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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
03 朱眼の魔王・碧眼のサソリ
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03-36 代償

「…!?」


勢いよくこちらを振り返った人物。あわてて身を引き姿を隠したシェイラだったが、振り向く動作を見てから身体を引いた事を自覚していた。

ばれたかも…と危惧していると、振り向いた人物によってこちらが死角になっていたモロンが口を開いた。


「どうしました?」

「…」


問われただろう人物は返事を返さない。

たぶんシェイラが身を引いた場所をじっと見ているのだろう。近づこうとされる前に、その人が歩き出す前に、少しでも離れてしまおうと考えるが、今動いたら確実にばれるような気配もした。動けない。

どうしようかと考えて最前策を数個考えてみるが、直接顔を合わせているわけでは無いのに、その場に雰囲気で、少しでも動いたら見つかる気がして、自分が今まるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっている現状ではどうすることもできない。

と、そんな緊張の中で先に行動をとったのは振り向いた人物だった。

再び口を開いて会話を再開する様子。

それに幾分か安堵して、こっそりと耳をかたむけた。



**********



「どうしました?」


一応大切な話をしていたのに、相手がいきなり視線をはずして勢いよく振り返った事に疑問を持ち、モロンはごく自然にそう問いかけた。だが、目の前の人物は返事をかえさない。

この人には逆らってはいけない。商人を続けるためにも、場所で生きるためにも。

かなり大きな顔をして生活させてもらっているが、下げるべきときには頭をキチンと下げられる。それゆえにかなり黒い噂が立っても今まで排除されずに来たのだ。


わずかばかりの時間をあけて、目の前の人物は再びこちらに向き直る。

先ほどのように身体をまっすぐモロンに向ける体勢ではなく、少し体を横にして前後に気を配る男性。布をフードのように顔にかけて、目深まで引きおろしているので、その表情はうかがい知れない。こちらから見えるのは口元だけだが、とりあえずその恰好に不服を感じた事は無い。


「いや。何でも。…それで、子供の収集の件だが…」


一応顔をもどしてから彼は会話を再会させるべく言葉を発した。何か気になる事があった様子だが、彼がなんでもないというならばあまり追求はしないでおく。


「はい。あ、そういえば、先ほど魔王の娘を見かけましたが…」

「ビッキーか。…1人で?」

「連れはいたのかもしれませんが、近くに確認は出来ませんでした」


モロンは、使い慣れない敬語に喋り難いなどと思いながらも低姿勢は崩さない。

そのあともどこでどれくらいの子供を見つけたとか、どんな状況で発見したとか、いつも通りの連絡を済ませていた。


「順調なようで何より。なるべく早く多くの子供を連れて行かなくては」

「わかっています。しかしやはり、手が足りないというのが…」

「では、これにも手伝ってもらおうか」

「これ?」


これとは何だ?人か、物か。深く考えずに疑問を投げ返せば、目の前の人物は唯一見える口元に笑みを浮かべて手を通路の外へと伸ばした。


「ひゃう!?」


何をするつもりだ?と思うよりも早く、不思議な声が聞こえて、曲がり角の向こうから1人の女性を引っ張り込む。あぁ、先ほど背後を気にしていたのは見ている人がいたからか。自分は全く気付かなかったが、聞かれていると知りながら話をやめたり別の会話にしなかったのは彼女も巻き込むつもりだったからなんだ。

そう考えながら首根っこをつかまれた猫のような恰好でフードの人物に引っ張り込まれた女性をマジマジと観察。


「な、なにするネ!?私何もしてないヨ!」


声を聞いて眉をよせ、顔を確認すると見覚えがあって、思わずモロンもにやりと笑った。


「おやおや、あなたは」

「…知り合いか?」


「えぇ。私の商品だった女性ですよ」



**********



「というわけで、お手伝いさんを前向きに検討することになったんですよ」

「へぇ、そうか。じゃあ、後で時間があるときにでも教えてやらないとな」

「ガスパールさんには本当に、お世話になりっぱなしで…何だかとても申し訳ないわ」

「いいってことよ。それより、今度のマッサージでサービスしてよ」

「はい。もちろんや。楽しみにしとってな」


お店の営業を終えて帰宅するころ。普段ならそろそろお迎えが来る頃合いだったのだが、今日は何故かビッキーのおつきの人が来なかった。たまに音もなくやってくるエルビーも探しに来ない。もしかしてやっぱり忙しいとか、人手不足とか、何か問題があったのだろうか。

日中は仕事場で預かったが、さすがに夜まで面倒を見ることはできないし、家の人も心配するだろうと、月野と天笠と猫柳が送り届けるついでにもう一度闘技場まで足を運ぼうという事になった。


そんな時再びちょうどいいタイミングでガスパールが来て再び同行を名乗り出たのだが、すでに1度行った場所。案内は不要とやんわり断るが、遠慮するなと押し切られてしまった。

この世界の人間であるガスパールがそばにいてくれると安心できるのは確かなので、強く拒絶も出来なかったこともあり再び一緒に歩いている。


その間の話は店をしながら話し合った「お手伝いさん」について。

あと何年この場所で生活するかはわからないが、いつかこの場を移動していくなら、このマッサージという技術を継承していくのも悪くない。初代、パイオニアとして名を残す行為も、知名度アップでエネルギー確保につながると考えた結果でもある。


