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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
03 朱眼の魔王・碧眼のサソリ
134/146

03-62 13人目

濃い時間だった一夜が空けて、空が白み始めた頃。

事件があったあの建物ではアルトゥーロ率いるグループがやっと後処理を終えている頃だった。眠気にショボショボする眼を擦りながら、作業を続ける男達が会話をしている。


「それにしても、今回は何故か疲れたな」

「あぁ、いつもの掃除任務のとき程動いていないはずなんだが」

「色々不可解な現象も起きたしなぁ」

「そうそう、そういえばさ、反乱を起こしたチームの1人が消えちまったんだろ?しかも重態だったのに」

「あぁ、外出てみろよ。大量の血のあとがまだ残ってるぜ?」

「何処行っちまったんだ?重症と見せかけて、実は大丈夫だったとか?」

「まさか。アルトゥーロ様も見て居たんだぞ?…たぶん仲間が持っていったんだよ」

「だがいったい誰が?ほとんど今回ので捕まっちまったじゃないか」

「俺が知るか!…それと、そいつを重態にした眼帯奴隷、何でも両目が揃っていたそうじゃないか」

「眼帯奴隷?昨晩首をはねられた奴?」

「だが、俺が確認したときは隻眼だったぞ?」

「それが、切ったすぐ後は抉られたはずの眼が復活して経って話だよ」

「誰だよそれ言ったやつ、勘違いじゃねぇの?」

「アルトゥーロ様だって確認している…はずだよ?」

「じゃあお前聞いて来いよ。遠くから聞いててやるからさ」

「嫌だよ!言えるわけ無いだろ!?」


軽口を交えながら途切れない会話。それに水を差すように、別の人間が近づいてそっと声をかけてきた。


「あの、すいません」


声をかけられてやっとその人物の接近に気付いたようで、揃ってその人物へ視線を向けてからお互いに顔を見合わせる。


「何だ?俺達に何かようか?」

「はい。歓談中に失礼します、俺はマッサージ屋の関係者なのですが。昨晩処刑された奴隷の首を、貰い受けに参りました」


返事を得られるとホッとしたように軽く会釈をして挨拶をする。右腕を抱えるように腹部で腕を交差させて立っていたが物腰は柔らかでゆっくりと腰を折るその動作は何処か妖艶に思えた。それでも声色は低く男性のもの。頭に布を被っているので顔は見えず、すぐに用件を言うために口を開く。しかしその内容は下っ端である男達が判断をするには難しい問題で、再び仲間で顔を見合わせてから代表して1人が近づいてきた。


「知ってると思うが、罪ありとして処刑された奴隷だから今日は1日晒されるんだ。だから主の元に返るのはまた明日になるんだが」

「はい、罪を犯した眼帯奴隷はそうなるのが決まりですが、今回の事件に被害者が居ないのでしょう?ならば罪人として晒す事は出来ないのではないかと思いまして」

「…確かに。言われて見ればそうだ。罪を犯したという証拠となる者が居なくなった訳だから…」

「晒す行為をせず返してもらえないでしょうか?」


この男の言い分も一理ある。首はまだ移動していないので保管してあるはずだがら返すことは簡単だ。だがやはりアルトゥーロの許可が必要になるわけで。


「俺達の一存ではなぁ…。責任者のところへ案内してやる、今言ったことをもう一度そのお方に説明するといい」

「分かりました。ありがとうございます」


案内を申し出た男は「言う事が出来るならな」と後に台詞をつけたくなったのを我慢して、先導するために身を翻した。その後を歩いていきながら、案内されている人物は失礼の無いようにとソッとフード代わりにしていた布を方に落とす。

穏やか眼差しは紫色の瞳を宿し、くすんだ金色の髪の毛を熱を帯び始めた朝の空気にひらりと舞った。



**********



「…おはよ、早いね。…眠れなかったの?」


ところ変わってこちらは部室。朝の気配を感じて2階から降りてきた舞鶴が、すでに1階に鷹司が起きているのを発見してそう声をかけた。そばに当然ながら船長もいて、湯気の立つカップを手に持っている。そしてそれを鷹司の前においてから、船長は舞鶴に声をかけた。


