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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
03 朱眼の魔王・碧眼のサソリ
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03-28 縁の下の力持ち

「うんすっきり!マッサージって最初は何かわからなかったけれど、やってみるとはまるものね。また来るわ」

「ありがとうございました、またのお越しを」


今は大会のせいでマッサージ屋運営メンバーが減ってしまったため、規模を縮小して運営していた。この時期はどこもそんな感じらしく、お隣さんだったお店も規模を縮小しているようだ。そんな中で受付として出入り口付近のカウンターの前に立っていた九鬼がお客さんを見送ってから一つ息を吐き出す。


「……はぁ」

「どうした?ケイシ。疲れた?」


そんな彼を見て簡単にマットの周囲を片づけていた守屋が声をかけると、違うという風に首を横に振った。


「いや、ただ…俺、何もしてないなって思って」

「そうか?今カウンターで受け付けやってるじゃん」

「そうじゃなくてさ。先輩たちは活躍してるっていうか、一生懸命帰るために働いてるっていうか。…それに、リヒトだって今度の大会で戦うために頑張ってるじゃん?それと比べると俺は何も…。前の世界でも俺は特に何もしてないし」

「…でもそれは俺もだよ?」

「キョウタロウは幻術使って色々しただろ?俺なんか何にも役立ってないし、力も種じゃぁ発芽まで時間かかるし…」


「悲観する事はないと思うわ。私だって、特に何の力になってないもの」


男2人の会話を聞いていた三木谷が声をかけた。今はちょうどお客さんが途切れていて、休憩もかねている。彼女も自分も何かしなくては、でも何も出来ることがないと考えていたりしたのだろう。三木谷の表情も、どことなく暗かった。そこにこっそりと部室に入って飲み物を持ってきた獅戸もやってきて会話に加わる。


「何々?何の話?」

「たいしたことじゃないわ。ただ…私たち何も、出来ていないねって話をしていたの」

「…あぁ、確かにね」


飲み物を配りながら獅戸もやはり思うところがあるのだろう。小さく息を吐き出して視線を手元のカップに落とした。


「みんな、こっちこっち」

「?…天笠先輩?」


集まってどんよりしていると、部室の入り口付近で月野と話をしていた天笠が手招きをした。それにこたえて別の所に居た舞鶴と猫柳も集まる。


「まずは、はいこれ。今ひと段落ついてるけど、もう少ししたらもう1回お客さんの波が来るから、それに備えて腹ごしらえしといてね」


部室の扉の隙間に手を入れて、中からスコーンのようなものを取り出して配り始めた。この場所でマッサージ屋を初めてから、どのくらいの時間にどの程度のお客が来るか分かるようになって、効率良く休憩も回せるようになってきていた。今は人が少ないが、それでもする事は変わらない。

部室の中から差し出すように食べ物が出てくるので、直ぐ側に船長が待機しているようだが、隙間はわずかで外からではその姿は確認できない。


「ありがとホクトちゃん」

「いえいえ。でね、感じてる人もいると思うんだけど…」


ここで天笠は先ほど九鬼達が話していた事と同じような話をした。皆で帰還するために頑張っている。でも、あまり力に成れていない気がする。そういった話だ。


「でも大会に出られるのは5人だし、俺も運動は嫌いじゃないけど選ばれたメンバーほど動けないしなぁ…」


舞鶴が腕を組んで唸ると天笠も頷いて同意を示した。


「なんだかんだで、いつも同じ人に頼ってる気がするのよ」

「同じ人っていうと…」

「パワーの面では雨龍さん、頭脳の面では鷹司先輩ね」

「たまには僕たちが代わりに…って思わなくもないけれど、正直言ってあの二人みたいにうまく立ち回れる自信はないね」

「自分があまり皆の為の力になれていない、そう思ってしまうのも仕方ないと思うわ。だって先輩達はなんか…上手く言えないけど凄いんだもの。でも、先輩だけじゃだめなのよ」

「駄目って…天笠先輩、どういう事?」

「…って、船長が言っていたのよ」


自分の手柄にしてしまうのが嫌だったのか、説明が面倒だったのか、しっかり理解していなかったのかは分からないが、天笠はそう言ってチラリと部室内へ視線を向けた。そこに居るのだろう船長が静かに口を開く。


「適材適所というやつだ」

「僕たちには大会には適さないから、此処に居るのが正解って事?」

「半分正解」

「半分?…て言うと?」

「では聞こう。大会には何故出場しなければいけない?」

「何故って、話したでしょ?船長。大会には出ないといけないってこの場所のきまりがあって…」

「だが、この世界は我々が目指している定住すべき星では無い」

「…そうだけど。何が言いたいの?」


船長の真意を測りかねて舞鶴が質問をすると、何かを考えていたのか一拍の間があく。しかしその間に疑問を抱いたりするより先に、すぐに言葉は紡ぎだされた。


「世界を渡るために必要なのは、心の力、思いの数だ」

「うん。そのためにお金を集めるのが手っ取り早いって話だったよね。この世界には無かったから、最初戸惑った」


船に乗った時に語られた船の移動エネルギーの話。それを確認するように九鬼が返事を返す。


「心の力。金に溜まると言った時点で考えた者が居るかもしれないが、それは何も善意である必要はない」

「…悪意でも良いって事?」

「そうだ。心の力は幸福よりも、悲しみや憎しみの方がパワーがある。広く浸透していく正の感情は確かに得られる人の心の数を増やす事が出来るが、ピンポイントで集中する負の感情のほうが少数で、短時間で、多くのエネルギーを得られる」

