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 シアとフランは森の中を歩いていた。日が暮れ、ホーホーとふくろうの鳴き声がする闇の中を道案内役のシアが先導する形で歩いていたが、やがてその足が止まる。


「ここどこ……」

「予想通りね」


 サー……と青ざめるシアを追い抜きフランは一人、先へと進んだ。


「ま、待ってください! 一人じゃ危な、うわああっ」


 どうせ顔に木の枝でもぶつかったのだろう。フランは振り向くことなく歩を進めた。


「仮面外したら? 誰もいないし私も見ないから」

「……」

   

 迷子で道案内も出来ない挙句、これ以上足を引っ張るのは避けたいと、バツが悪そうにシアは仮面を外した。その素顔はとても端正で美しいものだった。


「もしかして、こうなることは視えてました?」

「そういう力は持ってない」

「占い師って予言者とは違うんですね」


 フランがシアの後ろについていく形で会話が続く。


「知ってますか? この国はずっと、予言で成り立っているんです」


 この国の特殊な成り立ち方は移住者であるフランにも少しだけ知識があった。


「嘘みたいな話だけど、どうやら本当らしいわね」

「内政も外交も予言者の言葉に従いすべての危機を回避し、ずっと平和が維持され続けている」

「その平和が予言によって終わりを告げられるなんて皮肉だわ」


 フランが歩きながら夜空を見上げると、木々の隙間から星々が光り輝いていた。


「世界はまもなく終末を迎える」


 人々を震撼させた予言者の言葉を口にするフランを、シアは静かに見つめた。


「……本当にそうなると思いますか?」

「私に分かるのはビッグチャンスってことだけ」

「え?」

「終末を迎える前に運命の人を見つけようと、私の占いに若者が殺到してるのよ」

   

 フランは意気揚々と太い木の根を飛び越える。


「おかげで大金持ちになる夢が死ぬまでに叶いそうだわ」

「はは……そんなこと言っていいんですか? 常連になるかもしれない奴がここにいるのに」

「貴方の悩みは昨日ので全部でしょ。お客になることはもう無い」

   

 小石を蹴って前へ進むフランはすっかりシアに興味をなくした様子で、勝手に決めつけられてしまったシアは心外だと、少しムッとする。


「俺だって興味ありますよ、恋愛占い」

「ハァ、学校で探しなさいって言ったじゃない」


 そうこうしているうちに森が拓け、待望の出口が見えてきた。


「森を抜けるわ」

   

 前を歩くフランの腕を不意にシアが掴み、二人の足が止まる。


「顔を見せれば望みはありますか?」


 今までの頼りない弱々しい声とは違う真剣な声に、フランは反射的に腕を振り払おうとした。


「っ、私はお金しか興味ないの!」

「うわぁっ!」

「!」


 腕を掴んだまま強引に前へ引かれ、バランスを崩したシアは木の根に躓く。

 叫び声に驚きおもわず振り返ったフランは、そのままシアに強く抱き締められた。


「なっ―――」

   

 不安定な体勢のまま、二人は森の外へと飛び出した。

 外は小高い丘になっていた。そしてシアの言ったとおり、目当ての花が美しく咲き誇っていた。

 花畑の坂を転がり落ちていく。止まった時にはシアがフランに覆い被さっていた。


「すみませ……っ」


 シアは慌てて上体を起こそうとしたが、フランの顔を見て驚く。目隠しがようやく外れ、竜のように細い瞳孔をした赤い瞳がこちらを睨んでいた。

 二人は初めて、目隠しをしていない状態で向き合った。


(最悪。この国では誰にも見せてなかったのに)


 フランは唇を噛み締める。こんなことでずっと隠していた自身の秘密が明かされるとは思ってもみなかった。

 そんな彼女をよそに、シアは初めて見るフランの顔に見惚れていた。


「綺麗だ……」

「自分の顔を見たことある? 何を言われても嫌味だわ」

「ああ、確かに」


 苛立つフランを気にすることなくシアはマイペースに頷いた。


「ボロが出るから公務では何もせず笑っとけと言われます」

「公務?」

   

 シアはフランの上から退き、何食わぬ様子でこう告げた。


「俺はこの国の第二王子なんです」


 今までのツンとした表情を崩し、驚いてポカンと口を開けるフラン。その様子を見てクスッとシアは笑った。


「金持ちだと知って少しは俺に興味を持ってくれました? 守銭奴さん」

「っ、手を出したらいけない相手くらい分かる」

「出してほしいです」


 穏やかに微笑み、シアはそっと乱れたフランの前髪を指で整えた。

 それはもう、王子様そのものだった。


「だから顔も身分も明かした」

「……フンッ!」


 突然の王子様オーラに耐え切れず、フランは勢いよく起き上がりシアの額に頭突きを食らわせた。


「痛っっった!!」

「お望み通り手を出してあげたわよ」

   

 そう言うと勝ち誇った笑みを浮かべ、花を摘み始めた。


「摘むのを手伝って」

「はーい……」

   

 痛む額を押さえ、シクシクと花を摘み始めるシア。王子様のオーラはすっかりどこかへ消えてしまい、今までどおりの頼りない雰囲気に戻っている。


(私に愛なんて必要ないんだから!)


 花で顔を隠し、シアには決して見えないようにしてフランは悔しそうに顔を赤くした。



続く

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