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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
01 廃校舎・覚醒の章
27/146

01-20 初エンカウント

「退路確認!ホクトちゃん、扉に鍵は掛かってる!?」


九鬼を打ち上げた雨龍に鷹司が近づいて肩をかし、軽く背を叩いて「お疲れ様」と声をかける。飛び上がった九鬼を見送っていた皆に向かって呑気に見ている場合ではないと、パッと見て扉に一番近くに居た人物に舞鶴がが指示を飛ばし、走って扉に近づいた。


「はっ、扉…あれ?取っ手が無いわね」

「え?」


形が扉だったので普通に扉だと思っていたが、表面は何だかガラスのように平らだった。近づいた舞鶴は壊れた下2段の階段を軽々とジャンプで飛び上がりステップに乗れば、天笠の返答にいぶかしみながら扉に視線を向けた。僅かに発光しているのか明るい感じがするが、光の白色で扉の向こうは何も見えない。


「ドアノブ…無いね」

「舞鶴先輩、引き戸なんちゃう?」

「あ!…いや、それでも指を掛けるとこ必要でしょう?…あれぇ!?」


月野に返事を返しながら押せば動くのかと手を伸ばしたら、水の中に手を入れるように微かな波紋を広げつつも舞鶴の腕を飲み込んだ。驚きで声をあげて引っ張り出そうとするが、驚く事に動かない。


「のみ込まれた!?ってか抜けない!」

「なんで!?一方通行的な!?…あ、チアキ先輩これを使って!」

「ありがとう!…って竹刀使ってどうしろって言うのさ!?」


傍に居た皆で、大きなカブよろしく舞鶴を引っ張るがびくともしない。そして草加が持っていた竹刀を舞鶴に差し出した。こいつもかなり動揺しているようだ。自分でもどんな行動をとっているのか良く分かっていない様子。と、そんな時に竹刀が扉の表面にぶつかって“カツン”と音を立てた。その音にやっと追い付いた雨龍が眉を寄せる。


「ぶつかったぞ?竹刀は通らないのか?」

「ぶつかったな。…舞鶴、竹刀で扉ばのぐってみ?」

「…のぐ?」

「殴れ!」

「カシコマリッ!」


舞鶴の方が1年先輩なのに、鷹司は全然気にせず命令口調。その口調と迫力にビクッとしながら飲まれていない手を額に当てて思わず敬礼をしてしまう。…ただの学生なのに。

「俺の方が年上なのに」なんて考えは欠片も脳裏をよぎらなかったのは余談だ。

言われるままに竹刀で扉を切りつけてみたら“ガツン!”と音がして弾かれた。


「うわっと!…え、弾かれたよ!?何で?」

「でもチアキ先輩の服は通ってますから…物が入れないって訳じゃないみたいですけど…」

「そうだよな…うぉ!俺も入れる!そしてやっぱ抜けない!」

「何やってんだよキョウタロウ!緊張感が欠けてるんじゃないのか!?チアキ先輩がわざわざ先頭に立って犠牲になってくれてるのに!」

「…犠牲って…モリヤン、リッヒー、ちょっと酷くない?俺泣いちゃうよ?」

「そんな事より舞鶴先輩、向こうに何か感触あります?手を握り返す何かが居るとか。私の耳には特に何の音も感じられないのですが」

「ミッキー、これってそんな事なの?…いやでも、確かに何も手には触れないケド」

「もし此処が正解ルートじゃなかったらどうするんだ?」

「ちょっと!恐い事言わないでよタクミン。ここから動けないんじゃ…え、どうしよう!?別の場所があったら移動出来ないけど!」

「…無ぇど思うから良いんでね?どいうか、どうせ入るしかねんだしガタガタ言ってねで中見でみろし」

「うわっ!!ちょっ、待ってタカやん!押さないで!」

「押してね。蹴ってら」

「屁理屈やめて!睨むのも禁止!…視線が痛いよ?後ろから色々圧力掛けないでください。まだ心の準備が…」

「皆!来るよ!」

「衝撃に備えて!」


鷹司はいたって真面目に行動していたのだが、見てたギャラリーは思わずほんわかとした笑顔になる。思わずコントを始めた舞鶴達に、突然猫柳が緊張気味の声をかけた。続いて天笠が警告を発したので慌てて周囲を見渡すと、いつの間にか階段がさらに数段無くなっていた。何時の間に。バカ騒ぎのおかげで音に全然気づかなかった。