「何となくわかる。それこそ誰かの仇なんかが居たら、絶対殺してやるってなるかもしれないしね。良くも悪くも、負の感情は真っ直ぐだから」


獅戸の言葉にちらほらと頷く様子が見える。船長がどんな顔でこの言葉を発しているのかは扉の向こうに居るので分からないが、静かになると再び口を開き言葉をつなぐ。


「では最初の質問に戻ろう。大会には何故出場しなければいけない?」

「この世界のルールだからだわ」


当然とばかりに天笠が答える。


「何故そのルールに従う?」

「従わないと殺されちゃうみたいだよ?それは嫌だよ」


守屋がすかさず答えた。


「無視して反感を買い、エネルギーにあてるという手段もある」

「でもそれは、とても生きにくいだろうね」

「そうですね。噂が広がったり、指名手配的な事になったら欲しいものを店で物を売ってくれないという事もあるかもしれないし」


舞鶴が深く考えず直感で答えて、猫柳が腕を組んでその状況を考えながら答えた。


「噂が広がるという事は、知名度が上がるという事だ。悪意であっても集中すれば移動エネルギーも溜まりやすくなる」

「そのために普段の生活を犠牲には出来ないわ。短時間でもギスギスして隠れて暮らすより、隣の人と笑いあった方が良いと思うの」


三木谷が控えめに話しだして、でもやっぱり自分の意見は間違ってはいないはずと自信を持って答えた。


「では、この世界で平和に生きるために、敗北覚悟で大会に出ると」

「…そうね。そういう事だわ。でもきっと先輩たちだって、正直言えば大会には出たくないんだと思う。だって平和な世界からやって来たんだもの、私だったら傷つくのは恐いわ」


多分だけど、と付け足して獅戸が答えた。


「ならば、この世界で生きられるように動く彼らに代わり、本来の目的をお前達が果たせばいい」

「本来の…?」


思わず質問を返してしまった九鬼だったが、何となく何が言いたいのかは分かっていた。


「大会出場を決めたのはお前たちだ。その事に関しては何も言う事はない。だが、必ず勝てる保証も無いし、観客が驚くような技術を持っているという訳でも無い。ならば、この大会で大勢の関心を集める事は出来ないだろう」

「…先輩たちが頑張っている間にも、エネルギーを溜めるために頑張れってことか」

「そうだ。雨龍タクミ達の頑張りは移動に直接関係するものではない。だが、生活環境を良くするための手段であれば、無視できない選択なのだろう。ならば、その事は彼らに任せて、お前達はお前達の仕事をしっかりこなせばいいのだ。どちらの方が大切な事なのか、個人で基準が変わるようなモノサシで測る必要はないし、くらべる必要もない。なぜならお前達にとって、どちらも大切な事なのだから」


そうだ。

先輩達はこの場所での生活を守るために戦いに出ると言ってくれた。無視して部室に引きこもる事だって選ぶ事が出来たのに。ならば、彼らの頑張りと自分の事を比較して無力さに打ちひしがれるのではなく、彼らをサポートするために少しでも出来る事を自分なりにすればいいのだ。


先ほどとは打って変わって「頑張るぞ!」という意思が皆の表情から読み取れる。それを感じて扉の向こうで待機していた船長はとりあえずホッと胸をなでおろした。


僅かに開いた部室の扉。その先に見える、土に同化して見える茶色い雑草が、風も無いのに揺れた気がした。




「…あれ?そう言えば月野先輩は?」


ここにきて、1人足りない事に九鬼が気付くと辺りを見渡しながら疑問を口にした。


「あぁ、サヨ?あの子なら…」


九鬼の疑問に応えるべく天笠が口を開いた時だった。


「こ、こんにちは!」


何処か戸惑っているふうではあるが、明るい少女の声が入ってきた。皆が一斉にそちらに視線を向ける。


「…あれ?君はいつぞやの幼女…うぶっ!」

「ばっか!キョウタロウ!変な事言わないで!確かアルトゥーロ様の娘で…えっと…」


守屋が失礼な事を言いそうになったのを察知した九鬼が思いっきりグーで殴って黙らせる。

そして声をかけてきた女の子に視線を向けた。たしかあの時、朱眼の魔王と一緒にやってきた幼女だ。ちらりとしか見てないが(見る事ができなかった)腕に抱かれていたはず。それに、その前に一度来店していて怪我をして手当てをしてもらったと話していたので、姿はしっかり覚えている。が、魔王の方が印象深くて説明しようとして名前をド忘れしてしまった。忘れられてしまった事に気付いたか、幼女の目が潤んでいるように見える。


誰か助けて!と視線をチラリと横に向けるが、何ということでしょう。

皆があれ?って顔をして、九鬼の視線からサッと逃げていた。

が、頼れる船長は何時だって頼りになる!こそっと助け船を出してくれた。


「…ビッキーだ」

「そう!ビッキーちゃんだ!」


手をポンと打った舞鶴がさも「俺が思い出しました!」という風に声を出す。小さい声だったので聞こえてはいないだろうが、船長の声にやや被せ気味に発言して誤魔化しも兼ねているらしい。ビッキーは名前を呼ばれるとホッとした様子で笑顔になった。


「ビッキーです!今日はお願いがあって来ました!」


小さいのにしっかりしている。

幼女可愛い。

お持ち帰りしたい。

思う事は皆それぞれ違うが、共通する点もあったらしい。


「今日はお父さん一緒じゃないの?」


と、皆の声がそろってしまった。

次から投稿時間を1時間遅くして20:00にしようと思ってますヨ。


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