02-02 ジョブセレクト
12/1 01章の名前を変更しました。
その後休憩を挟もうか?といわれたが、既に十分睡眠を取っていた皆は疲れをまったく感じておらず、再び下の階に下りてきて話を続ける事になった。
「大体船の話はしたし必要な事も伝えたと思う。今後何か疑問が出てくればその時に聞くといい」
「分かった」
「では、次はお前たちの話をしよう」
「…うん?私達って?」
「得た力の事だ。救済処置の力は本来であればお前達が持っていなかった魔力だ。使い方次第で良くも悪くもなる」
自分の事は自分達が一番分かっていると思って質問を返したが、彼が言ったのは“能力”の事だった。
既に皆のスキャンを終えており、各自の曖昧な認識よりも正確な情報を伝えていた方が良いだろうということで、順番に説明をし始める。
「では、まずは雨龍タクミ」
「うむ」
「お前の能力は筋力UP、あと味覚の発達」
「…筋力は分かるぞ、だが味覚…とは?」
「そうだな。筋力は馬鹿力という怪力で分かりやすいだろう。味覚の発達とはその名の通り、舌の感覚が鋭くなる事。例えるなら…食べ物を一口食べれば隠し味まで見抜けるだろう」
「何だと!それは本当か?」
「気になるなら自分で試してみろ。ちなみに、意識して探ろうとしないと無理だぞ」
「意識?味を知ろうと意識すればいいのか?…ふむ、オートで発動しないんだな」
「こういった救済処置の能力は大体使おうと思う意思が必要なアクティブスキルだ。そのへんの感覚も調べておけ」
分かったと頷く雨龍。このメンバーの中では身体を鍛えていた事もあり、一番の力持ち。得たのが怪力スキルでちょっと嬉しいというのはナイショである。そして彼は次に舞鶴に視線を向けた。
「次に、舞鶴チアキ」
「はーい!」
「お前の力は声を発する事だ」
「…はい?それって…どういうこと?」
自分の力が良く分かっていなかった舞鶴はウキウキと彼の声に耳を傾けるが、言われた内容にイマイチ理解が及ばず首をかしげた。音を発する…とはいったい…
「お前の声は幻術や幻覚、薬や魔術といった妨害を突き抜けて、そのモノの耳に音が届く」
「声が聞こえるだけって何か地味くない?ってか、それは単純に声が大きいとかじゃなくて?」
「声を掛けるという行為、そして声が届くという事。これはある意味攻撃であり、防御である」
「…??」
「分からないか。敵の心を揺らす行いが…いや、そういう場面にぶち当たった時に説明したほうが良いか。まずは分かりやすく…三木谷ナナ、これの音程は?」
「…Cです。周波数は446です」
意味が分からずに頭まで抱えた舞鶴を見て、目の前のテーブルにワイングラスを1つ出現させれば、軽く指で弾いて音を鳴らす。そして質問を三木谷に向けると、迷いもせずに返事を返した。
「す、凄い」
「これは三木谷ナナの力だ。説明は後にする。舞鶴チアキ。これと同じ音を声で出せ」
「え?…分かったよ」
言われるがまま、先ほど聞いた音と同じ音程を声にだす。すると、暫くしてからグラスがカタカタと振動を始めた。
「!?」
「これの強力バージョンが、声でグラスを割るって奴だ。このグラスが持つ周波数と同じ空気振動を与える事で共鳴し、動き出す。そして最悪壊れる」
「なにこれ!すっごいじゃん!…でも疲れるね」
「本来ならその程度では振動すらしないものだぞ?」
「壊すにはどうすれば良いの?」
「単純な方法は声量だろう。練習を積めば、音量はそのままで集中を強めれば可能になる可能性もある」
「なるほど!ありがとう、やる気が俄然出てきたよ!」
「そうか。…これと関係して、三木谷ナナ」
「はい!」
「お前は聴力UPだ」
「はい。自覚出来てます」
「主に音を集める事に特殊している。これもアクティブスキルだから集中が必要だ」
「そいう言われれば…意識して聞こうとしてない時は普通でしたね」
「常に耳が情報を拾うなんて、苦痛でしかないぞ」
「…確かに」
何となく自覚をしていた三木谷は説明に対して頷くが、パッシブスキルかと思っていた為に少し驚いた顔をする。しかし何でもかんでも耳が拾い集めるなんて、よくよく考えればいい事よりも悪い事の方が多い気がしてその方が良いなと思い直したようだった。
