ねむりの妖精
「ふぁ~~」
大きなあくびをしたのは、ねむりの妖精の子。
お仕事は、みんなにねむりをとどけること。
がんばり屋さんなものですから、じぶんがねぶそくになっちゃったのです。
みんなに――というのは本当にみんな。
小さな女の子から、おじいさん、おばあさんまで。
木かげでいねむりするライオンから、お母さんにしがみついてねむるナマケモノの赤ちゃん。
働きアリから、チョウチョまで。
だから、妖精たちはおおいそがしなのです。
『どうやってねむりをとどけるの?』
それは、とってもすてきな方法なのです。
夜空にチラチラと輝くお星さまたちから、ちょっとずつ光を集めて、音楽にして聞かせてあげるのです。
お星さまたちから集めた音色だから、すきとおってキラキラと輝いているのです。
『そんなの、聞いたことないよ?』
本当にそう?よ~く思い返してみて。
ねむりに落ちるまぎわの、“ふわぁ“ってなるときに、聞こえたことがあるはずだよ?
みんながねむっちゃうくらいおだやかな音色だから、しっかりと耳をそばだてていないとわからないのだけれどね。
きっと、みんな“すぅ~”とねむってしまうから、なかなか覚えていられないのでしょう。
妖精たちは、そういうふうに昼も夜も、お星さまの光を集めているからおおいそがしなのです。
「お昼も?」
そう、お昼もです。
だって、みんな、お昼ねするでしょ?
お星さまだって、音色といっしょ。
見えないだけなのです。
よく晴れた青空のときだって、くもり空のときだってそう。
空のずっと向こうで、いつもキラキラとまたたいて、ちゃんとそこにいるのですから。
そういうわけで妖精たちは、みんなで代わりばんこにお仕事をして、順番にお休みをするのです。
けれどもこの妖精の子は、やさしくてがんばり屋さんでしたから、ねぶそくになってしまったのです。
『いっぱい、きれいなキラキラを集めてあげないと』
いやなことがあって、なかなかねむれない男の子を見つけたのです。
そうするともう心配になって、ついついお休みするのを忘れてしまいました。
いつも、いっしょうけんめいになりすぎてしまうものですから、
「ふぁ~~」
って、その日も大あくびをしたのです。
まわりの妖精たちは、そんなようすを見ていましたから、この子が心配になってしまいました。
それで、相談してこの子をねむらすことにしたのです。
まずは、この子がねむるためのゆりかごを用意しました。
ちょうど、三日月に照らされたふわふわの雲が流れていましたから、つかまえて、ちゃんとまくらの形までととのえてあげました。
それから、たくさんのお星さまたちにお願いして、とびきりすてきなキラキラをわけてもらいました。
いつもよりすきとおってあったかい音色になりましたから、作っているさいちゅうに、コトリとねむっちゃう妖精もいたくらいです。
それから、妖精の子をゆりかごにねかしました。
「ぼくがねむったら、男の子がねむれなくなっちゃうよ」
妖精の子は、そうもんくを言いました。
でも、大丈夫。
ねむりの妖精たちは、みんなとってもやさしいのです。
ねむれない子を、ほうっておくなんてことはしません。
どんなにねむれない男の子だって、さいごにはぐっすりです。
妖精たちのとどける音色には、みんなのやさしさがとけこんでいるのですから。
妖精の子は、雲のゆりかごのふわふわにつつみこまれると、あっというまに音色にとけて、“すぅ~”とねむってしまいました。
次の朝、目をさました妖精の子は、とっても元気になっていました。
もちろん男の子も――目をさましていましたけれど、まだちょっぴり夢ごこち。
枕をだっこしたままです。
よっぽど楽しい夢をみたのでしょう。
けれどもちょっとだけたくさん、いろいろなみんなが、いろいろのお空を見上げて大きなあくびをしました。




