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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
02 はじまりの旅・Ⅱ番目の世界
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02-05 城門較べ

突然に声をかけられた時は驚いたが 、結果的に良い情報を得られたので結果オーライだろう。

先ほどの鷹司のやり取りを見て、しらばっくれながら情報を引き出す手段を学んだ3人は適当に怪しまれない程度の会話術を即座に覚えていた。大通りを行ったり来たりしながら、気になる店を見つけると物怖じせずに突入したり、怪しい場所にもさりげなく調査の手を伸ばしてみたりと積極的に動いた。


「比較的治安が良くてよかった。さて、大通りを一通り歩いて大体の店の位置は把握したな」

「そうですね雨龍さん。私達も雑貨屋さんとか八百屋さんとか、生活に必要な店の場所は把握しましたよ。そうだミッキー、メモ帳とか持ってない?」

「ないけど…どうしたの?アンナ」

「覚えて居られるか心配だわ。うーん…」

「とりあえず大まかな位置と外観だけ覚えておけば何とかなるわよ。…それと話を聞いた感じだと、町の中心に行くほど高価で良いものが置いてあるようですね。貴族御用達って感じなのかしら?」

「がも知れねの。せば、町の外れの方も見でみっか?」


中心部といっても自分達の部室がつながった建物付近、半径500mくらいしか見てないので、この町の本当の中心では無いかもしれないけれど。いきなり遠くに行くのは迷子になりそうで不安なのだが、外の様子も把握しておこうと考えた4人は中心部に背を向けて歩き出した。



**********



「うっわぁ~!大きい!」


国の境界線に近づくにつれてはっきりしてきた巨大な壁はこの国をグルッと囲んでいるのだろう。近づけば近づくほど、その大きさに驚きが隠せない。


「こんな高い壁…巨大な敵でも出るのか?」

「戦争してる様子だば無がったが…」

「…まさか…巨人とか…」

「アンナ、漫画見すぎよ」


高層ビル並みの高さの壁の下から上を見上げた。周りには人影が無く、建物もまばら。初めて見た景色が此処だったら、ど田舎といわれても頷いたような寂れ具合。一つの町の中なのに、この差が凄い。

そんな静かな町外れで4人は壁を見上げていた。ゲームの世界でも町の周りに塀があったりするものだが、此処まで大きかっただろうか?誰かに尋ねたいが、世界を騒がせる強敵でもいるなら、それこそ知らないほうがおかしい。故に安易に声をかけられない。


「とりあえず…どうします?」

「三木谷、何か聞こえるか?壁の向こうとか、壁の中に通路があるとか」

「ちょっと待ってくださいね」


今出来る事として雨龍が三木谷に尋ねれば、一度頷いてから壁に近づいて耳を当てた。そのまま目を閉じてジッと沈黙。時折石壁を叩いてみたりして音を出す様子を、周りの3人はだまって見守った。


「…中には何もないようです。空洞がある音もしませんね。ただ…」

「ただ?」

「防壁としてはいささか薄い気がします。雨龍さんが殴っただけで、穴が開くかもしれません」

「って事は、防御壁だばねぇ可能性もあんのか」

「はい。単純に境界線に線を引いているだけかもしれませんが、魔力…というものがどういうものか分かりませんが…によって、強化されている可能性も捨て切れませんね」

「ふむ…どうやってこれの話を聞く?…この町の壁高いね、って言って普通に返してくれるだろうか?」


どうだろう。

皆して首を捻った時だった。


「ちょっと、やめてください!」

「なんだよ、逆らう気か?」

「返して!大切なものなのよ!」


「?」


突然聞こえた男女の声。どうやら言い争いをしている様子、条件反射でそちらへ向かおうとするのを、鷹司が手を出して無言で止めた。


「なんだ、どうするんだ?」

「鷹司先輩、止めに行かなくて良いんですか?」

「ヘタに首突っ込むの危険だ。…三木谷にどんな状況か探ってもらってからの方が良い」


言い終わらないうちに三木谷は目を閉じて耳を澄ませた。

喧嘩と言ってもどちらが悪いのかも分からないし、身分とかがあると面倒だ。この世界はまだ来たばかりで良く分からない新参者ゆえに慎重になる。見方を変えれば怖気づいてるようにも見えるのだが、弱虫!なんて言われたら開き直って「自分が一番かわいいのだ」と言ってやるつもりで鷹司はどうしたものかと腕を組んだ。