「次に鷹司ナガレ。君も既に自覚しているようだが、電子機器の構造把握が主だ。仕組みが分かれば組立も解体も思いのままだ」
「漠然どしてらの。だが俺も一度経験したから分かるぞ。メカ類だば…括りはねんだな?」
「あぁ。動力が手動等のカラクリである場合は、自分で動作確認や図面の把握等が必要になる事もあるが、大体同じ力を発揮出来るだろう。だが“電気信号を使用しているモノ”ならば触れるだけで構造を把握出来る。そしてこれは、マシンのみと限定される力ではない」
「…どういう事だ?」
「電気信号は機械のみが使っているわけではない。生命体も使っている通信手段だろう?」
「それは…神経細胞の情報伝達の事ば言ってんのか?」
「あぁ。触れればその物、あるいは者の構造や仕組みが分かり、どの部分が脆いのか、どうすれば分解出来るか、あるいは何処がどの様に悪いのかが分かる。ただし、分かるだけだ」
「分かるだけ…」
「機械であるなら修正出来るだろう。お前にはそれだけの知識と力がある。だが生命体であった場合、患部が分かっても今のお前では治療が出来ない」
「治したければ医療ば学べどへる事だの?自力で」
「後はお前次第だ」
彼の言葉に鷹司フッと笑った。人体に特別興味も無かったけれど、この旅において医療関係に強い人は居た方が良い。それを自分が担えるのだろうかと考えているようだ。そんな鷹司は置いておいて、彼の視線は猫柳に移る。
「次は…猫柳テトラ。お前の力は視力UPだ」
「視力なの!?…僕、弓の威力増加かと思ってたんだけど」
彼の言葉に少し納得いかないといった様子で返事を返すのも無理は無いだろう。彼は視力というより、弓の威力の方が印象に強かったようだ。
「救済処置での能力は大体が能力者単体で完結するものが主だ」
「…どういうこと?」
「弓の威力増加だと、術者である猫柳テトラと“弓矢”という道具が必要になる」
「道具が必要…そうか。あの学校で弓矢がもし見つけられなかったら、戦えないことになるね」
「そうだ」
「なるほどねぇ。確かに、戦ってる時に視界が広がった気はした。遠くからでも良く見えた気がする…ていうかズームしている感じがした。…じゃあ、矢が石に刺さったのは何で?」
「無意識に魔力を練ったのだろう。これは全員に言えることだが、力を使おうと思ったときの集中力が高ければ、自分の行動結果も比例して良くなっていく。今回は“怒り”という不の感情と、逃げなくては、という必死さがアシストしたようだが、そういった感情で力を使うと自爆の原因になるから注意することだ」
「…あの、それって、僕の竹刀にも同じ事がいえるんですか?」
猫柳との会話の途中で草加が手を上げて発言した。確かに草加も武器を使って攻撃をしていて、剣の切れ味が特に目立っていた。
「あぁ。草加リヒト、お前は耐性UPだ」
「…耐性…とは?」
「分かりやすくいえば、防御力UP。打たれづよいって事だな」
「打たれづよい…だから雨龍さんの攻撃に耐えられた?」
「もし草加リヒトと猫柳テトラの立場が逆だったら、瞬殺だっただろう。かすっただけで吹っ飛ぶくらいだ」
「…おうふ」
「あと、状態異常の耐性もあるようだ。ただ、無効ではないから気をつけるように」
「わ、分かりました」
猫柳が変な声をだして若干おびえた感じの視線を雨龍に向ければ、平謝りする雨龍。そんな様子を見ながらも、気にした様子は無く彼は女性陣に視線を向けた。
「天笠ホクトと獅戸アンナ、2人も自覚しているな?」
「うん。私は脚力。…いいえ、スピードかしら」
「確かに、スピードUPと言った方が近いだろうな」
「えぇ。蹴りで何か破壊できるわけじゃなかったし、単純に移動速度とジャンプ力が上がったって感じだったわ」
「正しく認識しているようだ。身軽になったと思っていれば問題ないだろう」
「私は水中で息が出来た。水の中での移動速度も上がっていたわね」
「うむ。そちらも正しい」
「あ、あの…うちは?」
