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終焉から始まる世界  作者: 綾瀬 明
蜃気楼の街
14/19

―アルビレオ―

 一方その頃、オブシディアンに一言頼まれたアルは、銃が白い煙を吐き出し終わってもその場を動く事が出来ずにいた。


 先に動いたのは、レイの方だった。

 軽いステップでアルへと近づくと、手に持っていた槍をアルの顎を目掛けて突き出した。

 アルは咄嗟に持っていた銃を盾にするが、バレルと槍の切っ先がぶつかった衝撃で銃の持ち手に力を込めていた手が痺れる。

「うわっ」

 と言うアルの言葉と同時に、銃は槍の切っ先と共に空へと放り出される。

 レイは槍の反対方向を向けると、アルの心臓を目掛けてもう一度足を踏み込む。

 アルは取りあえず突き出されようとする石突きを止めようと、持ち上がった両手で石突きを掴む事しかできなかった。

 石突きはそのままアルの心臓を打とうとするが、アルの身体が槍の勢いに乗ったために後ろへと投げだされ、アルは石畳に身体を打ちつけた。

 銃が石畳にぶつかった音の次に石突きが石畳を引っ掻く音が聞こえる。


(くそ……隙が無いじゃないか)


 アルは胸中でレイに対して文句を呟くと、石畳に寝ころんだままロングソードの鞘を左手で掴み右手で柄を掴むとそのままレイが来るのを待った。

 石畳が引っ掻かれる音が消え、風切り音が右耳から聞こえると同時にアルはロングソードを抜き切っ先を斜め四十五度の空へと向ける。

 槍の刃とロングソードの刃がうまく噛み合い、レイとアル双方に逃がしきれなかった衝撃が手に伝わってくる。

 ぐっ……と言葉にしないまま険しい表情でレイを睨むと、鞘を掴んでいた左手を放し右手のすぐ下へと移動させさらに押し上げる力を込める。

 最初は不気味な笑いを浮かべていたレイだったが、アルが左手を柄へと移動させるのを見て一瞬真顔へと表情を変化させ、すぐに後ろへと下がる。

 アルが上半身を起こした後、レイの着ていたウエディングドレスから小さな着れ端が地面へと落ちて行く。

 それを見てアルは少しだけ右頬を上げた後、すぐに立ち上がり左手をソードの切っ先に添える。

 ふとレイの後ろで動く影が居るのに気がついたアルは、視線だけを影へと移す。


 そこには透明な何かで包まれた両腕を振り子のように動かしながらゆっくりと歩いているバルドルが居た。


(あいつはまだ気が付いていない……。オブシディアンさんが来るまで持つかな)


 アルは少し弱音を愚痴りつつ右手で握っている剣の柄を強く握り直すと、目の前に来ているレイの槍を見つめ防御の体勢をとる。

 槍の斬撃が雨のようにアルの身体に降り注ぐ。深い傷が身体を蝕み、石畳に小さな血が垂れる。

 首を狙われ、突き刺される。と恐怖を感じた時に、一瞬だけ目を閉じた事をアルは後悔した。


 だが槍の切っ先は自身の首を貫く事は無かった。恐々と目を開けると、アヴィスの白い耳と金髪が目に飛び込んできた。次にレイへと目を向けると、透明な棒状の様な物が槍の切っ先を受け止めている。

