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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
01 廃校舎・覚醒の章
18/146

01-11 水面下、宙の上

…コレはきっと夢だろう。


いつ眠ったのかは分からない。


でも自分は今流れの無い水の中に居て、


水面を見上げている…と思う。


正直どっちが上か分からないけど、こっちが明るいからこっちが上。たぶん。


変なノイズの入った機械の声のアナウンスは、水の中に居る自分にまで届いてきた。


いつまでも起きない私に、誰かが覚醒を促しているのかもしれない。


ならばそろそろ起きなくちゃ。




ぼんやりと揺れる水面を眺めていた天笠アマガサホクト。此処は水の中だ。それなのに苦しくない。水泳部だからだろうか?こういう夢は過去に見たこともあるので特別な思いを今更感じたりはしないのだけど。

チラリと周囲に視線を移すが壁は見えず、反転して下を向くと…いったい水深何メートルあるのだろうか?ぼんやりと床が見える…気がする。照明器具か月なのか、スポットライトのように真っ直ぐ自分に落ちる光の中で、自分の影が重なるところに四角い箱が見えるのだが、何分薄暗くて詳細は分からない。再び水面を見上げるように反転させて、まるで真綿に包まれている様な気持ちよさに眼を閉じる。

薄暗い周りはちょっと不気味だけど、こういう夢も悪くないなぁ…と考えて居たが、いきなり誰かが飛び込んできて穏やかだった水面がいきなり波立ち、急接近したその人にグイッと腕を引っ張られる。慌てている暇も無く、直ぐに2人して水面から顔を出した。


「天笠先輩!大丈夫ですか!?」

「…およ?アンナちゃん?」

「あれ!?起きてました??…いえ、意識しっかりしてます?とりあえずプールサイドまで泳ぐんで!」

「…う、うん。分かった」


やけにリアリティー溢れる夢だなぁと考えたが、状況が飲み込めない天笠をよそに心配ばかりして彼女を引っ張っていこうとする獅戸シシドアンナ。きっとプールの中で漂っていた天笠を見て溺れているのだろうと判断し、助けようとしてくれたのだろう。とりあえず荷物になるわけにはいかないと、水から上がる為にプールサイドまで2人して泳いだ。

…それにしても大分距離があるぞ?いったい獅戸は何処から飛び込んだというのだろうか。夢の中だから何でもアリなのかもしれない。


「はぁ…はぁ…」

「大丈夫?アンナちゃん…こういうところはリアルに疲れるのね」

「リアル?…いえ、私は…だ、大丈夫ですけど…天笠先輩こそ…メッチャ沈んでて驚きましたよ?」

「うん、ごめん」


獅戸の長いツインテールは水を含んでしぼんでいる。呼吸を整える彼女の背中をさすりながら天笠は獅戸に苦笑いで謝り、水に濡れた前髪をかき上てげつつ辺りを見渡す。

見た事のない室内プール。先ほどの光はやっぱり照明だった。等間隔に5個の大きい照明が3列並んでいるが、中央にある1つは壊れているのか灯りが消えており、他のも点滅したりかろうじて光ってるといった弱いものが多く、高い天井と広い空間のせいで14個の灯りだけでは心もとない。その間にもゆったりとしたリズムで“ギィ…ギィ…”と音を立てて光が僅かに揺れる。恐らく風に揺られて照明が動いているのだろう。プールサイドの壁際の方を見れば、ガラス壁のその向こう側に身体を鍛えられるジムのような機器が並ぶ広めの部屋が見え、プールを見れば多分50mプール…だと思われるが、なんと言うか…正方形である。

…変なの。

隅に直径2mほどのビート版素材の円形の浮島が5~6個浮いているのが見えるがそれは特に珍しくも無いだろう。


「それにしても変な夢。やけにはっきりしてるし、こんなプール見たことも無いんだけど…もしかして、学校に50mプールがもう1つ欲しいなって言う願望が私に見せてる風景なのかしら?」

