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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
03 朱眼の魔王・碧眼のサソリ
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03-33 わざと負けるって難しい

どうしてこうなった?

目の前の闘技場内で繰り広げられている終わらない死闘の様子を見ながら、雨龍はぼんやりとそんな事を考えていた。


初日から一晩明けて本日は大会の予選…と思われる日程の2日目。

なんだかんだでこの会場で雑魚寝的な感じでみんな残っていたので帰るに帰れず昨晩は闘技場に一泊した。周囲と同じ行動をすることで安心感を得る日本人特有の行動といえよう。

食事は獲得した腕輪(腕章かと思っていたら、腕輪だったらしい)の数によって変わった。多く腕輪を奪取していたチームは、それこそかなりのご馳走を食べることが出来ていたが、わずか数個、もしくは敗者にはそんな待遇は無い。気持ち人数が減った気がするから、おそらく帰ったんだと思う。

帰りづらいその空気の中で、シェイラは普通に帰ると言っていたので、「今日は帰れない」という伝言を屋敷の皆に頼んでおいた。女性だし、気分的にもここに残る方が危ない気もしたし。


大会での最初の作戦では、なるべく早いうちに負けて取り敢えず参加しましたという姿を見せつければ、後はいつも通りの生活が帰ってくると思っていた。変に勝ち進んで強いやつに当たろうものなら一撃でオーバーキルされて今後の生活に支障をきたすような怪我を負う恐れがあったという思いもある。現に対戦相手によっては再起不能にまでされている人もちらほら見える。

出場者は野蛮とか荒くれ者とかいう言葉がかなりマッチするほどに、考えるより先に手が出る人達がの集まりだったから必要以上に警戒したし、スパルタな訓練にも必死になってついていった。

全ては自分達が生き残るため。この世界で生きるため。


「あー、取り敢えず2日目が始まっているのだが、怪我はどうだ?痛みは無いか?」

「大丈夫です。雨龍さんは…疲れていないですか?」

「疲れてるかって?…そうだな。疲れてる…気がする。…あぁ、熱い湯船につかりたい」

「僕もです。色々ありましたからね。そう、色々と…」


半ば呆然としながらも、雨龍は仲間の様子を心配するべくちらりと視線を隣にいる草加に移した。

どこか遠い目をしながらも、草加は雨龍の言葉に反応を返す。



**********



予選のルールは対戦相手の腕輪をメンバーの半分以上奪取すれば勝ち、というものらしい。戦って勝ったチームは相手チームの腕輪をすべて手に入れ、数が多いチームが本選に出場となる。奪取方法は戦って勝つこと。勝敗を決めるのは、戦っている本人の意思。総当たり戦か勝ち抜き戦かは戦うチームで決めて良い。ただ、戦う前に諦めたら失格でペナルティーが科せられが、運よく勝ちたいメンバーと負けたいメンバーが当たった場合は互いに黙秘することですり抜けているらしい。

ペナルティー対象チームの告発でもご褒美があるらしいので、あまり成功例は少ないようだが。

ルールといえばこれくらいの、基本的な情報しか聞かされなかった。


ようは自分たち5人グループのうち3人負ければ問題ないんだろ、ということで。

第1戦目は総当たり戦で、トップバッターはシェイラが務めた。一応大きな布を身にまとって性別がわからないように顔も隠しているが、隠していても女性であることに変わりはない。多くのチームが負けても良い比較的弱いメンバーを先頭にもってきているようだったので、無理がないようにとこの配置になった。

しかし…


結果→勝利


それはもうあっさりと勝利をもぎ取った。

そうだった。彼女は強かった。しかも訓練の時によくわかったが、彼女はとても負けず嫌い。しかも相手が格下すぎて、うまく負けることも出来なかったようだった。

そういえば性別で選んでしまったが、彼女はこのチームで1、2位を争うほどの実力だった。初めての戦いでテンパっていたこともあり、すっかり記憶から抜け落ちていた。


とりあえず気を取り直して…と、2番目をシンが務めた。

主が出る前に奴隷が出るのが基本らしいので、最後まで取っておくと変な噂が立ちやすいらしい。同性であっても、あの奴隷は主のお気に入りで、主と奴隷ができているとか。第一シンは前科もちの眼帯奴隷であるので、こういったやつを捨て駒のごとく先に投入しないでどうする!?という話になるらしい。

