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追放された若返り冒険者のぐうたらデイズ  作者: 砂石 一獄


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第6話 不器用

 【スキル名:シールドバッシュ】

 使用MP:3

 効果:使用者が装備している"盾(バックラー・大盾等、種類は問わない)"を前方に弾いて攻撃。対象を弾き飛ばす。


 これが、俺が唯一保有しているスキルである。

 スキルとは、冒険者が初めてダンジョンに入る際、その使用者の適性によって得られるものだ。

 スキルにはその人の性格や人生が反映されているとされ、俺が初めて冒険者になるまでの人生観がそのまま”シールドバッシュ”という形になったと言うことなのだろう。


 この仕様がある以上、冒険者を続ける者は得てして己と向き合うことからは避けられない。

 どんな過去を見て、どんな人生観を築き上げてきたのか。その結果が、スキルとして反映されるからだ。


 まあ、最近は人間性を判断する材料となるという観点から、学業の中でスキル確認は必須事項となっているらしいが。

 なんか嫌だな。面接で「あなたのスキルはシールドバッシュと記載されていますが……」とか聞かれるの。やめろそういうの。


 

 余談だが、スキルは後天的に得られる方法も存在する。

 それは”スキルオーブ”と呼ばれるものだ。


 世間一般的な創作物にも存在するものだが……正直、俺は興味を持とうとはしなかった。

 別に"シールドバッシュ"1つで事足りていたというのもある。


 だが、それ以上に。

 ……ダメだ、話が逸れる。また必要になってから語ろう。

 

 ----

 

「……スキルは、変わらないか」


 俺はダンジョンを管轄している"魔窟管理委員会"という組織から支給された専用のリストバンドを腕に装着。リストバンドから放たれた光が描くホログラムには、ダンジョン攻略に必要となる情報が逐一明示されるようになっている。


 ダンジョンのマッピングデータや、推定される魔物の位置情報。

 果ては登録したパーティメンバーの名簿や、俺自身のステータスまで確認できる。

 

 ちなみにパーティメンバーと言えど、上代のステータスを閲覧することは出来ない。

 ステータスとは、言わば己を守る鎧のようなものだ。ステータスを確認するというのは、他人のプライバシーに土足で踏み込むようなものである。

 中には自分からステータスを公言している人物もいるが……基本的には言わない方が良い。


 これは冒険者として、守るべき最低限のマナーである。

 

 ……つまり言うと、だ。

 スポーツ用品店で勝手に俺のステータスをのぞき見してきた上代は、はっきり言ってマナーがなっていない。

 

 まあ、俺はステータスに頼り切った戦い方をしないから良いものの……どこかのタイミングでモラルを叩き込んだ方が良いだろう。


「な、何よ」

「……何でもない」

「ふんっ」


 上代はダンジョン専用の衣装に着替えたことで、どこか強気になったのだろうか。

 初対面の時と同様のツンツンとした雰囲気でそっぽを向いていた。


 どうやら、彼女なりの虚勢を張る方法らしい。


 それからリストバンドを操作し、パーティメンバーを表記してみる。

 

 ・早野 瑞紀 Lv1 HP:□□□□□

 ・上代 結羽 Lv1 HP:□□□□□

 

 という、簡潔な名簿が表示されていた。

 一応パーティメンバーのHPゲージも表示されるようになっている。お互いの状況確認がスムーズに行えるのは助かるところだ。


 そのHPゲージを確認した上で、念の為上代に確認することにした。


「……ダンジョン攻略を開始するが、覚悟は出来ているな」

「で、出来ているに決まっているじゃない」

「声が上擦っている」

「……気のせいよ」

 

 上代は強がってこそいたが、額からは微かに冷や汗が滲み出ていた。

 手先を見れば、どこかそわそわと落ち着きのない様子で持っていた魔法杖を持ち替え直す、という動作を繰り返している。

 持っている武器から推測するに、どうやら彼女は魔法使いタイプのようだ。


 「じゃあアンタはどうなのよ」という返事が来ない辺り、本当に上代は緊張に飲まれているらしい。

 

 ところで、ダンジョン内では不思議な力が働いている。

 メカニズムが不明であることから”定義の書き換え”という呼称で呼ばれてはいるが……ダンジョン内では、恐ろしいまでに常識が通用しない。


 DEF(防御力)が高ければ、「刃物で斬られても出血しない」という理屈を度外視した状況だって起こる。

 例え血管の集まっている動脈を傷つけられようが、HPが残っているのならば問題なく活動できる。HPが減衰するにつれて活動能力は停滞こそするが、誤差の範疇(はんちゅう)だ。

