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終焉から始まる世界  作者: 綾瀬 明
蜃気楼の街
15/19

―レグルス―

 ガッ! と後頭部を殴られたような痛みがレイの意識を揺さぶった。

(痛てぇ……)

 そう思いながらレイは殴られた部分を手でさすりながら目を開けると、目の前には死神の姿ではない、人の形をしたオブシディアンの姿があった。


「やっとお目覚めか! こんな所で意識を失って寝てるなど……そんな子に育てた覚えはありませんよ!」

 オブシディアンは手に持っていた黒い石を震わせながら、寝ぼけたままのレイにまくし立てた。

 それを聞いたレイは始め、「はぁ?」と言う顔をしていたのだが、「ん?」と言う表情をした後で、ポンと手を叩いた。

「あーディア。元気そうだね。ディアナも元気にしてるかい?」

 あっけらかんとしたレイの口調に、オブシディアンは米神に青筋を立てて何かを言おうとしたが、それよりも先にレイが言葉を出した。

「だって俺、アベルとか言う奴に倒された後牢屋に連れていかれて、今まで気を失ってたから今現在の事なんてわかんねぇし」

 両肩を竦めたレイを見ると、オブシディアンは顎に手を当てて何か考えるように視線を下へと向ける。


「君を倒した。と言うのもあながち嘘ではないようだな」

「ん? どう言う事だ? まさかお前らも何かされたのか?」

「ええ。あの双子に全力で挑まれて、身体の四割も削られましたよ」


 はぁ。とため息をついたオブシディアンに「げっ」と一言レイがうめき声を上げた。

「嘘だろ? お前らあの中で結構強い方に入る存在なのに……」

 レイの言葉にオブシディアンは一つ頷く。

「にしても四割か。ここに来て強敵出現とは……いいねぇ。燃える」

「一人で燃えている所に水を差しますが、彼等は大技を連発しすぎて力がすぐに切れていました。長期には向かないようです」

 ヒャッホー! と一人で盛り上がろうとしていたレイに冷ややかな口調でオブシディアンは言うとレイは口を半開きにして微妙な表情をオブシディアンに見せる。

 えぇぇぇぇ……とか細い声を出しているレイを無視をするようにオブシディアンは言葉を続ける。


「……話が脇にそれ過ぎました。次に進めましょう」

「ああ……で、ディアが俺の中に居てこうやって話せるって事は、俺の身体は何かに乗っ取られてるって事だよな」

 レイの言葉を聞きながら、オブシディアンは持っていた黒い石を服のポケットに入れるとモノクルのブリッジを指で押した。

「『冥府の扉』を開して現れた魂に乗っ取られています。そして今現在アル達を攻撃して居ます」

 まじかよ。と言いたげにレイは半眼でオブシディアンを見ると、深いため息をついた。

「……にしても、かなり深い所で寝ていたようですね。こんな深層まで来るのに少し時間が掛かりましたよ」

 オブシディアンが上を見上げると、同じようにレイも上を見上げた。見上げた先は深い闇が支配しているだけで光源の類は一切無い。

「君が私の血を少しでも飲んでいてよかった。その光を頼りにここまで来れたんですから」

 オブシディアンはレイに初めて微笑むと、レイの心臓の位置を右手で撫でた。撫でられたレイは彼と同じように笑顔を作るが、はっと何かに気がついた表情でもう一度上を見上げるとオブシディアンへと視線を移した。

「もう時間だ。あいつらが呼んでる。わざわざこんな所まで来てありがとうな」

「育ての親として当然です。私達は何時までも貴方の味方ですので」

 レイは軽く頭を下げたオブシディアンに対して手を振ると、表層に向けて軽く上にジャンプをして闇に溶けるように消える。


(約束なんて氷と同じですぐにでも壊れてしまうのに……)


 一人残ったオブシディアンはそう思いながら自嘲した後、レイの精神から抜けだした。


(たしかここら辺……だったよな)

 靴が水に触れて小さな波音が聞こえたが、レイは気にすることも無く周りを見渡した。


 深層は暗闇だったのに対し、表層は血の色が映える夕焼けに大量のしゃれこうべが置いてある山があちこちにある大きな水たまりがある場所だった。

(相変わらず俺って趣味悪いよな。こんな表層ありえねーよ)

 はぁ。とため息をつき、転がっていた骨の後頭部を掴んで弄びながら自分を操っている魂を目で探す。

 黒い霧が羽虫のように一か所に集まっているのを見つけると、すぐに手に持っていた頭蓋骨をぶん投げる。

 霧達は真ん中に穴を開け、投げられた頭蓋骨を避けるとまた塊へと戻る。

 レイは足元に転がっている頭蓋骨を両手で掴むと、二つ同時に投げるがそれも霧達は器用に避けた。

 レイは額に怒りマークを付けると、まだ転がっている頭蓋骨を拾いまくり片腕に小さな山ができると山を崩すように頭蓋骨を次々と投げ始める。

 投げられた頭蓋骨は羽虫をすり抜けるように地面へと落ちて行く。

(くそ、自分の身体だってぇのに主導権が取り返せないのがむかつくじゃねぇか!)