決して捨て駒と思っているわけでは無いのだが、この話を聞いていたこともあり、微妙な顔でシンに出てくれと頼んだところ、彼はにこりと笑顔を見せつつも黙って一礼しただけで戦いに赴いた。


結果→敗北


シンは自分から攻撃を一切しかけず、迫ってくる攻撃の力を利用して、シェイラにしていたように放り投げるだけだった。それでも相手は着地を失敗して転んだり、勢い余ってスライディングして擦りむくといった怪我をさせていたが、本気の反撃ではないのでほとんどが軽傷。だが、もとから手を抜いていたわけでは無いのだろうが、ここで相手チームの手加減が一切無くなっていたようだった。ある程度時間をかけて戦ったという印象を付けたあとは、殴る蹴るの暴力をかわしたり受け流したりせずにただ耐えるだけ。地面に伏しても止まらない猛攻に雨龍が負けを認めた。奴隷は敗北宣言が自分でできないからだ。


いったいいつまで耐えるつもりだ?とハラハラしながら見ていたら

「あの奴隷、殺すつもりなの?違うんだったら負け宣言してあげたら?奴隷は自分で勝敗を決定できないんだからよ」

「なん…だと!?」

と観戦していた人が教えてくれた。


負けるつもりで頑張れなんて言わなければ、ここまでボロボロにされなかっただろうに。心配そうな顔でシンに駆け寄ろうとした雨龍だったが、敗北宣言で試合終了とともにケロッとした様子で立ち上がり、自分の足でしっかりと歩いて戻ってきたシンに驚いてしまった。

手も足も出ない、といった様子は演技だったようだ。頭をカバーしていた腕には痣や擦り傷が残っているが、有効打は1つも通っていなかった様子。笑顔で「予定通り」なんて誇らしげに言われて脱力してしまった。だが、さすがだ。

よし。予定通り。


あと2回負ければ予選落ち。攻撃を受けるのは怖いけれど、これきりとおもえば安いものだ。

3番目は草加が出て、これまたいい具合に負けた。

先の2人が素手での戦闘だったのだが、草加はシンがどこからかもってきていた剣を使用していた。訓練の時も武器を使用する動きのほうが慣れていて、こちらのほうがうまい具合に動けるという事がわかったためだ。もちろん刃が潰れている…モノではなく、普通に切れる剣だ。こちらの装備を見て相手も剣を持ち出したが、防御力の高い草加にはせいぜい痣を作るのが精いっぱいだった。

うまく力を受け流してわざと転んだところで敗北宣言。結構あっさりしていたが、小柄な体格もあって誰も不審には思わなかった。

それでも見ているほうは普通に剣が肌に当たっているので心臓に悪かったわけだけど。


そして4番目は雨龍。鷹司は頑張っていたが、文化部だったことで一番身体が出来ていない。無理はさせられないと、彼に回るまでに終わらせるつもりだった。

だが、始まってみるとあっさり終わった。

相手が雨龍の視線にビビッて、失神してしまったのだ。

何をやってるんだこいつ等は…と思ってハッとした。雨龍の瞳は赤。この町の魔王と同じ朱色なのだ。朱眼の力に怯える人たちにとって、雨龍の瞳は恐怖以外の何物でもない。


…勝ってしまった。

スタートして5分も立っていないのに。というかスタート地点から動いてすらいないのに。


これは諦めになるのでは?そうしたら再戦になるのでは?…と思っていら、気絶は精神攻撃で勝ちを認めるといわれた。精神攻撃とかいう言葉がこの世界にあったんだな。

しかし、結局回したくない鷹司まで順番が来てしまった。


不安そうな視線を受けつつも、闘技場に入っていくラストメンバーの鷹司。


そして開始直後3分で、あっけなく終わった。


結果→勝利。


おそらく敵チームよりも仲間たちの雨龍と草加の方がかなり驚いていた。



**********



2日目、早くも戦いを再開しているチームがいるが、別に参加者がブロックに分かれてたり、わかりやすいトーナメント表があるわけでもなく、時間制限内にどれだけ多く腕輪をゲットしたかが判断基準とされ、その上位20チームで本選を行うというかなりいい加減な運営だった。

そのため「必至こいて戦う必要無くね?むしろ、このまま適当に時間つぶして腕輪が足りないってことで予選落ち狙ってみようよ」みたいな悪知恵を働かせて、今は闘技場のすみのほうで小さくなっていた。


今日もきょうとて激しい戦闘。よく重症を負わないで済んだものだ。と思わず顔を見合わせた雨龍と草加。そして2人の眼が合った後、視線の先はそろって背後のより壁際に居る鷹司へと移動した。