「何か飲むか?」

「あ、うん。お願いできる?…何があるの?」

「部室内にはコーヒーと紅茶、あとは緑茶が用意されていた。鷹司ナガレはコーヒーを選択した」

「じゃあ俺もコーヒーで。ありがとね」


コクリと頷いてから出てきたばかりのキッチンの方へ歩いていく船長を見送って、鷹司のそばに舞鶴は腰を下ろした。


昨晩は雨龍と天笠がもたらした「月野と草加失踪」の情報に屋敷に待機していた皆も戦慄した。そこへ深夜時間帯になって漸く帰ってきた仲間が血で真っ赤に汚れていたものだからその驚きは半端じゃない。

一連の出来事を話してもらってもなかなか素直に納得できず、もらい受けた屋敷よりは船長の保護下にある部室の方が安全で安心できるという意見もあり、夜中に全員でこちらへ移動してきたのだ。

そして寝る際には1人だと今は不安で何だか怖いという声もあがった為に2階部分の共同スペースでみんなして雑魚寝したのだが、寝入るときに鷹司が横になっているところは見なかった。

もしかしたら彼は眠れなかったのかもしれない。


「ちゃんと眠れたの?」

「俺もさっき降りてきたばかりだ」

「でも…タカやん、本当に大丈夫?何だか酷い顔してるよ」

「平気だ」

「そう…なら良いんだけど…。リッヒーもサヨちゃんもまだぐっすり寝てるよ?」

「…草加はわんつか前に寝入ったばかりだ」

「…。今日はお仕事、休ませてあげないとね」

「あいづは大会参加者だ。あど腕輪が3本残ってるが…メンバーも2人欠けてる状況だ、何とがなんねぇもんか…」

「そうだった。あぁ…あと3本か。いっそのこと捨てちゃえば?」


無責任な舞鶴の言葉ではあったが、それも良いかも知れないと考えながら鷹司は暖かいコーヒーを1口飲み込んだ。熱が広がっていくとホッと安堵の息を吐き出してゆっくりと眼を閉じる。

そんな様子の鷹司はそのままに、新たなカップを持って再びやってきた船長がコーヒーを舞鶴の前に置くと彼は笑って感謝を述べた。


「ありがとうセン。やっぱり水の問題が無いってすばらしい事だね。毎朝安心して水が飲めるし、毎晩お風呂に入れるし…」


少しでもあかるい空気を作りだそうと必死に言葉を選んでいく舞鶴。だが、そのときだった。


“コンコン”


「それに…って、え?」


突然響いたノックオン。音の出所は唯一の玄関であり、外界へつながる扉から。

しかし今、メンバーは全員部室内に居るはずである。バッと顔を見合わせた舞鶴と鷹司、そしてその間にももう一度ノックオンが響く。


“コンコン”


「我が対応しよう」


腰を浮かしかけた鷹司をセンがとめて、扉へとゆっくり近づく。身長にドアノブに手をかけてから少しうつむいて眼をつぶった。恐らく外を探っているのだろう。

残された2人の間にも緊張が走り何か武器になりそうなものは無いだろうかと探してみるが、動き出す前に船長が扉をゆっくり開けてしまった。


「待て馬鹿!」

「ちょっと何してる…」


例えばちょっと遊びに入った子供が偶然目隠しの布をめくってしまったとか、そういった感じで現地の人が「何だこれ?」と思ってノックしたのだと考えていた2人は慌てて止めようと扉に駆け寄る。

しかし違った。

そこに立っていたのは確かに外の人間だったけれど…


「やぁ、おはよう。少し訪れるには早かったかな?って思ったけど、起きてる人がいて良かったよ」

「…え…船長…じゃないよね…」


船長と瓜二つの容姿。くすんだ金髪に紫の瞳は船長のものより大分優しげである。彼こそこの部室、園芸部の部長である八月一日アコンだ。だが突然の登場に信じられないのもまた事実で思わず絶句してしまった鷹司と舞鶴を見て少しだけ困ったように笑った。


「俺に会えると思わなかった?…それは俺もさ。此処で会えると思わなかった。だから、話そう?言いたい事、聞きたいことが沢山あるんだ」


そういいながら手に持っていた荷物を足元に置いた。そこで初めてバスケットボールほどの大きさの荷物を抱えていた事に気づいたほど彼の登場が衝撃だった。


「まずは、入っても良いかな?」


反応が返ってこないけれど、辛抱強く待つ八月一日。

思考回路が昨晩からの疲れと驚きによってショートした鷹司は、この部屋の主なのに入室に許可を求めるなんて、何だか滑稽だな。なんてどうでも良いことを考えていた。

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