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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
01 廃校舎・覚醒の章
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01-08 お化けの片割

不気味なアナウンスが終わった後もその場で茫然と立ち尽くしていた舞鶴マイヅルチアキ。内装から音楽室だと思うが当然自分の知る学校の物ではない。

直前まで部室の庭で鷹司達と野菜の様子を見ていた…と思ったのに、気が付いたら此処に居た。

…どういう事?


「あ、あれぇ?…落ち着け俺。…これはあれか?ラノベで良くある「異世界へGO★」みたいな?…いや、まてまて。こんなファンタジー脳はモリヤン(守屋キョウタロウ)だけで十分だっつーの」


置かれた状況が分からない。とりあえず現状を理解してみようと努力しつつ、近くにあった椅子に“カタッ”と小さな音を立てて腰かけた。室内には唯一の出入口と思わしき引き戸が一つ。その隣にグランドピアノ、それとは反対の壁際は雛壇になっていて、自分は雛壇の上から2段程下の層に居る。

そして何より目を引くのが、グランドピアノの上に置いてある、鎖が巻かれた木の箱。雛壇の上に居る事もありちょっと目線が高いことから天面が見えるが、これはあれだ。お葬式で良く見るアレ。神社が実家という事もあり、結構なじみがある見なれたそのフォルム。…あまり嬉しくない馴染みだけど。

膝の上に肘を置いて、頭を抱えるように前かがみになる。


「…悪戯?ドッキリ?…此処まで完全犯罪っぽく実行できる天才が俺の悪友に居た…か?…ま、まさか神社の息子ポジ(ポジション)能力が今になってきてきたとか!?霊感なんてこれっぽっちも持って無かったのに唐突に発揮されて…いや、だからこんな非現実的な考えはモリヤンだけで…」


頭を抱えてブツブツと小声で可能性を唱えては却下を繰り返していたが、唐突に“ガタン!”と大きな音を立てて机が一つひっくり返った。


「…!?」


当然こっちも驚いた。意外と近い位置の机だった事もあり、とっさに反射で立ち上がれば勢いで座っていた椅子もひっくり返る。しかし自分で倒した椅子は放置して、勝手に倒れた机に恐る恐る近づいて手を伸ばし突っついてみた。


「え…ちょっ…何だよ…これはあれか?マジで霊感えてきた…とか?」


心臓がヤバい。鼓動が早鐘のように鳴っている。思わず小声で驚きの声をあげながらチョイチョイと触ってみてもこれ以上は動かない。とりあえず元の位置に戻してみるが、再び動き出す気配もない。いったい何だ?…と思ったところで“ガラリ”と入口のドアが開いた。


「!!?」


今度は何だよ!?と、思うが驚きで声が出ない。が、すぐにハッとして


「そうか!悪戯の仕掛け人は外に居るんだな?…俺の様子見て面白がってるに違いない」


そう思えばツカツカと出入り口に近づいて手を伸ばす。驚かされてばかりでは面白くない。何か仕掛け人にも仕返しがしたい…と思って一度思いっきり閉めてやった。

その後で出て行こうと再び開くが


「…あれ?…何か…ある…の?」


出られない。壁によって行く手を阻まれているような感じではない。廊下は続いているはずなのに手を伸ばしても触れるものは無い。しかし外に出る事が何故か出来ない。何か仕掛けがあるはずだと、戸を開けたり閉じたりを繰り返してみていた所で“カタッ”と音がして僅かにピアノ椅子が動いた。


「…やっぱ、何か居る…」


薄々感じてはいたが、やっぱり気のせいではないと思う。悪戯で本当に誰も居ないのだったら、こんな存在感は感じ無いだろう。こちらが1歩踏み出すと、逃げているのか誘っているのか音が移動していくのが分かる。


「何だよ…も、もしかして誘ってんの?…よし、受けて立とうじゃん!」


恐怖を紛らわせるために軽口を叩いたりしてみるが、この行動の結果リアルタイムで女の子を泣かせているとは勿論気付いていない。あっという間に雛壇を登り、追い詰めた…のか分からないが…ら、今度は窓がいきなり開いた。一筋の光も入ってこない窓の外の暗闇に違和感を覚えて、舞鶴も視線を向けて外を凝視し。