2人がしっかり自覚しているのに対し、月野が手を上げて質問をした。自分の能力なのに、自覚をしていない。少し不安を抱えて、声は小さめだ。
「月野サヨ」
「はい!」
「お前は歩く植物図鑑だ」
「…はい?」
「初めて眼にしたものであっても、それが植物であるならその成分や生態を理解する事が出来る」
「…何か、使いもんにならへんな」
「そんなことは無い」
「へ?」
「植物のことが分かるという事は、それが食べられるか否か判断できるという事。…味の良し悪しは別として」
「あ、せやね!」
「避けたほうがいい食べ合わせも当然存在するし、薬に出来る物もある。それをストックできれば、いざという時に役に立つ」
「うん。うん!せや、うちにも出来ること、あるんやな」
「慣れてくれば見るだけで分かるだろうが、はじめは触れて集中させるといい」
皆が実用性のある力だったため、地味な能力に落ち込みかけるが、彼の言葉にパッと顔を明るくさせて何度も頷いた。そのまま異世界に飛ぶ前に月野が自分で部室に生けた、室内にある花に手を伸ばしていたので簡単なアドバイスをしてあげた。
「次は守屋キョウタロウ」
「俺もわかってますよ!妄想が実体化するんです!」
そういって何処か偉そうに胸をそらして眼鏡ちゃんを出現させた。…ら、獅戸に頭をはたかれたので直ぐに消した。
「その認識で問題はないが、それは幻覚である事を覚えておけ」
「幻覚?…え、でも触れるよ?」
「それはお前が術者だからだ」
そういわれて普通に普通のサッカーボールを出現させた。ポンポンと軽く手で弄んでいたが、隣に居た草加が手を伸ばして触れようとしたところ、手がすり抜けた。
「ホントだ!触れないぞ!」
「え、何で!?」
「手触り、匂い、温度等全てが守屋の脳内の情報を使っている。故に、触ればどうなるか、その結果を体感しているのだ」
「…うん?難しい」
「例えば…自分でわき腹を触ってもくすぐったくないが、他人に触られるとくすぐったいという感覚だ。このタイミングでこのくらいの力の刺激が掛かる、と分かっていれば、脳内に予測がされるので対応できる。自分が作り出した物だから、触ればこういう感触がすると分かる。どういった対応をされるか分かる。それが忠実に再現されている」
「難しいけど、言いたいことはわかった…気がする」
「それと、その映像は機械には映らない」
「何ですと!?一緒に写真撮影も無理って事ですか!」
「無理だな。…詳しく説明すると難しくなるから…守屋、お前が見ているものがそこにあるように、皆に思わせているような感じなのだ」
「…?」
「分からないか?…分かってないな、その顔は。とりあえず、詳しい仕組みは端折るが、幻覚には術者しか触れない。機械類には写らない。おそらく鏡にも映らない。効果範囲は大体術者を中心に数メートル、練習を積めば広げられる可能性もある。以上だ」
「…リョウカイデス」
守屋は頭から煙を出しながらも理解しようと考え始めた。そして彼は視線を九鬼に向ける。
「最後は九鬼ケイシ」
「はい」
「君は種を作る事」
「…はい。そのまんまですね」
「ただし注意する点がある。何の種を作りたいか、正確に意識しなければならない」
「何故ですか?学校内で普通に種出ましたけど…」
「アレはただの種ではなかった」
「ただの…ってどういうことですか?」
「君の魂を欠片にしてしまったものだ」
「…?…え!?…ちょっと、え!?どういうことですか!?」
一度種を出現させていたためにきっと種関係なんだろうなと思っていたため、彼の台詞には特別驚かなかったが、説明が続いた後の言葉には焦って立ち上がり身を乗り出した。
「案ずるな。存在の欠片の一部で、時間がたてば修復される部位のもの。今の九鬼ケイシに欠損部分は無い」
「…よ、良かった…」
「だが、よくよく考えてみろ」
「?」
「この中で唯一、お前だけが物を“生み出す”能力を得ている」
「確かに…言われてみれば」
「だが、こういう力は曲者だ。当然何もない所からは何も生まれる事は無い。あの時は、自分の欠片を使って種を作った」
「ど、どうすればいいんですか!?この力は使わないほうがいいんですか!?」