 レイはますます怒りマークをつけながら、腕に持っていた頭蓋骨を全部地面に落とすと霧の塊に向かって走り出し、右手に拳を握りしめて一打を繰り出す。

 レイの一打は頭蓋骨のようにすり抜けるかと思ったが、予想とは反して霧は右手へと変化するとレイの拳を握り攻撃を受け止めた。

「なッ!」

 レイもまさか受け止められるとは思っていなかったようで、思わず驚愕してしまう。それと同時に少しだけ外の様子が目の前に飛び込んでくる。

 視線の先には槍をロングソードで防いでいるアルの姿があった。

 アルは右手に持っていた何かを自分に向けて押しあてた。


「19 30 43.28052 +27 57 34.8483 no.6β1 が命じる。ラスト・リゾートよ。今真の姿を見せよ!」


 何かはアルの言葉に反応を示すと光輝き視界を白く潰して行く。

 左手に水晶の固い感触が乗るとレイは水晶を力強く握りしめながら叫ぶ。

「ラスト・リゾート、リミッターオフ!」

 叫ぶ声は力となりレイの両手に光輝く爪が出現し、掴まれていた右手から血のように流れた靄が地面へと滴る。

 ぼろぼろになった右手はそれでもレイの右手を離そうとはしなかったが、靄のせいで簡単にレイの右手は離れた。

「俺の中に入ったのが悪かったな。外に出たらてめぇの言い訳ぐらいは聞いてやるよ」

 そしてチャンスとばかりにレイは黒い霧から右腕を後ろへ引くと、詠唱を開始する。

「Ita et usitata et timemus(恐るな 我 なれと共にあり)」

 全ての指を伸ばした後、霧に両腕を突っ込ませると逆十字を描く様に、右手を東から西に滑らせ、左手を下から上へ霧を裂く様に滑らせる。

「Flip lux solutus.Scala excedunt(離さじ 光よ、行かしめよ かなたに)」

 十字に裂かれた黒い霧は裂かれた場所から大量の靄と白い光に包まれると、霧は水風船が割れる時のようなエフェクトを出して消えた。


 自分の身体を操っていた黒い霧が消えると同時にレイは尻もちをついて空を見上げた。

 さらりと音を立てて三つ編みが解かれていた事に気がついたレイは、自分の下にある水へ自分の姿を写してみる。

 水に映っていたのは、いつもの幼い姿ではなく青年に変化した本来のレイの姿だった。

(あー、やっぱあれ使うと元の姿に戻るんじゃねぇか。ここが自分の身体の中でよかったな。外で使ってたら……)

 一瞬悪寒が走った気がした背中を震わすと、レイは身体が濡れるのも構わずに水たまりの上に大の字に寝転んだ。

(まーその事は後ででもいいか。つーか、主導権取り戻すのにこんな大技を使うのはまずいな。ギルドに帰ったらディアに稽古でも付けてもらうか)

 そんな事を思いながらレイは大きく息を吸うと両目を閉じた。


(レイ!)

 誰かに自分の名前を呼ばれたような気がしてレイは目を開けた。

 目の前にはアルの顔がぼんやりと映る。

「おかえり。レイ」

 アルは地面に下ろしたレイの身体をぎゅっと強く抱きしめた。

「ああ……ただいま。みんな」

 強く抱きしめられたのを感じてレイは少しびっくりしてたが、アルの髪を優しく撫でると立ち上がろうとする。

 心配そうな三人の視線に気がつくと、レイはニッと笑う。

「身体も心もそんなに致命傷は受けてないさ。それにこんな所でいちゃいちゃしてたらあいつらがニヤニヤするしな!」

 レイはオブシディアンとディアナが居る方向を向くと一瞬両目を閉じる。


 と、男の笑い声がこの場の雰囲気を一変させた。

 笑い声を上げた方向を見ると、それはレイが吹き飛ばした黒い霧から声がした。

 黒い霧は立ち上がると両瞼を開ける。両目共に紫色をしていた。

「お前はッ!」

 黒い霧が顔から離れ本来の蒼い髪が月明かりに照らされた時、アルは地面に落としていたロングソードの柄を両手で握り締め、切っ先を笑っていた男に向ける。

 男はひとしきり笑った後、右の口角を上げた。


「久しぶりの再会だと言うのに、ひどいな。19 30 43.28052 +27 57 34.8483 no.6β1。何百年……いや、何千年だっけ?」

 アルとまったく同じ顔と声の男は微笑みながらアル達を見る。

「ああ、君は記憶がなかったんだっけ。なら久しぶり。と言われても君はピンと来ないだろうね」

 男は足元に落ちていた銀色のリボルバーを拾うと、ハンマーを上げてアルに突き付ける。

「自己紹介がまだだったね。私の名は10 08 22.31099 +11 58 01.9516。またの名を『賢者』《アジン》。19 30 43.28052 +27 57 34.8483 no.6β1、君のラスボスだよ」

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