取った。
契約は果たされた。彼はそう言ってくれたけど本当に満足してくれたのか?側に居てほしかったが、確かにそこまでお願いしては傲慢というものだ。
…今なら分かる。むしろ、何故今までこんな常識が分からなかったのか。
「いいや、なんでもない。では、帰ろうか」
「はい。お供します」
「お願いするよ…ありがとう」
「ありっ!?…いや、いいえ。これが我らの務めですから」
鷹司がくれた感謝の言葉、それが自然と口からこぼれればとても驚かれたが気づかない振りをした。
そう。今までとは違うんだ。これから変わる。これから変える。
そんなことを考えているだろうステンカを、物陰に隠れて仮面を外し春色の布を頭に被った鷹司がこっそり見ていた。
「…頑張れよ。よし。やっど帰れる」
「もう!何してたのさタカやん。ステンカに捕まったって聞いてホントに焦ったんだよ?」
「不可抗力。だば、すまん」
こっそりとついていてくれた舞鶴。彼に合流すれば心配の言葉をかける彼に謝罪を述べ、それを肩をすくめて息を吐きだして受け入れる。そしてそのまま鷹司の視線の先を追うように歩いて行くステンカへ視線を移した。
ステンカとあって早い段階で足を運んだ期間限定の売店、その店員が天笠と月野だった。それを知っていた鷹司が、状況を説明するために立ち寄り、ステンカと行動を共にしている事を知らせていたのだ。何もしないで心配させるよりはと思った行動だったが、その結果舞鶴が一人で鷹司を尾行するような事になってしまった。
「さぁ、戻ろう?タク(雨龍)ママとセン(船長)パパが夕飯の準備してるよ」
「パパ…。…他の奴は?もう帰宅してんの?」
「それがね…ネコちゃんが、目をつけられちゃったんだ」
「は?誰に」
「シルっていう…ほら、タカやんが助けたおじさんだよ」
「何でまた…猫柳を?」
「多分…探してるんじゃないの?タカやんをさ。それでサーロヴィッチ家に呼びだされたんだ。タクミンが「一人にさせると危険だから」って一緒に行こうとしたんだけど、駄目だって追い返されちゃってご機嫌斜めなんだよ」
「…。平気か?俺が名乗り出るべき?」
「うーん…大丈夫じゃないかな?親衛隊みたいなポジションに入れられるみたいだけど、基本の仕事は変わらないって。詳しくは知らないけど。ただ、今夜は顔合わせみたいな感じでサーロヴィッチ家の屋敷に泊まるみたい。それを聞いたアンナちゃんも無理やり屋敷に泊まり込むって言ってまた出かけて行った。まぁ、何かあったら次帰ってきた時に言ってくるでしょ」
「そうか」
「それよりも、知らせたい事があるんだ」
「何?」
「…事件だよ」
話をしながら歩きだすが、フッとあたりを見渡して周囲を確認してからガバッと鷹司の肩に腕をまわして、耳元に顔を近づけて周りに聞こえないように声を落とした舞鶴。その行動の意図を察して、聞き漏らさないように少し歩くペースを落とせば、後に続く言葉に耳を傾ける。
「今日、王様の馬車が襲われたらしいんだ。ブラート近辺の街道で」
「何?」
「警備中にボロボロの馬車が走ってきた時は驚いたよ。捜査員の鑑識ポジションの人の話だと、炎の力が使われた可能性があるって言ってた」
「炎が?」
「そう。白昼堂々と犯行に及んだわけだ。まぁ、町の外に人は滅多に出ないらしいからね、目撃者の発見は難しいだろうって。…詳しくは帰ってから。此処じゃこれ以上話せない」
「…分がった」
だから安全を考えて憲兵がステンカを探していたのかもしれない。何がが裏で起きているようだ。
頷きあってから体勢を戻せば、少しペースを上げて帰路を急いだ。