 アヴィス! とアルが一人驚いていると……

「アヴィス。準備はいい?」

 横から女性の声が掛かる。アルが左を向くと、透明な細剣を手に持ったシリーナが立っていた。

「遅れてごめんね。取りあえずレイを吹き飛ばすよ! シリーナ、こっちは準備OKだよ」

 アヴィスはアルに背を向けたままシリーナに合図を言う。

「風よ。氷を砕け」

「氷よ。欠片となり、風に舞え」


 二人が詠唱を始めると、槍を受け止めていた棒状の物体が音を立てて砕けて行く。


『氷の嵐よ! 吹き荒れろ!』 


 言葉が二つ重なると周りの空気が急激に冷え、レイに向かって吹雪と言ってもいいぐらいの嵐が吹きつける。

 吹雪が止むとアル達から少し離れた場所に雪に埋もれた黒い傘が咲いていた。

 傘が折りたたまれ、レイの腕が傘を持ったまま左から右へ移動させると、レイの周りに積もっていた雪が水蒸気へと一瞬で変化する。

 それを見たアヴィスとシリーナは絶句する。アルも一瞬の変化に驚きはしたが、何故だかこの光景はずっと前に見た気がしたように思えた。


        ◇◆◇◆◇


「もう少しであの城に着く。各自装備の点検を怠るな」

 何処かの雪山の中ほどだろうか。洞窟の中で火に照らされた赤髪の男性を見て画面が上下に揺れた所でノイズが現れ……


 ノイズが消えると同時に場面は変わっていた。チューブやパイプが張っている通路が映り、天井には黄色いライトの光が回転し壁を照らしていた。

 画面を床へと向けると、黒髪の女性が魔物の山の上に横たわっていた。女性の心臓には柄が無い折れた剣が突き刺さっている。

「おい」

 先ほどの男性が声を掛けて来た。床から前方の通路へと画面を向けると、早く来い。とジェスチャーをしていた。

 そのジェスチャーを見てからもう一度横たわっている女性へと視線を向けると一瞬画面が真っ暗になった。


 目を開けると、今度は両開きの扉の前に立っていた。

「残ったのは……お前等だけだ」

 後ろから声が聞こえると、画面は後ろを振り向いた。

 先ほどジェスチャーをしていた男性が、太い柱に寄りかかるように座っていた。

 男性が顔を上げると、額から血を流していた。

 画面の外から柔らかい緑色の光が溢れると、緑色に包まれた手が男性の額へと伸ばそうとされる。

「……別に大丈夫だ。お前の回復なんて今は要らないさ。それに、こんな所でつまらない消費をするな。魔力を回復させるアイテムだって有限なんだからな」

 男はそう言って首を横に振った。光に包まれた腕は下されたようで、また画面外へと消えていく。

「少し回復してから合流する。お前等は先に行け」

 そう言われると、画面は男性から扉へと移る。右を見ると、金髪の女性が笑っていた。

「大丈夫だよ。私達には神様の加護がある。あ、君も神様だったね……」

 金髪の女性の髪を撫でると、もう一度扉へと視線が映る。二人で両開きの門を通過した。


「私が吹雪を召喚してる間に、君はあいつに近づいて」

 金髪の女性は、目の前の蒼い髪の男性を睨みながらこちらへと言う。

 画面の人物も軽く頷くと、左手に持っていた剣の柄を握り締めた。

「行くよ! 周りに隠れし水達よ氷となれ。風よ、氷を砕け。氷よ、破片となり風に舞え――」

「来い! 全力で相手してやろう!」

 蒼い髪の男性は、二人に対して吠えると、やけにぎらついた刀を鞘から抜いたまま何も構えはしなかった。

「氷の嵐よ! 吹き荒れろ!」

 女性の指先から放たれた吹雪は、蒼い髪の男性に容赦なく吹きつけた。

 画面がぶれ始める。たぶん走っているのだろう。途中左手に持っていた剣の切っ先を前へと向けると、そのまま蒼い男性の心臓を目掛けて左手を前に突き上げる。


 ごうっと言う風が擦れる音と共に、一瞬目の前が白くなる。

 擦れる音と白い画面が徐々に静かになっていくと、画面は見上げるような形で男性を見つめていた。


“この程度か。つまらないな。もっとオレを楽しませろ”


 見下げる様な紫の瞳が背筋を凍らせる。視線を下げると、両膝は床に付いていて手に持っていた剣は柄の部分だけしか残ってはいなかった。

 それよりも重要な事は、見ている自分の胸に刀が刺さっていた事だ。

 刀が右へとスライドし、身体が切り裂かれて行く。半分に血まみれた刀が身体の半分を切り裂くと、画面は床へと近づいて止まった。

 背後から女性が喚く様に名前を呼んでいるのが聞こえる。


                「アルビレオ!」


 画面は再度、血まみれた刀を見つめる。血まみれた刃に移っていたのは、目の前に居る人物とそっくりの蒼い髪に紫の瞳の男性だった。


        ◇◆◇◆◇


 どくん。と大きく胸の鼓動が震えた。

 目の前に居るレイに被るように一人の男性の輪郭がアルには見えた。


「あいつに近づけるぐらいの時間が欲しい。アヴィス、シリーナ……時間稼ぎをお願いしたいんだがやってくれるか?」

 絶句していた二人は、アルの言葉で我に返ったようでアルを見つめる。

「レイを……斬るの?」

「レイは斬らない」

 アヴィスの問いかけにアルは即答した。

「あいつの中に居る魂を強制的に外に出す」

「それはオブシディアンやディアナが専門じゃない」

 何を言っているんだ。と言いたげにアヴィスはアルの言葉にひどく食いついた。

「呼びに行く時間が惜しい。ともかく、時間稼ぎたのんだよ」

 アルは二人の顔を見ずにレイに向かって走り出した。

 ちょっと! とアヴィスはアルを止めようとしたが、アルは止まる気配がなかった。

 アヴィスはシリーナの顔を見た後、両肩を竦めると二人は詠唱を開始する。

 

 走っている途中でアルは、懐から血がついた水晶を取り出し右手で握りしめる。

 後ろから白い霧状の靄がアルとレイを包み込んで行く。

 白い霧に包まれる前に、レイは傘を槍へと変えてアルの頸動脈を狙い突き刺しにかかる。

 アルは、それをかわす様に左手に持ったロングソードの刃を槍の刃にではなく、柄に食い込ませる様に下から上へと振り上げると、重たい衝撃がアルの左腕に届く。

 槍が剣を押し戻そうとする力に負けぬように、アルは右足を踏み込むとレイの心臓に右手で握りしめていた血のついた水晶を押しあてた。


「19 30 43.28052 +27 57 34.8483 no.6β1 が命じる。ラスト・リゾートよ。今真の姿を見せよ!」


 水晶はアルの声に応えるようにまばゆい光を放ち、爪へと変化しレイの身体へと入り込んで行く。  

 水晶がレイの身体に全て入り込むと今度はレイの背中からまばゆい光が溢れ出て黒い靄のような物を吹き飛ばした。それと同時に、手に持っていた槍を地面に落としアルへともたれ掛かってくる。


 黒い霧は人型になると、扉の方へ石畳を転がって行くのが見えた。

 アルは持っていた剣を同じように地面に落とし、もたれ掛かって来たレイの身体を優しく受け止めるとレイの身体を地面へと下す。

「おかえり。レイ」

 アルの声を聞いたレイの瞳の色は、鮮やかな緑に変わっていた。

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