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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
01 廃校舎・覚醒の章
21/146

01-14 和道部部長と漫画研究部副部長

「「…え?」」


当然のように驚いた2人は暫く固まったままだったが、鍵の近くに居た月野がそっと屈んで鍵を拾った。

花瓶が鍵に?どういうこっちゃ。


「これ…えっと…手品?」

「え?手品?…いや、ちょっと無理あるんじゃないですかね?俺たちに気付かれずに花瓶と鍵を入れ替えるなんて…人が隠れられそうな空間も、仕掛け施すスペースも無いっぽいし…」


月野の言葉に首を傾げてから守屋もおずおずと近づいてしゃがみこみ、床に手をついてノックの要領で叩いてみる。しかし床の下に空間があるような音はしないし、外れたりするような箇所も見つけられなかった。とりあえず、何かの鍵をゲットした。何処のだろう?とは思うが、2人とも鍵穴には心当たりがある。意識して見ないようにしていた棺の鎖だ。

棺…いや、木箱って事にしておこう。箱の中身は気になるが色々想像した後だと開けるのは恐い。男でも怖い物は恐い。最終的には覗きこむ事になるのかもしれないけれど、そうなった時に「先輩!お願いします!」なんて女性の月野にお願いするのは男としてどうなの?…と自問自答。守屋が動かなければならないのだろうな。だとしたらちょっとでも先延ばしにしたくて時間を稼ごうと考えてしまうのは小心者故仕方が無いだろう。許してくれ。


「…それよりもさすがは月野先輩。花に詳しいんですね」

「うん。昔からお花好きやったし嫌われる花にも理由がある。それを知ってくのも楽しいわ」

「なるほど。…あの、今更なんですけど、和道部って華道って事なんですか?」

「えっとな、うちの学校で活動してる和道部では華道、茶道、書道の活動が主やね。男の子は和道空手なんかもちょっと研究しとるみたいや」

「へぇ。日本伝統の総称みたいな感じッスか」

「間違うてへんと思うよ?…たぶん」


ぶっちゃけると詳しくは知らない。入部した時から和道部だったので何となくそう思っているだけだ。だから調べた事も無かったのだけど、このままでは部長として恥ずかしい。帰ったら詳しく調べてみようと考えている月野をよそに、守屋は腕を組んで大きく頷いた。


「和道…日本の心って感じ?何か良いっすね。空手にも派生するなら…今度コレをテーマに漫画でも作ってみるかな」

「和道…で漫画?」

「そうっス。俺はロボットとかのSF好きだけど、人気点狙うなら性別越えて幅広い層に需要のあるテーマを選ばないと。時代劇物は何気に女性に人気なんで、年代をずらして茶道とかから入って、空手家とか登場させて武道・格闘系…ついでに身分違いの恋とか取っ付けてもらえば行ける気がする。何か王道だけど」

「はぁ…何か良ぉ分からんけど、大変なんやね。漫画研究部も」

「絵を描くのは好きだし楽しいけど、今部長が女の人なんで、乙女向けの恋愛系をテーマにした物の作成ばっかなんッスよ。正直言って飽きました。でも筋肉が美しいイケメン男子で釣れば乗ってくれる気がする」

「フフッ、うちも格闘漫画は好きよ。諦めない心って、何かええなぁ」

「え!?ちょっと意外ッス!漫画読まないかと思ってました」

「うちのお父ちゃんが好きで良ぉ読んでてな、昔の格闘漫画が仰山家にあるんよ」

「あぁなるほど!…じゃぁ…」


結構昔から知り合っていたはずなのだが、意外にも今話が合う事に気づいた。今の状況を軽く忘れて格闘漫画の有名な部分を脳内で検索し、それを再現するように脳内で鮮明に描きなおす。その後で軽く真似るように前屈みになり、ポーズ付きで台詞を口にしてみた。


「「燃え●きたぜ…真っ白にな…」」

「!?」


真似たハズだった。色んなCMにも使われてる有名どころを選んで「コレ知ってる?」ってやろうと思って口にしたはず…いや、普通に真似したんだけど、何か誰かの声が被った。月野の顔にも驚きが現れている。慌てて声のした方を振り向いてさらに驚愕した。


「あ●たのジョー!!?」


守屋の直ぐ隣に有名アニメのキャラクターが居た。慌てて離れると、サッと物音もせずに掻き消える。守屋と月野はお互いの顔を見合わせてから再度キャラクターが出現した辺りへ視線を向けた。


