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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
01 廃校舎・覚醒の章
28/146

01-21 もうひとつの過去

-痛い-


気がつけば地面に倒れていた。

土の香りを感じることから、多分うつ伏せ。

しかしどんな格好になっているかなんて痛みのせいで分からない。

意識がはっきりと覚醒するまえから、全身に激痛を感じていた。

“何故こうなった?”

眼を瞑ったままで原因を探るべく記憶をたどるが、心当たりは…

…無い事もない。

でもアレくらいでこんな事になるとは思えなかった。


だって、地面に引かれた線を踏んだだけだぞ?

“何だコレ。誰かの落書きかな?”

って思うのが精一杯だ。


そうして何度も同じ場所を思考は巡る。


“何故、こうなった?”


指1本動かせない痛みと戦いながら思考を巡らせる彼、八月一日ホヅミアコンに向かって声がかけられた。


『ねぇ。君、これなら分かる?』



**********



今日は舞鶴の実家の神社で縁日が行われる。その話を後輩にしたら「一緒に行きたい」と言われた。

別に断る理由も無いのでOKしたら、その場に居なかった知り合い…園芸部に集まってくれる人たち…全員がいつの間にか一緒に行くつもりらしい。ちょっと遠いけど2~3人なら所有している車で運べると思ったのに、俺含めて総勢12人となると…普通の乗用車では無理だ。

…というか、舞鶴は実家のくせに何故学校まで来るつもりだったのか?聞いてみたら「当日は俺も学校に遊びに来るから俺も一緒に乗せて!仲間はずれは寂しいから!」とか…11人の時点で大きい車が必要だから、今更1人増えても…まぁ良いかって気にはなるけれど。


「すいません、ちょっと急いでいるので、後で用件伺います」


知人に大きい車を借りる約束をして、一度学校に来たら学校の事務員のおじいさんに捕まってしまった。よく花壇の手入れを手伝ったり、種を交換したり、オススメ肥料とかの話をしていたら自然と仲良くなった人で、彼との話は楽しいのだけれど、今日は人と会う約束もあるため遅刻は出来ない。


「あぁ。それはすまないね。別に特別な用事があったわけじゃないんだけど。この前貰った花の鉢植え、今満開なんだ。孫も喜んじゃってさ」

「それは良かったです。俺も頑張って育てたかいがありましたね」

「で、アレは一年草なのかな?結構茎がしっかりしてる気がするんだけど」

「あぁ、1年ですね。秋には枯れますけど、球根が出来ていれば来年も楽しめるかと。でも改良中の花なので、もしかしたら今年で終わるかもしれません」

「そいつは残念だな…来年も出来たらまた分けてくれよ。嫁さんも花が好きだからきっと喜ぶぞ」

「フフッ、わかりました。来年は新しい色も試したいですね。…奥さんの好きな色は?」

「えぇ?…うーん、服は茶色が多いな」

「それは好きな色とは言えないかと。年配の方は落ち着いた色合いを着用する人が多いですから」

「…そうだな。好きな花やカバンは…赤かな?…白っぽいのも多いけど」

「ではさりげなく聞いてみてくださいよ。そうしたらその色、出せるか研究しておきます」

「お!そいつは良いね。分かった。さりげなく、だな」

「えぇ、さりげなく。ですよ?…では俺はこれで。また今度、雨龍さんが作ってくれたお菓子持って伺います。その時にでもお茶しながら作戦会議をしましょう?情報収集は任せましたよ」

「おう!任せとけ!」


軽く手を振ってから歩き出す。楽しい会話を早々に切り上げて駐車場へと向かった。この後車で知人宅へ向かい、車を借りる予定…なのだが。


「…あれ、鍵が無い…部室に置いてきたか?」


車の鍵を開けようとして鍵がカバンの中に無い事に気づいた。慌てて踵を返して戻りながら、何処に置いたか記憶を探る。まず部室に入る前にカバンを持ったまま野菜を見て、その後テーブルに置いたまま職員室に行って、帰ってきたら九鬼たち仲良し三人組が来て居た。その時のバカ騒ぎでテーブルをひっくり返したからその時に落ちて…鍵がカバンの中から落ちた事が分からなかったのだろう。