そして一番脅威と思われる黒い波を確認するが…


「うん?ネコちゃん、黒い奴らはまだ来てないよ?」

「来るって…まさか床のひび割れがそこまで来てる?」

「違うよ!上!」

「「「え?」」」


今回も猫柳(と天笠)しか上を見ていなかった。がばっと視線を上げた一同の目には、こちらにすっ飛んでくる九鬼と獅戸が見えた。


「すいません!止まれません!」

「きゃー!!どいてください!」

「えぇ!何事!?」

「ちょっ、動けな…」


-どんっ!-


空中で方向転換が出来たらもう人間じゃない。途中までは下がっている枝を利用して走って降りて来ていたのだろうが割れた床を飛び越えるためだろう、獅戸に引っ張られてジャンプしたらしい九鬼達は、扉の前に集まっている皆の所に突っ込んだ。下の段のステップが壊れてくるせいで上数段に固まって団子状態だったおかげで全員が漏れなく前に押されて、先ほどまで騒いでいた扉をすんなり通過してしまった。


-バタン-


そして扉が閉じる音がした。


「いたたた…」

「ごめん、もうちょっと早く皆に声かけてれば良かったわね」

「結果的に扉通過出来たみたいだし、結果オーライなんじゃないですか?」

「す、すいません雨龍さん!怪我してるのに!」

「だ、大丈夫だ。それより…通過出来たな、無事解放も出来たか。良かった」

「…はい。ありがとうございました」


思わず手を広げた雨龍が2人をキャッチ。さすがお父さん。2人が自分の着地の反動で骨や関節等に負担がかからないように、角度調節したり後ろに下がりながら接触したりと色々計算してくれたようで、九鬼と獅戸に大きな怪我は無かった。そのおかげで押しつぶされる形で扉に突っ込んだ一同も、あってかすり傷程度の軽い物。その事にホッと安堵の息をついた。感謝の言葉を口にしながら立ち上がる。


「扉…あれ?こっちからは普通だよ。…あ、でも開かない」

「それより此処は…あれ?この部屋…」

「え、あ!あれ、私のカバン?」

「って事はもしかして…部室?」


通過したはずの扉は普通に木の扉が閉まっていた。ドアノブもあるが、回してみてもびくともしない。光源がないその場は薄暗いため良く見えないでいたが、暗さに目が慣れて気付く。そこは良く知った部屋だった。この変な場所に来てしまう前に居たエリアの中心部、園芸部の部室だったのだ。壁にかかっている写真や、後で片付けようと思って長机の上に散らかしたままの本等もそのまま残っている。そして、大きい机の真ん中に、恐らく皆の物と思われるカバンがまとまって置いてあった。


「…何で此処に?」

「分からないわよ。でも…ねぇ、何かやけに暗くない?」

「電気は…あれ、つかないな」


『ゴール ト ウタツ オメ デトウ』


「「「!?」」」


勝手知ったる園芸部室、しかし薄暗いだけでちょっと不安を感じる。灯りをつけようとスイッチを操作するが、どういう訳か灯りがつかない。そんな中そろりそろりと歩みを進めて、テーブルの荷物に獅戸が手を伸ばそうとした時にアナウンスの時と同じ声が室内に響いた。吃驚して手を引き、皆のところまで後ずさる。機械の声のように抑揚がないそれは、言葉を切るところもでたらめだが、ノイズの混じらないその声は放送や再生された物ではなく、この場所で発言されたものだと把握するには十分だった。


「何!?…誰か居るの!?」

「気をつけろ獅戸。この声、あのアナウンスと同じだぞ」

「た、確かに…でも雨龍さん、怪我が…」

「気にするな。こういう時くらいは役立たないとな」


バラバラに広がりかけた一同だったが声に驚いてまた1ヶ所に固まり、皆を背に守るように雨龍が1歩前に出る。満身創痍な彼に心配そうに獅戸が声をかけるが、笑顔で平気と返事をしてから何処から聞こえた声なのか、気配を探ろうとした時に目の前のテーブルの荷物がある辺りがボヤっと光って、丸い球体が現れた。


「な、何だ?」

『ワレコノフネヲマカサレタオマエタチヲホシニトドケル』 

「…?………うん?何て言ってんだ?」

「たぶん『我この船を任された。お前達を星に届ける』じゃないですか?雨龍さん」

「あぁ、なるほど。…良く分かったな」

「え?えぇ、まぁ。…慣れてるので」


ハテナが飛びだした一同を代表して聞き返した雨龍に九鬼が通訳をすれば直ぐに納得。変なイントネーションだったり、聞き取り難い言葉には慣れていたおかげだろう。誰のおかげか、は言わないけれど。

