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「……」
自分のことを好きになるには、どうしたらいいか。
思わぬ言葉に暫くシアを見つめていたフランだったが、やがて口元に笑みを浮かべ、カードをテーブルの隅に退けた。
(はいはい。占いじゃなくて相談のパターンね)
この仕事をしていればよくある事だ。こういう場合、大抵はアドバイスではなく愚痴の聞き相手を求められるので、適当なところで相槌をうてばいいだけの簡単なお仕事としてフランはやり過ごしていた。
「自分のことが好きな人って、そんなにいないですよ」
テーブルの上で手を組み、穏やかにフランが語りかけると、俯いたままだったシアはおそるおそる顔を上げた。
「そうなんですか……?」
「嫌いだったり、自信のない人がほとんどです」
目元は薄紗の生地に隠れて見えないが、慈悲深い聖母のような笑みをフランは口元に浮かべる。
「自分を好きになるのは簡単なことじゃない。貴方もそれを分かってるから聞きに来たのでしょう?」
その言葉はシアにとって救いだった。誰にも言えなかった気持ちを瞬時に理解されたことで、出会ったばかりだというのにすべてを委ねてしまいたいと思うほど、目の前の占い師に心惹かれた。それをすべて感じ取ったうえでフランは黙っていた。
「あ……当たってます……!」
(単純で助かる~)
感極まった様子で両手を口元に当て、自分を見つめる姿に内心ニヤニヤする。心の枷がひとつ外れると決壊したダムのように、シアは早口で愚痴をまくし立て始めた。
「俺、勉強も運動も出来なくて! 鈍臭いし何の役にも立たないクズなんです!」
「あらあら」
「家でも迷惑かけてばかりだし、こんな自分が嫌で嫌で仕方なくて……っ」
「……」
頭を抱えシアは深い溜息をつく。もしかしたら本気で深刻な悩みを抱えているのかもしれない。いつもみたいに適当な相槌をしていれば客が勝手にスッキリして帰るのとは違うかもと、フランは珍しく相槌以外の対応にでた。
「誰かに好きになってもらって、自己肯定感を上げるほうが早いかもですね」
「え……?」
「気になるお相手とかいないんですか?」
ここで得意の恋愛占いに誘導すればリピーターになるかもしれない。商売根性を親切心でコーティングしてニコニコとしていると、顔を上げて暫く呆けた様子だったシアは、フランを見据えた。
「あなたのことが気になる」
「へ?」
「俺と違ってすごく堂々としているから」
目を仮面で隠し口元しか見えないのに、シアが初めて見せた微笑みはとても美しいものだった。
天井窓から差し込む月明かりも照らされる姿に、フランは釘付けになる。
「あなたに好かれたら、きっと自分を好きになれる気がする」




