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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
01 廃校舎・覚醒の章
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01-05 ハートの鍵

動き出した人体模型は再び瞬きをした。

流れる光が身体を廻る血液を再現。

膨らんでは萎む肺は、まるで宇宙で戦争する映画の黒ヘルメットさんみたいな音をさせながらも、呼吸を再現し始める。


“ドクン…ドクン…”


そして、何気にリアルな音をさせながら心臓が鼓動を始めた。


「…動いたな」

「そうですね…(なんか微妙に変な所がリアルで恐いんですけど)…で、どうします?」

「うむ…。…ん?」

「…?どうしました?」


何かを見つけたらしい鷹司の反応に様子を尋ねるが、九鬼の質問には答えずにスッと手を人体模型へと伸ばしていく。力強く鼓動を刻む心臓へ鷹司の指が触れた時だった。


―ピカッ!―


いきなり人体模型が光を放った。


「なっ!?」

「うわっ!」


2人してとっさに目を瞑り光から逃れるように顔をそむける。光は一瞬で消え去ると同時に、何かが床に落ちたのだろう“カシャン”と乾いた音が鳴った。


「な、なな、何か音しましたよ!先輩!」

「分かってら!…っち、眼がやられた。なんも見えね」

「どうしましょう先輩!…あれ、何処?何処ですか!?」

「こっちだ!…慌でるな。なんも見えねんだ、音で判断すらしかね。静がにしてろ」


薄暗い部屋での突然の光。それを至近距離で受けた2人は眼をつぶされて、パニック状態になった。あわあわオロオロと動き出そうとした九鬼を寸前の立ち位置からこの辺!と適当に手を伸ばした鷹司が幸運にもひっ捕らえ、互いに触れ合う事で気持ちを落ち着かせる。何も見えない状態が続いたが、さっきの小さな音以外、特別大きい音もせずにしだいに視界が回復していった。


「…だいぶ見えてきたの」

「まだショボショボします…」

「どりあえず…お?」

「…?…ふぉっ!!??」


完全回復とはいかない。しかしこの部屋は見渡せる位に視力が戻り、原因となった人体模型を見よう……として、消えている事に気付いた。九鬼も気付いたのだろう、変な声をあげて驚いた後はバッと周囲へ視線を廻らせて何処に行ったと探しつつも、完全逃げ腰で鷹司を掴んで離さない。…さすがビビり。

このままでは調べる事もままならず、呆れのこもったため息吐きだしペシコと軽く九鬼の頭をはたいて手を離させて。


「痛った!…ちょっと、何でそんなに勇敢なんですか!?」

「お前が使えねぇからだ」

「…あぁ、なるほど…って、ひ、酷い!」


置くような平手が痛いわけがないが、こんなやり取りも恐さを紛らわせるための冗談交じり。とりあえずギャーギャー騒ぐ元気が九鬼にあるのが分かると、気がつけば保護者役になってる鷹司は小さく安堵の息を吐き出す。

人体模型は消えてしまったが、さっきの音は…と周囲を見渡しながら、1歩踏み出せば“カツン”と何かが靴に当たる音がして視線を落として。


「…ん?」


身を屈めて手を伸ばす。小さいそれはハートのキーホルダーの付いた鍵だった。


「…何だ?」

「どうしました?」

「いや、人体模型の跡地に鍵が…」

「跡地って…いや、でもそんな目立つ所、さっき見たときは何も落ちてなかったと思ったんですけど…あれ!?その鍵…」


人体模型が消えた時に辺りを警戒するべく視線を巡らせた九鬼だが、床に鍵が落ちていた事には気づかなかった。視力が故意に落とされていたせいもあり、仕方ないかな…?とも思えるのだが。そんな事を考えていたら鷹司が手に鍵を置いて振り返る。その鍵…というかキーホルダーをまじまじと見て九鬼はロッカーへ顔を向けた。


同じだ。

模様が。

ハートの模様が彫られた鍵穴、そして同じ形のハートの鍵。

コレは絶対合う。

いや、むしろ合わなかったら本格的に脱出困難、詰みだ。


しかし…開放して良いのか迷う。

棺の鍵の掛かり様からもしかして棺の中の鷹司は良いものでは無いのでは?とも考えられて。


「…なした?」

「…なし?…梨?」

「…。…どうしたの?」

「あぁ!…えぇっとですね…」


無言で考え込んでしまったようだ。眉を寄せて考え込む九鬼に軽く小首かしげて鷹司が声を掛けるが、不意打ち(でもないけど)の方言に脳内処理が付いていかなければ、聞き返して発言しなおしてもらうという良くある行動をとってしまい、少し慌てて鍵と鍵穴…鷹司には見えていないけど…を交互に指差して。