「え?コレ夢なんですか?」

「え?…夢じゃないの?」

「夢…だとしたら、誰の夢?私?それとも天笠先輩の夢?」

「…うーん…私は自分のだと思う…」

「でも先輩、私も自分の意識はっきりしてるんですけど…」


どういうことだ?こんがらがってきた。濡れた服のせいで僅かな風でも寒さを感じる辺りが夢では無く現実な気も起こさせるが、それでは水の中で平気だったのはおかしいのだ。獅戸にいきなりこんな事カミングアウトしてドン引きされたら困るし…思わず天笠は自分の頬を両手で叩いてみた。しっかり痛い。


「とりあえず…ちょっと寒くない?アンナちゃん。向こうの…ジムっポイ部屋の中のほうが暖かいかも知れないから、とりあえず移動しよ?」

「…うん。そうですね。…あ、入り口こっちですよ。私この部屋の中に居たんで」


獅戸の案内で部屋を移動。タオルか着替えが出来そうな物を探すが都合よく有る訳が無かった。服を脱いでからきつく絞り、気休め程度にしかならないだろうが広げて干し始める。ほぼ下着姿になってるが同性なので問題なし!女性同士でよかった。

その後で適当なものに腰掛けて今どういう状況なのかを話し始める。


「私はミッキーと園芸部の部室に居たんですよ。でも気がついたら此処に居て…」

「私も大体同じよ。サヨと一緒に部室に入ろうとしてて…」

「あ!月野先輩は顔出したの見ました。…そうか一緒に居たんですね」

「うん。舞鶴先輩の神社で縁日やるっていうから、八月一日先輩の車に乗せてもらおうと思って。…って、コレ夢なら起きれば元通りなのに、違うなら…どうしたら良いのよ…」

「ミッキーも何処かに居るのかなぁ?…あ、そういえば変なアナウンス流れましたよね?上の階目指すんじゃないですか?」

「え?…(確かに何か聞こえてた気がするわ。…でも夢だと思ったからすっかり聞き逃してた)…あまり良く覚えてないけど、此処に居ても仕方ないし、他の場所に誰か居るかもしれないから…移動してみましょうか」


服は広げたばかりだが、このままで行動は出来ない。湿ってる衣類が気持ち悪いけど仕方なく再び身に着ければ、ジムを出てプールサイドを歩く。暗くて何処にドアがあるのか分からないが、とりあえず時計回りに回っていけば、備え付けの低い飛び込み台の側の壁にドアを見つけて、2人は駆け寄った。が…


「…あれ?」

「?どうしました?天笠先輩」

「開く…のに開かないわ」

「??」


天笠が何を言ってるのか分からなかったが、彼女に代わり外開きのドアノブを握って開こうとして違和感を覚えた獅戸。

鍵は掛かっていない。ノブを回せば小気味良い音と共にロックが外れる感触もある。そのまま押し開けば良いのだが、腕が先に進まない。ドアの向こうに何かがあってつっかえているという訳では無いようで、勢いをつけて押してやれば10cm程開くのだ。しかし重たい扉は直ぐに戻ってきてしまうし、腕が伸ばせないので支える事も出来ず、外の様子も伺えない。


「…どういうこと?」

「分かりません。でも…何かある…って事ですよね」

「別の出口があるかもしれないわ。アンナちゃん、探してみましょう」

「はい」


コレが現実だと言う方が難しいような気がする現状に、ここで眠れば夢から醒めて元通りになるんじゃないかという考えがよぎるが、あまりのリアルな感覚に夢だと断定する事も出来ない。少し不安を感じながらも別の道を探すために天笠と獅戸はプールの周りをグルリと回って調べるが、結局先ほどのドア以外の出入り口は見つけられず、風が吹き込んでいる事から窓があるかもしれない上階に登る階段や梯子も発見出来ないまま唯一のドアの所まで戻ってきてしまった。