「…(あれ、全く光が入って来ないなんておかしくない?いくら暗くても風くらい入って…)…?……っ!はぁ!?!!?」


たとえ田舎の夜中でも、星の明かりとかが僅かに光を落とすだろう。そんな事をチラリと考えていたが、思考は突然ギョロリと覗いた瞳によってぶった切られる。


「え?何だこれ?目?壁…じゃなくて窓に目?悪戯…手が込み過ぎてんじゃないの!?目が付いて良いのは障子しょうじでしょ!!?」


お化けとか幽霊とかは認めたくない。正直言って恐い。一般人にはホラー現象に耐性がある奴は少ないんだ!むしろこんなのが平気、大好物!な奴なんてリアルに居るはずが無い。…と思う。たぶん。

目の前で起こる不可思議な現象、しかしそれでも人が作ったもので有ってほしいという思いは曲げられない。

…認めたら負ける気がする。というか、何を言ってるのか分からなくなってきた。

とりあえずこのままでは不味い気がして、タッと窓に近づくと“ピシャン!”と全力で窓をしめた。鍵ロックも勿論忘れない。


「……」


どうしよう。何だか理解出来なことが続いて何すれば良いのか分からなくなってきた。冷や汗かきながらも、とりあえず窓からは離れてバクバクいってる心臓を落ち着かせるために深呼吸。その後少しだけ雛壇の上や反対の壁際を調べてみたが、これといって目ぼしい物も見つからなかった。


「やっぱアレが…気になるかなぁ…」


そう言って視線を向けた先にはピアノ…の上の棺。窓を開けたらビックリ箱!とかになってそうで開けたくない気持ちが半端ない。しかし、これがドッキリや悪戯の類ならば、引っかかってやらなければ終わらないのかもしれない。そうグルグル考えながら、ピアノの周りをグルグルして。


…どれくらいそうして居ただろうか。時計も無いのでどれくらい時間が過ぎたか分からないが、無音状態が続いたせいで耳鳴りがしてきた所で一度大きく息を吐き出した。


「落ち着けチアキ。此処は男を見せる時だ」


小さく呟いて気合いを入れれば、ゆっくり手を伸ばして棺の窓の蓋に指をかける。観音開きの窓の片側をバッと勢いよく開いてからサッとピアノの陰に隠れて身構えて


「…あれ?何も起きないっぽい。何か出てくるかと思ったのに…」


ビックリ箱なら何か玩具が、そうじゃないなら音とか光とか漏れだすかと思ったが期待を裏切って何も起きない。恐る恐る姿勢を戻して、窓の中を覗き込み


「…?…!え、嘘だろ!…ミッキー!」


誰かの変わり果てた直視出来ない姿だったらどうしようとか思っていたが、再び期待は裏切られた。そこに横たわっていたのは良く知る人物、同じ部活の三木谷だったのだ。悪戯だとしても度が過ぎている。棺の中が密閉された空間だとしたら命にもかかわるではないか。もう片方の窓も開けてから舞鶴は慌てて鎖をはずそうと「ト音記号」が彫られている南京錠を握り、思いっきり引っ張ったりしてみるが、やはりというか当然というか、びくともしない。


「なんだってこんな…ミッキー!おい、大丈夫か!?」


棺を叩いて覚醒を促そうとした時に“カシャン”と小さな音がピアノの下から聞こえてきた。何か居る?それとも罠とか…なんて考えたのも一瞬で、スッと身をかがめてピアノの下を覗き込んだ。



**********



「先輩!舞鶴先輩!!」


三木谷は突然現れた人物に驚きはしたが、安堵の方が大きかった。舞鶴の名を何度も呼ぶが、どうも様子がおかしい。


「何もない…のか?…音がしたと思ったのに、気のせいだったか…」

「先輩、舞鶴先輩!…聞こえてないんですか!?」

「それよりもこっちだ。どうやって開けてあげれば良いんだ?…道具…になりそうなものも無いし…」

「先輩!先輩ってば!!…あれ?もしかして見えて無いの?」


会話がかみ合わないどころじゃない。こっちを見たと思った舞鶴の眼の焦点は三木谷に合わず、そのまま再び立ち上がって彼の顔は見えなくなってしまった。やっぱりまだ舞鶴は三木谷が見えていないと判断するには十分の言動に、とりあえずグランドピアノの下から這い出し、どうやって気付いてもらおうかと考え始める。


「…私は声に気付いたわ。でも私が呼んでも届いてないみたいだし…」


涙をぬぐって舞鶴を見る。彼が何かしたわけではないけれど、心細かった時に現れた知人の存在は彼女の心を救ってくれた。今度はきっと自分の番だ。


…いったい彼に何をしてあげられるだろうか。

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