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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
03 朱眼の魔王・碧眼のサソリ
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03-68 新しい身体という名の贄

…あぁ、駄目だよ。

まさかそう行動するとは思わなかった。

助けたいと思ったのは本当。でもどうせもう終わるからという気持ちもあった。

今でもあれは最良の選択だったと思う。


けれど…


ごめん、ごめんな。

罪を犯させるつもりじゃなかったんだ。



**********



小さく聞こえたうめき声が自分のモノだと気づいて薄っすらと目を開ける。きれいな白い天井だ。土壁ではなく、木…いや、壁紙が貼ってあるのだろうか。


「目が、覚めたか?」


声をかけられて視線をそちらへ向ければ、傍に座る同じ顔。少し前に比較的頻繁に顔を合わせていた船長だ。

彼を見て八月一日は、どこかのベッドに寝かされていたんだと把握した。


「君が居るってことは…ここは部室かな?…こんな綺麗な部屋、あの砂漠の町にはなかったからね」


八月一日の言葉にはゆっくり頷いて肯定する。それを見ながら上体を起こし、久しぶりに触るフワフワの寝具が気持ちよく、まるで猫でもなでるかのようにそっと手を動かした。


「食事は…できないのだったな。何か飲むかい?」

「…いや、大丈夫。…ほかの皆は?というか、今何時くらいなんだろうか?」

「八月一日アコン、君が運び込まれてから目を覚ますまでさほど時間は経っていない。ただ、もう少し早く目覚めれば全員集合していたという事実は報告しておく。…それにしても、睡眠もとれないと言っていなかったか?」


少なくとも鷹司は心配から側にいるかと思ったが、この部屋には船長と八月一日の2人だけ。改めて室内を見渡せばシンプルなワンルームで、どこかに隠れているというわけでもなさそうだ。

本当に彼が目覚める直前までこの部屋には全員が集まっていた。いつもの仲良しメンバーで、唯一難を逃れ地球にいると思っていた人。その園芸部部長が何らかの理由で世界を渡っていたと知り、みんなが心配して無事を確認したがったのだ。しかし今は日中で、働かなければいけない時間。こんな時くらい仲間優先にしたい一同であったが、自分たちを待っているお客がいるのも事実なわけで。

最後まで鷹司は八月一日のそばに残りたいと言っていたが、目が覚めた彼が鷹司を見てなんと言うかという船長の言葉で渋々と部屋を出たばかり。不思議そうな八月一日に少し前のこの部屋の様子を簡単に説明してあげれば、単純にタイミングが悪かっただけだと理解して、なんとなくホッと安堵の息を吐き出す。しかし後に続いた睡眠の質問には八月一日も腕を組んで考え込む素振りを見せて。


「うん、そのはず。だからさっきのも睡眠じゃなくて、気絶、失神に入ると思うよ」

「…あぁ、なるほど。して、その理由は?」

「それが分からなくて。今までも貰った力で植物をある程度操作して来たはずなんだ。でも、今回みたいにふらつくなんて事なかったし、ましては気を失うなんて初めてだよ」


感じた違和感と疑問を口にすると、船長も顎に手を当てて何やら考え込む。しかしそれほど間をあけずに再び口を開いた。


「記憶を見た限りでは、魂に埋めた種を使っていたな」

「うん。ある程度植物の構造も改造することができるみたいだけど、大きな変化はつけられなくて。貰った種なら自分の思う通りの植物に成長させることが可能って分かってたからね」


最初に出会い、別れた時に貰った種は何も持たずに世界を旅する八月一日にとって大切な切り札となっていた。自分の感覚と鮮明につなげることができるそれは、自分が思った通りに成長を遂げる。主に蔦、蔓系の植物にして広く浅く伸ばしていくことで広い範囲を自分の監視下に置くことができるのだ。

ただ、1つの世界で1度きりという回数の制限はあるが、使いどころを間違えなければかなり有力な武器になる。

シンのときに一度使っていたのだが、死んで体が移ったことで種が復活していたのだ。なれば使わない手は無いと、迷うことなく選んだ結果。

そんなことを思い返していると、記憶を見たはずの船長から思いがけない言葉をかけられた。


「実験を繰り返していたのか?」

「うんそうだよ…って、見たんじゃなかったの?」

「我が見れるのは媒体に記録されたデータのみ。今の八月一日アコンの肉体には、元の体の主の記憶がほぼすべてを占めている」

「…え、ってことは…君が見れるのは脳に書き込まれた記憶なわけ?俺が世界を飛んできた記録は一切見ることができない、と?」

「そうだ。世界を旅した過去、それは八月一日の魂に刻まれた記憶。データを保管する部分に我は接触出来ない。今ではその時のことを思い出してもらうなどして、脳裏の映し出してくれれば把握も可能だが」

