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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
02 はじまりの旅・Ⅱ番目の世界
37/146

02-06 スターニャ

「という事がありました」


一度部室に戻ってきた4人は、皆に報告をしていた。貼ってあってポスターは勝手に拝借して持ってきている。イベントの物だけではなく、新聞のようなものや、個人的な勧誘チラシのようなもの等色々種類があったので持ってきても平気そうなチラシは手当たり次第に持ち帰っていた。読めないけどね!


あの後、眼鏡の少女は積極的に工房…らしい実宅に招こうとするので、少し考えて後日返事をする、とだけ言ってその場を離れた。…逃げたとも言う。


「それにしてもその子超積極的!助けてくれたタカやんに惚れちゃったんじゃないの?」

「助けたんは俺だばね。ついでに身体張ったのは雨龍だ」

「でもでも、脈ありっぽくない?…あぁ~あ、俺も会ってみたいな~」

「会ってどうするんですか?舞鶴先輩。その子とお付き合いしたいんですか?だったら此処でサヨナラですよ?」

「船は下りないよ!?帰りたいもん。…でも、ちょっとくらい遊んでも…」

「…歯ぁ食いしばれ!女の敵が!」

「冗談だって!ミッキーそれ凶器だから!シャベル下ろして!怖いよ!」

「全くもう。ミッキーも落ち着いて?…舞鶴先輩もあんまり冗談が過ぎると外室禁止にしちゃいますよ?」

「それは困る!」


4人が帰ってくるまで増設した部屋の確認と、庭の庭園と野菜がどれほど使えるかの確認をしていたらしく、部室内にはシャベルや如雨露などの菜園道具が揃っていた。その中の一つをサッと手に取った三木谷が軽口ばかり叩く舞鶴に振り上げかければ、慌てて取り繕う舞鶴。そしてそれを見ていた天笠が呆れ混じりに呟いた。

そんな時、黙って持ち帰ったチラシを見ていたセンが顔を上げる。


「…王の来訪は急遽決定したようだ。これは…今回のコンテストは荒れるかもしれんぞ」

「船長、どういうこと?…っていうか、読めるの!?」

「今更何を言っているんだ九鬼ケイシ。誰が通訳機能を授けてやったと思っている?」

「…あぁ、確かに」

「話を戻すが、王族のような高貴な身分の者が顔を出すとなると、受け入れる側にも準備が必要だ。それなのに今回はイベント直前になって決定されている。…と、この新聞に書いてある」

「わがまま坊ちゃんの身勝手な行動なんじゃないの?」


センの言葉に守屋が質問を投げかけると、センは再び視線を手元の新聞に落とした。


「“王が頂点に立って32年、常に民を思い行動されてきた。地方の催し物に足を運ばれる事も多かったが、このような突然の来訪決定は前代未聞である”と書かれている」

「何かあったのかな?この…謝肉祭だっけ?…に参加しなくちゃいけない問題があるとか」

「かもしれん。が、守屋キョウタロウが先ほど言ったとおり、我侭という可能性も無くはない。文面から見るに、統治するようになって32年。王として立ったのが10代だとしても今は40歳を越えている事になる。この世界の平均寿命は幾つか分からないが、残り少ない余生なのかも」

「それが何でイベントが荒れるってなるの?」


全く読めない文面を指差しながら朗読したセン。その新聞を見ていた獅戸が首を傾げれば、センは腕を組んで椅子の背もたれに寄りかかった。


「良いか?これはあくまで推測だ。まず、この謝肉祭自体はさほど珍しいものでもないと思われる。ならば、この中で目玉とも言えるイベント『城門較べ』に目が行くだろう。何らかの問題があり、王都の門、もしくは本当に城の城門を新しくしたいと考えているか、技術者のヘッドハンティングか。そうでなくても王が見に来るということは技術者にとって出世のチャンスだ。上手く取り入れば一攫千金もありえる」

