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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
03 朱眼の魔王・碧眼のサソリ
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03-29 レッツ行動

天笠が皆を呼んだ時にはそこにいたのに、船長の話を聞いているうちにいつの間にかいなくなっていた月野。彼女は天笠が部室内から軽食を取り出している時にこっそりと部室内に入っていたのだ。そして船長の話を部室内で聞いていた。

自分に出来ることは何だろうか?そう思っていた月野が出した結論が、薬草を調べ、薬を揃えるという事だった。


自分にできること、あるいは自分にしかできない事。自分ならば力になれること、と考えていて、自分の植物を知るという能力を最大限に活用しようと思い立った。

船の中にある園芸部の庭だった畑にも、ある程度の薬草が生えているが、数も種類も少なくてほぼ観賞用、資料用となっている。それにこれを使うことになるとは八月一日ホヅミも考えていなかっただろうし、月野自身も思っていなかったので、実用化に至るまでにはもう少し調べておかないと少し怖い。それにこれからは、今までのように何かあったら病院に行って薬をもらえるという環境ではなくなるのだ。この世界の植物ももう一度しっかり調べて、船長に薬草を育てるための菜園を増やしてもらえないかとお願いしようと思っていた。


そんな時、外からビッキーの声がしたのに気づいて船長と一緒に扉に耳を当てて様子をうかがう。


「…よう聞こえへんわ。どないしたんやろ?」


耳に全神経を集中させる勢いで、目をつむって音を拾う事に専念していたが、ビッキーの来店で部室の扉はしっかりと閉じられてしまっていて、こもったような音が聞こえるだけ。小声で話しているのか、ドアの存在がバレないように場所を移動したか、外にいるメンバーの会話はよく聞き取れなかった。

チラリと視線を上げて傍に立つ船長を見ると、ドアに耳を当てていた月野とは違って彼は扉に片手をついているだけ。眼はつむって意識を外に集中させているようだが、耳じゃなくていいの?そんなので聞こえるのか?と疑問に思ってしまうのも仕方ないだろう。

彼がシステムであるという事は、その容姿と立ち振る舞いゆえに常に忘れてしまいがちだ。


「何か願い事があってきた様子。取りあえず、朱眼の魔王は一緒ではないようだ」

「そっか。…それが分かっただけでも、ちょっとはホッと出来るわ。ビッキーちゃんだけやったら、外の皆に任せても大丈夫やね」


船長の言葉に体を扉から話すと、胸に手を当ててふぅと息を吐き出した。

しかし安堵できたのはよかったが、これでうかつに外に出ることが出来なくなってしまった。もうそろそろお客さんが来る波の時間なのだが。


店の中の扉がお客さんにうっかり見つからないように、営業時間中は外の誰かがドアを開けない限り内側から開けてはいけないというルールを作った。船長が意識を集中すれば外の様子がある程度分かると言ってくれたが、なんでもかんでも船長に任せれば良いというものでもない。先輩に頼りすぎていて自分たちが力不足だと悔しい思いを抱いていた期間中だったこともあり、出来ることは自分たちでやろうという事になったようだ。

「別にそれくらいどうでも良いと思うが…」という船長の声は聴かなかったことにして、自分たちの安全を自分たちで確保するという危機管理意識を持つことにしている。


ビッキーが居ても外に出られるか、それを判断するのは外にいるメンバーで、月野は扉が開かれるまではこの中にいなくてはいけなくなった。どうしよう…と思っていると、スっと扉がわずかに開く。


「サヨ、そこにいる?」


わずかな隙間から入ってくる声は天笠のもの。小さな声であったが、扉のそばで待機していた月野はすぐに反応してそばに寄った。


「ここにおるよ。外、出られる?」

「えぇ、ビッキーちゃんを誤魔化して外に出ること自体は可能よ。でもちょっと待機していてほしいの。ビッキーちゃんは、サヨ目当てでマッサージ屋に来たみたいで「なんでいないの?」って話になっちゃって。今出ていくと余計に怪しまれるかもしれないわ」


木を隠すなら森の中。部室メンバーもそれなりにいるため、さりげなく外に出て紛れるのは可能だけれど、この状況では逆に危ない。ピンポイントで探しに来て、すでに居ないことを知られてしまっているからだ。しかも外のメンバーが「ちょっとお出かけ中で…」なんて誤魔化したのもあり、余計に出ていけなくなってしまったようだ。