「大丈夫。作りたいものの為に、何を差し出すかを明確にすれば良いのだ」
「何を差し出すか?」
「あぁ。では一度やってみよう。作るものは…分かりやすいデザインの…ひまわりの種にしよう。イメージして。大きさはどれくらいだ?」
「えぇっと、1センチ…くらいですかね」
その後、色や形、重さに至るまで正確に想像させて、力を使った。すると、手のひらに想像したとおりの種が現れた。
「おぉ!出来た!!」
「今回はイメージした記憶を代償に種を作った。…うむ、魂の欠損は無い。成功だな」
「記憶を代償って…そのうち記憶が虫食いみたいに穴だらけになったりしません?」
「だから先ほど、再イメージさせたのだ。この行為を行わなくても記憶を使って作り出すことは可能だろうが、回数を重ねればその記憶も曖昧になっていくだろう」
「ふーん…あ、そうか!奪われるって知ってるものを新たに思い出す事で、バックアップ取ってるんですね!」
「まぁそういうことだ。理解できたようで何より。先ほどのように種を作るよりも、現物を用意してそれを見ながら種を作った方が簡単だと思うぞ」
「確かに。ゼロから作るより“コピー”した方が楽だよね。…種、集めよう。…あ、これ種以外は出せないのかな?ぶっちゃけると種より直ぐ食べられたりする野菜とかの方が良いんだけど」
「気になるならば試してみるが良い。だが、その結果自分自身に欠損部分が生まれても我は関知しない」
「…分かった。止めとく」
これで全員の能力が判明した。やはり、部活に関係した能力が特化している。廃校内で何となくそう感じていたが、間違っていなかった。と、守屋が唐突に口を開く。
「はい!分かりやすく整理したぞ!まず、雨龍さんが『格闘家/モンク』で」
「うむ」
「猫柳先輩が『弓使い/アーチャー』で」
「何だか照れるね」
「アンナが『盗賊/シーフ』で」
「盗賊…って、身軽ってだけじゃない!罠解除とか出来ないわよ」
「リヒトが『剣士/ナイト』で」
「ナイト…って事は、盾と槍を装備するべき?」
「俺が『幻術士/ソーサラー』だろ?で、天笠先輩が『魚人/マーメイド』で」
「魚人…せめて人魚って言って。というか、もしかして敵役?」
「ミッキーが『巫女/プリエステス』で」
「それは…神託を聞くってイメージなのかしら?」
「チアキ先輩が『預言者/プロフェット』で」
「…それは声を発するって所からなの?」
「ナガレ先輩が『鍛冶屋/ブラックスミス』で」
「悪ぐねぇけど…鍛冶屋どいうか、エンジニアって感じがすらの」
「月野先輩が『薬師/ヒーリングブッタ』で」
「ブッタ…えらい名前が…」
「ケイシが…うーんと『村人/ビレッジャー』!」
「何で俺だけ!?もっと格好良いのが良い」
「だってケイシは『種』だろ?…連想されるのが畑仕事なんだもんなぁ」
「…っくっっっっそおー!」
「分かりやすくて良いではないか。仲間の状態を把握するのも、大切な事だ」
「で、あなたは『船長/キャプテン』っすよ!…あ、お名前聞いてないですね」
皆ノリノリだった。こういう反応はさすが、常日頃からバカ騒ぎしている仲間というだけはある。だがブレーキ役である八月一日が居ない分、ヒートアップに注意しないと色々と後悔しそうで心配だ。
それでも色々と分かりやすく纏まっていると思う。そんな話の後に続いた名を尋ねる台詞に、皆がハッとした。そういえば誰一人として名を尋ねていなかった。
「本来なら最初にするべきだったのにな…すまない、今更で悪いが、名前を教えてくれないか?」
「謝る事は無い、雨龍タクミ。だが…悪いな、我に名前はないのだ。適当に呼ぶが良い」
「適当って言っても…難しいなぁ。知ってる顔だから『お前』なんて呼びづらいし」
「ならば役職でも構わぬ。先ほど船長と名づけられたばかりだしな」
「名づけられた…もしかして俺、名付け親!」
「こら、調子に乗らないの!」
それは名前ではないとか、命の恩人(?)という事になるのだから格好良い物をとか。そんなこんなの長時間の話し合いの結果…
安易ではあるが、船長から“セン”と呼ぼう。
ということに落ち着いた。