「え?なんで?ホログラム??ってか2次元キャラが3次元にやって来たとか誰得!??」

「映像?…確かに薄っすら透けてたなぁ。でも…なんでいきなり?」

「分かんない…けど…」


自分の想像にリンクした?そんな気がした中二病大好きな守屋は、確かめるべく別のキャラクターを想像。そして再びポーズ付きで台詞を口にしてみた。


「「どんな問題も解決しちゃうぞ!美少女博士、眼鏡ちゃん!」」

「…え…」

「あ、こ、これは俺の予想の検証でマイナーアニメを選んでですね…」


仕掛けられていたのなら、マイナーアニメの振りに対応は出来ないだろうと思って選択したキャラ。その結果守屋と連動という予想を肯定するように、台詞に合わせてミニスカで露出度高めの色々アウトな大人男性向けの女の子キャラが出現。よっしゃ!とか思ってたら月野にドン引かれた。慌ててフォローを入れること数十分。


「つまり、守屋君の妄想とリンクしてるって事なん?」

「妄想…あ、はい。そうみたいッス」

「ってことは…どういう事?」

「…さぁ?」


いつもは穏やかな月野のはずだが、なんとなく視線が痛い気がする。選んだアニメが悪かった。

しかし時既に遅し。


「た、助けて…」

“もう!しょうがないなぁ。今日は特別だぞ”

「…くそう、眼鏡ちゃんを鮮明に描いてしまったら他の奴が出せないぞ?」

“あわわ!無理しないで?私が側にいてあげるから”

「嬉しいけど、悲しい。…え、ちょっと待ってよ?マジデどうすれば良いんだ?コレ」


さっきと違ってなかなか消えない眼鏡ちゃん。良い感じに会話が成立しているように見えるが、全部アニメの中の台詞で、恐らく守屋の記憶から勝手に再生されていると思われる。ある意味会話してるように見える高レベル腹話術?バレたら月野の視線が冷えるどころか軽蔑入りそうなので、黙っておく。


「コレは俺のせい…だよなぁ?どうやったら消せるんだ?」

“君が悪いわけじゃないよ。私は知ってるもん”

「……」

「すいません、月野先輩!コレどうすれば良いのか分かんなくて…」

“え?どっかいっちゃうの?嫌だよぉ。私を置いていかないで!?”

「…守屋君、女の子泣かせたらあかんよ?」

「すいません!ホンットまじでごめんなさい!…ってかもう分かんない!どうすれば良いんだ!?」

“おやおや?困っちゃったかな?そんな時は眼鏡ちゃんにお任せ!えーい!…(いろいろチラリズムするモーションをとる。が、派手な動きをして見せたにもかかわらず、最終的に眼鏡を外すだけという結果はアニメと同じで)…はい!コレを使って!?”

「…(どうしろと!?)」


眼鏡を差し出す眼鏡ちゃん。眼鏡ちゃんから眼鏡を取ったら何が残るの?なんて突っ込みもする気は起きずに、もう無言になるしかない。月野先輩ごめんなさい。思わず映像という事を忘れて差し出された眼鏡を受け取るべく手を出した守屋だったが、フッと手に乗った眼鏡の重さに「え?」と視線を手元に向ける。驚いて手元に視線を向けた守屋を見て、やわらかく笑った眼鏡ちゃんが軽くデコピンをした。


「痛っ…え。痛い?」

“困った時はいつでも呼んでね。待ってるぞ!”


映像と思った彼女のデコピンで数歩後ずされば、笑顔の眼鏡ちゃんもフッと消えた。


「…消えた」

「…女の子、消えたなぁ…」

「もしかして、距離…とか?」


最初の時も自分が離れたら消えた。眼鏡ちゃんも数歩動いたら消えた。妄想の映像を出してる時は、自分は移動が出来ないのだろうか?そんなことを考えながら眼鏡を受け取った手へ再度視線を移してみれば、そこにあったのは眼鏡ではなく「万年筆のキーホルダーがついた鍵」だった。



**********



「「…」」

「でな?眼鏡ちゃん、今思うとちょっと可愛えかなって…」

「サヨ、ありがとう。で、どうやって鍵開けたの?」

「あぁ、えっと、最初は1つしか棺見えへんかったんやけど、何かうちらの会話が食い違うてる部分があってな?守屋君の妄想を見せる力はキャラクターだけやのうて、物も映し出す事が出来て、それで棺が2つあることに気づいたんよ。で、他になんもおかしなとこ無いし、他にする事無かったから、うちの棺見せてくれてる間に自分で鍵開けたんや。守屋君の棺は、うちが鍵さしてあげたら見えるようなったみたいで、後は自分で開けたんよ」

「あのアホ!…月野先輩が穢れるわ!」


話をしながらも服の水気は飛ばす事が出来て、乾燥機にかけたようにホカホカになった。乾いた服を身に着けながら月野の話を聞いていたが、守屋の力のアホさに獅戸が腹を立てる。しかし月野は既に気にしていない様子で笑うのを見て、天笠も笑みを浮かべた。