「けど、そろそろお客さんくる時間やし…」

「仕方ないわ。既にちらほらおお客さんが入り始めたから、ビッキーちゃんもそのうち帰ると思うけど、お客さんが増えてくると余計に外に出るのは難しくなっちゃうでしょ?」

「…せやね。相談事も、お店終わるまで我慢してたらよかったわ。タイミング悪くて、ごめんな」

「良いよの、サヨ。それに…最近思いつめたような顔してたし、私、あなたに休んでもらいたいなって思ってたところなの。いい機会だから、今日は部室で静かにしていてもらえるかしら?それに、やりたいこと見つけたんでしょ?」

「…うん」


やりたいこと。ちゃんと出来るか、成功するか、本当のところわからないが、これはきっと自分にしかできないこと。みんなのためにも頑張れると思えること。

怪我や病気はしないのが一番いい。でも生きている限り何があるかわからないから、備えようと思ったのだ。初めて見る植物も知ることが出来る、自分の知識はきっと武器になる。


同意したあとの月野の無言の意味を、正確に理解した天笠は、月野の強い意志を感じてクスリと笑った。


「じゃあ、ビッキーちゃんが何の用事で来たのか、聞いておくから」

「うん!お願いね」

「まっかせといて。その代わり夕飯は期待してるからね!…じゃあ船長、サヨのこと宜しくね」

「承知した。店の運営に必要な補給はもう済んでいるか?」

「えっと…うん。大丈夫。後は何かあったら報告するけど、たぶん2時間くらいは開けないと思うから、内壁もよろしくお願いします」


そういうと扉は静かに閉められ、それを確認してから船長は初めてアルトゥーロが来たときのように内側に土壁を作り上げてカモフラージュを施した。念のため、長時間扉を開けないと分かっているときはこの壁を作っておくことにしたのだ。


「よし。ただじってしてるんも勿体ないから、出来る事せなあかんな」

「天笠ホクトは休めと言っていたが」

「うん。無理はせん。でも、こういう時にうちだけ休んでるんは、違うと思うんよ。せやから、うちがみんなの力になれるように、船長さんに協力してほしいんや」

「構わない。我に出来る事であるならば」


一応天笠の言葉を出して確認をとるが、基本首を横には降らない船長はすぐに月野の頼みを了承した。

少し不安そうにしていた月野だが、船長の様子を見てパッと表情を明るくさせる。


「あのな、うち部室の庭の菜園とは別の畑が欲しいんよ」

「目的は?」

「薬草を育ててストックしたいんや。漢方みたいなんもあるとええな」

「規模は?」

「うーん…せやね、特に決めてないんやけど…。後で拡張って可能なん?」

「問題ない」

「なら、まずは手元にある植物だけでかまわんね。成分や効能調べておきたいし、慣れる前に無駄に広くするんも大変やし」

「自室に拡張でいいのか?新たに部屋を作ることも出来るが」

「せやね…。まずはうちの部屋で育ててみて、つかえそうなら広いところで量産するって形のほうが…ええかな?いや、勝手に部屋増やしたら怒られる…気もする。どないしよ…」

「では、月野サヨ。お前の部屋の中に、部屋を増やせばいい。そうすれば、誰も困らない」

「…へ?」


とりあえず間取りチェックをするために、2人は2階へと上がっていった。



**********



「…」


少し高い椅子に座って足をぶらぶらさせながら、ビッキーは人が増えてきた店の中をじっと見ていた。

そういえば、この店にはお父様と同じ、朱色の眼を持つ人が居たはずだ。

…前来た時に見たかな?

初めて来た時は転んで怪我して、下向いてたから良く分からない。

次に来たときはお父様に抱っこされてたけど、すぐにエルビーに移っちゃったからお店の中には入れなかったし…って、そう言えば後から人が入って行ってたかも?

なんだかとても眠くて良く覚えてないんだよな…


「って、ちがうわ。違う。お父様のお友達も大切だけど、もうエルビーが居るもの。…でももっとお友達欲しいのかな?わざわざ遊びに来るんだものね…」


と呟いてからブンブンと頭を振った。いけないいけない。ここに来た目的は朱眼の人ではなかった。あの時つけてもらった薬でキズが直ぐに治ってしまったので、ちょっと欲しいと思ってきたのだ。あれほどまで効果の高い薬は知らなかったし、それが何なのかを知りたかった。


毎年この季節は怪我人が増える。

幼いながらに父親のために何かがしたい。

自分にできる事を探している人物は案外至る所に居るらしい。


本来の目的を忘れないようにブツブツと呟いていたが、一人でここまで来た疲れと、適度な騒音にたまに吹き抜ける心地いい風。

いつの間にかビッキーは子猫のように、椅子の上に丸まって眠ってしまった。

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