…そんなところに…


「ちょっとあんた!何やってんのよ!?」

「あれ?アンナ!?」


知人の声が喧嘩に混じった。直感タイプが既に動いていた。

ハッとして一瞬かたまるが、慌てて声のした方、近くの建物の陰に走る。


「何だお前は。見ない顔だな」

「そんなことはどうでも良いの。その人嫌がってるじゃない、何を取ったのか知らないけど、返してあげなさいよ」


そこには1人の少女を囲むように3人の男が立っていた。壁を背にして立ちすくむ少女は、怖いのか手足が震えているがキッと目の前の男達を睨んでいる。それを半円状態で囲む男、そしてその輪の外からアンナが声を掛けていた。

その一瞬の隙を突いて、少女は奪われたらしいスケッチブックを取り返す。…意外としたたかな女性だ。


「生意気な小娘だな、だが…フン、顔は悪くないじゃないか。遊んでやっても良いぞ?名を名乗れ」

「何であんたに言わなきゃなんないの?知りたいならあんたが先に名乗りなさいよ」

「なっ!…お前、俺を誰だと思ってるんだ!?」

「知らないわ。見たことも無い!」

「何!?俺達は貴族だぞ!?」

「だから何よ?」

「明日からこの町で生きて生けると思うなよ!父上に言いつけて…」

「あぁやだやだ。自分で何にも出来ないくせに態度だけはでかいんだから」

「なっ!?」

「だってそうでしょ?「明日」とか言ってないで今何かすれば良いじゃない。あんた一人でいったい何が出来るのかしら?」

「…ムカつく女だ!こうなったら2人まとめて…」


「その辺にしておけ」

「何だと!?…こ、今度は何だよ…」


3人の男が獅戸にターゲットをチェンジしたタイミングで雨龍が止めに入った。怒りの勢いで雨龍にも強気な態度を取るが、パッと顔を向けて目に入ったガタイの良い雨龍に少し怖気づいたようだ。犬だったらキャンキャン吼えながらも尻尾が足の間に入っているイメージ。


「…そろそろやめておかないと、人が集まってくるぞ?」


『何か聞こえる…喧嘩かしら?』

『あっちからだな』

『警察呼んだほうが良いんじゃない?』

『見に行こう』


「…くそっ。覚えてろよ!」


典型的な捨て台詞を吐いて男共は走り去っていった。見えなくなったタイミングで、三木谷と鷹司も顔をだして合流する。


「演技、ヘタだな鷹司」

「何?一応台本どおりだぞ?」

「確かに正確に本を読んだ感じでしたね。それよりも…警察ってこの町にもあるのかしら?」

「呼び名は自警団とかになってそうだが、警備隊くらい居るだろう。ガーディアンなんてものがあるんだから」

「皆、助けてくれてありがとう!」

「もう!アンナ勝手に行動しないでよ!心配したじゃない」

「ご、ごめん」


高司と三木谷が通行人役をやったようだ。まさかあのバレバレな演技で引っかかるとは思っていなかったが、ラッキーだった。強面の雨龍から逃げたかったのかもしれないけれど。


「あ、あの…」


そんな4人を見ながら、絡まれていた少女が声を掛けた。

肩甲骨辺りまでの茶色の髪、丸いめがねにそばかすがチャームポイント。シンプルな茶色いシャツにダークブルーのロングスカート、良く見る町娘っぽい。見た感じおとなしそうな子で、男相手にあんな強気な喧嘩が出来るとは思うまい。


「はっ!そうだったわ。あなた大丈夫?怪我とかは無い?」

「はい、ありません。助けていただいてありがとうございました」

「良いのよ。…それよりも、何があったの?」

「…絵を、描いていたんです」

「絵?」

「はい。これです。…ちょっとだけですよ?」


そういって彼女は持っていたスケッチブックを開いて、中を見せてくれた。

そこに描かれていたのは沢山の扉。風景画とかかと思っていたのに、反応に困る。


「これは…扉ね」

「はい。いろんな場所にある扉をスケッチしています」

「何でこんなものを?」

「あら?…4日目のコンテストをご存じないの?」

「え!?…コンテスト…う、うーんと…」

「知らん。家庭の事情で引き篭もった生活ばしてたんだ。この町も初めて来たはんで、知んね事が多い。だから…」


何だかこのやり取りにデジャブ感がある。と思いながら、どうしようと言葉に詰まった獅戸の後を高司が続ければ少女は視線を鷹司に移す。鷹司もその視線を真っ直ぐ捉えて、同じように返しながら言葉を続けた。