「あ、見てみて!サヨお姉ちゃん!」

「ん?なになに?」


ビッキーは月野と天笠に挟まれて、両手をつないで歩いている。一緒にいろいろと作業をしたせいか、月野に一番なついていて、帰ろうという事になったとき「サヨお姉ちゃんと一緒が良い!」と駄々をこねた。

たぶんこの町の領主の娘という事で、周りは完全に大人だけが基本だったようだ。子供に違いないけれど、大人になるにはまだ早い、月野や天笠のようなな年齢の人は珍しいようで、子供同士のように一緒にはしゃいで騒いだり遊んだりする一方で、こちらの事を頼れる存在としてみてくれている気がする。本当に妹と姉という気分で、月野も天笠もビッキーのことをかわいがっていた。月野が年齢の割に童顔で、小柄で、子供っぽい見た目、というのも手助けしているところもある。


ビッキーの屋敷までは彼女自身が曲がり角に来るたびに「こっち!」と指をさすが、ガスパールがこっそり訂正してくれなければ自分たちも迷うところだっただろう、という事だけ記述しておく。

大分時間がかかったが、ビッキーを屋敷に送り届けたらまずは門番さんに驚かれ、続いて呼び出された屋敷の使用人らしい人に突然泣かれた。


「ビッキー様!!」

「え、ど、どうしたんですか?」

「今朝私たちと闘技場まで行ったはずなのに、ちょっと目を離したすきにお姿が見えなくなりまして…本当に、本当に…し、心配しまし…ぐすっ」

「ご、ごめんなさい!うちらが闘技場で保護したんやけど、なんか、その、闘技場から帰るところやったし、うちの店によく来てるから、お店で預かってても平気やないか、って勝手に…」


その後無事に発見できてよかったと感謝され、まさに神を拝めるかのように手を合わせて頭を下げる人がたくさんいたので、とりあえずお礼は後ほど、という事にしてそそくさとその場を立ち去った。


「…こんなことになるんやったら、見つけてすぐに送り届けてあげたらよかったわ。心配かけさせてしもうて、申し訳ないな」

「それはサヨだけの責任じゃないわ。私たちも、預かってれば誰か来るだろう、って安易に考えてしまったもの。…今後、今度こんなことがあったときは、すぐにおうちに連絡入れてあげなきゃね」

「うん。せやね」


反省の後で軽口を言い合ったりしながら、再び闘技場までやってきた。

今朝と同じく闘技場の端にある一角を迷わず目指していく。

想像通り、今朝と同じような位置に仲間の姿は発見できた。しかしコンパクトにまとまって何かを囲んでいる様子。背後からちらっと確認しただけだが、その中にシェイラとシンと思わしき姿が見つからない。


「何、してるんだろ?」

「わかんないけど、シェイラさんとシン君、おらんね」


ガタイの大きさと目立つ白髪交じりの頭髪で、雨龍を見つけたらしい猫柳だったが、声をかけようとしかけて思いとどまった。何となく声をかけづらい雰囲気をまとっていたのだ。


「とりあえず行ってみましょ?どっちにしろ声はかけなきゃいけないんだし。…雨龍さん!草加君!鷹司先輩!何かありました?」


天笠の声に気付いた雨龍と草加が振り返る。深刻そうな顔をしているが、仲間を視界にとらえてわずかに笑んだ。そのまま特に走りもせずに近づいていくと、3人が囲んでいるのが地面に座り込んだシンだとわかる。


「どうした?夜も来るとは思ってなかったぞ」

「うん。ちょっと出かける用事があったから、ついでに寄ってみたのよ。闘技場がどんな感じなのか、気になったし」

「そ、そうか」

「それよりも、どうしたの?何か問題でも起きた?」

「それが…な…」


進行を妨げるように立ちはだかった雨龍。何かを言い出そうとして、しかし何も言えずに口を閉じる雨龍の様子を疑問に思い口をとがらせる。


「何?ほんとどうしました?」

「説明します!説明するから、とりあえずこっちに…」


猫柳が眉を寄せて怪訝そうな顔をしたので、草加が慌てて駆け寄り、彼らを少し離れた場所に誘導しようとした。そんなことしなくても…と思った月野が、やや強引に近づいて、視線をフッとシンに落とし、その様子に思わず息をのんでしまった。

今朝も巻き直した右腕の包帯は真っ赤に染まり、ほぼ同じような状態の左手でしっかりと抱え込むように抑えていた。見ただけでもわかる重症度に、頭が一瞬真っ白になる。


「な…何、が…あったの!?」


闘技場で戦わなくてはいけないという強制出場の話を聞いてから、誰かが怪我をするかもしれないという予想をすることはできていた。

だが、今まで快勝を続けていたらしいという話も聞いていて、楽観視してしまっていたことも事実だ。


震える声を絞り出して、月野はそう尋ねるのが精いっぱいだった。

だいたい40話前後で終わりにしたいと考えていたのに、進行が遅すぎてやばい(焦)


あまりグダグダ伸ばすのも面白くないから、頑張らないと…

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