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【戦記企画ver.】ワルキューレ~死神と呼ばれた王女とエヴァンジルの庭  作者: 瑞月風花
あなたの御髪は美しい

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幼いイチゴ②

 

 歩きながらエヴァンは、あの少女のようなジャクリーヌを思い出していた。あの『彼女』を思えば、屋敷の敷地面積に対しての人が少なすぎると思ったのだ。ジャクリーヌは王女だ。もちろん、か弱いだけの女性ではないが、貴き身であることは確かのはずだ。そして、狙われるとすればジャクリーヌのみだろう。


 敵だったエヴァンを入れて、ここに住む者は四名。

 馬を入れれば六という状態。信頼はないだろうが、本当にこそ泥くらいなら、エヴァンですらなんとかなる、というのも確かだが、やはり少ない。

 そう言えば、もちろん屋敷の奥などには入ったことはないが、大きな財も見当たらない。

 エヴァンは、この屋敷の違和感にやっと気づいた。

 自身のことで精いっぱいだったせいで、あの奇妙なお茶会のせいで、エヴァンが全く気付いていなかったことだ。


 王女という以前に、可憐という言葉が似合うような、戦乙女とは真逆に立っていそうな雰囲気の少女だった。ここの国王はその娘をこんなに少ない家来のみで過ごさせている。エヴァンを覗けば、護衛にすらならない者ばかりで。

 そもそも、あんな戦場に送り込んでいたのだ。


 愛されて、いたのか?

 親の愛情を受けられずに育ったのだろうか。何か、事情があるのだろうか。

 いや、あの時、エルバーグリーク王は俺に言ったはずだ。


『逃げ出そうものなら、我が許さぬ』と。

 エヴァンの頭の中がぐるぐる回る。しかし答えは見えない。


 そんな状態のまま、彼は台所の外扉の前にたどり着いていた。そう、ここもとても無防備である。鍵はあるが、木を引っ掛けるだけの。 

 セファゾドールの貴族の屋敷だったことということは、……。


 ここは、使用人のみが働く場所である。肉や野菜、香辛料、そのようなものを持ってくる行商などの出入りが多い。だから、鍵も簡易なもの。

 内扉さえしっかりと頑丈にしていれば良い造りになっているはすだ。

 しかし、ここにいるのは、おそらくジャクリーヌの付き人であり、そこそこ身分があるだろうポートマンだ。使用人の命の選別をするわけではないが、単なる使用人とは訳が違う。


「ポートマンさん、失礼しますね」

 台所で鶏肉を捌いているところのポートマンに声を掛けたエヴァンは、そのままお辞儀をして待った。これだって、違和感しかないのだ。貴族夫人が狩りに興じたわけでもない肉を捌いているのだから。

「少しお待ちくださいね。エヴァンさん」

 最近やっと名前を呼ばれるようになった。打ち解けたわけではないことも、エヴァンには分かっている。

 ただ、エヴァンと同じで、腹の底に沈めているだけ。


 彼女の大切な家族の特徴がエヴァンに伝われば、双方にとって居心地が悪くなるだけだと知っているからだ。

 彼女は、賢い女性なのだ。

 だから、エヴァンもずっとポートマンとは距離を保っていた。しかし、踏み込まねばこの違和感の元を知り得ることすら出来ないのかもしれない。


「ジャクリーヌ様のもので間違いないですか?」

「まぁ……」

 エプロンで手を拭いた彼女の瞳が、すこし揺らめいた。

「先ほど、風に飛ばされたようで追いかけてこられたのですが、……」


 ――逃げられた……。


 そうだ、逃げられたのだ。俺の姿を見て。だから、いつも不自然に鎧まで着て、怖さで声を震わせて?

 しかし、今度はエルバーグリーク王の言葉にエヴァンは引っかかる。例え、俺の首を持たなかったからといえ、


 ――沙汰を受けるのは俺の方だ。


 あのエルバーグリーク王の言葉が、それを証明しているのだから。

 だからこそ、エヴァン自身がここにいる理由が分からない。そして、知りたい。

 そう思った。


「逃げてしまわれたので、持ってきました」

 エヴァンは丁寧に帽子を渡す。しかし、もう一つの荷物であるイチゴの籠はエヴァンがまだ抱えておく。

 いつも冷静を保っているポートマンの態度が、いつもよりもぎこちない。そして「お会いになったのですか?」と心配そうに瞳を揺らす。

 ここの主の素顔を見た、ただそれだけのはずだ。それに意味があるのだろうか。いや、あるのだろう。


「えぇ、一瞬でしたが」


 エヴァンも言葉少なに事実を告げていく。相手の手の内を知るための手法であり、ある程度流されながら、真実を見抜いていく。

 そう、彼女の言葉を紐解くようにして、じっと瞳の奥を見つめ、彼女の揺らぎを確かめる。

 会話の主導権を自分のものにするために、巧みにエヴァンが彼女の信用を掴むようにして、会話の波を読む。

 相手に警戒をさせないような言葉を選び、自然を装いながらも、エヴァンは完全に彼女からその舵を奪った。


「まぁ、敵対したことのある男です。逃げられて当然でしょうね」


 もしかしたら本当にこれが正解なのかもしれない。

 だから、鎧を着ていた。

 ただ、あの死神がエヴァンを怖がるようなこと、あるのだろうか。

 エヴァンの疑念は、それ一点に尽きるのだ。

 ポートマンもじっとエヴァンを見つめていた。言葉を熟慮しているのだろうか。それとも別の何かなのか。怒りをぶつけられる準備もしておくべきなのか。

 しかして、ポートマンが観念したように言葉を落とした。


「少しお話してもよろしいでしょうか?」



明日完結します

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