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終焉から始まる世界  作者: 綾瀬 明
蜃気楼の街
13/19

昔話


 男が通してください。と言う前に人の波が動き、男と死神達の直線の空白が出来る。

 ふらふらとした足取りで男が空白を一歩づつ埋める。

 中ほどまで男が差し掛かると、男は倒れるがまたゆっくりと起き上がり空白を歩き出した。

「バ……バルドルさんっ!」

 カインとアベルが骸骨達の隙をつきバルドルの元へと駆けだす。

 片足を空中にぶら下げていた黒いローブの死神は、ため息をつくと足を下し三人をただじっと見つめていた。

 カインとアベルはなおもゆっくりと歩くバルドルの腕を掴んで手助けをしようとしたが、バルドルの腕を見て二人は不安そうにバルドルの顔を見つめる。

 バルドルの両腕は透き通った水晶を纏い、重りのように揺れていた。

「なんでこんな状態で歩くんだよ! カイン。まだ回復はできるか?」

「カイン君。回復は必要ありません。私ももうすぐ地獄に行きますから」

 アベルに言われたカインは、ズボンのポケットから小さな薄茶色の石を取り出すとバルドルに向けて詠唱を始めたが、バルドルの言葉を聞きカインは回復魔術の詠唱を途中でやめるともう一度バルドルの顔を見つめる。

「そんな悲しい事言わないでよ。地獄に行くだなんてまだ決まっても居ないのに」

「ソウヨネ。マダ、何モ決マッテイナイノニ」

 バルドルの言葉を聞いて白いローブの骸骨となったディアナが肩を竦めながらカインの言葉に頷く。

「ずっと前から決まっています。いえ、決めていました。と言いましょうか。なにせ私達は禁忌を犯したのですから」

「フリッグ……ト言ウノハ、彼ノ恋人ト?」

 黒いローブ姿の骸骨のオブシディアンはバルドルを見ると、すぐに倒れたサズの遺体へと視線を向ける。

「はい。フリッグはサズの恋人でもあり、私の母でもあります……」

「アナタノ母親デシタカ」

 それは申し訳ないと言う様にオブシディアンはバルドルに軽く頭を下げた。

「別に死神様が謝る事ではありません。それに母……いえ、フリッグの魂は私達の元に戻ってきませんでしたからこれで諦める事が出来ます」

 謝られたバルドルは軽く顔を左右に振ると、寂しそうに言いながら笑った。

「ですので、カイン君とアベル君の代わりに私の身体を――」

「馬鹿ネ。アンタ、本当ニ馬鹿ジャナイノ? 私達ハ、マダ、ソンナニ切羽詰マッテイナイワ!」

 バルドルの言葉を遮ってディアナは人差し指をバルドルに突き付けながら声を荒げる。

「アナタヲ、ドウコウサセルノハ、後ニシマショウ。モシ、コノ街カラ、スグニ逃ゲルト言ッタラ、スミマセンガ、貴方ヲ、拘束サセテモラウ事ニナリマス」

 オブシディアンは両手で箱をスライドさせるジェスチャーをすると、両肩をすくめながら三人へと近づいて行く。

「逃げはしません。と言うよりも、私はこの街から出れないんです」

「ソレハ、先ホド言ッテイタ禁忌。トイウ物デスカ?」

 オブシディアンはバルドルを頭からつま先まで見つめると、首を傾げた。

「ええ。私達親子は元々この泉の辺に住んでいました。ある日フリッグは病気に掛かり、医者の治療もむなしく死にました。家族三人の思い出を忘れられないサズは、この『扉』の向こうに居るフリッグともう一度出会うために、『扉』の鍵を探すとともに近くを通る冒険者達を誘拐しては『扉』に生贄と称して殺していました」

 バルドルはオブシディアンの顔を見ると、扉へと振り向く。

「何百年もかけて何百人もの人を殺したサズを私は止めようとしました。ですが逆に私も殺されてこの街に束縛されてしまったんです。生贄を『扉』に捧げる事が出来なくなったサズは落胆したのを今でも覚えています」

「サズサンニ、殺サレテ生贄ニナル事ガ禁忌ヲ犯ス? ソンナ禁忌聞イタ事ガ無イ……」

 オブシディアンは言いながらディアナをちらりと見た。

「『扉』ヲ開ケルト同時ニ禁忌ヲ食ラウトカ? ナラ、サッキ開ケタ事デ、何カシラノ力ガ発動シテイル気ガスル」

 同じようにバルドルを見つめていたディアナも首を傾げる。

 死神達の戸惑いを聞いたバルドルは、目を大きく見開いてオブシディアンとディアナを見るように振り返った。

「え……まだ私には禁忌の呪いが付いていないんですか」

「エット……ソノ、禁忌トヤラヲ、教エタ人ハ誰ナノカ判ル?」

「僕達をこの街に連れて来た人だよ。男性で、名前は教えてくれなかった」

「偽名っぽいのは教えてくれた。《チィトゥィリ》とね」

 アベルがその名前を口にした途端、死神達はアベルを鋭い視線を投げる。

「賢者……シカモ、ヨリニヨッテ、アノ馬鹿ノ因縁トハ」

 深いため息をつきながらオブシディアンはアベルから視線を逸らすと、夜空を見上げた。

「《チィトゥィリ》……彼モ吸血鬼ダケド、ワザワザ、双子ト旅ヲシナガラコノ街ヘ来テ、律儀ニバルドルサンニ、禁忌ノ事ナンテ教エルハズガ無イ。ソレニ、吸血鬼ト長旅ナンテ絶対出来ナイワ」

 あり得ない! とばかりにディアナは、四人に向けて言い放った。

「確カニ。ダガ、《チィトゥィリ》ジャナケレバ、誰ガ当テハマル?」

「《ドゥヴァ》ハ論外。《トゥリー》ハ……アノ能力ガ無イト、城カラモ出ラレナイ」

 死神二人が次々と賢者達の名前を出すのを聞きながら、バルドルはその場にへたり込んだ。

「あの……その《チィトゥィリ》さんは、吸血鬼との事ですけど、吸血鬼なら髪は赤いんですよね? その人は髪は赤くなかったですよ。むしろ逆の蒼い色をしていました」

 カインはへたり込んだバルドルを気遣いながらも、ちらちらとオブシディアンを見上げながら言った。

 蒼い髪と聞いて死神達はアルを即座に思い浮かべたが、揃ってそれは無い。と言う様に頭を振った。

「無理無理。彼ハ今一切記憶ヲ失ッテイルノヨ?」

 呆れた声を出しながら言ったディアナに、アベルが「だけど!」と言ったが、その次の言葉は見つからずに無言でディアナを睨んだ。

「ソウ言エバ、バルドルサンハ何故アノ馬鹿ノ、中ニ入ッタ魂ガ、フリッグサンデハ無イト、気ガツイタノデスカ?」

「何故って……あんな鋭い吹雪の様な冷たい目と、狂ったような笑顔を見たら誰だってフリッグでは無いと思いますよ」

「アア……ソレナラ私達モ判リマスネ」

 バルドルの話を聞いたオブシディアンは心のメモに『通常の行動から外れたら、偽者と疑え』と付け加える。

「大体ノ事情ハ判リマシタ。アル以外ノ蒼イ髪ノ人物ガ気ニナルガ、ココデ話テテモ意味ガナイ。中ニ入ッタ魂ニ喰ワレル前ニ、アノ馬鹿ヲ一寸突イテ来ル」

 オブシディアンは一度ディアナを見ると、軽く頷いた後その場から消えた。

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