大体この辺…と予想をつけて足早に部室へと向かう途中、もう部室の目の前まで来た時に道を横断する形で地面に線が引かれていることに気づいた。


「…ん?何だ?…誰かの落書きかな?」


棒で地面を引っかいて書いたような線を見つけた。その側に立ち止まって誰がこんなものを書いたのか…と考えながら左右を見てみる。どうやら、部室を中心にグルッと円を描いているようだが。


「誰が書いたんだろう?…何だか昔を思い出すな。丸を描いて「バリア」みたいな。守屋さんあたりが新しい遊びでも考えたかな?」


小さく笑って、とりあえず踏んで消さないように注意して線をまたいだ時だった。


-キーン!!-


突然の耳鳴りに頭痛を感じて思わず足が止まる。


「…っ!?な、何だ?」


慌てて耳を押さえるが音は消えず、あまりの痛みにフラッとよろければ、先ほどは気をつけていた線を踏んでしまう。しかし今はそれどころではない。いったいどうしたのだ!?と思ったときだった。

突然踏んでいた線が赤い怪しい光を放った。


「なっ!?」


しかし本当に光ったかどうか、今となっては定かではない。ちゃんと確認するまもなく激しい痛みが全身を駆け巡り、意識は闇に沈んでしまった。



**********



遠くで何か音がしていた気がする。

しかし痛みのせいで考える事が出来ない。

声がかけられたのはそんな時だったが最初は意味が分からなかった。一瞬雑音かと思ったほどだ。だが、それが同じ声色で、別の音を繰り返す。何十回も繰り返された後で鈍った思考でも理解できた。いろんな言葉を話して、八月一日が理解できるものを探していたのだ。


『ねぇ。君、これなら分かる?』


その声に何とか瞼を開ける事に成功した。そこに居たのは中東の民族衣装「トーブ」ににた衣服を身に着けた人物だった。手には黒い手袋をしていて、肌は一切露出していない。布をマフラーのように巻きつけていて顔を隠しているが、ぼんやりしている視界では、顔が見えていたところで判別不可能だっただろう。これで眼鏡すら失われていたら、暗い周りに同化して人の姿をとらえる事すら困難だったと思われる。地面に顔をつけているためちょっとずれているが、フレームが歪んだりしていない…と思う。レンズにヒビも入っていないようだ。うつ伏せの状態でも耐えた眼鏡に拍手を送りたい。


「…っ」

『こんにちは…もしかして喋れない?』


返事を返したいが、声を出すために腹に力を入れることすら難しい。いったいこの痛みは何なんだ。そう思いながらも何とか意思を伝えようと、口を開いた。出てきたのは弱々しく蚊の鳴くような声だったが、聞こえていたなら理解は出来るだろう。


「…いや…」

『そう。それは良かった。…にしても、ずいぶんと辛そうだ』

「あぁ…何だか…全身が…い、痛い」

『…だろうね。そうなった理由は心当たりがあるよ。申し訳ないけどもう少し此方に来れる?この線を越えて近づく事が出来れば、痛みを軽減できるかもしれない』

「…?」

『何故?って顔をしてるね。後で説明はしてあげるよ。君には聴く権利がある。さぁ、痛みをやわらげたいならもう少し頑張って』


そう言ってその人物は数歩下がった。来いと言っておいてさがるのか?全身が痛いって言ってる奴に来いって言った挙句に移動距離を伸ばすとかどれだけ鬼畜だ。お前が来い!と言いたかったがやめた。口を開いて言い合いになっても言い返すだけの気力が無いし、何だか良く分からないし、此処は頑張ってみる事にする。


「…っ…」

『良い調子。あと少しだ』


浅い呼吸を繰り返しながら何とか這って行くが、数十センチも移動できない。目の前の人物は励ましてくれているようで八月一日を見下ろしたままノロノロと動く様子に声を掛けてくれたが、限界だ。これ以上は動かない。まるで自分の体では無いような違和感と激痛に、ゴロンと寝返りを打つように身体を反転させて仰向けになった。


『もう限界?』

「…手…」

『…何?』

「線…越えた…だろ…?」

『…?…あぁ、本当だ。良く頑張ったね』


一応身体を反転させれば腕が線を越えると考えはしたが、半分以上負け惜しみで言った言葉に特に気分を害したようではなかった。スッとかがんで手に触れ…ようとしたが、その人物の手は八月一日の手には触れずに貫通してしまった。


