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部長とは、部活動の『長』である。  作者: 銀煤竹
01 廃校舎・覚醒の章
10/146

01-03 ポロリもあるよ

「な!何してるんですか!?」

「いや…。…ん?」


驚いた九鬼の声に反応して苦笑いしつつ視線を彼に向けるが、何かに気づいた様子でフッと動きを止める。そして若干驚いている様子で人体模型に視線を戻して。


「鷹司先輩?…どうしました?」

「…こいづ、動ぐぞ」

「え、うご?…ちょっ、待っ・・・はぁ!!?」


いったい何を言っているのか理解できず、てんぱってまともな応答が出来ない。そんな九鬼などお構いなしに腕に力を入れた鷹司は パコッ と乾いた小気味いい音をさせて人体模型の頭部を外し脳の部分を露出させる。

その拍子に、壊れていたのか接着が甘かったのか、片目がポロリと落ちて九鬼のほうへ転がった。


「あ…」

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」


鷹司は冷静に転がった目を視線で追いかけるが、案の定、ビクビクしていた九鬼は驚いて大声を上げて飛び退る。そのまま隣のロッカーにぶつかってこけた。


「…へ、平気か?」

「いててて…」


その様子を見ていた鷹司のほうが驚いた。しかし冷静に今度は側まで歩き、助け起こすべく九鬼に手を差し出す。九鬼も素直にその手を取るが、その背後でぶつかった反動でロッカーの扉がゆっくりと開いた。


カチャ---ギギギギ----


「…開きました?」

「うん?ロッカー?」

「はい」

「開いたばって?…何?」

「…中、何かあります?」

「…いや、なんも?」

「何も無い?本当ですね?」


何故か下駄箱で感じたような(それよりは若干怖い感じではないが)気配を感じて執拗に鷹司に確認を取るが、何も無いという言葉を聴いてゆっくりと振り返った。


「…!!??」

「??」


その瞬間に顔を青ざめさせて俊敏な動作で鷹司の背後に回った九鬼。その様子に訳が分からないといった顔をする鷹司。2人して状況が飲み込めず、とりあえず怯える九鬼を不思議に思って背後に隠れた彼へ声を掛けることにした。


「どした?なんが居た?」

「なんかって!…確かにロッカーの中は見えないですけど、コレは何も無いじゃ片付けられませんよ!」

「なんで?」

「何でってそりゃぁ…何でって…。…え、何でそんなに冷静なんですか?」


此処でお互いに気づく。何かおかしい。

怯えながら鷹司の背中にしがみついていた九鬼だが、あまりに通常運転の鷹司の反応に冷静さが戻ってきたようだ。

疑問を投げかけながらも顔は上げない九鬼を見て、


「…状況ば整理すんぞ。お前はロッカーの中サなんが見えんだな?ちなみに俺はなんも見えてねぇ。掃除用具もなんも」

「えぇっ!何も無いの!?…俺には…」


鷹司の言葉に恐る恐るもう一度ロッカーを見る九鬼。もしかして見間違いかもしれないという期待をこめて。

しかし、彼の目には確かに別の物が映っていた。


「俺には…見えます。…あれはたぶん…棺おけです」



****



九鬼の話では、下駄箱や廊下でみたドラキュラが寝てそうな棺タイプではなく、日本でよく見る木製のやつらしい。顔部分に窓がついてるあれだ。しかも、まるで封印でもするかのように鎖が巻かれていて、中央の南京錠で止められているらしい。隅に彫ったようなハートの形があると言われたが、いかんせん見えない。

それに鷹司からはロッカーの大きさはいたって普通なのだが、九鬼は棺おけに気づいてからは、ロッカーの大きさが中の物に合う様に大きく見えるとのこと。

仕組みはよく分からないが、とてもあやしい。

そこで…


「九鬼、窓開けて顔見でみ?」


と言ってみた。

予想通り全力で拒否したが、見えない鷹司では手を伸ばしても触れずに、ロッカーの奥の壁に手がつくだけ。文字通りかすりもしないのだ。こじんまりした部屋で隣へ行く扉も開けられはしたが通過出来なかった。ならば、特に怪しいものが見当たらない以上、コレに何かあるはずだ!と説き伏せた。


「わ、分かりました!分かりましたよ。見てみますけど…先輩絶対動かないで下さいよ!?ふざけるの無しですからね!」

「…」

「…ちょっと、返事して下さい。ただでさえ恐いんですから」

「いや…なん…つーか…」


恐いんだろうという事は理解できる。しかし、鷹司の目には普通に普通のロッカーにしか見えないだけに、彼を盾代わりにじりじりと歩を進める九鬼の様子が何ともいえず変な感じ。

しかし此処は見えている九鬼に任せるしかなく、若干恥ずかしさを感じながらもおとなしく盾となっているのだが。


ロッカーに接触できるほど近づき、もしかして…という期待を込めて鷹司が手を伸ばすが、やはり指先には何も当たらない。小さくため息を吐いてから首だけで後ろを振り返り、九鬼を視線で促せば、小さくうなづいてゴクリとつばを飲み込んで。


「じゃぁ…い、行きますよ…」

「うむ」


九鬼が右手を伸ばした。ロッカーの中の棺に触れたのか、パントマイムをするように手がロッカーに入らず、空中で止まる。と、まるで水面に波紋が広がるように、うっすらと光の波紋が広がった。まるで貼ってあったセロファンに触れたような、微妙な光の屈折だ。ハッとして息を呑む鷹司だが、その事には九鬼は気づいていない。

その様子から、棺が見えてる人は触れるけれど、見えない人は触れない。

見えてる人が触るとそこに何かがあるって言うのが、見えない人になんとなく分かるんだろう、と解釈。まぁそれが分かったところで何が出来るかわからないけど。


自分の胸の高さから、ススッと手を滑らせて窓の位置まで手を上げる。めっちゃ手が震えている様子から怖いんだろうとは理解しているが、いい加減じれったくなってきた。

ジーっと手元を観察し、窓に手を掛けて後は引くだけという形になったところで、九鬼の手首に手を伸ばして掴み引き寄せる事で、引っ張るのを手伝ってあげた。


「ぎゃぁ!何すんですか!」

「…お前、遅いんだもん」

「「もん」じゃないですよ!」


ビビッて手を放したようだが カタッ という小さい音が聞こえた。見えないけれど、窓が開いたんだろうと推測し、中を見てもらおうと視線を九鬼に移した鷹司だが、恐いといいながら気になっていたらしく既に見ていた九鬼の驚いたような表情をみて眉を寄せ


「九鬼?」

「え、あれ?…ちょっと待って先輩…これ…嘘でしょ!?」

「何?」

「…せ、先輩…です」

「…は?」


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