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終焉から始まる世界  作者: 綾瀬 明
蜃気楼の街
12/19

死神ニ立ち向かう覚悟

 リボルバーは一筋の白い煙を吐く。

 『レイ』の瞳に射ぬかれたアルは、冷や汗が頬を伝っていくのを拭いもせずにその場で立っているのがやっとだった。


 ドンッ!


 唐突に何処からか爆発音が聞こえる。音の位置からして展望塔の方向だ。


 ――オブシディアン!


 突然の念話にオブシディアンはアルの腕を放し、ディアナ達の居る展望塔へと振り向く。

 

 ――爆発があったようだが何が起こった?

 ――状況報告は、シリーナを受け止めた後よ。方向は十九時。私はアヴィスを受け止めるからよろしくね。


 ディアナからの念話が勝手に切れると、オブシディアンはシリーナが落ちたであろう気配を探る。


「アル君。少しの間あの馬鹿の気を引きとめていてくれ」

「はい……」


 アルがオブシディアンの言葉に頷くと、オブシディアンの姿は霞のように掻き消える。

 次に彼の姿が現れたのは、ランプを吊り下げている紐の上だった。

 広場で起きている事件を目撃して居ない者にとっては、オブシディアンが器用に紐渡りをしているのを見て大道芸の一種だと思ったのか、彼に拍手をしたり指笛を吹く者も居た。

「シリーナ! 掴まれ」

 そう言いながらオブシディアンは、塔に一番近い場所の支柱の先をつま先で蹴り、そのまま塔へと跳躍し空から落ちて来るシリーナへと腕を伸ばした。

 声を掛けられたシリーナは、はっとした顔でオブシディアンの指を掴もうと手を伸ばす。 指先が触れるとすぐにオブシディアンはシリーナの手を掴み直し懐に抱きよせる。

 オブシディアンは目の前に迫っている展望塔の外壁の石ブロックに空いている手と両足を着けるとすぐに屋台の屋根へと跳びなおす。

 オブシディアンは屋台の屋根がクッションとなって、うまく着地を補正してくれると思った様だが、現実は二人分の急激な力に耐えきれない屋台の骨組が音を立てながら地面へと倒れた。

「いたた……」

「緊急回避が強打ですまない」

 オブシディアンはすぐに立ち上がると、シリーナの手を優しく掴み彼女が立ち上がるのをサポートした。

 オブシディアン達の回りに居た人々は、突然の救出劇に拍手を送る。

「ちょっとすみません! 通してください!」

 人混みの隙間を縫ってディアナとアヴィスがオブシディアン達へと近づいてくる。 

「シリーナ! 死んじゃうのかと思って冷や冷やしたよ」

 目尻に涙を溜めながらアヴィスは、シリーナの胸に抱きつく。

「オブシディアン、ディアナ。助けてくれてありがとう」

 シリーナはアヴィスの髪を撫でながら二人へと頭を下げた。

「まだ礼を言われる状態ではないですわ」

「アル君が君達の到着を待っているはずだ。すまないが向こうのサポートをお願いしたい。ディアナ、道を」

 と短くオブシディアンはディアナに伝える。

 ディアナはシリーナとアヴィスに微笑むと、鉄扇で人が入れるぐらいの傷を虚空に付ける。その傷は白い光を出しながら人が一人入れるぐらいに大きくなると、水鏡の様に向こうの様子を映した。


 画面の右側からアルがロングソードを盾にして移動するのが見える。

 『レイ』の攻撃が掠るたびに、アルの身体から血が吹きだし石畳が血に染まって行く。


 アヴィスは自身の魔力を手のひらに込めると、何も言わずに光の中へと進んで行く。


「あの馬鹿とアル君を頼む」

「言われなくても大丈夫ですよ。彼等は私達の大切な『仲間』ですから」

 シリーナは懐から一本の水晶を取り出し利き手で握り締めると、アヴィスと同じように光の中へと踏み出した。

「幸運を」

 その言葉と共に光は消えた。


 ――それで爆発を起こしたのは誰だ? 