「だから、こうネ!右から来たら、内側からこう払って…」

「こう来てこうだべ?分かってんだよ」

「それ。動き。勝つ。良いの?(それは勝てる動き。勝っていいの?)」

「良い…くない。だからシェイラ、違うんだよ」

「なんネ!?どうせ強い知られたネ。闇討ちされたら困るヨ。いっその事テッペン目指すヨロシ!」

「闇討ちだと?んなもんする程暇な奴だばおらんて」


闘技場の隅で動きの確認をしている鷹司に、戦闘に慣れてるらしいシェイラとシンが2人がかりでついていた。鷹司はこのメンバーの中で唯一常日頃から身体を動かしていた訳ではない文化部出身(出身?)それ故に他の人の足を引っ張ってはいけないと、かなりぎりぎりまで自分を追い込んでトレーニングをこなしていたようだった。


一応、大会ではなるべく早いうちに負けるという方針どおり、シンからは上手く受けた攻撃をの力を受け流す方法を覚えたり、かなり激しく吹っ飛ばされた風に見せかけつつも全然ダメージを受けない方法を集中して教えてもらった。

ところがシェイラは全く違った。攻撃が最大の防御と言うかのように、積極的な攻めと、有効な足捌き、体重移動、そして一撃を受けさせる事で覚えさせたのだ。

体重は軽めの彼女だったが、その一撃はかなり重かった。

「なぜ?」「どうして」

そういう疑問も、殴られて拳が当たった瞬間に、すっ飛ばされて助け起こされる瞬間に、相手に接触することで体のどの部分を動かしているのかサーチする。それを繰り返して必死にシェイラの動きをコピーした。

この時は攻めの方法を学ぶのも大切な事だと信じて、青アザを身体中に作りながらも頑張った。勝つ方法を知らなければ、うまく負けることなんて出来ないと信じた。全ては自分が大怪我をおわないため為、それがひいてはみんなの為と弱音を吐く事などなかった為、この負傷を知る人も居なかったのだが。


そのおかげでかなりのハイスピードで鷹司の戦闘能力は飛躍的に向上していったのだが、どこまで行っても経験が少ない戦闘初心者。初めてでの本番で手加減が出来るほどの余裕は持てず、格下相手と気づかないうちに全力で対応していったおかげで、鷹司は大会の予選中今まで無敗を誇っていた。しかも全力でいっぱいいっぱいすぎて、どうしてオーバーキルになったのか自分ではわかっていない。


上手くやれば1戦こなして終わるはずだったのに、上手く負けられなくてここまで残ってしまった。


どうしてこうなった?


「今腕章…いや、腕輪はいくつある?」

「えっと、6チームと戦ってきたから、自分たちのを入れて35。…あ、いえ、たしか最後のチームは6名だったので、36かな」

「…これくらいなら、少ないほうだよな?」

「お、おそらく…?」

「あ。おった!雨龍さん、草加君!」

「…ん?」


雨龍と草加が奪取した腕輪の数を数えていると、遠くから声をかけられた。

そろってそちらを向くと、月野と舞鶴がガスパールと一緒にやってきていた。月野の声に「女だ!」と反応した奴らをガスパールが睨んで牽制している。それに気づいた舞鶴が月野を肘で軽く小突いて、口元に人差し指を立てて“静かに”とジェスチャーすれば、月野は慌てて口を抑える。

もう遅い気もするが、まぁいいだろう。ガスパールさんに感謝だ。


「どうした?月野」

「こんなところまで…といいますか、よく見つかりましたね」

「うん!ガスパールさんのお友達に聞き込みしたんよ。あまり…良い事やないかもしれんけど、雨龍さんは目立つやん?それで、探してな」

「それより、何だかお疲れ?大会のほうはどうなのさ?」


2人を迎え入れた雨龍と草加に月野が発見に至るまでの過程を簡単に説明するが、それよりも、と舞鶴が強引に話題を変えた。

それに対してなんと返事をするべきか…と再び顔を見合わせる雨龍と草加だったが、そこでガスパールが口を開く。


「どうやら健闘してるらしいじゃないか。予選出場者の間では、今年の優勝候補って言われてるよ?この大会が終わったら、一緒にトバルス攻略できるかもな」


…ん?

一瞬何を言われたのか、彼がなんと言ったのか理解できなかった。

というか理解したくなかったともいう。

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