「なんか、裏で妨害工作なんかも激しそうやね…」

「…っていうか、謝肉祭は珍しくないの?この場所限定のお祭りかもしれないじゃない」

「獅戸アンナ、お前謝肉祭が何か分かってなかったのか?」

「え?」

「この催し物、お前達の世界にもあるじゃないか」

「えぇ!?」


センの言葉に吃驚した顔をしたのが数名。…いや過半数。雨龍と鷹司、それに月野は知っていたようで落ち着いていた。


「嘘、知らないわよ?私」

「まぁ、獅戸の言う事もわからなくはない。日本にはもともと無いものだからな」

「…うちも正確には知らへんけど、でも聞いたことくらいあるんちゃう?」

「英名ばりが有名サなってんだべ」

「英名?それって?」


全く知らなかったという顔をして話を聞いていたが、センが新聞からページを1枚引き抜いてパシッと音を立ててテーブルに置いた。そして皆に見えるようにスッとテーブル中央部に動かしてニヤッと笑う。


「…カーニバルだ」


その単語には聞き覚えがあった。皆がいっせいにガバッと身を乗り出して紙を覗く。そこにはさまざまな格好をして踊っている人の絵が描いてあった。その周りの字を指でなぞりながら、センが口を開く。


「“この1週間は無礼講。冬の残り物を鍋に入れ、皆で囲んで食べてしまおう。厚い毛皮は脱ぎ捨てて、派手な衣装に身を包み、春の到来を喜ぼう。金の角は魔を退かせ、銀の翼は幸運を呼ぶ。銅の蹄で地を駆ければ、運命の相手にも出会えるはず”と書いてある」

「春だ…」

「カーニバル…それなら僕も知ってるよ。リオのカーニバルとか有名だもんね」

「マスクで有名な仮面舞踏会だってカーニバルですよね?…なんだ、こういう意味があったのか。ただ単純にお祭り騒ぎってイメージが…」

「日本では楽しいイベント事にそういった名前がつけられる事が多いかな。だが本来カーニバルとは宗教的な祭りなんだ。肉を断って精進するので、その前に肉を食べて楽しもうというもの。謝肉祭とは、()()絶する()りって意味だよ。…確か」

「へぇ~さすが雨龍さん。お肉に感謝しようって意味じゃなかったのね。…って、そこは格好良く断言してくださいよ!」

「ス、スマン。ちょっと記憶が曖昧に…」


猫柳がハッとして声を零せば、草加も手をポンと叩いて納得した様子を見せた。

雨龍の説明に頷きながら、突っ込みを入れている天笠。そんなワイワイと騒ぐ様子を見ていたセンが立ち上がって壁際に手を翳し、コルクボードと黒板を出現させる。

その後で手を2回叩いて皆の注目を集めると、コルクボードには外を歩いてきた4人の記憶を見たんだろう、まるで航空写真のような地図を出して貼り付け、重要な店は外観の写真のような絵も付け足していく。

その後でチョークを握って黒板に向かった。


「イベントで仮装推奨されるならこの期間は服装にこだわる必要は無いが、この間にある程度バリエーション広く服を入手して欲しい。次の世界でも使えそうなものをな。我の力が及ぶ空間内であれば着替えなどいくらでも出してやれるがそのまま外出が出来ないのは問題だ。それと食糧問題も畑の野菜類も細く食べ繋いでも1ヶ月程度で食べつくす。世界を跳ぶために金は貴重なエネルギーだが、お前達の生活を整えるにもある程度必要だ。まずは金を稼ぎこの場所での生活に適応する事が最重要と考える」

「…船のエネルギーよりも先に生活環境ば整えろって事か。まぁ住居と水の心配が無いのは助かるが」


言いながら黒板に必要なものを書いて順位をつけていく。生活環境をおろそかにしていては旅は長く続けられない。移動に時間が掛かっても、環境を整えるのが先だと言いたいらしい。

今更だが母国語ではないだろう日本語を流暢に話し、漢字も完璧に扱うセンに頼もしさを感じる。そんな彼はある程度箇条書きにした必要事項の中で『金:エネルギー』のワードを強調するようにグルッと円で囲んだ。


「我は今後、この船のエネルギーを溜めることに専念する。この世界はある程度魔力があるが、我1人の力で移動エネルギーを溜めるのならば満タンになるまで30年程の時を必要とするだろう。…さぁ、どの程度長期滞在になるかはお前達の頑張り次第だ」



