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終焉から始まる世界  作者: 綾瀬 明
蜃気楼の街
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プロローグ

 街はこれ以上ないほど歓喜と歓声が沸き起こっていた。

 それは、何百万もの冒険者が一つの悪を討ち果たしに行くと言うラスト・クエストを受けたからだ。

 二ヶ月まで首都周辺まで迫っていた魔物達は、何千・何百……数え切れないほどの冒険者の力で駆逐はされたが、まだ全ての魔物は屠られては居ない状態だ。いや、一つの悪を倒さなければこの魔物達の勢いは止まらないかもしれない。とも噂されている。


「今が好機です! このチャンスを逃せばこの世界は魔帝の手に落ちるんですよ!」

 シャンデリアの光と蝋燭の光が揺れる会議室で、黒を基調とした長テーブルに手を叩きつけながら男性が唾を飛ばしながら力説していた。

「だが、魔帝を討ち果たしに行っている間に一か月前の悲劇が来たらどう対処すればいいのでしょう?」

「それは……」

 同じく席に座っていた女性の声が、先ほどテーブルを叩いた男性へと疑問を投げかける。その言葉に詰まった男性は、しぶしぶと言った表情で椅子へと座った。 

「屈強な冒険者も居るでしょうが、中には街に待機する冒険者も居るでしょう。その者達と私達で街を護りましょう」

 別の女性の声が二人の意見をまとめる様な発言をすると、黙って聞いていた何人かは静かに頷いた。


《賢者》と呼ばれる各職の王達は一つの決断を下す。

『全冒険者に告ぐ! 時は来た! 今こそ我ら一丸となりて魔帝を滅せよ!』

 このクエストが出現したのは、ゲームが終わる一ヶ月前の事だった。


 このゲームはニ十年という歴史があった。だがいくら歴史を積んでも現実世界の技術に追いつかねば運営のお荷物となってしまう。

 世の中は進化し、VRMMORPGヴァーチャル・リアリティ・ゲームが爆発的にヒットするとマウスとキーボードとコントローラーで遊ぶゲームは少しずつ数を減らして行った。

 このゲームもユーザーからVRに対応してほしいと言われたが、運営するプロデューサーと社長がなかなか首を縦に振らなかった。

「それならいっそVR対応のMMORPGを一から作った方が早い」

 と言う社長にプロデューサーは首を縦に振り、ユーザーからは盛大な拍手が送られたのだった。

 運営がこのゲームの終了を半年前に告知して、接続料金も無料にするとぽつぽつとだが人が戻って来た。

 告知した当時、現実世界ではゲームニュースサイトの記事となりそれを見た引退プレイヤー達がこぞって最新パッチを当てたものだからパッチサーバーがダウンし、プレイヤー達はそのプロデューサーの名前を一言簡易掲示板に連呼し、その一言掲示板のサーバーすらも落とすと言う事件が発生したのは今でもネットワーク上では笑える話として語り継がれている。


 ゲーム終了の二週間前。

 五組のチームが最終決戦に挑む。とゲームニュースサイトで記事になるとプレイヤー達は色めきたった。

 残ったチームに実況をしてほしいと運営掲示板にスレッドが張られるが、四組のチームプレーヤー達は一向に返事を返さなかった。残った内の一グループが『やってやるよ』とレスを返した事にスレッドを立てたプレーヤーが涙して喜びのコメントを付けていた。


 そしてゲーム終了当日。

 深夜零時に開始した実況は、何百万もの人が最後を見るためにゲームと並行で見られていた。

 グループが戦闘を行うたびにアドバイスが文字となり画面上を流れ、ある時は怒られ、喧嘩が勃発したりと大変な騒ぎだった。

 だが、この実況をしていたグループは最後の一組には残れなかった。けれども見ていたユーザーからは惜しみない拍手が送られた。


 ゲーム終了ニ十分前。

 一組のチームが魔帝を倒した! と運営がテロップを流すと全てのエリアから拍手と歓声が湧き上がり、一ヶ月前よりも派手に祝福された。


 ゲーム終了十九分前。

 運営からこのゲームに関わったメンバー達の一言がお知らせ欄に次々と流れ、最後にプロデューサーからの一言では言い表せれないような長いメッセージが流れ終わると同時に最後の戦いを映したムービーが流れ始める。


 ゲーム終了一分前。

 大円団に繋がる終わりを締めくくるENDが終わると同時にゲームサーバーは運営の手で止められたのである。


 こうしてこのゲームHeritage of Fantasy『幻想の遺産』は二十年の幕を閉じ、データサーバーの中にあるデータは白紙のように消され、サイトからのリンクも外されてネットワークの海へと砂粒のように消えゆくはずだった。


 一人の末端GMゲームマスターが最後のグループに参加していた事など運営ですら気が付いてはいなかった。

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