「この鍵についてるキーホルダー、先輩の棺についてる南京錠とデザインが同じなんです」

「なんだと?」

「多分、コレがこの鍵だと思います。けど…」

「けど?」

「何か頑丈に施錠されてるんで、開けて良いのかちょっと迷うって言うか…」

「…まぁ、大丈夫だべ」

「なんでそんな軽いんですか!?」

「出て来たら俺にも見えらようなるがも。んだしたら戦えらがも。んで俺の手で決着つけられっかも」

「えぇっと…もし見えるようになったら自分で戦って決着つけられるかも…って事ですね?」

「(コクリと頷く)」

「…なら、ナガレ先輩の意思に従いますけど…中に居るの先輩ですし…でも、先輩強いんですか?戦って勝てそう?」

「……」

「沈黙しないで!?自分の事ですよ!??」


鷹司が鍵を差し出して九鬼が受け取るが、安心できない。勝てるのか?という質問には無言で視線をそらされるし、戦いになって盾にでもされたらどうしようと不安もムクムク育っていく。

しかし行動を起こさなければ永遠にこのままかもしれない、と数分間の討論(一方的に九鬼が文句たれてるだけ)の後で、棺の窓を開けたときのポジションで再びロッカーに向かう事にした。


「…良いですか?じゃあ、あ、開けますよ!?」

「…。…うん」

「テンションあげてください!怖いんで!」

「無理言うな」


鷹司と言葉を交わしながらも視線は南京錠の鍵穴を見つめ、鍵を差し込む。が、捻っても動かない。あれ?と思いながらガチャガチャと音を立てると、此処で鷹司の様子が変わった


「あれ?動かないなぁ。この鍵じゃないのか?同じだと思ったのに…」

「…九鬼、俺がやる」

「え?…ナガレ先輩…?…まさか、見えてるの?」


今まで見えないし触れないと言っていた鷹司。目の前で手が棺を貫通する様も見たので疑ってはいなかった。しかし、自分でやると言った鷹司の手は、南京錠にれていた。

何でさわれるのか…?と疑問に思うが、鷹司に任せるべく鍵を掴んでいた手を放せば、変わりに鷹司の手が添えられて、ゆっくりとまわされる。


-カチャリ-


鍵が開いた。


-ガシャン-


音を立てて南京錠が外れ、鎖と共に落ちる。

それと連動するように棺が煙のように掻き消え、中の「鷹司」が露になると室内なのに風が吹き荒れ、


-ピカッツ!-


また光った。

一度不意打ちを喰らっているだけに2度目の発光には対応が早い。目をカバーするため素早く腕をかざして思わず眼を瞑った九鬼、その刹那に彼は見た。


死人かと思われていた「鷹司」がもう一人の彼を見つめて薄く笑んだのを。



**********



ロッカーは依然として空だった。

嘘ではない。だから再び自分を盾にして鍵を握る九鬼の姿が面白かったのだが。

しかし、今回は前回と違った。

九鬼が触れれば波紋が広がる。しかし、鍵を鍵穴…と思わしき場所…に差し込んだ時、そこからあの波紋が広がると同時に「棺」が姿を現した。例えるなら、目晦ましの魔法が解けたような、結界が消えていくような感じ。


「…!?」


マジだ。自分だ。そんな頻繁に鏡見てるわけじゃないけど、コレは俺だと思う。

そして唐突に理解した。



-コレは自分でなければ開ける事は出来ない-



「…九鬼、俺がやる」

「え?…ナガレ先輩…?…まさか、見えてるの?」


九鬼の疑問はもっともだと思う。俺もさっきまで見えてなかった。しかし説明は後だ。コレは悪ではない。コレもまた“自分自身”なのだから。


鍵が開けば吹き荒れる風に誘われるように、1歩もう一人の自分に近づいた。

気がつけば彼を覆っていた棺もロッカーも鎖さえも消えているが、気にしない。


彼も眼を開けて自分を見ている。

自分が自分を見ている。

自分の瞳に自分が写っている。

…変な感じだ。


右手を伸ばせばまるで鏡のように左手を伸ばす“自分”。

触れたところから光がこぼれ、そして2人は一つに重なった。



初めて予約掲載を使ってみた。

誤字脱字(特に漢字)は見なおした時に修正していますが、何か気付いた点等ありましたら教えていただけると幸いです。

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