自分を落ち着かせるために軽く咳払いし、警戒は解かないままで今度は九鬼が質問をぶつけた。


「お前は何だ?」

『ワレハシステムフネヲウゴカス』

「…我はシステム、船を動かす?…船とは何だ?」

『フネヲシラヌカテイノウメ』

「知ってるわ!」

「…何だって?」

「『船を知らぬか。低能め』ど言った」

「なん…だと…」


九鬼は通訳として球体が言った言葉を言い直していたが、思わず返された毒舌の返答にイラっとして思わず反論してしまう。聞き逃した一人が説明を求めれば、同じく変なイントネーションになれている鷹司がサラッと解説。「イラッ!!」の波が広がっていく。


「き、気を取り直して。…お前が俺達を呼んだのか」

『イナオマエタチヲエランダワケデハナイソノバショニグウゼンイタダケ』

「否、お前達を選んだ訳ではない。その場所に偶然居ただけ…ってお前!」

『マズハヤスムガヨカロウクワシクハキュウソクノアト』

「何!?」

「おまっ…な、何を…」


光る球体が『まずは休むがよかろう。詳しくは休息の後』と言った途端に光の粒子が皆を包む。足元から駆け上がるように身体の周りを回って頭の先へ到達するころにはキズが全て消えていったが、それと同時に襲われた急激な睡魔にバタバタとその場に倒れていった。



**********



「…う~ん…」


あれからどれくらい経ったのか、眠っていた皆が1人、また1人と眼を覚まし始めた。


「あれ…此処…」

「部室?えぇっとそうえいば…」

「廃校舎で、逃げて上がって…」

「…そうだ!あいつ!」


薄暗い室内にボーっとしつつも現状確認していたが、眠らされた球体を思い出してハッとし、眠気がスッキリしたようだ。そこに少し離れたところから声がかかった。


『おはよう。よく眠っていたようだな。疲れは取れたか?』

「「「…!?」」」


ガバッと身体を起こして立ち上がれば、顔を声のした方に向けた。いつも食事をしたりする時に皆が集まる大きな机、その1つの椅子に人影があった。それはスッと立ち上がり、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。そしてその顔を確認して驚愕した。


「え、お前…」

「は、えぇ?ちょっとどういう事?」

「なじょして…お前…アコン?」

『いや。我は八月一日ホヅミアコンではない』

「何?だが、じゃあ…」

『先程、我はシステムであると言った』

「システム!?…え、あの球体だった奴?」

『そうだ』

「何で先輩の名前知っとるん?…此処に居ぃひんのに」


その容姿、背丈、声色まで、園芸部の部長「八月一日ホヅミアコン」その人だった。ただし、暗くてすぐ分からなかったが、本物の八月一日の髪色は金で瞳の色は紫だったが、目の前の人物の髪色は黒く、瞳は金色に輝いている。八月一日の装備品である眼鏡が無いせいか、同じ顔なのにとても冷たい印象を受けた。

従姉である鷹司でさえ一瞬分からなかったが、そいつはきっぱり「否」と返答。その後に続いた月野の質問に一度浅くうなづいてから口を開く。


『お前達の星を特定するために全員の記憶をスキャニングした。その時これの名を得た』

「スキャニング…って、俺たちの記憶を見たってのか!?」

『そういうことだ』

「ちょっと、プライバシーの侵害よ!?」

『我は人に非ず。ついでに言語能力も上がった。悪い事ではあるまい?』

「…って言うかその姿どういう事なわけ!?」

『これから帰還するにあたりこの船を操縦していかねばならない。そのため、この場所において最も力を発揮出来る姿を検索し、この人物を選んだ』

「チェンジ。変えろ」

『悪いがそうもいかない。此方にはこちらの事情がある』

「事情って…」


答えを持ってる目の前の人物を質問攻めにするのは仕方のない事だろう。このままでは細々とした疑問が何時間も続くと考えた“システム”は一度話を切る為に手を2回叩いて音を鳴らした。これは八月一日も話の流れを変えたかったりする場合に良くする行為であり、その姿もダブって皆が口を噤む。


『まずはこうなてしまった経緯を話そう。過去、実際に起きた歴史の物語だ。長くなるだろうが省略はしない。飽きたら席をはずしても構わないが後になって「聞いてないぞ」とは言わせない』


その言葉にゴクリとつばを飲み込む。その様子に薄らと笑み、スッと“システム”が手をかざすと、フワッと室内に灯りがともった。そうしてからクルリと身をひるがえして歩いて行き、先ほど座っていた位置に腰掛け、全員の着席を促す。

その後全員が椅子に腰を下ろしたのを確認してから“システム”は話を始めた。

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