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【戦記企画ver.】ワルキューレ~死神と呼ばれた王女とエヴァンジルの庭  作者: 瑞月風花
戦場にて

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2/8

死神の姫

 

 敵将エヴァンの国セファゾドールは、ジャクリーヌの国であるエルバーグリークと小山を挟んだ隣国である。そして、その小山が一番の難敵だったのだが、それをジャクリーヌ率いる小部隊が突破したのだ。

 そこで、一気に形勢が変わったことは確かだった。

 しかし、その攻撃がジャクリーヌの異名である『死神』を後に深めたことも確かだ。


 その日は視界の悪い雨の夜。激しい雨音に馬を捨てた死神軍が、その陣営に急襲をかけたのだ。

 戦果のためには、策など選ばぬ、さすが死神の姫。そんな称賛を背に浴びて。

 砦を守っていた兵一千は、たった百兵であったジャクリーヌに蹂躙されたのだ。

 しかし、そこに、敵将である第三王子であるエヴァンはいなかった。


 ――逃がしたのか。


 ジャクリーヌは臍を噛んだ。

 ここにいたことは間違いなかったはずだ。何を間違えたのか。


 そんな思いの中、彼女は、その陣営の士気を取っていた男の鉄仮面を容赦なく引き剝がし、尋ねた。

「エヴァンはどこか」

 彼は答えなかった。その挑戦的に相手を射抜くその瞳は、おそらく語ることはないのだろう。だから、ジャクリーヌは冷たい視線を彼に落としたまま、別の言葉を投げかける。それが、ジャクリーヌにとっての儀式であり、最期通牒なのだ。


「お前が言い残したいことはなんだ?」

 彼の呼吸が一瞬止まるのを感じた。


 そう、ジャクリーヌは相手を斬る前にいつも尋ねる。

 己を人間だと思って疑ったことのない、人の命を狩る者たちへ。

 それは、儀式のようでいて、残酷な。ジャクリーヌにとっては諸刃の剣を持つ言葉でもあったのだ。


「ふ、お前のような血も涙もない女に、エヴァン様の首は取れぬ。それは、我らの勝利を意味するのだ」

 そう、ジャクリーヌの国を脅かす、そんな敵兵はいつも、自国を守っているジャクリーヌにいやらしい笑い声を残す。


 人間など、そんなもの。

 魔女であろうと、死神であろうと、彼らはそれ以下である。


 雨に黒く流れる赤いものが、ジャクリーヌの足元に流れてきていた。雨は小降りになってきているのかもしれない。鉄の鎧を打つ音は、気づけば柔らかなものになっていた。

 足元に倒れる男の胴体も同じ音を立てている。


 ジャクリーヌは倒れた兵の鎧に包まれた胴体から、首へと視線を移し、ただその様子を眺めた。首と胴体が離れている。ただそれだけのもの。首を取るのは、面通しのためであり、雑兵の首などはいらない。

 彼はそれだけの立場を持った者だった。

 あの瞳がそれを語っていた。

 だからその行為はただ持ち運びやすくするための、作業に過ぎない。

 どれも同じである。なんの感傷もない。ジャクリーヌは、血を怖がることも、断末魔を恐れることもなく、背後からの声に応えた。


「ジャクリーヌ姫殿下」

 すでに、他も制圧したのか、振り返った場所にある男はすでに面を上げていた。そう言えば、あの物々しい雑踏と叫び声が聞こえない。

「敵将はすでに拠点を変えていた模様」

 ということは、ここは捨て陣だったのか。そこで、眼下にある男の言葉をジャクリーヌは思い出した。エヴァンの首を取らねば、この戦争は終わらない、それを指し示すような。

 あの挑発的な笑みは、宣戦布告だったのかもしれない。


 エヴァンとは、それほどまでに強いのだろうか。

 わたしよりも、強いのだろうか。

 『死神』を討ち取るくらいの腕の持ち主なのだろうか。

 わたしの首も、この胴体から離れるのだろうか。


 魔女の最後は人間に狩られるものであったが、死神は人間を狩るもの。ジャクリーヌはそんなことを自分の中で言い聞かせる。しかし、彼女の声は震えることなく、面の中から静かに伝えらえた。


「捕虜より聞き出せ」

「はっ。こ奴の身元も聞き出してまいります」


 はっきりとした声を発した彼が、男の頭を乱暴に鷲掴み、去っていく。

 どうでも良かった。


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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。赤い髪の魔女に自分が見られることを恐れるジャクリーヌ、第三王女でありながら剣の道を歩み、「死神」と呼ばれて…その姿が冒頭からとても心に残りました。 戦いの相手のエヴァ…
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