表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉から始まる世界  作者: 綾瀬 明
蜃気楼の街
16/19

A last resort to break the wall

 男――レグルスはキリッとした表情でカッコつけて見たのだが、アル以外はレグルスが言った事が判っていないようで無表情でレグルスを見つめていた。

「ラスボスってあの人言い切ったし。これどんな反応すればいいんだ」

「ラスボス云々よりもまず自己紹介に数字ってどういう事かしら。どう呼んだらいいのか判らないのですけど」

「なんか私達蚊帳の外? アルに聞けば教えてくれると思う?」

 レイとシリーナとアヴィスはレグルスから目を逸らすとひそひそと小声で呟きあう。

 レイ達が攻撃を仕掛けて来ないと見るや、レグルスはアルに向けて引き金を引いた。

 打ちだされた弾はアルの持っていたロングソードの刀身の根元を通り抜け、後ろで見ていた観客の身体をすり抜け、屋台に飾られていたランタンのガラスを壊して止まった。

 ロングソードの刀身の根元から鋼の欠片がこぼれると、小さなヒビと音を立てて刀身が壊れ地面へと落ちた。

「首を狙ってみたのだが、随分と弾道が逸れてしまったな」

 左目を瞑り右目でリボルバーのサイトを覗きこんでいたレグルスは、まるでスポーツでも楽しむかのような軽さでアルへと言った。

「なぜ……その銃の扱いをお前が知っているんだ」

「なぜ? 可笑しな事を聞くねぇ。それはこの銃が指紋認証をして居なかったからだよ」

 アルの焦りをにじませた言葉にレグルスは、「ハッ」と鼻を鳴らして答える。

「そんな事を聞いているんじゃない!」

 レグルスの軽い言葉にアルは、否定するように左腕を右から左へと大きく振った。

「この銃の扱いを知っているのはお前一人だけだと誰が決めた? 神か? それとも運命か?」

 レグルスの言葉に反論の一言も返せずにアルは下唇を噛む。

 そこへレグルスに走る影が一つあった。

「はあッ!」

 声を上げながらシリーナが手に持っていた細剣の刃が、レグルスの首を刺そうと煌かせる。

 レグルスは右手に持っていたリボルバーの砲身を細剣の刃にぶつけると、左手の人差し指を虚空に滑らした。

 小さな金属音を立てながら落ちていた槍が虚空に浮かぶと、一直線にシリーナの背中を目掛けて飛んでいく。

「シリーナ! 水よ。氷となり指示し者を守る盾となれ!」

 アヴィスが左手をシリーナの方へ向けると、自身の魔力を解き放つ。解き放たれた魔力は球となり、シリーナの背中へと飛ぶと槍の切っ先に割り込むようにして一枚の氷の壁が出現した。

