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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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いたづら

作者: 坂東太郎

 役相撲に適うと弓をいただけるのは全国民の常識であるが、こんな弓をいただいたのは世界中で俺一人じゃなかろうか。

 というのも、警備員のアルバイトから帰ってきてアパートの郵便受けをのぞいたら弓が3本入っていたという、奇天烈、頓珍漢、悪逆非道、などという慣用句をいくら連ねても形容しがたい出来事が発生したのである。

 最初は間抜けな郵便屋が誰かの荷物と間違えて俺のポストに挿入したのだと思ったのだが、こんな片田舎の月2万円のぼろっちいアパートに住んでいるのは自分を含めて3人。ひとりはこの世の全てを諦めたような顔つきの若い男、もうひとりはシャブ中毒アルコール中毒パチンコ中毒のおっさん。どう考えてもこんな奴らに弓を送る人間がいるとは思えない。

 でもまぁ、世の中には万が一ということもあるし、一応話を聞いてみることにした。若いやつは日雇いのバイトに行っているので、シャブ中の部屋に行ってみる。

 ドアをノックする。返事がない。死んでいるのだろうか。もし死んでたら警察やら葬儀屋やら呼ばなきゃいけねぇのか、めんどくせぇなあなどと逡巡していたところ、ドアの向うから本当に死にそうな声で

「あずさゆみ…まゆみ…つきゆみ…」

と奇怪なうめきというか、ウルトラマンに出てくるジャミラの鳴き声みたいなのが聞こえてきた。

「何を言ってんだおっさん、開けっぞ」

 鍵はかかっていないのがこのアパートの住人の常であるから、構わずドアを開ける。部屋の中は生ゴミ、燃えるゴミ、燃えないゴミ、等々種種雑多なゴミで溢れていた。くせぇ。生卵の腐った匂いがするが別にこの部屋から温泉が湧いているわけではない。さらに90度横倒しになったえべっさんやら東京オリンピックの記念硬貨やら、意味不明なものも床に散乱しているのでなかなかのDANGER ZONEだ。

「おい、この訳わかんねぇ弓、おっさんのじゃねぇのか」

俺は無造作に弓をゴミの山の上に投げた。するとおっさんは凄まじい速度で四つん這いのまま弓の近くまで這いずりまわるので気味が悪い。まるで芥川龍之介の小説にでてくる桧皮色の着物を着たばばぁだ。

「あずさゆみ…まゆみ…つきゆみ…」

「また訳のわかんねぇこと言いやがって、それおっさんのなんだな?俺は帰るぜ」

と背を向けた途端、体中に痛みが走った。

 俺の背中には

、矢が突き刺さっていたのである。

 しかも1本ではない。3本である。俺は背中に手をあててみた。真っ赤な血がどくどくと出ている。

うくく。いつか人間は死ぬもんだが、まさかこんなおっさんに殺されるなんて。

 俺はゴミの山の中にばたりと倒れた。と目の前に日本刀が転がっているのを見つけた。

 野郎。こんな痛い目にあわせやがって。殺す。殺してやる。ぶち殺してやる。殺す。死ね。殺す。くたばりやがれ。そう思って日本刀を掴みなんとか立ち上がった。さぁ、あとは鞘から抜くだけだ。あれっ、抜けない。ひっかかってんのか?

 すこしいじくったところで、俺は悟った。これ模造刀だ。ただの飾り。黒葛多巻き。とかなんとかやってるうちにおっさんは再び矢を放ち、今度は俺の顔面に全て命中した。

 もう何も見えない。痛くも無い。感覚も麻痺してきたのであろうか。するとおっさんは俺の背中に指をあて、俺の血で壁に何か書き始めた。

「お前はもうすぐ死ぬ お前は滅び失せる 消え果てる」

 もうそんなことは言われなくてもわかってる。わかってる。知ってる。存じ上げております。目の前がなんだか赤くなってきて、そのあとは虚無。

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