「じゃあ…この身体の前はシンという眼帯奴隷だった。あの時の記憶は…一度握手したしもう見ちゃったと思うけど…今の時点では見ることができないの?」

「そうだ。それに、シンの時は部室に入らなかった。そのためあの時の記憶は把握できていない」

「でも乗組員は部室に手先を入れるだけでもデータが読めるって…あぁ、俺は正規のメンバーじゃないからか」


一応メンバーとして乗せてくれはしたのだが、それは魂の一部のみと設定されてしまったようで。せっかく合流できたのに乗船できなかったり、外部の人間のように記憶を見るときは部室に入って船長が触れるという手順を踏まないといけないといった制約が発生してしまっていた。船長に聞けば色々な謎が解決すると思っていた八月一日は思わず長い息を吐き出す。


「…なんてことだ。じゃあ、俺の力も、倒れた原因も詳しくはわからないって事なのかな?」

「力自体は予測できる。おそらく持っている力は2つ、1つは遺伝子レベルに干渉が出来て仕組みを操作し、生体を作り変える力。主に植物に有効。そしてもう1つは微弱電流を操り細胞に干渉する能力だろう」

「微弱電流?…あそうか。だから治療回復促進ができたわけだね」


遺伝子レベルの干渉には何となく心当たりがあった。植物を成長させるときに軽く触れて成長速度を大幅に上げたり、本来ふつうの茎植物だったものに蔓のような部分をつけ足したりと改造したことがあったからだ。しかしもう1つは普通に植物を操ることだと思っていたが、手足のように動かしたことは今までないし、植物を成長させる方向を変えるにしても、例えば右側の細胞の成長を促進させれば左側に曲がるといった具合で操作をしていたのだと納得できる。


「倒れた原因も憶測にすぎないが…」

「いいよ、言ってみてよ。こんなの相談できるの君しかいないんだし」

「おそらく。あくまで「おそらく」という考えの範囲であるが、魂に打ち込んだ種を使ったからであると考えられる」

「…え?でも、種はほかの世界でも使ってたよ。成長を促して1つの国の地下を網羅したことだってある」

「それはどれくらいの期間をかけて広げたものだ?」

「え?…確か…あれは放置していたら種が勝手に広がって…。もしかして」


ここで気づいた。ほかの世界では必要に迫られても「部室がつながるかもしれない」という理由でここまで大きな事をしたことがなかった。種は大地に埋め込んでも放置していた世界も多く、そういわれると一気にあそこまで成長させたのは過去に例がない気がする。


「爆発的な成長に原因があるって事?」

「可能性はある。種を保管していた場所は八月一日の魂の中。種を持っているときに見たわけではないから正確なことはわからないが、種である以上それ単体でもある程度成長する能力があると推測できる。それなのに今回は強制的に成長させてしまった。…確かほぼ3年で世界を渡ると言っていたな?植物の成長がその期間に干渉してしまったのではないか?」

「…3年の寿命を植物が吸ってしまったって事か。ということは…俺に残された時間はもう無いかもしれないってわけね…。…せっかくまたこの世界の、しかもかなり近くに降りられたというのに。次も期待するしかないのかな?…あ。そういえば、世界を渡って体を貰うとき、必ずと言っていいほど名前が似通ってるんだけど、理由わかる?」

「名前?例えば?」

「えっと、最初の世界はジンだった。次がジュン、その次もジュン、次がジャンって来て…。…で、今回シンでしょ?俺の名前のアコンじゃなくて、まったく関係ない名前に引っ張られてる感じがするんだけど。たまに長い名前になったとしても、愛称や略称がジュンだったりジャンだったり。何なんだろ?」


せっかく痛い思いをして体を変え、この世界にとどまったのに。ここでふと世界を渡る旅に考えていた疑問を口にすると、一瞬船長の表情が緩んだ気がした。しかしもう一度しっかり見ようとした時にはもとに戻ってしまっていて、勘違いだったかと首をかしげる。そんな八月一日を見て、今度は船長がクスリと笑った。


「では、まったく関係ない名前は今が初めてか?」


一瞬「何が?」と問いかけたが、よくよく考えてからこちらも苦笑い浮かべてうなづいた。


「…そうだね。ジュンでもなく、ジャンでもなく。“ガスパール”って名前は初めてだね」


1度降りた世界にもう一度降りるのも初めてだけど。

部室がつながった世界で、彼らと接触していて。1つ目の肉体が死ぬときに誰かがその世界で死んだ場合、その体に移動できることが分かった。

距離が近かったからなのか、自分が殺した相手だからか、部室の引力にひかれた結果なのかはわからない。

けど皆を置いて逝くことは決してないのだと分かっただけで救われた気がした。

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