**********



「というわけで、手伝いに来たわ」


翌日、獅戸と鷹司2人で眼鏡の少女の工房(自宅)にやってきていた。

あの話し合いの後で皆はどんな仕事を選ぶべきか考えていた。

ガーディアンは確かに魅力的だが、護送という職業のため長く町を離れる事になるのでは?とセンに言われ、ある程度この環境に慣れるまではやめておく事にした。その後で仕事を斡旋してくれる施設に数回に分けて出向いたところ(カーテンで作ったローブの数が4つしかないため)謝肉祭間近と言う事もあり期間限定と言う指定もあったが求人が多く、すんなり仕事に就くことが出来た。

雨龍と舞鶴と猫柳がイベント会場の警備員兼案内スタッフに。天笠と月野がお土産屋さんの売り子に。三木谷と草加が食事処の店員に。守屋と九鬼が宿屋の手伝いスタッフに決まった。

獅戸は言い争った貴族の手が回っていたようで、黒髪ツインテールの少女の仕事斡旋は貴族の屋敷のメイドオンリーと言い渡されて、髪をほどいて再挑戦しても他の仕事が選べなかった。そのため、駄目元で城門較べに出てみろと皆に言われ乗り気ではなかったが眼鏡の少女のところに行こうかと思っていた鷹司に同行したのだ。


ドアをノックして暫く後、内開きの押し戸を僅かに開けて眼鏡の少女が顔を覗かせた所で、獅戸が偉そうに手を腰に当てて言い放てば、少女は扉をガバッと開けて手を胸の前で組んで目を輝かせた。


「きゃー!」

「「!!??」」

「いらっしゃい!来て下さったんですね、嬉しいです!」


叫ばれたぞ?歓迎されてるんだかされてないんだか分からない反応だった。

とりあえず招かれるままに室内に入ると機械オイルの香りが鼻をついた。そんなに科学が発展していないと思っていたが、そうでもないのか?と眉を寄せた鷹司が室内を見渡すが、やはり電気など通って居らず、灯りは蝋燭が主らしい。機械なんてものも無い…のかな?言っても分からないんじゃなかろうか?まずかこの世界の建築のレベルがどんなものか知る必要がありそうだ。そんなことを考えている鷹司の後ろで、ドアを閉めた少女が棒をドアの前に斜めに置いた。


「…なんだそれは?」

「え?どれの事ですか?」

「その棒だ」

「これは鍵ですよ?」

「鍵?…つっかえ棒が?」

「あなたの所ではつっかえ棒…って言うんですか?初めて聞きました!…あれ?でも鍵を知らなかったって事は…あなたのお家に鍵は無いのですか?」

「…」


驚いて言葉を失った。何年も歴史のある城門較べなんてやってるからもっと発展していると思ったのに。額に手を当てて視線を落としてつっかえ棒をチラリと観察する。ドアの近くのくぼみに棒を上手くはめ込む事で、内開きの扉は開かなくなるんだろう。…っていうか、この鍵外からじゃかけられないじゃないか。良いのか?そこらへん。


「と、とりあえずその話は置いておいて。自己紹介がまだだったわね。私はし…じゃなくて、アンナって言うの。あなたは?」

「はっ!私とした事が、自己紹介を失念していました。私はスターニャと申します。よろしくお願いしますね」

「スターニャ…それでフルネームよね?」

「?はい…?カリャッカの娘のスターニャですけど…何か問題が?」

「ううん、なんでもないの」


何だかどっと疲れた様子の鷹司を見かねた獅戸が名を名乗れば、眼鏡の少女は笑顔でスターニャと名を名乗った。


最初の自己紹介で苗字は言うなと言われたセンのアドバイスで、獅戸は下の名を告げた。世界によっては苗字があるのは上流貴族だけとか面倒な事もあるらしい。いちいち為になるアドバイスをくれる頼れる船長だ。

確認するために念をおしたら、首を傾げられた。言い訳が苦手であまり突っ込むのは危険な気がして笑ってごまかしながら、カリャッカはお父さんかな?お母さんかな?なんて考えていた。


そんなスターニャは獅戸と握手をかわした後で鷹司にキラキラした目を向ける。


「それで…あなたの名前はなんと言うんですか?」

「…ナガレだ」

「ナガレ…さんですね。アンナさんと、ナガレさん。改めまして、私のチームにきてくださってありがとうございます!これから一緒に頑張りましょうね」


本当に嬉しそうな笑顔を見せる彼女に、2人は何とも言えない顔で笑い返した。

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