 ――水色の瞳の……ガキ

 ――おやおや。ディアマンテでも怒る事なんてあるんだな。


 オブシディアンは滅多に見られない相棒の砕けた言葉に軽く笑った。


 ――当然でしょう! さっきまで二人して震えていたのに『レイ』が出て来たとたんにあのガキが「あの吸血鬼を倒したんだ」って私達に自慢してきたのよ。

 ――で、君は何と返したんだね? もしかしたらまた知らず知らず挑発でもしたんじゃないか。

 

 オブシディアンの言葉にディアナはゆっくりと頷いた。


 ――君もあいつの事になると弱いな。


 オブシディアンは呆れたようなトーンで呟くと二人は展望塔へと跳躍する。

 上で様子を伺っていたアベルとカインを見つけるとオブシディアンは両手で二人の顔を掴み上げ、二人が何か言葉を出す前に床へと力任せに押しつける。

 床の石畳が圧力に負けて、大きな穴を作ると三人は塔の地面へと吸い寄せられるように落下する。

 先ほどの爆発音よりも数段上回る破壊音が聞こえると塔全体が振動で揺れ、何個かの瓦礫が地面へと落ちたが崩壊はしなかった。

 アベルとカインを地面へと落としたオブシディアンは空中で待機すると、虚空から取り出したマフラー状になった黒い布を二人が落ちた場所へと振り下ろす。

 マフラーの先が瓦礫に触れると熱い鉄が水に触れた様な音と共に塵になる。

 再度マフラーを振り下ろすと、微かに布が何かに弾かれたような振動と共にアベルとカインの周りの瓦礫が塵へと変わり、黒い球体が瓦礫の中から出現する。

 中を見るとアベルとカインがそれぞれ黒と白の宝石を持ってオブシディアン達へと両腕を突き出している。

「今だ! アベル!」

 カインが叫ぶと、黒い球体が一瞬消える。

「光よ!」

 アベルがカインに負けないくらい声を張り上げると、アベルの持っていた小さな白い宝石から一筋の閃光がオブシディアンへと放たれる。

 もう少しで直撃しようとした時、急に閃光の筋が左に曲がる。

 ディアナが手に持っていた鉄扇で強引に軌道を変えたようで、鉄扇の先が熱で赤く光っていた。

 軌道を逸らされた閃光は、塔の外壁の一部を破壊しながらピンボールの球の様に空へと上がって行く。

「優しき光を勇気へと換え、目の前に立ち塞がりし敵を灼熱へと焦がせ!」

 アベルは空に登った閃光にもう一度力を込めると、静かにオブシディアン達へ白い宝石をかざした。

 大量のフラッシュが空に炊かれると、象の足のような太さの雷が束となりオブシディアンとディアナへと降り注ぐ。

 容量いっぱいの雷に展望塔は耐えきれずに崩壊を始める。

「外に出ないと! こっちの宝石ももう持たない!」

 カインはアベルに叫び散らすと再度出していた黒い球体は雷の轟音と共に消えた。

 外に出ようとカインがアベルの腕を掴もうとした時、前から強い衝撃が入り二人は塔から扉の近くの広場へと滑っていく。

 轟音と雷鳴が一層激しく鳴ると、塔があった場所から大量の土埃が舞い上がる。

 石畳に転がったカインとアベルにさらに追い打ちをかけるように瓦礫の中から黒い影が飛び出し、起き上がろうとする二人の腹に一発づつ蹴りを入れて『扉』へと誘導する。

 開いたままの『扉』は、跳んできた二人をバリアか何かで跳ね返した。

「フム。跳ネ返サレタカ」

 扉の挙動に対して驚きもせずに、黒い影は黒いローブをはためかせながら呟いた。

「ニシテモ驚イタナ。私達ヲコノ姿ニマデサセルトハ」

 黒いローブは、再度起き上がろうとするアベルの後頭部を足で踏みつける。

 その声に気がついたようでカインは顔だけを上げた。

 アベルを踏みつけていたのは、黒いローブをまとった骸骨だった。目の部分の窪みには暗く深い闇が潜み、眼球は無いのに顔を上げたカインの顔が反射されているような威圧感がカインの全身を襲う。

「ひっ……!」

 そんな威圧から逃げるようにカインは起き上がると、後ろへと逃げる。だが不意の足払いに片足が引っ掛かり石畳へと仰向けに倒れる。

「ソンナニ驚カナイデ欲シイワ。私達ヲコノ姿ニサセルナンテ、何十年ブリカシラネ」

 カインに足払いをした白いローブの骸骨は、ばらばらになった鉄扇の一枚を片手に持ち、もう片方の手の平の骨を叩きながら静かに言った。

「五割モ削ッタンダ。アノ姿スゴク気ニ入ッテタノニ……」

 白いローブの骸骨は、眼球の無い頭蓋骨をカインの顔に近づけると、

「帰ルマデノ間、アナタ達ノ身体ヲ借リヨウカシラ」

 ククク……と低い声で笑い出す。


「それだけはおやめ下さい。死神様!」

 後方から切羽詰まった男の声が聞こえると、黒と白のローブの骸骨は振り返った。

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