蜃気楼の街 エピローグ
アルビレオが目を覚まし上半身を起こすと、そこは街に来る前に泊まった宿屋だった。
アルビレオはベッドから抜け出し、椅子の背もたれに置いてある上着を着ると部屋の扉を開けて一階へと階段を下りて行く。
テーブル席に座っている三人にアルビレオは気が付くと、近づいて行く。
「よぉ。……あれ? オブシディアンさん達が居ないけど――」
アルビレオの声に三人は振り向くとレイが口を開く。
「よぉ。じゃねぇよ。心配掛けさせやがって」
レイは不貞腐れた様な表情でアルビレオを一瞬見ると窓の外へと視線を投げる。
いつの間にかレイの着ている服がドレスではなく、いつもの中華服へと戻った事にアルビレオは気が付くとレイに言おうと口を開けたが、最初の言葉を発する事も無く口をつぐむ。
「一番心配してたの誰だっけ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらアヴィスは手の爪の先でレイの頬を軽くつつく。
「オブシディアン達は一足先に首都へと帰ったよ。さすがにあの恰好で一緒に居られてもこっちも困るからね」
レイとアヴィスのやり取りを見ながら、シリーナがアルビレオの聞きたかった事を答えてくれた。
「そっか……カインとアベルも居ないけど、もしかして二人と一緒に行ったの?」
アルビレオは言いながら、空いている椅子を引くと席へと座る。
「あいつらはお前名義でついでに送っといた」
「は?」
レイの言葉にアルビレオの頭の上にクエスチョン・マークが浮かぶ。
「アルのギルドバッジをカイン君の服に付けたって事よ」
シリーナは言いながらアルの上着を指差した。
アルビレオが上着の襟部分を見ると、銅色の丸いピンバッジが付いていた場所には何も無かった。
「あんなピンバッジで名前とか判るものなのか?」
「あの裏に個人番号が書かれてるのは知ってるな? その番号を照合したら判るだろ。そこら辺はディアに言っといたから手続きぐらいはしといてくれるさ。あ……後これ返しとく」
レイは椅子の背もたれに下げていた自分のバッグパックをまさぐると、銀色のリボルバーを取り出してアルビレオに投げ返した。
「ちょっと……この武器は繊細なんだから投げんなよ」
アルビレオは投げ返されたリボルバーを受け止めるとレイに注意しながら右手でグリップを握った。
「それぐらいの元気が戻れば大丈夫そうだな。そろそろ発つから荷物取ってこい」
アルビレオの言った言葉を聞く気がなさげなレイの表情を見ると、アルビレオは軽くため息を付きながら荷物のある部屋へと戻る。
部屋に戻ったアルビレオは、扉にもたれ掛かるとすぐにリボルバーの調子を確認する。リボルバーのシリンダーをスライドさせると弾倉に残った一発の銀色の弾を取り出し、鉛色の弾を六発装填すると元に戻しホルスターへと入れた。
どこも異常が無いと判るとアルビレオはほっとした表情でため息をついたのだった。
十分後。
肩にバックパックを掛けた姿で降りて来たアルビレオに三人は頷くと、テーブル席を立ちあがり四人は宿屋の扉を開けた。