「すかふぇでぐれ」

「…?」

「…コホン。教えてくれ」

「フフッ、はい。分かりました」


一瞬ぽかんとするが、良い直した鷹司の言葉にニコッと笑って彼女は頷いた。


1週間の謝肉祭、その中の催し物の1つが『城門較(じょうもんくら)べ』という通称「4日目のコンテスト」だった。

年に一度の謝肉祭にあわせて、王を守る城の門、町を守る町の門、2つを強化する目的を兼ねたもの。

はるか昔、まだ人間同士が激しく争っていた時代から続く伝統ある催し物らしい。昔は職人が1年かけて作った新しい門を披露して、強度、機能性、デザインなどに王族自ら点数をつけ、1位になった職人の門が城門に、2位の門が町の門に付け替えられる。1年で付け替えるのは、戦争等が頻繁に起こるためにどんなに良い門でも大体1年程度しかもたないからだったらしい。王は新しい城門を手に入れられるし、職人はこぞって腕を磨くしで一石二鳥だったようだ。

それが今では、一般の人間も参加出切る敷居の低いものとなっていた。


今のルールは、お題の門を短時間でどの程度機能を改造するか、というゲーム感覚になっているらしい。部品などは持ち込み可能だが、釘やハンマーなどの小道具は用意されるようだ。

このコンテストで優秀と認められればその機能は実際に使われるので、権力者が技術を買う、技術者を囲うという意味もあるのかもしれない。

ちなみに「お題となる門」はコンテスト当日である謝肉祭4日目に発表されるので、それまではどんなタイプの門が現れても対応できるようにしておくのがコツらしい。

そして何時誰が始めたのか知らないが、チャレンジャー達が記念に防壁の跡地にレンガを1つ置いたのがこの馬鹿でかい壁が生まれた理由で、今でもちょっとづつ成長しているんだとか。それの表面を綺麗にしただけの壁なので、レンガが積み上げられているだけらしい。…一応接着はされているそうだが。

きっと地震の無い平地なんだろうな。…いい加減どうにかしないと倒れたりした時が怖い。


「去年は観音開きの扉で、一昨年は一般家庭の引き戸でした。近年は一般家庭の防犯目的で比較的良く見る扉が多いですよ。普通は何がお題となるか予想するしかありません。…でも、貴族等の上流階級の人たちは裏から情報を得ているんです」

「八百長か」

「はい。1位の景品が豪華ですからね。此処数十年の上位はずっと貴族出身の方々です」

「景品!?それってどんなのか分かる?」

「毎年変わりますが、去年は莫大な奨金と豪邸でしたね」

「うわぁ~凄いわね。今年は?」

「まだ分かりませんが、最近の噂では、今年はこの国の王様が初めて王都からいらっしゃるそうなので…今までで一番期待できると思いますよ」

「王様?何でまた今年限定?」

「さぁ?詳しくは分かりませんが…」

「今更だけど、あなたはこのコンテストに参加するの?」

「はい。そのために研究していました」

「あなた1人で?」

「いえ、父と2人で。じつは…私の兄が…目標にしてたんです。このコンテストで優勝するのを」


何処かシリアスな感じで言いよどむ彼女。これは何かがあったに違いないが、尋ねて良い雰囲気でもない。

あえて突っ込まずに話を変えようと考えた鷹司が、スケッチブックの絵を見ながら問いかけた。


「それ、俺らも参加できんの?」

「…え?参加ですか?…失礼ですが建設業に強いのですか?」

「まぁ…それなりに。何より金が必要だ。駄目元で挑戦したい」

「今からだと…エントリーなどは?」

「なんもしてない」

「参加希望者の応募は謝肉祭開始日の一週間前に締め切ってしまいました。お題となる扉の用意等もあって飛び入り参加は出来ないので、どこかのチームに入るしか…」


此処まで言って、彼女はハッとした顔をして鷹司を見つめた。

…なんだか、何を言おうとしているのか想像が出来る気がする。思わず半歩足を引いて後退するが、そんな鷹司の手を彼女はガシッと掴んでキラキラした顔を向けた。


「では、私のチームに入りませんか!?」

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