00-01 高等部2年生
「あっついなー」
「そりゃ、夏だからね」
「太陽め…もうちょっと日光抑えてくれないと、干からびる…」
夏休みに入る前のテスト期間目前の放課後。
高等部2年の同級生でクラスメイトの【九鬼ケイシ】【草加リヒト】【守屋キョウタロウ】の3人は、午前で授業を終えた後校舎を出てまっすぐ帰宅・・・するわけではなく、学校の敷地のはずれにある、園芸部の部室を目指していた。
ココは帝国国立第一学園。
略して【一学】はこの国最大級の学園の1つ。
初等部に入る前の児童を預かる保育施設から大学部までの生徒を受け入れる校舎やカリキュラム、特別なラボまで持つ、超ハイスペックなマンモス校。
当然生徒の人数は半端ではないのだが、エスカレーター式なのは中等部までで、高校からは同じ一学の高等部へ行きたくても受験が必要という珍しいシステムを持っている。
そのため進学を選ぶなら途中のテストでも気を抜いては居られず、ほとんどの部活は活動を休んでテストに備える事になる。
「あぁ、腹減った。部室で何か食えるかな?」
守屋はふくよかなお腹をさすりながら隣を歩く二人に声をかけた。肉付きが良い彼は、160台の身長の割りに小柄に見られがち。しかし目を覆いたくなるほどなデブではなく、彼曰く今流行のポッチャリ系なのだそうだ。清潔感のある短髪は黒、同じく黒い瞳は下げられた眉のせいで元気が無さそうだ。
「どうだろうね?我慢できないなら購買行ってくればよかったのに。通り道だっただろ?…ケイシは何か買ってたよね?」
守屋の問いかけに最初に反応した草加は眼鏡を押し上げながら視線を彼に向ける。運動部の草加は、守屋と同じ身長なのに小太りな彼と並ぶと何となく背が高く見える。緑の瞳に僅かにかかる黒い前髪を一瞥してから3人の中で一番背の高い九鬼へと視線を向けて。
「あ、うん。でも食べ物じゃないよ?…部長に頼まれたものだから」
頭一つ分程背が高い彼は、視線を草加とあわせるとビニール袋を軽く持ち上げて笑みを作る。青みのある黒髪は肩につかない程度に切りそろえられていて、瞳もやはり青みがある黒。スレンダーに見えて筋肉はついている細マッチョ。
九鬼の返答に残念そうなため息を吐いた守屋は視線を彼らから僅かに見えている部室へと移し、僅かな期待を胸に歩をすすめた。
“コンコン”
「こんにちは。入りマース」
「ちはー」
「こんにちは」
「オッス仲良し3人組!いらっしゃい。…ココで勉強すんの?」
部室の扉のノックの後挨拶をしながら園芸部の部室へと入った3人。
そこには先客がいた。長い黒髪を左右に結んだツインテールの彼女は【獅戸アンナ】。彼らと同じ高等部2年の女子高生。150台の身長は平均的ではあるが、彼らと並ぶとやはり小柄な女の子。
大きな黄緑色の瞳に純粋な疑問を浮かべ、首をかしげながら問いかける。
「そのつもりで来たんだ。あと部長へ頼まれたものを届けに。アンナは?」
「おつかい?偉いね鬼刑事★私はミッキーの付き添いでね」
「刑事言うな!ケイシだから!…もう何度目?これ…」
九鬼ケイシをからかう時の文句は決まって「鬼刑事」だった。敬礼までして見せた獅戸へ向かって間髪居れず突っ込み返せば、笑いを隠そうともしない草加が九鬼の肩をポンと叩き。
「ドンマイ★オニデカ。ご苦労様です」
「うるさい。お前は草むしりでもしてろ!草刈り人め!」
「き★さ★ま♪」
草加リヒトで遊ぶ時はいつだって「草刈り人」だった。
…というか、ぶっちゃけこの2人のやり取りが浸透していった結果なのだが、空気の読める獅戸は笑顔で黙ったまま見守る。
いつものやり取りでいつものように騒ぎ出した2人を完全無視して、何か食べ物を探してた守屋が獅戸へ視線を向け。
「で、ミッキーは?会議室?」
「あ、うん。夏の大会のヘルプ要員で部長に来てほしいんだってさ」
ミッキーこと【三木谷ナナ】は同じく高等部2年の女の子。綺麗な銀の髪を腰まで伸ばし、くりっとした丸い瞳はこげ茶色。光の加減では金色にも見える。獅戸より大きい160台の身長にすらりと伸びた手足はモデルのようで、ファンも多いのだとか。
三木谷が居るらしい会議室を見て。
「夏の大会って…去年もやってたよな。確かミッキーは吹奏楽部だっけ?」
「そうなのよ。中学から上がってくる子が多いんだけど、体が小さいと演奏できないからね。かといって途中から入ってくる子はコンクールまでに部員のレベルに合わせられなくて、大変みたいよ?コントラバスは」
「確かになぁ。楽器自体が180cmあるんだもんな」
「…ちょっと!いい加減誰か止めてくれ!ケイシに眼鏡壊される!」
「あ、ごめ~ん」
草加と九鬼の喧嘩に今気づいたような顔をして獅戸が間に入った時
“コンコン”
再び控えめなノック音が響いた。
初小説。のんびり作成予定。