「そんな薄い氷の壁で攻撃を防げるとでも?」

 ニィッとレグルスはシリーナに笑いかけると、さらに人差し指を滑らして行く。

 バキバキという音と共に槍はシリーナの鳩尾を氷の壁ごと貫く。

 槍に貫かれたシリーナは、細剣の柄から手を離しそのまま前へ倒れ、石畳に血を咲かせた。 

「シリーナ! シリーナ!」

 アヴィスがシリーナの名を叫びながらシリーナへと近づいて行く。

「こんな事、前にもどこかで見た気がしないかい?」

「何処か……で?」

 まだニヤついた表情のレグルスを見ながらアルは弱弱しく呟く。

「君が真の名を叫んだ時に断片を見ているはずだが……ね」


 見下げる様な紫の瞳が背筋を凍らせる。視線を下げると、両膝は床に付いていて手に持っていた剣は柄の部分だけしか残ってはいなかった。


 画面を床へと向けると、黒髪の女性が魔物の山の上に横たわっていた。女性の心臓には柄が無い折れた剣が突き刺さっている。


 レグルスの言葉にアルは先ほどフラッシュバックした情景が頭の中を支配し、身体中が武者震いのように震え、手に持っていたロングソードの柄を地面へと落とした。

「また……あの時の悪夢を再現しようと言うのか!」

 アルはレグルスに叫ぶと、ポケットから水晶を取り出し右手で握り締める。

「悪夢? 悪夢なら何百回も見て来たからどの悪夢か忘れてしまったなぁ」

 アルの叫びに少し馬鹿にしているような口調でレグルスが答える。

「貴様ぁぁぁぁぁ!!!! なら教えてやるよ。オレが見た悪夢を!」

「アル、あいつの挑発には乗るな。あいつはアルの弱みをつついて反応を楽しんでいるだけだ。冷静になれ!」

 レグルスの言葉は挑発だとアル自身も判ってはいたが、感情が高ぶっているためかレイの言葉は聞こえてはいないようだった。

 アルは吼えるような怒号を上げながら、レグルスに走り近寄って行く。

「剣も銃も無く向かって来るとは、我ながら感心に値する」

 レグルスはそう言いながら、リボルバーの銃口をアルの胸へと合わせるとすぐに引き金を引いた。

 アルにもうすぐ死の弾丸が届くその時、アルとレグルスの間にカインが割り込むように転位してきたのだ。

「何やっているんだ!」

 とアルが言う間もなくカインはレグルスの放った銃弾に胸を撃たれ、石畳へと倒れようとしている。

 アルはレグルスを攻撃するか倒れそうになっているカインを助けるか一瞬迷ったが、思考が決断を下す前に足を広げ走る速度を落とすと、水晶を持っている腕を倒れたカインの腰に引っかけるとすぐに胸元へと抱き寄せる。


――迷うことなく助けるとは。さすが君だ。


 くすりと笑ったオブシディアンの声がアルの耳へと届く。

 レグルスは手に持っていた銃を持ち上げると、アルの眉間へと最後の銃弾を放つ引き金を引こうと指を掛けたその時。

「掛かりましたね。《アジン》!」

 倒れたはずのカインが頭を上げると、右手から黒い布を出しレグルスの持っていたリボルバー全体を絡め取ると虚空へと消した。

「っ!?」

 リボルバーの重みが消えた事に驚いた表情を初めて見せたレグルスは、二人から距離を取ろうと後ろへと飛び上がると同時にシリーナに突き刺した槍を召喚しようと意識を切り替えるために一瞬目を閉じた。


――今です! レイ! アヴィス!


「炎よ、我に立ち塞がりし敵を焼き尽くせ!」

「水よ、氷となり我に立ち塞がりし敵を凍り尽くせ!」


 レイとアヴィスはオブシディアンの合図と共に、レグルスへと力を解放するために両手を前へと向ける。

 赤と蒼の力は一人入れるぐらいの魔方陣へと姿を変えてレグルスの足元へと滑りこんで行く。


「「相殺せし力よ、無へと力を変え我らに立ち塞がりし者に慈悲なき力もて滅びを与えよ!」」


 レグルスの足元に滑り込んだ魔方陣は赤と蒼が重なるように回ると白へと変化し、レグルスを包み込むように白いレーザービームを叩きつけた。

 

「アル君。呆けて見ている場合じゃないですよ。貴方の力で《アジン》を退けてください」

 アルは抱き寄せていたカインを石畳へと下すと戸惑いの目で見つめる。

「だけど……」

「大丈夫ですよ。貴方は自分の名前を思い出したじゃないですか。その力を使えば君のラストリゾートは見つかります」

 アルが自信なさげに右手に持っていた水晶を見つめると、カインの姿をしたオブシディアンはそっと両手を水晶に乗せながら優しく言う。

「さぁ二人が稼いでくれた時間を無駄にしないで!」

 水晶に乗せた両手を解くと、オブシディアンはアルの背中を左手で強く叩いた。 

 叩かれたアルは前に少しよろけたが、オブシディアンに笑顔を見せると前を向きレグルスへと全力で走って行く。


「我、19 30 43.28052 +27 57 34.8483 no.6β1(アルビレオ)が命じる! 『悪夢』を『勇気』へと換え、『絶望』を『希望』へと換え切り札(ラスト・リゾート)よ真の姿をここに見せよ!」

 アルの掛け声と共に右手に持っていた水晶は、光を放ちながら細長い棒のような姿へと変化していく。

 アルは変化した水晶を両手で掴むと、レグルスに向かって迷わずに跳躍する。

普通なら少しだけ届かないような空中でも今なら届きそうだと確信したからだ。

「風よ! 彼の者に力を与えよ!」

 少し遠くからシリーナの声が聞こえると、アルの身体は跳躍の力と相まってレグルスの元へと軽々とたどり着き、彼の胸に光る水晶を突き刺し入れるとすり抜けるように反対側の石畳へと着地をする。

 突き刺さった光は、一本の刀へと姿を見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