「なっ…」

『やはり。…驚かないで。これは我に君が触れないわけではない。君に実体が無いんだ』

「…な…何言って…」

『意味が分からない?だろうね。とりあえず痛みを和らげる。少し待って』


そういってその人物は本来なら八月一日の手が触れる位置に自分の手を固定した。顔は隠れていて見えないが、眼でも瞑ったと思う。何をするんだ?と思っていたが、相手の手のひらが光っている…ように見える。その様子をただ見ていたが、次第に痛みの波が収まっていく事に気づいて、上体を起こそうと地面に肘をついた。その様子に目の前の人物は方膝を地面についたままで起き上がった八月一日を見た。少し驚いているように感じる。


『…おや?いきなり動けるのか。凄いね』

「何を…した?」

『切断面に傷薬を塗ってあげただけだ』

「何を言っている?怪我なんて…してない」

『肉体は、ね』

「…どういう事?」

『君達は巻き込まれたのさ。この星の“食事”にね』

「星の食事って…いったい何を言ってるんだ?それに…君“達”って…」

『話してあげよう。声を出して誰かと話をするのも久しぶりなんだ、長くなるけどちゃんと聞くんだよ?…この星の過去を』


そういって話し始める。依然として顔は見えないが、なんとなく微笑んだ気がした。



**********



-今から何万年も前にこの星は死んだ-


人間同士は争いあう。それは星や住む世界が違っても同じ運命なのだろう。

複数の部族がお互いを攻撃しあい、物資を奪いあいながらこの星の人間も生きていた。


大きな国は、自分の欲を満たすため。

小さな国は、より豊かな生活を得るために。


木を切り、森を焼いて、川を潰し、海を埋め立てて己の領土を広げた。

魚や獣、鳥や虫までを集めて、生きるために食料にし、戦争に勝つための武器を作った。

何人もの良心ある人物は、このままではいけないと唱えたが、いつも「王」によってその声は潰された。

科学の発達した世界ではなかったが、少数ながら「魔道師」がおり、困った時は彼らがいつも不可思議な力で何とかした。

だから、たとえ何が起こっても魔法さえあれば大丈夫だと思われていた。


次第に青かった空はくすみ、灰色になった。

空には常に重い雲がかかり、日の光が入る事すら稀になった。

海の色も濁り、常に高波が生じるようになった。

海岸には常に海洋生物の死体が打ち上げられるほど、海水は汚れていた。

獣は数を減らし、食べ物は無くなった。

土地はやせて、虫どころか植物さえも消え去った。


それでも人間は生きていた。

生き方を変えようとはしなかった。


だが、1つの国を残して他の全てが滅んだ時に、生き残った人間はやっとこのままではいけないのだと理解した。


王は魔道師に命令した。

“何とかしろ”と。


魔道師は懸命に道を探した。

何年もかけて研究したその結果、とある1つの術式を開発する。それは他の星から土地を一部切り取って此方に持ってくることで、食料や木材などの物資を得る、簡単に言えば

“別の場所から、物を奪う”

というものだった。


しかし、そのことに王はおろか、術式を開発した魔道師すら気づいていなかった。

“国の存亡をかけた問題を、再び魔道師が解決した”

彼らはそう捉えただけだった。そして思う。

“これで危機は去ったのだ”と。


安堵した人間は、魔道師に頼りながらさらに数百年を生きた。

この間に王は魔力があるものが就く事になり、王が居なければ人間は生きられない世界になった。

術は王1人にのみ受け継がれ、先王が次王に伝承した。

この世界では王が居なくなるという事はイコールで人類の全滅につながる。そのことを知っていたから、誰も王を害しようとは思わなかった。

完全なる絶対王政。当然逆らうものは居なかった。誰も死にたくは無かったから。


奪って得たものを少しは蓄えたり、植物が再び地面に根を張るように考えたり、環境を改善しようとしていれば、結果は変わっていたかもしれない。

だがこの星の人間は“奪う事”しか考えない。

術で得たものは全て使いきり、足りなくなったら術を使う。そういった生活を続けていた。

平和が数百年も続いたのは、本当に幸運だったというしかない。

そして、幸運は何時までも続きはしないのだ。


ある日、王は術を使った。

先王もその前の王も繰り返し使った“略奪の術”だ。

だが、この1回はいつもと違った。奪って来た物の中に始めて“人間”が混ざっていた。

後にこの星を滅ぼす事になる“魔法使い”がいたのだ。


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