「とりあえず良かったわ、サヨが独りじゃなくて。でも…九鬼君の叫び声っていうのは気になるわね」

「そうなんよ。一応教室出てから探そうと思ったんやケド、廊下に黒い棺が立っててな、怖くて良く見て回らんうちに上の階に逃げてきてしもて…」

「黒い棺…私達が入ってた和風のとは違うみたいだし、何なんでしょうね?いったい」

「分からんけどアナウンス聞いてたなら上目指すかな?って思て…」

「うん。変な所ですれ違うよりは良いと思うわ。ゴールが指示されてるんだもの。そこで待ってれば九鬼君も来るかもしれないし」

「そやね。大丈夫…よね。あ、もう守屋君呼んで平気なんちゃう?」

「…あぁ、そうだったわ!私声かけて来ます」


話に夢中になるあまりコロッと守屋を忘れた獅戸がハッとして手をたたき、身をひるがえして廊下を目指す。いつの間にか歌声は聞こえなくなってるが大丈夫だろうか?と思って戸を開けた。


「…何、してるの?」

「おぉう!?アンナもう良いの?」


守屋はそこに確かにいたが、獅戸も知ってる有名アニメの美少女キャラもそこに居た。話を聞いていたために能力による映像だとすぐに分かるが、守屋と美少女を見比べて、思わず無表情になってしまう。慌てた守屋が獅戸に近づいて言い訳を始めれば、美少女キャラクターはフッと消えた。


「こ、これはだな!力の詳細を知るためにどれくらいの距離で何体出せるかって確認をだな…」

「…ふーん」

「ちょっとやめて!そんな目で見る位ならいっそ「キモオタ!」って罵られた方がおいしい!」

「あんた馬鹿!?この状況分かってんの!?」

「分かってるよ!…一応。でも独りで暗い所は恐かったんだから仕方ないだろ!気を紛らわせるために「俺の嫁」召喚したって良いじゃないか!」


ギャイギャイと言い合いが始まった。こんな状況で無ければいつもの事で微笑ましいのだが、今はとりあえず上を目指さなければ。室内でそんなやり取りを見ていた天笠達も出入り口に近づいて声をかけようとした時だった。


『あ!!おーいキョウタロウ!』

「何だよ!?だからさっきも…ん?俺誰に呼ばれた?」

「…え?」

「どしたどした?何かあった?」

「あれ?な、何か聞こえるよ?足音…かなぁ?近づいて来るんとちゃう?」


4人していったん顔を見合わせてから廊下に顔を出して、次第に大きくなってきた走っているのだろう足音の方へ顔を向けた。何が来るのかと身構えるが、すぐに皆笑顔に変わる。


「アンナ!やっぱり居た!」

「あ!ミッキー!」

「ケイシ!?先輩たちも!」

「…どりあえず怪我も無ぇようだの」

「ホクトちゃん、サヨちゃん、アンナちゃん!それにモリヤンも無事で良かったー!」

「鷹司先輩に舞鶴先輩も!皆この場所に来てたんですね。そちらも無事で何よりだわ」

「あ、そや。九鬼君、うちら凄い悲鳴聞いたんやけど、平気だったん?」

「え?悲鳴?…(いつの悲鳴?心当たりがあり過ぎるぞ?)…だ、大丈夫です。ナガレ先輩に色々助けてもらっちゃって…」

「天笠、此処はお前達だけか?…雨龍や猫柳、恐らく草加も園芸部サ居たハズ…」


見知った顔に安堵し、廊下で抱き合って喜びだす。人数が倍になた事で安心感も倍増したようだ。しかしこれで園芸部の部室、またはその付近に居た人間が此処に来ている可能性が高くなり、冷静に分析していた鷹司が合流した別グループだった4人のなかでリーダー格と思われる天笠に質問をしていた時だった。


-ガラーン…ガラーン…-


突然鳴り響いた鐘の音。これは最初に聞いたアナウンスのような放送ではなく、何処かでリアルタイムに鐘が鳴っているようで、音に合わせた空気の振動が微かに感じられる。不安げに辺りを見渡す一同、その中で三木谷がハッとして視線を足元に落とした。


「何か…下の階から変なザワザワした音が…」


三木谷が言い終わらないうちに“ズンッ”と大きな音を立てて床が揺れた。地震かと思われたが、数メートル分“ガクッ”と足元が沈んだ後で床が傾き、止まる。突然の振動と浮遊感に悲鳴を上げつつも慌てて壁に手をついたり床に伏せてやり過ごしたが、皆が嫌な予感を抱いていた。


「まさか…木造校舎部分が潰れた?」


バランスが悪いと話をしていた三木谷のセリフを思い出して九鬼が呟けば、皆の視線が彼に集まる。誰も何も言わないが、可能性はあるだけに表情が硬くなる。


「…上だ。あのアナウンスば何処まで信用して良いか分からんが、下が潰されたんだどしたら、上サ行ぐしかねぇ。階段は…」

「こっち!…上り階段はこっちや。うちが案内する!ついて来て!」


此処で固まっていても仕方が無い。とりあえず行動するべきだと鷹司が口を開けば、既に一度上階に行っている月野が道案内を買って出て、一同は移動を開始した。

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