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薄暗い店内に、ゆらりとお香の煙が漂う。
煙は陳列された水晶玉、ロウソク、パワーストーンなどの合間を縫い、金髪の巻き毛の女性の元へと辿り着く。女性というにはまだあどけない顔つきで服装も王立学院のものだが、可愛らしい瞳は真剣そのもので、紫色のテーブルクロスが敷かれた机の前に緊張の面持ちで座っている。
「占い師さん、世界が終わるまでに運命の人は現れますか?」
女子学生の向かい側には赤毛の長い髪以外の情報をすべてローブで覆い、目元を薄紗の生地で隠した女が座っていた。細かい表情は分からないが、カードをシャッフルする手つきは自信に満ちあふれていた。
女はカードを一枚めくると、女子学生に向かって悠然と微笑んでみせた。
「私に視えない赤い糸はないわ」
女の名はフラン。この街で恋愛占いで生計をたてる占い師だ。
名門トリオール王立学院。
由緒正しい名家の子息令嬢が集う学びの場は、常に平穏で優美な時間が流れていた。
大理石の柱が何本も続く長い廊下を、女子学生たちが歩いていく。
肩を寄せて囁き合い、なにやら楽しそうに噂話をしている。
「最近、学院の近くに新しい占いの館が出来たのをご存じ?」
「恋愛占いが当たるって評判の?」
「えぇっ、行きたーい!」
恋愛の二文字が出たことで途端に色めき立つ。向かい側から男子学生が一人歩いてくるが、誰も気づいていなかった。もしかしたら普通の状況であっても気づかれないくらい、銀髪の男子学生はとにかく地味で目立たず、猫背で教科書を抱えて俯きトボトボと歩いていた。
「私のことを好きな人がいるか、占ってもらお!」
すれ違いざまに耳に入った言葉に、男子学生は思わず立ち止まる。
女子学生たちは気づくことなく楽しそうに会話を続け、やがてその声も聞こえなくなったが、男子学生は動けずにいた。
男子学生の名は、シア。彼はこの国の第二王子だった。