 

 死ななければ動ける。

 無茶苦茶な理屈が、ダンジョン内では完全に許容されている。


 まあ、その代わり。

 HPが底を尽きれば、あらゆる状況を無視した上で死に至るのだが。

 

 それはそれで、とても恐ろしいことだ。


「……引き返すなら、今のうちだ」


 俺はダンジョン受付より支給された片手剣と、バックラーを準備しながらそう投げかける。

 今、俺達2人がいるのは、ダンジョンへと続くゲート前だ。目の前には様々な光を飲み込むような漆黒の渦が待ち構えていた。

 このゲートへと1歩踏み込めば、俺達は瞬く間にランダムに選ばれた場所へと転送される。


 俺達の全ては、ダンジョン様のご機嫌によって決まるのだ。

 そんな事実をも知らず、ただ夢だけを見た冒険者は皆……そこで躓く。

 現実を知った時には、もう遅すぎるのだ。


 ……冒険者は、生存バイアスによって成り立つことを忘れてはならない。


「な、何よ。ビビっているように見えるって言うの」

「ツテがあるって言ったろ。散々聞かされてるんだよ」


 まあ、ツテというよりは経験則だが。

 土壇場で怯えて戦力にならない、という状況になると困る。

 多少、女性に対して荒っぽい扱いとなるが……少しだけ、脅しも兼ねて現実を突きつけることにした。


 冒険者は、ただ夢を見ることが出来る職業じゃない。

 俺達はダンジョンに利用されるだけの……駒だということを自覚しなければならない。


「確かに、魔物に殴られても血は出ないし、痛みもそんなにないって言うさ。だけど、だからこそだろうな。皆、HPが0になる瞬間、『え、死ぬの?』みたいな呆けた面をしながら死んでいくんだよ」

「……え、えっ」

「自分のことなのに、まるで自分のことじゃないかのように乾いた笑いを浮かべながらな、次の瞬間には物言わぬ死体になってる。ダンジョンというのは、そんな世界だ」

「……ひっ」


 どうやら、脳内でイメージしてしまったのだろう。上代は引きつった笑みを浮かべながら、後ろずさった。

 ゲームのような呆気ない終わり方で、現実の命が潰える。


 ダンジョンへと続く道を前に恐怖する彼女を見て、ようやく俺は自分が異端側の人間なのだと自覚してしまったから。

 俺はどうやら、沢山の死を見すぎてしまったらしい。


 ……本来なら。

 死ぬことは、非日常だ。

 決して、日常ではない。


 静かに得た気付きを前に、俺は踵を返して問いかける。

 

「まだ今なら、ダンジョン攻略を取り消すことだって出来る。怖いなら、無理に来る必要もない」

「……アンタは……ううん、あなたは……どうするんですか……」


 遂に萎縮しきってしまった彼女は、虚勢を張ることすら出来なくなったらしい。

 俺は片手剣をひとまず腰に携えた鞘に戻しながら、問いに答える。


「他のメンバーを探す。それだけだ」

「……死ぬのは、怖くないんですか?」

「死ぬ時は死ぬからな。これ以外の生き方を、俺は知らない」

「……そう、ですか」


 少し失言を漏らした気がするが、まあ許容の範囲内だろう。

 俺の言葉に対し、上代は物思いに耽るように俯いた。


 それから、俺を横切るようにして前に進んだかと思うと、ゲートを目前にして語りかけてきた。

 呆れ、自嘲、微かな困惑。様々な感情の交じった表情で、俺を一瞥いちべつする。


「不器用ですね。私も、あなたも」

「お互い様だ」


 彼女にとって、それは覚悟の言葉だったのだろう。

 それ以上はなにも言わず、ただ俺を待ち続けた。


 俺は再びゲートへと向き直り、最後にもう一度問いかける。


「良いんだな」

道標(みちしるべ)を頼みますよ」

「任せておけ」


 不器用なLv1の冒険者2人は、示し合わせたわけでもないのに同じ歩幅でゲートへと足を踏み入れた。

 ぐにゃりと歪む視界の中、地面が突如として消えるような感覚を抱く。


 肌を撫でる風が、皮膚を突き抜けるような気分だった。

 世界は、書き換えられる。

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