00-05 弓道部部長・水泳部部長・和道部部長・陸上部副部長
話しながら1m四方の大きな箱を持ってきて、テーブルの上におく。それを覗いた者は感嘆の息を漏らして女性陣が声を出す。
「すごい!」
「コレって、本物ですか?」
「うわぁ、アリスの世界みたいです」
「かいらしい。先輩が作ったん…ですか?」
箱の中には植物で作られた迷路があった。小い垣根のような植物の高さは5センチ程度、結構複雑な道筋になっている。しかし、女性陣が指したのはこの迷路だけではない。
ところどころに置かれた小さいオブジェ。犬、猫、兎、鶏といった沢山のリアルな動物や、手入れをしている庭師のフィギュアやティーカップがのったテーブルなど、1つの物語作品としての完成度がかなり高かった。
「そう、俺が作ったんだ。一応園芸部部長やってるわけだし、活動記録に残るようなもの作っとこうと思ったのが始まりなんだけどね。オブジェはナガレと、雨龍さんも提供してくれたよ。…この木は竹の成長速度に近づくよう改良していあるせいですぐ伸びるから、最初は単純な経路だったのに手を入れるたびに道が細く複雑に変わっちゃってね…」
そこで一息ついて席に腰を下ろして
「…俺は樹木の生長速度を上げる研究もしてるんだ。人々は木を切って生活しているからね。計算して、計画を立てて伐採していてもいつか行きゆかなくなる時が来るかもしれない。その時に自然界のバランスを崩すことなく、人体はもとより他生命体に影響を与えることなく、上質で強い樹木を生み出す事が出来れば…。…って偉そうな事言ったけど、植物からすれば迷惑な話かもね。それに、本腰入れてるわけじゃなくて、まぁ…100%俺の趣味なので、これからどうする…って特に決まってるわけじゃないんだけど」
「何か、アコン先輩凄すぎてよく分かんない」
「工業の活動もしてらし。回路図や設計図描ぐのはアコンの仕事。俺はそれば元サ組み立てら方が得意」
「うん!よく分かんない」
話を聞きながらもミニチュア迷路に目を輝かせる女性陣と、話の内容を理解できてない人も居る男性陣。猫柳がいち早く考える事を放棄すれば、後に続いた鷹司の補足もサラッと受け流す。
そこで、話を切り替えるべく八月一日が軽く手を2度打ち鳴らし。
「さて、お茶しながら部室に来た用事を聞いておこうか。舞鶴さんと三木谷さんは音楽部のことで、ナガレは…新作の設計図の事だっけ?じゃあ、後に回しても問題ないね。他に急ぎの用事の人は優先させるけけど…それとも遊びに来てくれただけかな?」
ココで一度言葉を切る。皆を見渡してみればどうやら殆ど用事を持ち込んでいる様子。急用を持ってきた人が居ない事を確認してからさっきも使っていたノートに視線を一度落として、時計回りに聞く事にしたらしく、視線を向けて猫柳に問いかける。
「猫柳さんはどういった用件で?」
「あ、僕は弓道部部長として助っ人依頼に来ました」
「助っ人…それは選手としてじゃなくて、マネジメントって事で良いのかな?」
「はい!以前見てもらった弓を引くフォームや練習メニューが好評で。新人も育ってきたし、もう一度見直しをお願いしたくて」
「分かった。では、希望する練習の日程を教えてね。それと、何度も言うけど俺は専門家じゃない。的までの距離や、その人の筋肉量、個人差にあわせてアドバイスをしているだけだから、弓道のルールや伝統等に違反するようなら採用しないでくださいね」
「了解でっす!」
満足げな返事に八月一日も頷いて、隣にいる天笠へ視線を移す。
「天笠さんは?」
「私も水泳部部長として助っ人依頼なんですけど、部というより学校行事のお手伝いですね。夏休み期間に週1で、初等部と中等部が学校のプールに来る日、生徒の監督を水泳部が手伝うんです。でもうちの男子水泳部は強豪チームだから、強化合宿と遠征で予定会わなくて、男手が足りなくて」
「それは監視員として居れば良いのかな?」
「はい!先生も居るので、当日は先生の指示に従っていただければ」
「了解。…で、週一って曜日は決まってるの?」
「毎週、初等部は火曜、中等部は水曜です」
「火曜と…あぁ、8月の1週目はどっちも予定があるからダメだ。大丈夫?」
「うーん、ではその時は九鬼君をお借りしますね」
「え!?俺?…なんで!?」
突然話を振られた九鬼が、驚いて食べかけのクッキーを落としそうになった。しかしそれでも理由をとっさに尋ね
「え、暇そうだから」
「じゃあどうして最初からケイシを指名しないんですか?」
「それはね草加君、八月一日先輩の方が信頼できるからよ、色々と。何かあった時も頼りになるし、車運転できるし」
「なるほど納得!」
「えぇ…」
「あ、先輩、プール監督の間に水泳部の練習についても意見ください!さぁ!次はサヨだよ」
迷いの無い返答に草加と守屋も同意を示す。そんな光景に微妙な感じになった九鬼が情けない声をだしたが、彼の反論が来る前に天笠が話を月野に振って。
「う、うちは、和道部部長として来たんよ。部内で華道の活動に使う、お花を、頂きたいん…ですけど」
「分かりました。園芸部で育てている植物を提供しましょう。数はそれほど多くは無いけど、種類は豊富ですよ」
「おおきに!…あ、夏に1つ大会が、あります」
「では、新鮮で元気な花を使えるように、出来るだけベストな状態で切るように予定をあわせましょう。テーマや、指定されている植物があるなら、教えてください。あと、希望する花があって園芸部にそれがあるなら、それも。…優勝できるといいですね、サヨさん」
「はい!」
嬉しそうに頷いて笑う月野。忘れないようにメモを取ってから、隣の三木谷、そしてその隣の獅戸へ視線を移す。
「獅戸さんは?」
「私はミッキーの付き添いだったけど、先輩方の話聞いてると、陸上部も副部長として見てもらいたくなったかも。…一番最後に回しても良いので来てもらえますか?」
「陸上か。俺は走るの苦手だから、楽しそうに走る姿を見るのって羨ましくて、好きなんだよね。…わかった、最悪9月に入っちゃうかもしれないけど、予定しておくね」
「ありがとうございます!」
思わぬ収穫にラッキーと呟きながら獅戸は三木谷と笑顔で顔を見合わせた。するとそのやり取りに草加が立ち上がり
「ならば僕も飛び入りで!剣道部部長として、一度きてもらいたいです」
「あれ?リッヒー部長だったの?」
「はい舞鶴先輩。実力で勝ち取りました」
眼鏡を押し上げればきらりと輝き、腰に手を当てて気障なポーズを取ってみせる。はたから見ればふざけた子なのに、実際剣道の腕はぴか一らしく、彼の言うとおり実力で選ばれた部長のようだった。