「どうしよう。何で出られないの?…先輩、どうしよう!」

「大丈夫!…落ち着いて。大丈夫よきっと。何か見落としてる物があるんだわ。きっと何か…」


不安が膨らむ獅戸を落ち着かせるように、そして自分に言い聞かせるように「大丈夫」と繰り返す。

見落としているもの、と考え込んだ天笠はハッと顔を上げて視線をプールに向けた。


そういえば、獅戸に助け出される前に変なものを見た。

水の中に沈む箱、アレに秘密が隠されているかもしれない。


プールを見ていた視線を獅戸に戻して、彼女の両肩に手を置いて覗き込むように顔を見つつ、口を開く。


「アンナちゃん、私、水の中に変な箱があるのを見たわ」

「…変な箱?」

「えぇ。このプール、水深が結構あるみたいで良く見えなかったんだけど、木箱…みたいなものだと思う。普通プールの中にそんなものあるわけが無い。ならば、何かヒントが隠されてるのかもしれないじゃない?…だから、潜って見て来るわ」

「え!?…でも、何の道具も無いのに…」

「心配しないで、調べるだけよ。沈んでるって事は浮力があっても引き上げるのは難しそうだし、無茶な事はしないわ。それに私は水泳部部長なのよ?先輩を信じなさい!…ね?」

「…はい」


明るく笑う天笠に釣られるように獅戸も笑みを返せば、満足そうに頷いて一度獅戸の肩を叩いてからプールに向き直る。既に濡れてる服だけど、水中で動き難くなると困るので再び脱いで軽くたたみ、膝ほどの高さの飛び込み台の上に置く。その後で軽く手と足を回してから、綺麗なフォームで水の中に飛び込んだ。



**********



天笠を見送った獅戸は、視線をプールからその上…頭上の照明に移す。


「木箱…あれも、木箱…だよね?」


獅戸が見上げる視線の先。灯りの切れた中央の照明。プールのほぼ中央上空の照明があるべき空間。しかしその先にあるのは電球ではなく、吊られた木箱だった。固定してあるのだろう鎖でグルグル巻きのそれは長方形で、天井付近にあるそれは本来なら床からでは暗すぎて見えない。今も瞳にはまったく映っていないが、獅戸は天井に箱が吊られているのに気づいていた。


「アレにもヒントが隠されているのかな?」


この空間で眼が覚めて、アナウンスを聞いた時は恐怖が身体を支配していた。何故自分がこんな事に…と理不尽な状況を呪ったりもしたのだが、部屋を出てプールの中に天笠が沈んでるのを見て、恐怖も不安も全て吹き飛んでしまった。

“助けなくては”

その思いで駆け出し、プールサイドを蹴って水に飛び込もうとした時だった。


“フワッ”


ほんの僅かな助走と全力の踏み切り。そしてその1歩でプールのほぼ中央に居た天笠の側まで跳んだのだ。その距離、約20m。

驚いた。コレは夢なのか?と獅戸も思った。体が軽い。しかし変に引っ張られる感覚もないし、夢の中だと走ろうとしても上手く前に進めない…みたいな問題も無かった。なのですんなり「自分の力だ」と受け入れられたのだ。タイミングを見計らっているうちに天笠の「夢」宣言により…夢?なのかも?…と意志が揺らいだ結果打ち明ける機会を完全に逃してしまったのだが。


そしてその時に近づいた天井からぶら下がっていたもの。

木箱…というよりは棺だと思われる物。

正直言えば近づきたくない代物であるが、しかし…


「よし。まずは自分に何が出来るのか確認してみよう。それから天笠先輩が出てきた時にこの力について相談して、上の箱のことも話してみれば良いかな」


1人残されて少し怖い。しかし天笠は獅戸のために一人で潜ったのだ。ただ何もせず突っ立っているのは申し訳ない。自分の行動プランの方向を決めれば、先ほど一周したプールサイドを見る。1辺約50m、この距離を今の自分は何秒で駆け抜けることが出来るだろうか?今なら自己ベストどころか、世界新記録だって夢じゃないかも。ストップウォッチが無いのが悔やまれる。


「夢…の方が良いのかしら?でも…まずはこの状況を打破するために、自己分析よ。陸上部副部長の座は伊達じゃないんだから」


もともと頭脳を使うよりは身体を動かす方が好きな獅戸。自分自身に気合を入れてからクラウチングスタートのポーズをとって床を蹴った。

1章が終わったらあらすじを書き直そうと思います。

予定だと1章以降はあまりお化け系の話出ないかも知れない。

…ホラータグは、外すべきかなぁ?

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